信じられないでしょうけど、取り敢えず友達です!
アオとミドリが、ふしゅ〜と煙を上げながら砂になっていく。
俺は俺で硬直しそうだ。この人が婚約者だって? 鳥肌が凄い。
「ミルクルさん」
「てへ。可愛いからついからかっちゃった」
「趣味の悪いイタズラはやめてくれ。全身に寒気が走った」
「ちょっとぉ! それどう言う意味だぁ!」
どう言う意味もなにも、そのまんまの意味ですよ。
うわぁうわぁ揺らさないで揺らさないで!
あんたが触ると一々痛み感じて嫌なんだよ。
「はいはい! 離しましょうね」
「あらららら」
ミルクルさんの顔面を鷲掴みにして引き剥がす。
関節でロックされてさえいなければそれぐらいはできるようになるのだ。
《いた、ずら? いたずらなの?》
「あぁ。タチの悪いな。昔からの知り合いっていう感じだよ」
「そーそー。ちょっとからかってみただけだよ〜。この私がユベルちゃんみたいな甲斐性なしと婚約なんてありえないしねー」
「あんたはもう少し愛想を……」
ギャリン!
ミルクルさんが抜いたショートソードを、側面を殴る形で吹き飛ばす音が響いた。
いきなり刃物抜くんじゃねぇよぶっそうだな。俺もナイフ抜くぞ。
「次やったら、ナイフ突き刺しますからね」
「反応速度上がってない? 私これでもレベル上げたんだけど……」
「こっちの世界じゃ死んだら戻れそうにないから、ゲームの時とは違って常に気使ってんだよ。あんたもそうやすやすと剣使おうとするんじゃねえ。ここはもう安置でも、ダメージ適応外でもないんだぞ」
「あぅ……ご、ごめん……」
寸止めするつもりだったんだろうけどな。
この人は時々自分の制御ができなくなるから嫌なんだ。俺もスライムちゃんのことになるとそうだから、人のことは言えないけど。
ソロ仲間のみんなは口を揃えて、そんなことはないと言っていたが、ぶっちゃけ真実を知らないんだと思う。
あれだけ長くいたのになぁ。うまいこと隠してたんかね。
「って! だったらユベルちゃんのナイフ突き刺すっていうのはどうなるのよ!」
「急所は外すし、塗られてるのも強力な麻痺毒だから。その程度じゃミルクルさんならくたばりゃしないでしょ」
「嫌な信頼はやめてよ! 麻痺で動けなくなるの辛いのよ! ユベルちゃんは知らないでしょうけど!」
まぁ突き刺すっていうのは脅し文句であって本気ではないけどな。
万が一にも、女性の体に傷をつけるのは嫌だ。その人が大切な人なら、尚更のこと。
でもいざとなりゃマジでやる所存だぞ。
「知ってるよ。ミルクルさん、いや、もっと言えばほとんどのプレイヤーの中で俺以上に状態異常の辛さを知っている人は数えるぐらいしかいないと思う。無効アビリティを獲得するために、一体何回自分で自分に毒を盛ったと思ってんの? 時には毒のフィールド、時には虫たちが蠢くダンジョン、時には呪い付きアイテム全身装備。その他もろもろ」
「そういえば根性勢でしたねユベルちゃん……」
「他人の口からそれを言われるのは久しぶりだよ」
運で獲得したわけじゃねえんだよこちとら。
運で一つでも無効系もってれば、初心者でもギルドにひっぱりだこ。引く手数多だ。
だが、そういう奴に憧れた試しは一度もない。そういう奴って結局今の自分に満足して、向上心が全くなくなってしまうからな。
あたりからチヤホヤされれば、自分は特別なんだと思い込むのもわかるけどね。努力しない奴のレベルなんかたかが知れてる。
「ほら、バカみたいなことやってないで校舎に戻ろうぜ。アオ、替えの服もう一着だしてくれ」
《あの人、いきなりますたーのこと攻撃したよ。大丈夫なの?》
「そういうオブジェクトだと思え。あと、勘違いがないようにもう一回言っとくけど、この人とそういう関係は一切ないから」
なんでこんな危険人物とそんな関係を持たなきゃならんのだ。想像しただけでもおぞましい。
とは言え、俺この人ナンパしたんだよなぁ。命知らずもいいとこだ。無知って怖いね。
「ふっ!」
「だから危ねぇって言ってんだろ!」
「なんか失礼なこと思ったでしょ?」
勘がいいのはわかったから剣で切りかかってくんのはやめろ。
剣を真剣白刃取りの容量で受け止める。叩き折ってやろうか。俺には無理か。
「マジで自分制御できないなら麻痺させるけど、どする?」
「ま、麻痺は嫌……は! う、動けなくなった私に、それはもう言えないようなあんなことやこんなことをやろうと目論んでいるのね。い、一体、なにをするつもりよ!」
「放置」
振り回すな振り回すな!
危ないっつってんだろ!
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なんとか暴れるミルクルさんを宥めて校舎の中に入る。
今日の寝床は保健室のベッドとなった。
ミルクルさんも何故か学校に泊まるらしいが、その辺の話は明日にでも聞くとしよう。
「ベッドは私が使う予定だったのに」
「二つあるんだから、二人寝れるだろ? スライムちゃん達は俺のベッドで寝かせるし。てか、予定って」
「私も今日初めてこの学校に来たのよ。しょうがないでしょ。色々あったんだから」
「色々ねぇ。人をうっかり殺めてないことを祈るよ」
「ユベルちゃん。君、私のことなんだと思ってるのかな」
「感情に爆弾抱えた問題少女」
きゃんきゃんやかましいなぁ。本当のことだろうが。
《はい。ますたー、着替えー》
「ありがと。んじゃ着替えてくるわ。ちょっと待っててくれな」
《うん》
《ますたー、ボクはそろそろ眠いよ……》
「色々疲れたか……すぐに終わらせるよ。そしたらゆっくり寝よう」
パーカーはもう自動洗浄でピカピカだから、見た目はもう完璧なんだけど。
下の服がな。びちょびちょで。
直ぐに着替えてこないと。
「ん? ミルクルさんはどしたの?」
「わ、私はおトイレ〜」
ミルクルさんも一緒に保健室から退室するので何事かと思えば。
トイレか。無粋なことを聞いてしまった。
それにしてもミルクルさんがこういうところに恥じらいを持ってくれるようになったことが何故か無性に嬉しい。
うんうん。人間って成長する生き物だよね。
更衣室は二回なのでちゃっちゃと階段を登って中に入る。
警備ロボみたいのがいたけど、俺をみた瞬間襲ってくるようなことはなかった。すでにプログラミングでもされているのかね。
ま、いいか。着替えよ着替えよ。
「前言撤回。全く成長してねぇわ」
「あ、あれーユベルちゃん。奇遇だねー」
「トイレは一階にもあるだろう。わざわざ二階に上がって来た上に男子更衣室に突入までかましておいて奇遇で済ませる気かあんたは」
「うるさい! ユベルちゃんは私の裸見たでしょうが! ユベルちゃんのも見せなさい!」
「堂々の覗き発言だよこの人! あまりのことにびっくりだよ! 覗かれる方ってこんなに気持ち悪かったんだね初めて知ったわ!」
もはや覗きを隠そうともしねぇ。
開き直りやがった。俺の裸どんだけ見たいんだよこの人。
「二回見たでしょう! 二回見せなさい! それでおあいこ!」
「俺は事故にもかかわらず無情にも物を投げられ関節技をかけられたんだが? もはやあんたのは事故ですらないよね。完全に犯罪だよ! 通報案件だよ!」
地に帰れこの変態が! 頼むからもうどっか俺とは関わりのないところで幸せになってくれ。
あぁウィーアードの時と同じこと思ってる俺今。
「眠らすぞコラ」
「にゃー。ユベルちゃんったら大胆っ!」
ぶちっ!
「『逃亡』発動」
懐から毒ナイフを取り出しミルクルさんに接近する。
「やだなぁ、ユベルちゃん。『平和』に行こうよ」
「くっそ……」
止められる前に決めたかったのだが、上がったはずのAGIがガクリと減少する。
その変化に体がついていかないのか体勢が崩れたところを、ミルクルさんが受け止める。
「私相手に『不平等』は良くないよ? ユベルちゃん」
「性格悪いにもほどがあるぞ、変態女」
ぐっと込められた力から抜け出すことができず、ミルクルさんの言葉が耳元で囁かれるも突き飛ばすことができない。
ちっ……関節技ってほんと嫌だな。固められたら動けねぇ。
ニヤリとかっこいい妖艶な笑みを浮かべているが、それが着替えを覗こうとしているのだからいまいちかっこついてない。
「あんたが一番不平等で不条理だよ。理不尽の権化が」
「ボロクソに言うねぇ。まぁ今は勘弁してあげよう。さて、早速」
「毎度毎度、自分の思い通りにいくと思うなよ。『超逃亡』発動!」
「え? ちょ、『へい」
「言わすかっての」
この近距離で、しかもレベルが低いとはいえ『逃亡』の上位互換に当たる能力だ。
力が弱まる一瞬の隙をついて抜け出し、言われる前にピッと指に傷をつける。
「あ…………きゅう……」
「はぁ……だから嫌なんだよ。傷はごめんな。あとでポーションかけてやっから」
「ひ、ひふはほほっははほふひへふへふほほ!」
「傷が残ったらどうしてくれるのよ? だからポーションかけるって言ってんだろ。そんな傷なんか残らないって」
「へ、へ、へひひんほっへほはふははへ!」
「はいはい。外でおとなしくしてようね」
廊下にポイ捨てして扉を閉め鍵をかける。
「さて、これでようやく着替え…………『探知』」
なんかぞわりと嫌な予感がしたので『探知』を使ってみたら、なんと三個も巧妙にカメラが隠されていた。
さっき隠しておいたのか。それとも今急いでおいたのか。
あの動き自体がダミーだったとは。
「全く油断も隙もねぇな」
ぶっ壊したいがあとでめんどくさいので、三個回収して廊下に捨てた。
ミルクルさんの「ああ」という言葉が聞こえた気がしたが実にどうでもいい。
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「ただいま」
《ますたーおかえり…………その人どうしたの?》
「うるさいから黙らせるために麻痺らせた。解除するとうるさそうだったからこのまま持って来たんだけど?」
《叫ばせるようなことしたんだ……ますたー》
「なにもしてませんよ!」
ほんとに信用ないよね俺って。
そこまで自分に正直な人だと思われているのだろうか。
まぁ否定はしないが、節度は守っているつもりだよ。
「んじゃ、夜遅いし寝ようぜ。この人が隣で寝ていると考えると怖くてねれないから、麻痺させたままで」
《女の子を動けないまま隣で寝かせて。私たちが眠ったあとに……》
「あー、逆逆。この変態が隣で寝てるなんて、絶対なんか起きるって確定してるもんだから。アオたちが信用できないならこの人を外に放り出してもいい」
《あ、それもいいかも》
え? いいのか?
自分で言っておきながらなんだけど、流石にそれは鬼畜すぎないか?
動けない女性を夜の外に放り出すとか、やばくねぇ?
アオちゃん恐ろしい子。
「っていう意見があるけどどうする?」
「お、お願い! おとなしくするからそれだけは勘弁してください!」
「喋れるようになったのか。早くねぇ? もしかして耐性アビリティのレベル上げたのか?」
「さっきねー。ユベルちゃんに麻痺させられても大丈夫なように、とっておいたレベルアップボーナスを使ったんだー。結果はレジストどころか喋れなくされましたけど」
そろそろ本格的にやばいな。この人が犯罪を犯す前に外に放置するか。
「目がやばい! ユベルちゃん! さっきのはほんの冗談なんだから。そんなにマジにならないでよ」
「…………はぁ……頼むからおとなしくしててくれよ……」
「わかってるって」
この人がそう言っておとなしくした試しがあったか?
いや、ないな。でも、麻痺っている今ならおとなしくする以外にないだろうし、しょうがない、信じてやろう。
(寝よ寝よ。いざとなったらアオ。この人ぶっ飛ばして。アオならできる)
《うん! 任せて!》
頼りになるね。んじゃ、おやすみー。
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「ふっふっふっ。油断したわねユベルちゃん…………ちゃんとレベルをあげたって忠告してあげたのに。とっくに回復してたのよ。では、早速……」
ミルクルさんが俺たちのいるベッドに忍び込もうとした瞬間、青色の流星に吹き飛ばされ気を失った。
「そんなことだろうと思ってたよ。はぁ、おとなしく寝てくれよ頼むから」
ぽっくり、ちーん。
魂を吐き出しているミルクルさんをベッドに戻して、ようやく長かった夜が幕を閉じたのだった。




