信じられないでしょうけど、強さは誰だって持ってるんです!
「アオ。手伝い頼んでもいいか?」
《もちろん!》
《アオちゃんだけ?》
「もちろんミドリもな」
《うん!》
訓練室に向かう途中。
誰と話すわけでもなく独り言を楽しげに呟いている俺を、生徒たちはいぶかし撃見ながらついて来ていた。
「ユベ……先生。どこの訓練室に行くんですか?」
「んあ? えっ〜とぉ。こー、きて、あっち曲がったカラァ……あー、たぶんこっちの方にある訓練室だ。わかる? てかこの先にある?」
「う、うん。取り敢えず訓練室はあるけど」
男子生徒が何か言いたげにしている。
さっきのせいでだいぶ俺に苦手意識が刷り込まれただろうからな。
怖いやつってのは、優しい時でもいつ爆発するかわからない。
爆弾、危険物のように見てしまうのも、まぁわかる。
納得できるかどうかはおいといて、理解はできる。
なるべく刺激しないように務めて少し抜けた口調をキープ。
「あぁ、悪いな。まだきたばかりってのは言い訳にしたくないんだが、いかんせんこの学校広くて広くて。いまいち全体はまだ覚えてないんだ」
時折通る道だからまだわかるが、廊下の曲がり角が多いからわからないところに出たらすぐに迷子になりそう。
方向の力は乏しいからなぁ。昔っから。
全体の地図はまだ手放せない必須アイテムだ。
ゲーム風にいうと、《 大切なもの 》カテゴリで《 捨てられない 》と出るものだ。
「さってっとぉ〜。打ち合わせ通りなら、この辺りで〜〜、お、あったあった」
教室の前にある番号を見て、ウィーアードに指定された訓練室であることを確認してから。
一度深呼吸をして、生徒たちの方へ振り向く。
「さて、お前ら。学校だからって気を抜くなよ。ここから先は、何が待ってるかわかんねえぞ?」
俺の脅しのようなセリフに数人の生徒が震え上がった。
わ、悪いな。そんなつもりじゃなかったんだが。
ちょっとからかおう的な、そんな軽いノリで……
んんっ! 気を取り直して!
「んじゃ、いってみようか!」
訓練室のドアを開けた先、ひらけたドームのような建物全てが
地面が、壁が、生えてるものが、全てが
《 お菓子 》でできた空間であり、生徒たちは揃って大口を開けた。
その反応が見たかったっ!
笑いたいのを必死で押し殺して、俺は当然のことのように説明する。
「ちょっとした俺のツテでな。急遽機材を取り寄せてとあるダンジョンの一室をイメージして作ってもらった」
まぁ、まさしくこれこそ、そのとあるダンジョンの一部なんだが。
「そんでもって、こいつだ」
俺が指パッチンで合図を送ると、お菓子の地面の一部が盛り上がり。
それが少しづつ形を持ち始め、メルヘンチックな騎士姿のお菓子人形ができた。
「こいつは、えー、野良のエネミーってとこだな。指定して出すことはできても、いうことは聞かない。普通に襲ってくる。野良のエネミーと同じだな。ま、かなり強いけど、一体一体しか出てこないし、俺が対応できるから安心しな」
嘘である。
野良のエネミーなんかではまったくなく。
指定しなければ襲うことすらない従順な駒だ。
それと、一機一機、機体差はあるにせよ、どれもめちゃめちゃ強い。
それを自由かつほぼ無限かつタイムラグ0で複数同時に生成し続けることができるのだから恐ろしい。
俺の説明が理解できていないのか、生徒たちは皆が皆信じられないような視線をこちらに向けてくる。
わからんでもないがな。
ただ、いつまでも惚けてもらってても困る。
それでは授業にならんのだ。
気持ちをキッチリして貰うために、スゥ〜と息を吸ってキュッと口を閉じ。
「気を緩めるなッ!」
地面に向けて全力の声を張り上げる。
ビリビリと振動が辺りに伝わり、生徒たちが体を固くしながらも緊張した面持ちになる。
「お前ら、今日の実技もそんな態度で臨むつもりだったか? 立派なテイマーになりたいんだろう? そんな気持ちじゃ、実戦で生きていけないぞ。俺は…………お前らと、その、同じ歳だが。お前らより圧倒的に戦闘経験は積んできたつもりだ。そんな俺から、まず一つ目の教訓」
人差し指を立てながら、つらつらと話す俺に
「あっ!」
それに気づいた生徒が声をあげて警告を伝えようとした。
だが。
「戦闘時は一切の甘え無し! 常に周囲を警戒し続けることッ!」
音も気配もなく俺の後ろから剣を振り下ろしてきた剣士エネミーの腕を振り向かず掴み、そのまま地面に叩きつける。
背後からの奇襲。
これに対応出来るようになれば、大いに危険は減るだろう。
生徒達が初めて、俺に対して尊敬の声をあげた。
俺に叩きつけられた敵エネミーがすぐに起き上がり、警戒するように俺から距離を取る。
そのまま動きを停止させたので、生徒達に振り向いて話を続ける。
「それじゃ二つ目の教訓」
ぴっと二本指を立て、ポンポンとパーカーを叩く。
「アオ、ミドリ。出番だ」
俺がそう宣言した瞬間、にゅるん! と青の緑の粘性物質が俺のパーカーから螺旋を描くように飛び出し。
青色が俺の肩に乗り、緑色が俺の頭に乗り、形を形成した。
その姿を見た生徒達に動揺が走る。
「こいつらが俺のテイムエネミー。見た目でわかると思うが、《スライム》だ。名前はこっちがアオで、こっちがミドリ。よろしくな」
生徒達の中の俺の評価が大暴落した気がする。
そんな気配がひしひしと伝わってくる。
彼らの中で俺は『尊敬に値しないテイマー』とでも認定されてしまったのだろうか。
気持ちはわからんでもないが。
やろうと思えば、小学生に満たない子供ですらテイム出来る最弱エネミー。
成長幅は絶望的ですぐに死んでしまう上に経験値もろくにくれない。
それがスライムである。
「はい、全員落第点。ダメダメですねー」
「なっ!」
パンと手を鳴らしてそう宣言する俺に憤慨する生徒をがん無視して続ける。
「確かめもせず見た目で判断するなど、ナンセンスの極み!それでもテイマー志望かねキミタチ。可能性を勝手に決めつけて制限する。そんなことじゃ強くなれるもんのなれねえよ」
まぁ百聞は一見。
「掛け金レイズ、ベット、そだな、1000ゴールド。アオ。ミドリ」
俺が呼びかけたことで二人、同時に臨戦態勢に入る。
その二人のビリビリとした雰囲気に、呑まれごくりと喉を鳴らす生徒達。
「やれ」
その一言に、二つの獣が爆ぜるように駆けた。
いつの間に出現したのか二つになってるお菓子の兵隊が、これまたご丁寧に一人一つずつと割り振られている。
いい仕事するね。
最初に動いたのはアオだった。
滑るように移動しその異常なまでの速度を存分に活かし。
剣士エネミーの背後を取り、目標を見失いキョロキョロとする剣士エネミーを
その大きな口で一口。バツン! ガンッ! ガンッ!
一瞬でケリがついた。
片やミドリ。
まだアオには及ばないとはいえ、ミドリも立派な『反逆者』だ。
一度地面に降りると、すぐに後ろに下がる。
そして剣士エネミーが『一度ミドリが着地した場所』に踏み込み。
動かなくなった。
正確には、自由に動けなくなっただけで、ギシッギシッと兵隊の体が軋む音がする。
ミドリの生まれ持ちの固有『万能薬』の一つだ。
『万能薬』アビリティは、レベルが上がるにつれ作れる薬が増えるのだが。
今使った『麻痺薬』のように、薬とはいえ半分毒のような使い方も可能だ。
薬も、一手変われば毒となる。
最後にミドリは『捕食』『吸収』を発動しながら剣士エネミをその身に収めた。
中毒防止のためしっかりと『解毒薬』を作ることを忘れない。
完璧な勝利だ。
ミドリも近々、『毒無効』を取得できそうだ。
スライムちゃん達の完勝に気分が良くなり
少し役者まじりに声を張る。
「どんなエネミーだろうと、それこそ最弱のスライムだろうと、育て方で強くなれる。テイマーは素質があるエネミーだからテイムするのではなく、テイムしたエネミーを強く育てる職業なんだ!」
俺にすり寄ってくる二人を優しく撫でる。
気持ちよさそうにスリスリしてきて非常に可愛らしい。
ヤバイな……落ち着けッ! 俺の心臓よ! 俺の本能よ!
このまま理性を吹き飛ばしてしまったら、せっかく上がった俺の株がっ!
必死で荒れ狂う本能を押しつぶす。
「さて、まだまだ続くぞ、教訓、その三」
もう生徒の中で、真剣に俺の話を聞かない奴はいなかった。
皆が皆、真剣に、一言一言を聞き漏らさないように集中している。
「たとえ強かろうが何だろうが、エネミーに頼り切らないこと」
これは俺の自論だ。
だが勿論。
「すみません先生。発言いいですか」
「もち」
「テイマーはエネミーを戦わせるものです。頼りきらないとは、どういう?」
「そのまんまの意味」
パチンと指を鳴らして剣士エネミーをもう一度呼び出す。
「まずは見せるけど、そうだな。解説ぐらいはしよう」
そんなことを言いながら、俺は自分の右手を自分の左手で連打する。
殴り続けながら、言葉を続ける。
「確かにテイマーってのは基本、テイムエネミーを戦わせるためにいるもんだ。だがな、そのアビリティは何のためにある? ただエネミーを育てるためだけか? 違う、エネミーと一緒に戦うため、テイマーにしかできないことをするためにあるんだ」
走り近づいてくる剣士エネミーを視界に収め、チャージが完了したため殴るのを中止して、腕を構える。
「一回しか言わない、よ〜く聞いとけよ!」
『限界破壊』! 一瞬発動ッ!
「テイマーは、強くあれッ!」
叫びながら拳を振り下ろし、キーワードを叫ぶ。
「『反射』あ!」
バガアアアアアアアアアアンッ!!!
振り抜いた拳が剣士エネミーを粉々にする音と。
その破片が辺りの壁にぶつかり砕ける音が混ざり合い。
その部屋を轟音が包み込んだ。




