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信じられないでしょうけど、俺女性には優しいタチなんです!

「第、5層?」

「はい」

「つまり、ボス部屋まで行くと?」

「はい」

「小学校の、実技の練習で?」

「はい」


頭おかしいんじゃないの?


俺の素直な感想がそれだった。


だっておかしいだろう。

何故最初の中ボスとはいえ、ボスクラスエネミーを相手する小学校の実技があるのだ。

例えるのなら、小学生に車の運転の実技をいきなりやらせるようなもんだ。

危険だろう? 危ないだろう? 下手すりゃ死ぬぞ?

バカなのか?


「予定、見直したほうがいいと思うよ」

「何故です?」

「説明しなきゃわからんか? ふざけんなよ。適当もいい加減にしろ。てめえらは何のために何をするかちゃんと考えてんのか? 命を預かった職業だ。確かに、命をかけるべき職業の授業なのかもしれない。だが、それでも、必要な安全措置は十分に取るべきだろう。何のために育てるんだ。未来のため、将来のためじゃないのか。その未来を踏みにじるような行いをしているということに何故気付かない」


俺がそう言っても、ルーターさんは不思議そうに首をかしげるだけだった。

わかっちゃ、くれんか。


「よし、わかった」

「わかってくれましたか」

「あぁ。よ〜くわかったよ。おい! お前ら! 撤収だ! 今日の実技講習は中止とする!」


大声で伝達する。

生徒たちが「えぇー」と声を上げるが無視だ。


「すんません。運んでもらったばかりで悪いんすけど、また戻ってくれます?」

「まぁ……構いませんけど」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


俺の言葉に困ったように返す馬車の運転手がチラリと視線を送ると、事態についていけず呆然としていたルーターさんが駆け寄ってくる。


「あぁルーターさん。伝えた通りです。今日の予定は変更とします。実技講習の代わりに、別の授業を組みましょう」

「な!」


ルーターさんは絶句したように再び固まり。

そして再度動き出す。


「何を勝手に決めているのですか! それに予定が」

「その予定がおかしいから中止になるんだ。俺が勝手に決めた、確かにそうかもしれない。だが、理由はあんたの組んだ予定がおかしいから。回り回って、ぜーーーんぶあんたのせいだ。俺のせいじゃない。さ。さっさと荷物をまとめてください」


にこやかにそう促し、生徒たちの方へ歩き出す。

するとルーターさんは俺の肩を掴み、引っ張った。


「納得できません! 私の予定の何がおかしいと」


それ以上ルーターさんが言葉を発することはなかった。

俺が高密度の殺気を直接ルーターさんにぶつけたからだ。


俺の肩を掴んでいる手を振り払い、ツカツカと彼女に近づくと。

グイッと彼女の胸倉を掴み引っ張り、彼女の顔を俺の顔の前にまで強引に持ってくる。


「もっと周りをよく見て考えろ! 回りくどい言葉じゃ分かんねえみたいだからはっきりと言ってやる! よく聞け!」


脅すように眉間にしわを寄せ、怒鳴り散らすように声を上げる。

周りの生徒はもちろん、俺に直接殺気と怒気をぶつけられているルーターさんは何もできない。

何かをしようとすら起きないほどの何かに襲われているはずだ。

恐怖や、絶望や、そんな感じの負の感情が渦巻いているに違いない。


だが、言わねばならない。

言わなければわからないようなのだから。

一度大きく息を吸ってから、頭突きをするように頭を下ろし、目と目をしっかりと合わせて

叫んだ。


「お前は生徒を殺す気かッ!」


--- --- --- ---


「ユベル氏」

「んだよ」

「ありがとうございます。そして、ご苦労様です」

「まぁなんだ。悪かったとは思ってるよ」


実技講習が中止になり数時間。

混沌とする馬車の揺れが終わり、学校に到着した後。

ウィーアードの部屋で直接事の顛末を聞かせて、今に至る。


そして、俺が怒ったルーターさんだが、がっくりと白目をむいてぶっ倒れてしまった。


「流石にやり過ぎたと今は反省しているよ。もう少し優しくしてあげても良かったのになぐらいは思う」

「しかし、彼女にもいい薬になったでしょう。彼女はまだ日が浅く、なんでも自分を基準に考える癖がありますからネェ〜。時々生徒に目がいかない時があるっとか。そうゆうことが少なくなるのでは?」

「ならいいんだかな」


だが、命を請け負うということは。

大きな責任を背負っているということだ。

その責任を自覚せず、自覚しようともせず、何が教師か。


「ま、校長が校長なら学校も学校か」

「なんとも耳が痛い話デスね〜」

「別に臨時で入ってるクソガキにゃ言われたくないんだろうけどな。所詮部外者だ」

「何を言いますか〜。ユベル氏はもう立派な我が校の教師。部外者だなんてそんなそんな」

「間違っちゃいないだろ?」


実質、俺は殆ど何も知らないのだ。

これから知っていく機会はいくらでもあるだろう。

だが、知らないという現状の中で、俺は今行動に移している。

もしかしたら、子供達はボスクラスエネミー相手でもそれなりに戦えるのかもしれない。

もしかしたら、ルーターさんの言っていたことは、ここでは当たり前なのかもしれない。

そのことについて何も知らないくせに。

自分の考えに則り、行動に移した。


それが正しいことなのか、それともそうでないのかはわからない。

それでも俺は自分が『正しいと思うこと』をした。


誰に言われたからではない。

自分で決めたことだ。

だからこそ、今後はどうするか反省はあっても、そこに後悔などありはしない。


俺が後悔したのはあくまでも、彼女に対する俺の態度だ。


「それで、生徒たちは今何を?」

「取り敢えず教室に戻して自習させてある。担任がぶっ倒れたからな」

「それって、ユベル氏のせいですよね?」

「あー……はいはい。わかってるよ。実習を中止したのも、ルーターさんを気絶させたのも俺の責任だ。もちろん、自分の責任は自分でとるさ。んじゃ行く。悪いな、時間取らせて」

「いえいえ、いつでもどーーぞぉ。基本暇なので」

「…………ヒノデさんに渡されたその資料の山を、もう一度目で見て認識してから、もう一度その言葉を言ってみろ」


机の上に山積みになった資料の数々。

それに一度目を向けたウィーアードは、いい笑顔で前を向いた。

ふむ。なかったことにしたいらしい。


「おっひょっひょっひょっひょ」

「気色悪い笑い方してねえで仕事しろおっさん。あ、その前に少し頼みたいことがあるんだが」

「ほぉ……」


--- --- --- ---


「うぃーっす」


ガラガラと扉を開けると、ガタガタ席に座り出す生徒たち。

調教されてるねぇお前たち。


「あー、お前ら。まずは、すまなかった」


教壇に立ち、一度深く頭を下げる。


「お前らが楽しみにしていた授業を台無しにしてしまったようだ。だが、お前らにはまだ少し早いという俺の気遣いであると、どうか理解してほしい。ルーター先生の考えていた予定では、お前たちに何かがあるかもしれないという俺の解釈のもと独断で行わせてもらった。しかし、お前たちは実技の練習がしたいプラス、テイムに関する知識が欲しいわけだな?」


何人かの生徒が遠慮がちに肯定する。


「ありがとう。さてそうゆうわけだから。今回実技講習は中止になったが、それでは悪いと思ったので、急遽新しく予定を俺が作ってみた」


かっかっかっと滑るようにチョークを黒板に触れさせ。


《 ユベル先生が教えるバカでもわかるテイムの基礎 》


と書きバンっと黒板叩く。


「お前ら、今すぐ、訓練室に移動だ」


--- --- --- ---


「ユベルさん。早速授業強制中止とは、やりますね」

「いやはや、判断力のいい方で」

「フン。勝手に激情してルーター先生に当たったと聞いておりますが? 自分の都合と勝手を優先する。ハッ、やはり子供ですな」

「メリダス。お前は一体何を聞いていたんだ……」


授業を終わらせて、職員室で茶を飲みながら教師たちがのんびりとしながら激しく口論をし始めた。


「しかし、実際そうではありませんか!」

「危険なことをしようとしたルーターを止めたのじゃ! その行動の正しさがなぜわからない!」

「クソガ……ユベルはまだ子供ですよ? たかが六歳の子供に何ができるというのです!」

「実際に行動してみせたじゃろうが!」


老年の教師とガチムチの教師がお互いに睨み合う。

そんな中、老年の教師の元に助太刀が来た。


「この中で誰も敵わなかったピスケルさんと激闘、勝利。教師ですら圧倒される広く深い驚異的な情報力。人柄は温厚で、やるときはやる。なかなかの優良物件。メリダスが否定する理由がわからない」

「ですがハーベス殿。ピスケル殿が子供相手に負けるはずがありませんぞ! きっと手加減していたに違いない!」

「あの人は子供相手だからって手加減しない。そういう人」

「ですが、卑怯な手を使ったのかも……」

「だから? 勝負において勝つためなら、卑怯なことだって作戦であり戦術となる。そもそも、それをしたとして、ピスケルさんに勝てるならやってみるといい」


メリダスじゃ絶対勝てないから。と

目を眠たげに半開きにし、目にクマをつけながらウトウトと首をカクカク動かし続ける白衣の少女。

それが今メリダスと口論を行っていた少女。ハーベス・ワラド。

メリダスよりも圧倒的に実力がうえの彼女にそこまで言われ、

老年の教師、名をグルーター・ナダリオス。

この学園でも最高峰のテイマーである彼にそこまで言われ、

それ以上言い返せるほどの男では、メリダスはなかった。


悔しげに唇を噛み。

肩を震わせ。

憎悪の浮かぶ顔で。


「おのれ…………ユベル」


それは非常に危険を孕んだ、憎悪のつぶやきだった。


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