信じられないでしょうけど、懐かしのハイタッチと娘の成長? です!
「ミルクルさんも、やっぱりエネミーにここに飛ばされたのか」
「うん」
「しかも、今まで見たこともないような新実装の激レアエネミーで、バグのような現象の多かったパトリに引き摺り込まれたと」
俺の時とほとんど一緒だ。
俺はあの時、最前線に潜り込み、ただの通路の一つでしかないそこで、『死神』とエンカウントした。
それを包み隠さず全てミルクルさんに伝えると、次はミルクルさんが語り始めた。
「私はその時、灼熱のダンジョン《Lava zone》にいたんだけど」
「あぁ、アッチッチ高山ね」
「その呼び方は今はいいから。そこのアイテムを根こそぎかっさらってた時にね」
まだやってたのかソレ。
「いきなりフィールドが強制チェンジされてさ。溶岩地帯だったのが炎に包まれる崖みたいなフィールドになっちゃって。そんなフィールド見たことないしさ。BGMも流れないしで、よくわからない状況に持ち込まれちゃったんだよね」
炎に包まれる崖? 俺の時は青白い光のみが辺りを照らす漆黒の闇みたいなステージだった。
それぞれ違いがあるのか。
「相手強そうなエネミーだったしさぁ。私じゃまったく歯が立たなくて。でも、相手のエネミーがまったく攻撃してこないからクリケットちゃんでも倒せるかなって思ってたんだけど……」
「その瞬間、一億ゴールドが消費されて謎の時計アビリティが発動したと」
「そう! そうなんだよぉ〜。ギリギリでクリケットちゃんが相手のエネミーのHPを削り取ってくれたのか、ここに来た時に、これが落ちてたんだけどね」
そういうや否や、ミルクルさんは服の中に入れ置いた袋を俺に見せ、その中身のものを取り出した。
『鑑定』発動。
《Reincarnation to Hell necklace》
「転生地獄の首飾り?」
「うん。聞いたことないアイテム名でしょ? それに、私の鑑定レベルじゃ名前ぐらいしかわかんなくて。ユベルちゃん。どうせだから内容のアビリティ確認してくれない?」
「あいよ」
《Reincarnation to Hell necklace》
《Reincarnation to Hell Cerberus》の心臓を加工して作られたネックレス。
固有アビリティ
『サイズ自動調整』『自動洗浄』『自動修復』『炎系列完全耐性』
特別アビリティ
『消費金額1/10』
物の性能はほとんど俺の《Reincarnation to Grim hoodie》と同じだ。
「リーンカネーション・トゥ・ヘル・ケルベロス、ね。よくクリケットさんで倒せたもんだな」
「相手が反撃してこなかったからねぇ。アイテムフル使用だったけど」
ふむ。今回も『リーンカネーション』シリーズか……。
死神に、地獄の番犬か。
これはいよいよ。何かが起きているということになる。
問題は、このようなことが『俺だけ』ではなく、おそらく、ゲーム内各地で起こった可能性があるということだ。
俺とミルクルさんだけ、ということならばお手上げだが。
「――――――かもしれない」
「また、みんなと」
「「会えるかもしれない!?」」
パンッ!?
二人で飛び上がりながら振り上げた掌をお互いに打ち付け合う音が鮮やかに部屋全体に響き渡った。
ソロ仲間の決まりごとのようなもので、主に鬼畜難易度クエスト攻略などの時によくパンパン鳴らしていた。
俺は、ミルクルさんの扱いにようやく慣れてきた時に二人で挑んだ協力型クエストの時のことを思い出した。
あの時は、チーターかって思うぐらいの強力な武器持った男女コンビがいて、そいつらは常にコンビでゲームをプレイしている奴らみたいで、ソロである俺たちをやけにバカにしてきたんだっけか。
そんでそれにキレた俺とミルクルさんがガチでそいつらとやりあったわけだ。
うん。あの時はガチでヤバかった。女の方が持ってた二丁の拳銃に『対硬意識』というアビリティがあって。
その固有アビリティ(本人たちは限定アビリティとか言っていた)の効果が、『相手のDEF数値が高ければ高いほど相手に与えるダメージがDEFを無視して増加する』というものだった。
天敵だろう。当時もうすでにバカみたいな数字に足を突っ込んでいた俺のHPがとんでもない速度で削れてったからな。
ミルクルさんがいなかったら速攻終わってた。
ギリギリで勝った時はそりゃもう嬉しくてな。
『『よっしゃああああああああ!!』』
とか二人で叫びながらハイタッチしたっけ。
その時と負けず劣らずの、なかなかのいい音が鳴った。
「懐かしいな。このハイタッチも」
「もうすることないと思ってたもん。このハイタッチ」
なんの根拠もなかろうが、『独り』という状況はそれだけで人の思考を鈍らせ、誘導する。
もう会えないのだと、そう思い込んでしまうほどに。
だが、この人をこの学校で見た時。希望を見てしまった。
その後望まぬ結果があるのかもしれないと思いながらも、希望を見てしまったのだ。
そして得られた答えは、『わからない』だ。
それは、『絶対に無理』と決まったわけではないということだ。
可能性があるのなら、それにかけたっていいだろう。
「また会いたいな。みんなに」
「ユベルちゃん可愛いがられてたしねぇ。いい意味でも悪い意味でも」
「うっ……俺会いたくなくなってきたかも」
「あははは」
気楽に笑いやがって。
ミルクルさんはいいよなぁ。弄られないし、ノリについていけるし、巻き上げられないしなぁ。
協力型クエストを攻略したその日すら、俺は何人かの男性ソロ仲間達に連行され、あれやこれやあったわけだ。
あれ? 俺ほんとにあの人たちに会いたいのかな?
因みに、協力型クエストってのは指定された人数でしか受けることのできない制限クエストのことだ。
ソロには辛いシステムだよな。実際ミルクルさんも困ってたわけだし。
俺は特に参加するつもりもなかったクエストだが、なんで受けたんだっけ? 思い出せんな。ま、別にいっか。
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《ますたー》
「うん?」
《お金ちょーだい》
「ぶっ」
ミルクルさんとの話が終わった後、寝る前にゆっくりとお茶を飲んでいたのだが(お茶、というか紅茶の茶葉はウィーアードからもらった)。
いきなりのアオの申し出に動揺し吹き出してしまった。
「お、お金か。なんだ? なんか買いたいもんでもあんの?」
口元をぬぐいながら問いかける。
お小遣いが欲しくなるお年頃だろうか?
だが、スライムが一人で、しかも他人とあまり喋りたがらないアオが一人で買い物とか、するのか?
女の子はショッピングが好きとは世界の理だが。
《ううん。くれるだけでいいの》
「んんん? ごめん意味わかんない。どゆこと?」
《うぅぅ。いつも通り。アオにお金ちょうだい!》
「ええっと」
まいったな。
アオの言いたいことがいまいち理解できない。
お金が欲しいけど買いたいものはない。ものはないけどお金が欲しい。
新手の哲学か?
「ユベルちゃん。もしかしてアオちゃん。ゴールドを振り込んで欲しいんじゃないかしら。要するにベットよ。ベット」
「ミルクルさん。自然に俺とアオの通信にハッキングしてくるね。そうなのか?」
《そうそう! ミルクちゃん、割り込んで来ないで欲しいけど。今日だけは許しちゃう〜》
「あらそ。よかった」
さて意味合いは理解したが。
ゴールドをベットして、どうするつもりだ?
特訓かな。余り部屋を壊したりしないで欲しいんだけど。
ま、アオちゃんがしたいっていうなら、俺はいくらでも修繕費くらい貢ぐけどな。
「で? いくらだ」
《ん〜。けっこういっぱい》
「あやふやだな。じゃあ……10万ぐらい振り込んどこう」
「多くない?」
「いんだよ」
「親バカ」
「ほっとけ」
多かったらそれでいいし、少なくても俺の『消費金額1/10』のアビリティ効果で本来の額の十倍になってるから足りるだろうし。
《ありがとー。じゃあみどりちゃんと行ってくるね》
《行ってくるねマスター》
「二人だけで行くのか? 俺もついて行――――」
《《来ちゃダメ!!》》
「お、おぉ……」
二人のすごい剣幕に気圧されてしまった。
「ど、どこ行くんだ? それぐらいはいいだろ?」
あんまり遠くには行かないで欲しいんだよね。
確かにアオ達は強いけど、何があるかわからんし。
いざという時には俺が駆けつけられる場所にいて欲しい。
《この学校内にはいるよー》
「そうか」
ギリギリで検索対象に入るかな。
いや、無理か。『限界破壊』を使えば余裕だろうが。
「行ってらっしゃい。何するか知らんけど、あんまり危険なことはすんなよ」
《うん!》
《行って来まーす》
そう言って部屋を出て行く二人を手を振りながら見送る。
「ふむ」
心配だ。
「少なくともアオちゃんがいれば大丈夫でしょう。そこまで心配しなくても」
「強さ弱さ関係なしに、心配は心配なんだよ」
「父親してるねぇ」
「褒めてるかそれ?」
「褒めてる褒めてる。でも、父親一人で女の子二人面倒見るのって大変よ」
「………………手伝ってくれたりとか、します?」
「そのうち、ね」




