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信じられないでしょうけど、決着の一撃です!

「た、楽しそうだな……」

「そうデスね……」


ウィーアードと向かい合ったまま、特に戦闘が行われるでもなく、アオとキャンディーちゃんの戦いを観戦していた。


「なんか、友達と遊んでるみたいだ。うん。子供はそうでなくっちゃな」

「キャンディーちゃんの笑顔……久々に見たかもしれません。アオちゃんには感謝感激雨あられ。キャンディーちゃんのお嫁に欲しいデスね」

「いやいや、キャンディーちゃんがお嫁に来る方だろう。安心しろ、迎える準備は整っている」


こちらはこちらで、にっこりと見つめ合いながら。

その暗い笑みに内包された威圧でパチパチと火花を散らしていた。


「お前さ」

「はい」

「攻撃するとき、逃神の能力使えないだろ」

「は、はははいいい? な、なな、なんのことですかね〜。わ、わわかりませんね〜。ノーアンダスターン」


そうか。はっはっは。

動揺しすぎだバカめ。感情を押し殺すアビリティ使っていたようだが、切れたようだな。

てか切れるよな。長すぎたくらいだ。

大方『時間制限(タイム・リミット)』なんかの効果で無理やり引き伸ばしてたんだろうな。

多分、自分が指定した時間の間にか、なにかのアビリティ効果を持続させることができるのだろう。


「よくわかった。そこが狙い時って事だな」

「ま、私が攻撃しなければいいだけの話なんですがね」

「攻撃しないでどうやって俺を倒す気だよ」

「倒せなくても、少なくとも負けることはありませんから。攻撃さえしなければ、どんな攻撃も当たらない」


そこだ。

そこがお前の長所でもあり、そして弱点でもある。

絶対的な自信・信頼は、時に身を滅ぼすという事を知るがいい。


「言ったはずだぞ。俺には秘策があると」

「ご冗談を……と言いたいのですが、その、マジですか? 目がマジすぎて怖いんですけど」


おい。そりゃどういう意味だ。


「できるもんならやってみなさい。今までできなかったことが、そうすぐにできるようになるとは思えませんがね」

「案外、すぐにできたりするんだぜ?」


俺自身のでも、アオの力でもない。

でも、確かにその力は俺にある。


今、それをお前に見せてやる。


「すう……ふぅ」


一度深呼吸をして落ち着きを取り戻してから、左手で自分の右手を殴る。

ぐっわ! 痛ってぇ!殴った左手の方が。

まぁでも硬さはほぼ同じだから、STRの影響を受けている左手の方が痛いのはわかるけど、そこまで痛くもない。


「まだまだまだぁ」


左手で何度も何度も執拗に右手を殴る。殴る。殴る。殴る。


「いきなり自分を攻撃し始めて何をやっているんですかね。決着のつかない戦いにやられ頭のネジが……いや、まさか、いきなりそっち系の趣味に目覚め」

「お前がそうだからって俺まで一緒にするな。全然違うわ」


誰がMか。

自分で自分を殴っているのは、あくまで衝撃を溜めているだけだ。


塵も積もれば山となる。

STR300も積もれば山となるってね。


これはあんまりやりたくないんだけど。

『反射』の効果を利用した、衝撃溜めだ。


「ぼーっと突っ立ってこんなことやってて相手が待ってくれるわけがないから普段はできないんだけど。今はお前自分では動けないしな」

「アオちゃんの所に行けますが?」

「アオに攻撃しかけて返り討ちに合わないとでも? 一口で終わるよ?」


逃神の弱点は、自分から動けないことなんだよな。

アオは今キャンディーちゃんとゴーレムに夢中だし。

攻撃しようとすれば相手してもらえると思うけど、逃神の能力を発動するまで待つと思うか?

発動する前にパックリするぐらい、今のアオなら造作もないぞ。


「これ、いろんな意味で終わりませんね」

「そもそも逃げる気満々のお前がどうやって勝とうとしていたのかが疑問だよ」

「キャンディーちゃんという素晴らしい仲間がいますからね! お菓子の兵隊達がいれば攻撃なんてどうとでもなるんですよ! 通じませんでしたけど!」

「あぁそゆこと」


残念。相性が悪かったね本当。


「お前今回の戦闘で何十年寿命が縮んだよ?」

「さぁ。削れ方が毎回毎回違うせいで、よくわかってませんが。何百に足を踏み入れたのは間違いないデスかね」

「そうか」


何百年も寿命を取られて、よく平気そうな顔していられるな。

普通それぐらい経ったら白髪にもなるだろうし、それ以前に白骨化しそうなもんなんだが。

お前、本当に人族か?


「ふぃぃ……あぁ、いてててて……ようやくそれなりの威力溜まったかな……」


適当に気になっていたことを質問しながらも、殴り続ける手は止めず、すっかり左手が真っ赤になってしまった。

回復さんの力により、どんどん元の色へと。

あぁ、治っていくって感覚が気持ちいいなぁ。回復さん様様だね。


「さて。準備はいいか?」

「いつでもどうぞ」

「あ、言ったな? ならそこから動くなよ?」

「私が動きたくなくても、アビリティ効果で勝手に体が動きますけどね」


一歩一歩、踏みしめるようにウィーアードに歩み寄り、超近距離と言える懐まで接近する。

残り何メートルもないといったところで腰を下ろし、右拳を左手で多い後ろに引っ張る。


「後悔するがいい。はぁ! 『反射』!」


拳に乗せられた、溜めに溜め一つにまとめた衝撃が放たれ。

ボグ……と鈍い音がウィーアードの腹から発生し


「……え?」


ウィーアードの疑問の声を無視し。

振り行かれた拳は、反射を伴い

バカァァアン! とウィーアードをお菓子の壁にめり込ませるまで吹き飛ばした。


「ガハッ!」


まぁ死にゃあしないだろう。

骨折もしてないと思う。

HPはかなり削ったと思うけどね。


ガラガラと壁を破壊しめり込みから脱出したウィーアードは、まったく理解が追いついていないのか、殴られた腹を抱えながら困惑の表情で固まっていた。


「ようウィーアード。どうした? 気分悪い? 保健室行く?」

「……な、げほっ……ぜ、わたしに……攻撃は……」


掠れる声で必死に何故と問うて来る。

本来なら教えるかボケと言って終わりだが。

こいつはさっきから、なんだかんだで俺の質問には答えている。

それなのに、俺が答えないというのはこいつに負けている気がしてならない。


しょうがない。今回だけは教えてやろう。

ネタバラシしたいというのもあるしね。


「お前のアビリティ『逃神ノ闇』っていう名前と、その効果を見てピンときたよ」


闇。神すら欺く。

成る程。『神』。

だがあくまで、『逃神』の本質は逃げることであり、闇の力ではない。

では、闇の力がより強い神の能力には、流石に勝てないんじゃないかと、そう思ったのだ。


俺は持ってるんだよ。『消費金額1/10』の影に隠れて、今まで重視されてこなかったアビリティが。


「持ってるんだ。『死神』のアビリティ。『闇系列完全耐性』のアビリティを」


--- --- --- ---


「や、闇系列……死神?」

「あぁ、このパーカー。死神のマントを加工したものでな。死神の闇を支配するアビリティがついてるんだわ。でも固有(ユニーク)でさ。さっきまではギリ届かなかったんだけど。ちょちょいと、『限界破壊』をな。固有(ユニーク)の限界を破壊すればあるいはと思ったが、俺の予想ドンピシャだったな」

「そ、それは、ルール違反では……アイテムの使用は、禁止……」


あぁ、確かにアイテムの使用は禁止だな。


「だけどこれ服だぞ? そんなこと言ったらズボンだってなんだってアイテムだ。まさか全裸でやれって? それにお前こそ、ちゃんとアビリティ効果のあるお守りみたいなのちゃっかり使ってんじゃん」

「そ、それは、そうですが……」

「おあいこだろ?」


これは装備していれば自動で発動しているやつだし。

任意で発動させるタイプじゃないのだから、それぐらい許してほしい。

ウィーアードだって、多分キャンディーちゃんに貰ったんだろうけど、ダンジョンでそれなりに自由に動き回れる証明証みたいなアイテムを首に下げていた。


ガチのど忘れっぽいけど。忘れていたとはいえやられていたのだ。

ならば俺もやって文句はあるまい。


「さて、こんな話をしながらも、第2発目が早速溜まったぞ」


ガンガンガンガン鉱石を殴っているような感覚に耐え、さっきと同じくらいに力が溜まったとこで拳を止める。


「まだまだ平気そうだし。んじゃ、もう一発行ってみようかー」

「ゆ、ユベル氏。流石にそれは悪魔の所業なのでは? 私動けないのデスが?」


顔を青くさせダラダラと汗を流すウィーアードににっこりと笑みを返す。


「いやぁお前。散々ボロクソ言ってくれたよなぁえぇ? 見せつけるだの、ケダモノだのと、好き放題になぁ」

「えぇ? それはユーの行いのせいで……」

「言い訳無用! なんやかんやあったがこれで終わりだ! 取り敢えず、ワレ死んだらやぁ!」

「くっ…………」


痛みに耐えるように目を閉じるウィーアードを見て、振り下ろした拳を寸止めで止める。


「…………まいりました。とは言わないんだな」

「えぇ。どうしても負けたくない戦いですから。たとえ負けると決まった瞬間でも、それだけいうことはありませんよ」


どうしても負けたくない戦いね。


「まいりました。と言うところがユーらしい用心深さですね」

「そんなバカみたいなことで負けてたまるかよ」


さっきのセリフで、『まいりました』ではなく、 『まいった。とは言わないんだな』と言っていたら、俺がまいったと言ってしまい、何であれルール上俺の負けになってしまうからな。

でも、お前がまいったと言わない限り、勝負が終わらないんだが?


「言いたくなるまでボコすか……」

「わー! わー! 不穏なことが聞こえましたよ! 気のせいデスよね! 気のせいデスよね!」

「はぁ……やかましいなぁ……」


疲れたので、どっかりと腰を地面におろし、あぐらをかく。


「なぁ」

「なんです?」

「アイテムだ。『竜の雫』『竜の血液』『神聖酒』『世界樹の葉』。今俺が言ったアイテムを全部揃えて俺のところにもってこい。いいな」

「え? なんですか一体」


チッ! あー、もう!

がしがしと頭をかいて、不貞腐れるように続きを話す。


「それを合成すると、寿命を伸ばせる薬が作れんだよ。作ってやる。勿論、製作の代金は請求するからそのつもりでな」


《Elixir》

エリクサー。飲めばどんな病気も直すと言われる万能薬。

その副次効果として、寿命が伸びると言うものがある。

あくまでゲーム時代では設定上の話だが。

この世界ではおそらく、その効果も期待していいだろう。


「は、はぁ。ユベル氏は本当に規格外で……そんなことまでできるとは」

「終わったみたいだな。ほれ、回復薬だ。それ飲んでキャンディーちゃんを迎えに行ってこい」


お菓子の空間が、光の粒子のようになり消えて行き。

それを見たウィーアードが素早く回復薬を飲み干しすっ飛んで行った。


完全に力を使い切ったのだろう、力なく落下するキャンディーちゃんをがっしりとキャッチしていた。


俺は俺で、迎えなきゃいけない子がいるんでね。


「お疲れ。アオ」

《うん。ますたーも》


そんな会話が行われる時には、お菓子のダンジョンは完全に消え、元の殺風景な立方体に変わっていた。


アオを褒めて、近寄ってきたミドリを肩に乗せ、ウィーアードの方へ足を進める。


キャンディーちゃんはどうやら寝ているだけのようだ。

力を使い果たすと、しばらくの間眠ったままなのだとか。

気持ちよさそうにスースーと寝息を立てているので、特に問題もないだろう。


「さて? まだ勝負はついていないんだが?」

「いえ、ここまでくれば、勝敗は決まりましたよ。ここまできて、往生際が悪いようだと、キャンディーちゃんにも怒られてしまいますからね」


ウィーアードはニヤニヤといつも通りのニヤけ面で、真っ直ぐに俺を射抜き


「まいった。私達の負けです」


そう言ったのだった。


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