表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/198

信じられないでしょうけど、俺は六歳です!


俺が山賊を撃退してから数分。

馬車に乗っていた人全員が俺の前に出てきた。

立ち話もなんなので、取り敢えず俺が率先してどかっと地面に座り、あぐらをかきながら座るよう促す。


「いやー、なんかすまんねぇ。かってに逃がしちゃってさ」

「いや、それは構わないのだが……」


馬車に乗っていた人は全部で四人。

一人は燕尾服を着たお爺さん。一人はメイド服を着たお姉さん。一人はさっき山賊達な達相手に立ち向かっていた騎士テイマーさん。

そして一人は、高価そうな服を着たお嬢さんだった。


「あ、俺ユベル。よろしく」

「ヒッ」


露骨に怖がるなよ……少しショックだ…………

ちょっと凹む。ゆっくりと手を下ろす。


「こら、ルリム! 助けていただいたのだぞ! その態度はなんだ!」


下ろそうとした手を、騎士テイマーさんが力強く握ってくれた。

叱責されたメイドさんは申し訳なさそうに俯き、黙ってしまう。


「謝罪くらいしろ! あぁ、すまない。彼女はまだ見習いなんだ、私が代わりに謝罪するから、許してやってくれ。すまなかった、そして助けてくれてありがとう。代表して礼を言わせてくれ」

「下がってなくてよかっただろ?」

「いや……さっきの発言は私の不徳の致すところだ。反論できないな。忘れてくれると嬉しい」

「あいよ。もう忘れた」


結構爽やかな女騎士様だ。

さっきはピリピリしてたけど、気が緩めば絡みやすい人なのかもしれない。


「あ、礼は、いくらぐらいだろうか?」

「そうだな…………自分たちの命の値段は、自分たちで決めな」

「う……」


一度顎に手をやり考えるそぶりをしてから。

ニヤリと笑いそんなことを言うと、女騎士様は案の定詰まった。


《まーすたー。意地悪〜》

「ふはは。冗談冗談。適当でいいですよ」


アオの的確な指摘に吹き出してしまう。腹を抱えて笑い、涙をぬぐいながら笑顔でそう言い直す。


「で、では……少し待ってくれ…………これくらいでいかがだろう」

「あいよ。貰っとくね」


中身は確認せず袋だけを受け取る。


かっこいい人は、ここで受け取るのを渋ったりするのだろうが。

俺から言わせれば、それはかっこいいとかかっこ悪いとか以前に効率が悪いと言わざるを得ない。

こうゆう時は、変に感覚をか開けず、その場で受け取り、その話自体を打ち消すことが重要なんだ。

受け取らなかったら、相手は困る。渡そうとしているものがお気に召さないのか。なにか悪いことをしてしまったのか。そんな風に余計な考えを抱かせ悩ませる結果にもなりかねない。

なにより、それで渋ってしまうから、このテンプレ展開でめんどくさい方向に話が向くのだ。


「あ、あの。それだけじゃ足りないでしょう。ほ、他にも、なにか、だから―――」

「いえ。お礼ならこれで十分ですよ」


ほらな。金受け取っておいてよかったろ?

あ、お嬢さん落ち込んじゃった。内気な性格の子かね?

お嬢さんからのお誘いは非常に嬉しいが。明らかに見た目から高貴な家のご令嬢だと分かる。


この展開だとめんどくさいイベントが時々あるから、変な気遣いなんてする価値ない。

そもそもそんなの気遣いになってないし。そりゃ、遠慮するってのが日本社会じゃ基本だけどもさ。


ここは日本じゃないんだ。

お礼を受け取っておけば、それだけでその話は終わり、相手は何か別の目的があるんじゃないかとか、変に勘繰りしなくて済む。

そして俺には金が入る。

実にwin-win。ラブアンドピース万歳。


「突然だが、君はエルフ……、それともドワーフかい?」

「何が聞きたいのか知らないが、俺は見ての通り人間だ。エルフみたいに耳長くないし、ドワーフみたいに毛多くないだろ?」

「……確かに」


あ、執事のお爺さんが落ち込んでるお嬢さんを慰めてる。

そんな姿に少し和みながら、視線を滑らせ。

ふと、メイドさんが視界に映った。


「それと。俺には謝罪しなくていいけどさ。騎士さんが代わりに謝るってのはお門違いだ。メイドさんのことを思ってのことだと思うけど、はっきり言わせてもらうとそれはただ甘やかしているだけだ。メイドさんのなんのためにもならない。むしろ悪影響だ。自分が困っても、自分以外の誰かが助けてくれる。そんな甘えた考えは今すぐにでも消させたほうがいい。考えが消えない限り、メイドさんに成長はない」


キッパリと言い切る。

別に誰かを頼るのがいけないわけじゃない。

だが、いざっていう時、自分自身で乗り切ってやるという考えを持っていないと、対応することができなくなる。まぁそんなとこだ。


「でも、何も知らない俺なんかの言葉の方が全くのお門違いだってこともある。そういう時は、何行ってんだこのガキ、とでも思って忘れてくれ。言い返したいことがあるならどうぞ。いくらでも聞くよ」

「……君は、今何歳?」

「……ふむ。ま、いっか。六歳だ」

「ろ、……ろく……」


なぜ後ずさる。

人間族だってわかったなら、この見た目でなんとなくわかるだろ?


「ウチに来ないか?」


女騎士テイマーさんにガシッと両肩を掴まれて真剣な眼差しに射抜かれる。


「お断り」

「くっ、な、なぜ」


相手のお誘いを断っているんだ。年上の女性。しかもそう、美人の、美人の女性のお誘いを。

大事なことなので二回言いました。

真剣に返さなければなるまい。

俺は真顔になり切実に答えた。


「目が、怖いんです」

「そんな曇りなき眼で!」


というのは冗談で。


「俺は世界を楽しくのんびり旅したいだけなんで。お誘いは嬉しいけど、今はそうゆうの考えてないかな」

「そうか……」


そんな悲しそうな顔しないでくれよ。

会ったばっかだってのに、人と馴染みやすい人なんだな、この人は。


「あ、そういや名前聞いてないや。名前なんての?」

「す、すまない。君の名前を聞いた時にこちらも名乗るべきだったな。私の名前はサクヤ。サクヤ・クリストンだ。よろしく。ほらお前も」

「は、はい。その、さっきは申し訳ございませんでした。私、メイド見習いのルリムと言います」

「私めは、執事のモンドウと申します。先ほどは助けていただき、誠にありがとうございました。感謝の言葉が尽きませぬ」


ルリムさんがややぎこちなく、モンドウさんがスッと堂に入った動きで、同時に左手を胸にやり、片膝をつき頭を垂れた。

それを見たサクヤさんがオロオロと慌てて膝をつく。


「お礼はもう受け取ったからいいよ。頭を上げて」

「ありがとうございます、ユベル殿。そして、こちらのお嬢様ですが、事情があり名前は」

「無理に教えてくれなくても全然――――」

「そ、そんな失礼です爺や! 私も旅の勇者様にお名乗りいたします!」


――――――構いませんよ〜。

続けたかった。

食い込んできたな。


「いえ……そういうわけにも……」

「爺や! もう! 失礼ですよ!」

「お嬢様。少し落ち着いて!」

「あわわわわ…………」


ぷんすこ、ぷんすこ、という音が聞こえてきそうな怒り方をするお嬢さんを真ん中に、ワイワイガヤガヤ楽しそうなもんだ。

ちょいと羨ましい。


「んじゃ。身分とか明かさないで、名前だけ教えてくれよ。それならいいでしょ?」

「え、えぇ。仕方ありません。それなら」

「やった! 改めましてユベルさん。私はエレインと申します。身分は明かさないということなので、家名はいいません。ユベルさんと同じ六歳です。お友達になってください!」


話が急に飛んだな。

俺としてもこっちで同年代の友達ができるのは大歓迎だからいいけど。


「喜んで。よろしくエレイン」

「はい! よろしくお願いします! ユベルさん!」


エレインと俺。

硬くはなく、ふんわり包み込むような握手を交わした。


--- --- --- ---



「またいつか〜〜」

「あいよ〜。あと危ないから馬車から乗り出すのは止めなさい」


身を乗り出して大げさにブンブン手を振るお嬢様を、軽く手をひらひらと振って見送る。

どうやら今から森に入るようだ。

レベルアベレージは低いとはいえ、森の中は仮にもダンジョンだ。大丈夫だろうか……

サクヤさんは護衛だというし、大丈夫だろう。


あ、そういやサクヤさんのエネミー見なかったな。どこにいたんだ?

隠滅系アビリティ持ちのアストラル系か?

それとも


「いや、なんでもいいか。考えても何にもならんし。アオ。改めて俺たちも行くとしますか」

《うん!》

「取り敢えずあっちに着いたら、美味いもんでも食おうな」


--- --- --- ---


「姫様。どうかなさいましたか?」

「い、いえ。なんでもありません」


慌てて手をブンブン振っている姫様を見ていると、なんでもあるようにしか見えないんですが……

十中八九、あの少年のことでしょうけどね。

私も彼には失礼な態度を取ってしまったものだ。

あの強さ。危険を顧みず他人を助けようとする心。何者に対しても普通の態度で、分け隔てなく接してくれるあの性格。

是非ウチに欲しかった……


「サクヤさんも、どうかなさいましたか?」

「いや、惜しい人材を逃したな、と」

「あの子のことですね。でも、あの歳でエネミー複数を相手にして無傷とは、少し異常ですよ〜」

「はぁ。またお前はそうゆうことを」

「はぅぅ……すみません。怒らせたりしたら怖いなと……」


確かに。あの子の強さは異常だった。

連れていたエネミーがスライムだったという点も少し引っかかる。

どんな特訓を積んだら、あのような強さを得ることができるのか。


「良い師匠に恵まれたのでしょう。羨ましいなぁ」

「私はちょっと同意し兼ねます……厳しそうだし……地獄じゃありません?」

「はっはっは。ルリムも中々言うようになりましたなぁ。ユベル殿の強さにはこの老いぼれ、感動しました。男として、もう少し鍛えておくべきだったと、今更ながら後悔させられております」


あのスライムになら、勝てるかな?

いや、私のカベドンじゃ恐らく無理でしょう。


「姫様も、初のお友だちゲットですね。学校での目標でしたが、早速目標達成ですか?」

「はい! 他にももっといっぱい友達作りたいです。でも、ユベル様が、私の一番です」


一番の友達ですね。

いいなぁ。私は友達少ないからなぁ……


「心配しなくてもよろしいぞサクヤ殿。ユベル殿はサクヤ殿のお友達でもありますゆえ」

「そうですかね!」

「ちょっとサクヤ! ユベル様を取らないで!」


モンドウさんに言われて喜んでいると。

姫様にポカポカと可愛らしく攻撃されて怒られた。



いつも通りの賑やかさで、馬車は山道を登っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ