信じられないでしょうけど、本気と本気の戦いです!
防御力一点特化・『森人ノ天敵』称号を保持している場合にロックが解放される秘剣
『森殺』
「うっわ」
「ありゃりゃ。秘剣を使わされちゃったよ。参ったねこれは」
「参ったのはこっちだよ。なに? どんだけ俺のこと殺したいの? そんなに俺のことが好きなの?」
「ち、ちち、違うわあほぉ!」
じ、冗談でしょうが……
軽口なんだから流してくれよ。
ハハハと乾いた笑みを浮かべたら、何を思ったかミルクルさんの表情がみるみる変化していく。
細かくいうと、焦ったような表情から、怒りのせいか真っ赤になってこちらを睨む。
「《森殺・天地疾走》」
「そこまでやるッ!?」
「うるさいうるさいうるさい!」
「ネタに走れば何もかも許されると思うなよ! 『剣力』まで使う必要はないだろう!」
俺の言葉をまるっと無視したミルクルさんは、その巨大な斧をまるで重さを感じないかのように振り回し襲いかかってくる。
攻撃力に特化した『鬼殺』に比べれば、破壊力はさしたるものではない。
しかし、現在使用されているこの『森殺』。
防御力を上げるだけではなく、剣自体も物凄く『硬い』。
ナイフで受けようものなら刃こぼれ必須、悪くて粉々である。
しかしここで思い出して欲しい。
腕力などといった筋力は、攻撃力、すなわち『ATK』数値に依存するということを。
そしてミルクルさんの『諸刃ノ剣』。
この能力は、自分のステータスを一部大幅に上昇させる能力であるとともに、一部のステータスを大幅に“減少”させもする能力だ。
攻撃力を上げればその分防御力が。速度を上げれば知覚能力が。そしてその逆しかり。
つまり今のミルクルさんのステータスは
HP:100
ATK:1 (−50000)(*ステータスの数値は1より下がらない)
DEF:100(+50000)
AGI:100
INT:100
となっているのだ。
そこで最初に戻る。筋力は、ステータス数値で、今ミルクルさんは1しかない。
それなのに、果たして自分の体を丸々覆うような馬鹿でかい斧を振り回せるだろうか?
答えは否である。
できるわけがない。
では何故そんなことができているのか。
それは、さっき言ったように、『剣力』という能力のせいだ。
「油断禁物!」
「ああ! 俺のナイフ!」
ミルクルさんの振り回し攻撃を捌きながら現実逃避気味に思考をめぐらしていたら、俺のナイフが三本ほどお亡くなりになった。
結構気に入ってたからつい情けないことが出てしまい、ミルクルさんに怒鳴る。
「おいふざけんな! このナイフ俺のお気に入りだったんだぞ! 粉々になるまでぶっ壊しやがって! もう修復不可能じゃねえか! どうしてくれる!」
「えぅ……えっと、ごめ」
普段ならば、「知ったことか」とミルクルさんは一蹴するだろうが。
俺の形相にビックリしたのかピタリとミルクルさんの動きが止まり、申し訳なさそうに何か言おうとしたが言葉をかぶせて遮る。
「戦うにしてもこっちだってそれなりに配慮してんだぞ! 殺し合いしてるわけじゃあるまいし、そこらへんはもっと考えろ!」
「えっと……べ、弁償」
「このナイフの製作者、もう歳でいないんだと。残っているのは俺が全部買ったから、もう売ってないんですけど」
「あぅぅ……その……お金で……」
「ゴールドでこのナイフが買えるならあと二十本は買いたいなぁ。相場の三倍、いや、それ以上を払ってもいい。ゴールドで買えるならなぁ」
「ぅぅぅ……」
ミルクルさんが地面に突き立てた斧に隠れてどんどん小さくなる。
まぁそもそもお気に入りで壊れるのが嫌なら、こんなところで使うなという話だし、実際俺は使わん。
結構気に入ってたことは確かだが、それはあくまで実用性が良かったからであり、別に愛着があったわけではない。
そもそもついこの間買い揃えたばっかのやつだしな。
そんなものが壊れたくらいで、普通俺はここまで怒らない。
つまりこれは『口撃』だ。
防御力をバカみたいにあげたミルクルさんには、一番効きそうな方法である。
普通に100回殴るより、圧倒的に楽だ。(いくら攻撃力と防御力に差があろうと必ず1ダメージは入る)
まぁあくまで楽であるという話であり、精神的にこちらもキツイのは確かなのだが。
なんというか、別に悪いこともしていない相手を追い詰めるのは心が痛い。
俺はこういうのに向いてないのだろう。
とまぁ、そんな罪悪感を感じていたわけなのだけど。
「ぅうう」
ミルクルさんの呻き声がだんだん大きくなっているということに気づくと、罪悪感は空気に解けるように消えて行き、ついでに血の気も引いていく。
「ううう!」
「あー、ちょ、まっ」
急いで制止の声をかけようとするが遅かった。
「だあー! 知るかーそんなもん!」
「うわあ!」
ミルクルさんがキレた。
斧をやたらめったら振り回してくる。
危なくってしょうがない。
「逆ギレすんなや!」
「ナイフなんて知ったことじゃないわよ! 壊れようが戦闘中なんだからしょうがないでしょー! ケチケチすんじゃないわよー!」
実にミルクルさんらしい理論だった。
マジかこの人……本気で自分を中心に世界は回っているとでも考えているのだろうか。
しかしこちら多少の罪悪感があるため強く言い返せない。
そこを利用してミルクルさんは追撃してくる。
「そもそも! こんな戦いしなくちゃいけなくなった根本を作ったユベルちゃんがいけない! そうだ! 全部ユベルちゃんのせいだ! 全部ユベルちゃんが悪い!」
「わかった! わかったから少し落ち着いてくれ! 頼むから!」
「そもそもそもそもそもそも! なんなの! ユベルちゃんはいっつもいっつも私のことを放り出して、無視して、仲間はずれ! 仲間だの友達だの散々言うくせに最後には突き放す! 本当になんなの! そんなに私のこと虐めて楽しいの! 私を振り回すのがそんなに楽しいのかしら!」
「待って! 本当に待って! 何言ってんのかわからん!」
ミルクルさんの一度入った熱が次第にヒートアップを始めなんか関係ないこと言い出した。
短剣では硬度が足りず斧が捌き切れないため、ミルクルさんの言葉を理解する余裕がない。
全力必死なのだが、ミルクルさんはそんな俺の対応が酷くお気に召さなかったようだ。
「わからんだあ!」
言葉のプレッシャーがすごい。
一気にミルクルさんから吹き出す殺気が勢いを増し、強い風が吹いたような感覚に襲われ一歩後ずさる。
一瞬ミルクルさんの背中に鬼が見えた気がした。
「……」
ミルクルさんの姿がブレたかと思った瞬間、俺の真横で爆音が鼓膜を刺激しバババと風で髪がたなびく。
ぎぎぎ……と錆び付いた機械のような動きで横を向くと、ギラギラと光る目でこちらを睨むミルクルさんと目があった。
言葉とともに振り下ろされた斧が今までとは比較にならないほどの威力で『俺の右横スレスレ』を通り地面に突き刺さったとわかるや否やサッと青ざめる。
ちょ……えっと、斧の軌道、見えなかったんだけど……
待って超怖い!
軽い気持ちでいた俺が間違っていた。
少なくともミルクルさんは本気だ。
俺も本気で行かなきゃ、マジで殺される!
「あれだけのことを何度も何度も私にしておいて、わからんで済ませようとするなんて虫がよすぎる!」
「人聞き悪いな! …….あれだけのこと? 悪いんだが、心当たりが全くと言ってないんだけど……」
斧が地面に突き刺さって、ミルクルさんのギラついた眼光が俺の事を睨んでいる。
怖いことは怖いが、攻撃の雨が止んでいるので何とか思考を持って受け答えをする。
はたして、その俺の返答は
「……」
「ご、ゴク……」
少しの静寂の、その後
ふわっとした感覚が首元をなで、吐き出すように叫ぶ。
「ふ ざ け ん な ッ!」
「げ、『限界破壊』ィイ!」
俺の全神経が警告アラームを叫び散らし、それに素直に従ったその行動は反射の速度を超えていた。
俺の首まで導かれた斧の軌道に無理矢理強化したナイフを滑り込ませる。
『限界破壊』にて、自分の全ステータスに極大の補正、プラス装備している武器にも大きな補正をかけ、最短の距離を最善の動きでナイフを持っていく。
同じ事をもう一度やれと言われても絶対にできない動きがそこにあった。
そしてその直後、ナイフを握っている右手が消し飛ぶようなイメージが脳内で踊る。
「が……ぐぐ」
急いで左手も補助に回してつかを握り、腰を落として両方の足元がボコンと陥没するのも無視して必死に堪える。
(速い……そんでもって重い)
「ぐぬぬぬぬぬ!」
「『零重力』と……『百倍重力』か……」
「てっ、かいしなさい! 身に覚えがない!? 自分の胸に手を当てて考えなさい!!」
ミルクルさんの言葉は、怒っているを通り越して、ふざけが通じない本気の怒りの表情で焦っているかのようなものになっていた。
悪いけどそんな暇はねぇ!
振りかぶり直して大上段で振り下ろされた斧の風圧とスキルによる重圧に同時に押さえつけられて、少しでも『限界破壊』の力を緩めたら潰される!
『一定時間が経過しました。ランダムで選定……アビリティ『聞耳』のレベルを強制的に1頂戴いたします。『聞耳』のレベルは9です』
早いな……いや、身体強化を常にフルで回してるから節約できてないしこんなもんか。
クッソが……こんなところで死んでたまるか……
俺も本ださなきゃ、やってらんねぇ!
「全部喰らえ! 『限界破壊』!」
『了解致しました。マスターの指示より、3秒前にレベルを頂戴したアビリティ『聞耳』の残りレベル9を頂戴いたします。『聞耳』のレベルが0に達したため、アビリティが消滅します。一定時間が経過していないレベル分を全て身体強化に変換します。私、『限界破壊』にて身体のリミッターを一部解除します。ステータス、DEFの著しい低下が見られるため、身体が耐えきれず反動が予想されます。注意しください』
(検索!)
名:ユベル
性別:男
年齢:6
レベル:???
職業:テイム・マスター
称号:【 黄泉返りし転生者 】
:【 最弱な最強達 】
:【 限界を破壊する者 】
:【 検索る者 】
:【 無効に至った者 】
:【 アオの主人 】
:【 捕食者の主人 】
:【 ミドリの主人 】
:【 手品師 】
:【 巡り会う者 】
:【 忠誠を右の腕に収める者 】
:【 賢人 】
:【 根性勢 】
HP:1000
ATK:21304
DEF:2369
AGI:15497
INT:5400
アビリティ
『テイム』『隠蔽』『検索』『看破』『探知』『反射』『合成』『逃亡』『ジャンプ』『超逃亡』『通信』『交換』『鑑定』『強化』『隠密』『体力超増強』『妨害』『水』『疲労耐性』『回復時間短縮』
固有アビリティ
『強化成功率上昇』『毒無効』『防御力還元』『睡眠無効』『麻痺無効』『ゴールド増加確率上昇』『○属性耐性』『対象認識阻害』『回復』『リンク』『大富豪』『疑惑の目』『飴職人』
特別アビリティ
『雑魚ノ反逆』『限界破壊』『アビリティセンス』
最近ステータスを見てなかったけど、少しアビリティが増えてるな。
何がどんな効果なのか調べたいのは山々だが、まずはこの戦闘をどうにかするのが先か。
「唸れ! ルイン!」
右手に嵌めている竜の鱗の意匠が施されたごつい腕輪が、俺のキーワード宣言に反応。
ピシィッと素早くいくつかの光る線が腕輪を走り、線が走ったところで分割。
ガシャンガシャンと男の心をくすぐる機械音が轟き、右手をすっぽりと覆う竜の顎門のフォームへと変形した。
竜の目が紫色に光り、その直後体全体が薄茶色のオーラのようなものに包まれる。
《イモータル・ルイン・ドラゴン》の『装備者DEF超アップ』の効果により、俺のDEFが19635まで上昇する。
これで限界破壊の反動を少しは軽減できるだろう。
後は……
「ガァァ!」
身体中から溢れ出てくる、否、無理矢理身体中から力を溢れ出させながら。
気合いの雄叫びをあげ多重にかけられた圧ごと斧を弾き飛ばす。
「……っ!」
悲鳴を押し殺したような声を上げ、斧を盾のように扱って俺の攻撃を牽制しながら、地面に足をつけできるだけ吹き飛ぶ衝撃を殺そうとする。
ガリガリと地面が削られているのころを、さらに追う。
両足で地を穿ち、その場に小さなクレーターを2つほど形成しながら全力で跳ぶように走る。
「でやあ!」
それに気づいたのかどうか、ミルクルさんは自分の体を隠すのをやめ、斧のつかを思いっきり地面に突き立てることで急激に衝撃を緩和した。
「流石」
だがミルクルさんはステータスすぐに体制を整えることができない。
俺の追撃をくらうくらいならという気持ちでの行動だろうが、ミルクルさんの腕力だけではとてもできることではない。
おそらく、斧の剣力、天地疾走『重力操作』の力で斧を最大に重くして地面に突き立て、衝撃で自分が斧を手放さないよう自分ごと斧全体に重力をかけて衝撃から立ち直ったのだろう。
だが、その代償は大きい。
元々『重力操作』は身体に大きな負担を要する。
それに加えて、今のミルクルさんの体力は100で固定されている。
そんな中本来は扱えない重量のものを軽くして持ち上げ重くして降るという行動は体に無茶をさせ、斧がなければ致命傷であろう攻撃と、自分のアビリティでの重力。
体力はかなり削られていると思われる。
「それこそ、もう立つことすらできないほどに」
「…………はぁ……はぁ!」
「遅い!」
反応速度や視覚などの感覚といったステータスはINTに依存する。
今までの俺のステータス数値には及ばないまでも、かなり上昇したそう数値はミルクルさんの郷劇速度をはるかに凌駕する。
「ゆ、ユベルちゃんが早いの!」
「なら、速度上昇の秘剣でも抜けばいいじゃないか」
「うっ……そ、そんなことしなくても! 『平和』!」
ミルクルさんは防御の秘剣と引き換えにリセットを選択する。
領域がぼんやりと発光し、領域内に存在する全プレイヤーのステータス数値をオール100で固定し直す。
さらに、リセット時に使用されていた強化系のアビリティの効果を無効化すると同時に、無効化に成功したアビリティをロックすることができる。
ロックされたアビリティ効果は領域内でのみ使用不可能となる。
これでミルクルさんは『斧』がロックされた。
しかし
『悪意あるなんらかの外部からの干渉により、マスターと私、限界破壊のリンクが解除申請・解除コードの確認を無視し強制的に断ち切られました。速やかに原因を検出……他プレイヤーのアビリティ効果、ランクは特別と判明。アビリティの効果の持続性は無いと判断、マスターとのリンクを再構成いたします……失敗。アビリティのメイン・又はパッシブ効果により発動に幾らかの制限が設けられています。マスターとのリンク再構築は必須と判断。これより私『限界破壊』は効力の大半を“第ニの力”へと集中し……限界を破壊します」
俺の限界破壊は違う。




