信じられないでしょうけど、涙の逃走からの〇〇です!
「さて……」
次はミルクルさんか。
どう言えば穏便に済ませられるだろうか。
適当に嘘を混ぜると……バレた時にボコされ方が違うからなぁ。
うむ。ここは正直がいいだろう。
嘘は良くない。うん。
正直に言って。真正面からぶん殴られよう。
◇◆◇
キャンディーちゃんとのお別れ(?)を済ませた俺は、そんな悲痛な覚悟を胸に満を持してミルクルさんの元へと来た。
当初話があると切り出した時は、キョトンとした顔をしていた。
そして終始キョトンとしたままで。
「え?」
話し終えて、彼女はそんな言葉を発した。
「ど、どうして……」
「た、確かにミルクルさんとももう少し一緒にいたいとも思うけど、皆んなとも会いたいわけで」
なにやらセリフが言い訳臭い。
だけど仕方がないじゃないか。
後ろめたい気持ちがないわけではない。と言うか、後ろ暗い気持ちしかないのだから。
「だからどうして!」
どうしてと繰り返すミルクルさんが理解できない。
一体何が言いたいというのだろう。
大声を出し、俯いているミルクルさん。
そして。
「どうしていつも……私を、仲間外れにするのよ……」
顔を上げた彼女の顔はくしゃくしゃに涙に濡れ、声は震えきっていた。
その姿を見て、俺の全システムがダウンする。
完全なる予想外だった。
ミルクルさんが、怒り、殴りかかって来るぐらいは予想ができた。
口汚く罵られながら関節技をかけられ、絶叫をあげる準備は万端だった。
だがこれはなんだ。
泣かせてしまっているじゃないか。
誰がだ。
誰でもない、この俺が。
「いつだってそう……仲間だって思ってるのは、いつだって私だけ……」
身動き一つできない。
思考が全く作動しない。
まるで答えのない問いを必死で考え続けるような、そんな空回り方をする。
「ユベルちゃんは……ユベルちゃんは……いっつも」
なにを言っているのかわからない。
言いたいことがあるのならはっきりと言ってほしい。
言ってくれなければわからない。
そう言いたいのに、声は出せず、ただ浅い呼吸音が出るだけ。
何故行くのかとか、もう少しいたって良いんじゃないかとか、さっさと行けとか、他のみんなを見つけたらすぐに連絡しろとか、今言うべきことはそれだろう?
なのに、なにが言いたいのか。
わからない。
「えっと……」
黙っている俺にどう思ったか。
ミルクルさんはくるりと俺から背を向ける。
追いかけるべきだ。
それなのに、俺の足は動かず。
出来たのは、「うぁ」とも「あぁ」ともつかない掠れた声を発し、中途半端に手を伸ばすだけだった。
首を曲げ、顔だけをこちらに向けたミルクルさんは、そんな俺の手を少し見て。
フイとそっぽを向いた。
「……ばか」
そして彼女は走り去っていった。
彼女の目尻に溜まっていた涙が、一本の筋となって頬を伝っていた。
◇◆◇
確かに私は、『ソロ』だ。
でも、自ら望んで『ソロ』になったわけじゃない。
ただ、パーティーになれなかっただけなのだから。
私の『特別』は、敵味方御構い無しに周りにいる存在のステータスを奪い去る。
だから、パーティーに入れてもらえなかった。
だから、半強制的に『ソロ』でいさせられた。
今ではそれが当たり前だし、当然であることに嫌だなどと言う感情はないけれど。
最初は嫌じゃなかったといえば嘘になる。
オンラインプレイで、他の人と一緒にクエストを攻略して見たり、ダンジョンで遊んで見たり、ギルドでオフ会開いたり、そんなことに憧れていたのだ。恥ずかしながら。
しかもこの私の力、これは『スペシャリー・ギフト』っていう、実装初日にログインした方全員に配られた、初回限定版アイテムで排出されたものだ。
プレゼントボックスの形をしたアイテムで、確率で設定されたものがランダム排出されるというもの。
本来は、高確率で初期装備レベルのアイテム数個という、初心者応援システムであった。
よくてレア度の高い武器とかで。
その中で超絶運がよかったほんの数プレイヤーは、激激レアの『アビリティ』をゲッツしたのだ。
その一人が、私。
0.1パーセントを遥かに下回る低確率で排出されたそのアビリティは、当初では知られるはずもない事だが、最強クラスのアビリティ『特別アビリティ』だった。
そして、当初そのことに喜んだ私は。
その後すぐ、悲しみに沈んだのだった。
「理不尽すぎるでしょお!」
とは、当時私が叫んだ言葉だ。
皮肉にも、私の力とシャレていて、そのことが凄く腹立たしくて、自分の部屋で一人、少しの間取り乱した。
そして、初回特典であることと、他のプレイヤーとの均衡を保つためにも、色々とロックを食らったスペシャルアビリティを手に入れた私は。
代わりに団体でのゲームプレイを捨てざるを得なかった。
データの初期化は、…………考えたけどできなかった。
だって…………だって激レアよ! そんなものが出たデータを、捨てられるわけないじゃない!
そんなこんなで、ゲームを始めて、二年ぐらいがたった。
◇◆◇
「はぁ」
さすがにあのレベルのダンジョンじゃ、クリケットさんだけじゃ厳しかったかぁ。
すっかりソロで定着してしまった私は、けっきょくそのまんま、特に他プレイヤーと交流を持つことなく、コツコツゲームをプレイしていた。
「あれ? 新しいイベント実装今日だったっけ。申し込みしとこうかな」
ギルドに所属できないソロで、テイムが苦手な私は、お金事情に寂しい。
対人イベントらしいし、こうゆうのは見逃せないのだ。
「げ……協力型クエスト? ……か、勘弁してよ……」
まさかのイベントにお前の席ねーからである。
うーわぁ……ソロに冷たいよこのゲーム。
しょうがないと諦めようとしたところで。
私は彼を見つけた。
◇◆◇
「おーい。起きてます? ミルクルさん」
自分の名前を呼ぶ声にハッと我に帰る。
声がした方に視線を向けると、そこには、呆れたような、困ったような顔をしたユベルちゃんが立っていた。
「……なによ」
「こんな狭いところに隠れて……ちっこくなったの活用しすぎだろ」
「だまらっしゃい。なんでわかったの」
「俺の探索能力を舐めるな。限界を破壊すればこの通りよ」
「かっこわるい」
「うっさい」
こんな風に、気軽に話せる相手は、人生でこの人だけだ。
この男は、本当に。
本当に、変わらない。
そんな彼だから、私は想いを寄せてしまった。
例えそれが、『ゲームの中の彼』だとしても。
…………ずっと、そう思っていた。
でも、今は。
今は、二人ともこれが現実なんだ。
ゲームの彼じゃない。彼は彼で、自分自身をこの世界に持って来ている。
だから、私は
「ねえ、ユベルちゃん」
「うん?」
辺りにガキィィイイイン! と音が鳴り響いた。
「…………」
私がショートソードをユベルちゃんの首に叩きつけた音だ。
勿論音から分かるように、ユベルちゃんの首は胴体にアディオスを告げてない。
アビリティを発動しなかったから、ユベルちゃんのDEFは私のチャチい剣ぐらい跳ね返すからね。
アビリティを発動させなかったのは、『挑発』だ。
『本来なら今ので殺せた』と『私と戦え』という意思表示。
納得なんてしてやらない。
勝手にどこかに行くのならそれでもいい。
でも、私を追って来てくれたのなら。
納得する理由ぐらいは作ってあげる。
取り敢えず、まぁ、そんなことは置いておいて。
少しの間、静寂が訪れた。
そしてその静寂を破るのも、私。
これが私の、返答だ。
「……本気で行くから。両手足の骨ぐらいは覚悟してね?」
全身の骨を叩き折ってでも、行かせない!




