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信じられないでしょうけど、ミルクルさんの本気です!

「……本気で行くから。両手足の骨ぐらいは覚悟してね?」


剣の刃を首に突きつけられ、行きたければ私を倒してから行けである。

未だこちらは先ほどのミルクルさんの涙で動揺しっぱなしだというのに。

頰を伝う涙を見て、本能的に探したけれど、どう接すればいいのかわからないままだ。

だというのに、なにを思ったか、というか何故あの涙からどうなればこのような状況になるのか。

なにをすれば正解なのか、わからないことが多過ぎてそろそろ帰って寝たいと切に思う。


しかし同時に、心のどこかで、やはりこうなったかという納得もしていた。

ミルクルさんらしいと言えばらしい。

絶対に行かせないという意思、どうしても行きたければ押して通れと、そういうことだ。


でもちょっと待って。

えっ? ここでやんの?


「ちょっ! まっ」

「『平和主義者ノ領域』!」


ブゥン!


「ゲッ」

「これでユベルちゃんは逃げられない。ま、『領域』系アビリティを交換してあるっていうなら別だけどね!」


俺たちを中心としてドーム状の透明な結界が貼られた。

領域と名のつく隔離結界アビリティ『領域シリーズ』は、使い勝手こそよくないが、上手くハメれば絶大の効力を発揮する。


それぞれ領域の効果を除き、簡単に言うと重要なのは三つ。


一つ目、原則領域内では、領域を発現させたプレイヤーが有利になる。

二つ目、外部からの干渉を一部を除き完全に遮断する。

三つ目、領域を解除するには、制限を超えるか、発現プレイヤーが領域を解除するか、他のプレイヤーが同レベルかそれ以上の領域系アビリティを発動し領域を上書きするかしかない。


俺も『領域シリーズ』は持ってたんだけど、『交換』に出しちゃったからなぁ。

それに、俺の領域じゃミルクルさんの領域は上書きできないし。


そして


「『交換』」

「させるわけないでしょ!」

「クッソ」


当然ながらミルクルさんが斬りかかってくるので、泣く泣くアビリティをキャンセルしてナイフで受け止める。

そう、受け止めなければならないのだ。


『今の状態』の俺では、剣で一撃をもらったらその場で致命傷になるのだから。

ミルクルさんもそのことには気をつけているだろうが、この世界では本当にやりづらいアビリティだと思う。


ミルクルさんの特別アビリティ『平和主義者ノ領域』。

その効果は、自分の領域内に存在するプレイヤーのステータス値をオール《100》に固定するアビリティ。


つまり、俺のステータス数値は今、全て100まで減少しているのだ。

ミルクルさんもその例外じゃない。


そして、ステータス数値、HPすら《100》になる。


それはつまり


「本気かよ! 一撃でも食らったら死ぬぞ!」

「覚悟の上! それが嫌なら降参しなさい!」


この人のアビリティは、“サドンデスルール”とも呼ばれた『死にやすい世界』を作るアビリティなのだ。


因みに、領域宣言をしなくとも、『平和』のキーワードを唱えることで一時的に一定距離にいるプレイヤー全てのステータスを100に固定することもできる。


だから普段は関節技とかの手加減(?)できる攻撃方法を用いてるんだろうが。

剣とか本当に危ないんだけど!


しかも、領域内に存在する幾つかのルールも驚異的だ。


「せぇい!」

「ッ!」


『剣撃』アビリティでも獲得したのか、なぎ払い・そのまま回転し斬りかかるという華麗な二連撃を繰り出してくるミルクルさんに対処がワンテンポ遅れる。


剣の先端が軽く右肩を斬り血飛沫が飛び。

それだけで軽く血の気が引く。



多分ミルクルさんも色々考えてやってるんだろうけど(今みたいに剣で俺の動きを誘導して最後は関節技決めるとか)怖いもんは怖い。


普段はやったらめったら振り回すくせに……なんでこういう時だけ!


「あー、もう!」


逆にこっちは手加減が上手くない。

防御力にあぐらをかいて攻撃力はからっきしだし、有効的な攻撃方法も一発切りの超威力砲台のみ。


「いいだろう! そっちがその気ならこっちだってやってやる!」


だが今のこの状況、そんなことの理由のために逃げるのは、断じて違う!

いいさ。俺だって覚悟があってミルクルさんと対話をしたんだ。

向こうが方法を指定しているだけだ、なら直接俺の本気を教えてやる。


「ッ! よっ! はっ!」


ガキィ! ガキン! ギギギ!


防ぎ、弾き、避け、斬りかかり、防がれ、弾かれ、避けられ、捌かれる。

剣とナイフではリーチが違うため向こうが有利かと思えば、こっちはナイフを数本は投擲という手段に出られる上、塗られている麻痺毒のせいで、少しでもカスれば有効打。

俺に有利なように『見える』。あくまで表向きは。


「ぐぎぎ……はあ!」


つばぜり合いになった瞬間、前かがみになり剣を弾くと同時に飛び出す。

一気に間合いを詰めれば、ナイフであるこちらに有利だ。


(決まれ!)


「秘剣」


(やっぱ無理ですよね!)


一種の願望を胸に訴えたそれを、ミルクルさんのつぶやきにより自分で即座に否定する。


「『鬼殺(おにごろし)』」

「『逃亡』・ 『防御力還元』! 並列発動(マルチアクティベート)!」


ミルクルさんが『秘剣』のひとつをコールしたところを見計らって『逃亡』を発動。


アビリティを発動させながら剣を弾いた逆の手でナイフを三本ほどパーカーから取り出し投げる。

間合い云々を言った手前アレだが、利き手ではない方の手で斬りかかるよりかは圧倒的に速度が違うし、距離が近ければ近いほど命中率は上がるだろう。


一時的に上がったAGIでその場から飛びのき、間髪入れず『防御力還元』により、上がったAGI数値をそっくりそのままDEFに変換する。


そしてその直後、爆風が辺り一面を支配し、ゴンゴンと地面にぶつけられるのを耐えながら転がる。

体を打ち付けられながらも、それに逆らわないようにすることで衝撃を逃し、『防御力還元』でDEFをあげたおかげでダメージを最小限に抑えられた。


後ろに飛んどいてよかったと心の中で思いながら、風が収まるタイミングを見計らい即座に息を吸い叫ぶ。


「解除!」


ばしゅん! と俺の体から蒸気のようなものが一瞬上がる。

それにより、上がっていたはずのステータス数値が元に戻る。


一度解除するとクールタイムが発生するが、この領域内では発動した強化系アビリティは即座に解除するに限る。


「あはは。そんなに焦んなくてもまだリセットはしないよユベルちゃん。私も『この子』でステータス上げたばっかだもん」


そう言って、ミルクルさんは漆黒の金棒のような形状に変化した剣を軽々と担ぐ。

今のミルクルさんのATK数値はかなりのものに跳ね上がっているだろう。

先ほどの爆風も、俺のナイフを弾き飛ばすためにミルクルさんが金棒を振ったことで生じた風だ。

そう、これこそ彼女が『平和主義という理不尽(バッドイコール)』と呼ばれる所以。


ミルクルさんのもう一つの特別アビリティ


特殊強化アビリティ『諸刃ノ剣』だ。


「“おにごろし”。形状から見て『鬼殺』の方か」

「一度リセットしちゃうとロックかけちゃうからね。わざわざユベルちゃんも解除してくれたみたいだし、次のクールタイム回復までリセットはやめとくよ」

「理不尽め……」

「こっちはこっちでリスクを払うんだからそういう言い方はないんじゃないかな」

「え? リスク払ってるって本気で思ってんの? 寝言は寝てから言ってくれよ」

「ひどい!」


言いたくもなるわ!

あんたの『諸刃ノ剣』のどこが“諸刃”なの知りてえもん。


「なんにしても、今のユベルちゃんじゃさすがに私には勝てないでしょ」

「…………」

「降参するなら今のうちだよ?」


俺は思わず口をつぐむ。

それは無言の肯定だ。


確かに俺とミルクルさんは戦闘力やアビリティのランク・レベルでは大きく差がない。

厳密に言えば俺の方が少し秀でているだろう。

俺のプレイヤーランキングは、全国の猛者たちを寄せ付けず、堂々の『3位』。

対するミルクルさんは、プレイヤーランキング『1000〜2000』のあたりをうろちょろしてるくらいだ。


ただしそれは、俺がミルクルさんに負けない理由にはならない。

戦闘は単なる個々の戦闘力のみで結果が決まるものではない。

『相性』が重要なのだ。


そして、俺『ユベル』と『ミルクル』さん。

二人の相性は、すこぶる、世界で最もをつけてもいいほど最悪だ。

というか、ミルクルさんとタイマンで相性いいプレイヤーはEGOにはいないだろう。

ただあくまで、俺はその中でも特に、そう、特にである。


「えーっと……」


そろそろと両手を背中で隠しながら、左の手で右の手のひらを抓ったり殴ったりして衝撃を溜めようとするのだが。


「させるわけないでしょ」

「ですよねー」


ミルクルさんは駆け出したかと思うと大きく跳躍し、両手で掲げた棍棒を振り下ろさんと俺を見定める。


「んなこたぁわかってんだよ! 秘儀・眼球ブレイク!」


溜めさせてもらえないことなど百も承知である。

衝撃を溜めるフリをして両手を隠し、先ほど吹き飛ばされた時に左手で拾っておいた手のひらに収まる量の砂を、こっそり右手に移しておいたのだ。

そして、俺に攻撃を仕掛け俺に目線を向けた瞬間にそれをばらまく。


我が必殺の一撃、その名も『METUBUSI』だ。


……男のくせに卑怯とか言わないでほしい。

自分に有利に働き相手を制限する空間に閉じ込めて私tueeeeee! をしてくる相手に果たして手加減をする必要があるだろうか!

いや無い!


「きゃあ」


ミルクルさんは可愛らしい悲鳴をあげて目を抑えた。

それにより狙いがブレた棍棒がよろよろと俺に迫ってきたのでその場からなんとか避ける。


想像することのできないような爆音を巻き上げて、地面にクレーターができた。


「目がぁ……目ぇがぁぁあ……」


そしてそんなクレーターの中で棍棒を手放しお約束を披露してくれるミルクルさんに。

俺はちょっと泣きたくなった。

帰っていいかな?


「ミルクルさーん。降参してくれないと俺本気で卑怯な手使うけどいいかなー」

「こ、降参なんか」

「あ、じゃあ悪いけど追い討ちさせてもらうよ?」

「ふえ?」

「『ジャンプ』発動」


未だ目の痛みに襲われごろんごろんするミルクルさんを眺めながら、全力で跳躍しクレーターの真ん中に落下しながら突っ込む。


「『限界破壊』」

「『へい」

「ガアアアアアアアアアア!」

「うわっ!」

「隙あり!」

「ひ、卑怯!」


限界破壊で跳ね上がったステータスを減少させようと、『平和』を唱えようとしたミルクルさんに対し全力で吠える。

龍の咆哮をイメージしてみました。

思惑通りいきなりの俺の所業に度肝を抜かれたミルクルさんは怯み、キーワードを唱え損ねる。


グッ! と拳を握りしめ、ぎりぎりと引きしぼるように力を溜める。

落下する力も全て利用するつもりで拳を振り抜けるよう準備する。


すでにそこまでミルクルさんとの距離はない。


勿論、この拳を直接ミルクルさんに当てるつもりはない。そんなことをすればミルクルさんは死んでしまう。

ミルクルさんはそんなことを百も承知で、ガードをするだろう。


そう、金棒に変化した、彼女の剣で。


その剣さえぶち壊しちまえば、圧倒的有利に立てる。というか勝ちをもぎ取れる。

それが唯一の『諸刃ノ剣』の弱点なのだ。

いかにバカ強の金棒とはいえ、攻撃特化、攻撃力に特化したそれに、並以上の防御力はない。


俺の攻撃を喰らえば、間違いなく折れるだろう。


そして、もうすぐそこまでミルクルさんが迫っているこの状況

完全に、詰みだ。

そう油断して、言ってしまった。


「とった!」


あ!

コレ、フラグだ。


そして、フラグとは


「させないってぇ……の!」


回収されるためにある。

予想外! ミルクルさんはガードをしようとするのではなく、『金棒で再びクレータをぶん殴った』。

それがどういう結果を生み出したのか。

クレーターが余計陥没し、巻き起こった衝撃波のせいで少し俺の体が上に浮く。

俺の体が空中にあったのも行けなかったかもしれない。

踏ん張りがきかずに良いように衝撃波で動きを止められてしまった。


それは微々たるものだったかもしれない。

だが。


「マズい」

「秘剣」


そう、ミルクルさんにとって、その微々たる時間稼ぎが必要だった。


それはさせない!

ミルクルさんが次の言葉を言おうとした瞬間、それすら飲み込む勢いと音が三度クレーターにお見舞いされる。


何かを殴った感触あり。だが、ミルクルさんじゃない。


派手に砂埃が舞ったが、案外すぐに、晴れていく。


そして俺の背筋に、寒気が走った。


俺の拳は、ミルクルさんをすっぽりと覆い隠した巨大な『斧』のような形状に変化した剣に、完全に阻まれていた。

シュウウウ……と拳と斧が触れ合う場所から湯気がたつ。


ミルクルさんは斧から顔をのぞかせて、ニコッと可愛らしく笑った。


「『森殺(もりごろし)』」


そして俺も、冷や汗をかきながら下手くそな作り笑いを浮かべた。


「か、勘弁してくれ……」


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