信じられないでしょうけど、妖精のテリトリーです!
『逃神ノ闇』『闘神ノ呪』
これが隠蔽されていたウィーアードの特別アビリティだ。
正確には、隠蔽されていたのは『逃神ノ闇』の方で『闘神ノ呪』は、戦闘が始まった瞬間に出現した。
おそらく、『逃神ノ闇』をもっている場合のみ、戦闘時に出現するアビリティなのだろう。
避けて逃れるアビリティ。回避系だ。こじつけのようだが、検索の時も効果を『避けられた』のだろう。
「どこまで避けれるかなんだけどな……デメリットがあるはずなんだが……」
俺に代償を払わせている。
だが、代償って『闘神ノ呪』だろ?
効果が『逃神ノ闇を所持せし者に与えられる闘神ノ呪い。このアビリティを所持している限り、この者は戦闘を行なってはならない。その制限を破った時、相手に与えたダメージ分の年数、寿命を失う』ってなってるんだよね。
「おっそろしいデメリット……」
『逃神』と『闘神』
同じ読みでも正反対の意味をなす神様。
どちらかの力を貰えば、どちらかの呪いを受ける。
典型的なゴットシリーズだ。
「捉えられないと言われると、どうしても捕まえたくなるよね」
頭の中で金の計算とアビリティの使用頻度についての思考を始める。
ただ無闇に突っ込んだんじゃ、ダメだ。
必要だ。
『逃神ノ闇』:逃神の唯一の能力で作られた闇。それに包まれた者は、神すら欺く隠蔽状態となる(不完全のため一部のみ)。闇を纏い中にアビリティ発動者へ向けられた攻撃は当たらない。
この闇を抜くための、とびっきりの秘策が。
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「どうデスか〜。私の能力は?」
「流石は特別クラスってとこかな。だがデメリットがクソすぎる。こんなんじゃやっていけないだろ。代償を俺が払っているってのはフェイクか? それともまだなにか?」
答えるはずがない。
そもそも答える必要がないから
「担保って知ってます?」
え! 答えるの!
「保険ですね。前に貴方が私をボッコボコにするたび、そのダメージを逐一貯めてあるんですよ。相手に与えたHP量分、寿命が減りますが。前に私にダメージを与えた相手との戦闘に限り、その時のダメージ量を差し出すことでチャラにできるんです。この意味がわかります?」
「つまり、俺の攻撃は当たらないのに対し、お前は俺が殴った分だけなんのデメリットもなく攻撃できると?」
「そうデスね! あ、降参という手もありますよ?」
「冗談」
自分が圧倒的有利にいると思って、べらべらとよくもまぁ。
勘違いしているぞお前?
俺は本当は攻撃『できない』人なんだ。
なんてったって、STR300のクソザコだからな。
俺の本質は、本領は、硬さにある。
「お前やキャンディーちゃんの攻撃がどんなもんか知らんが、来いよ。サービスで一発殴らせてやるぞ?」
挑発するように、笑いを堪えるように宣言する。
「駆け引きのつもりですか?」
「そんなんじゃねーよ。ほれ」
何もしないと手を上げてジェスチャー。
「…………なんのつもりかわかりませんが、やらせてくれるというのなら遠慮なく」
気持ち悪い笑みを浮かべて神盤に手をかける。
「賭け金レイズ、ベット5000ゴールド。『鍵設定』発動。封印解除、『魔王化』」
は?
あいつ今、なんて……
「覚醒、魔王。加えて賭け金レイズ、ベット、20000万ゴールド」
マジかよ!
黒い闇に包まれ、影のようになったキャンディーちゃんの目の位置が、白く吊り上がった。
「『お菓子の迷宮』!」
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その瞬間、学校全体が確かにぐらぐらと揺れた。
最初こそうろたえていた生徒たちだが、この学校では割とよくあることなのでスルーされていた。
「おい。さっきの揺れ。結構大きかったよな」
「三年の実習かな」
「バカ。三年って今修学修行中だろ。多分五年だ」
「中等部の人じゃないか?」
「中等部に行った人がわざわざ初等部に戻ってくるわけないだろ」
逆に、誰があれほどの揺れを起こしたのか生徒達は話し合っていた。
「教師同士の特訓じゃないかな」
「「「「それだ!」」」」
「でも待てよ。教師同士って言ったって、戦える先生はみんな授業だったし。誰だ?」
生徒達の考えがいよいよ迷宮入りしそうなところで、ついに限界が訪れる。
カタカタと機械を弄っている女性が、肩をブルブルと震わせ、叫びをあげて教室から飛び出す。
「んのバカやろうーーー! 使ってんじゃねぇですよ! 相手は子供なんですよ! 殺す気ですか!?」
女性には似つかわしくない憤怒の叫びをあげながら廊下を走っていく様を皆が目撃した。
「うわぁお……」
「先生ご乱心」
「まぁ、確定だな」
いつもは大人しい彼女があれほど乱れる原因は一つしかない。
「皆んな! 聞いただろ! ピスケル校長先生だ! 先生が帰ってきたんだ!」
「あの人、何年振りだっけ?」
「今はそんなことより、戦っているのがピスケル先生であることが大事件だよ!」
「『無戦の男』が、戦ってるってことだよな!」
その噂は瞬く間に広まって行く。
それもそのはず。
数々の伝説や武勇伝を残しているピスケル・ウィーアード。
しかし、彼は学校の校長についてから、実の一度も戦ったことがなかった。
そんな彼の戦いが見れるのかもしれない。
皆が沸くのも、無理のない話であった。
「そういえば俺、校長先生専用の訓練場があるんだって聞いたことがある、確か……」
噂はさらに加速していく。
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「あら」
「どうかなさいましたか姫様」
「いえ、少し騒がしくない?」
「確かに、昼休みとはいえいつもよりかなり喧騒が強いですね」
なにかあったかしら。
おかしいなぁ。記憶にないのだけど。
「サクヤ。何か知らない?」
「すみません。私にも何が何だか」
物覚えのいいサクヤでも知らないとなると、いよいよ気になってくる。
「行ってみましょう!」
「姫様! トマトが残っています」
「えぇぇ……」
勢いよく立ち上がったはいいものの、直ぐにサクヤに座らさせられてしまった。
もう。美味しくないの、コレ。
「私は大好きなんですがね。何が嫌なんですか?」
「好きならサクヤにあげるわ」
「貴重な栄養源です。姫様の健康のためです。食べてください」
こんなの食べなくても生きていけるわよ。
「生存と健康は別問題です」
「こんな状態で嫌いなもの食べたって、気持ちが悪くなるだけだし、精神衛生状悪影響しかないと思うんだけど?」
「姫様〜。お風邪で休まられるのと、トマトを食べるの、どちらが嫌なんですか?」
「どっちも嫌よ! 嫌なものは嫌!」
嫌なものを比べたところで嫌なのは変わらない。
「はぁ……姫様は日に日に屁理屈をお覚えになって……。そんなんだと、ユベルに嫌われてしまいますよ」
「あー! ユベル様のこと呼び捨てにしたー! あー!」
「全くもう。トマトぐらい食べられないと、もしかしたら嫌われてしまうかもしれませんよ?」
ずるい! ずるいわサクヤ!
「わかった! 食べる! 食べるわよ! うぅ……」
今頃ユベル様はどこで何をしているんだろう。
美味しいものをお食べになってるのかしら。
次会えるのはいつだろう。
多分、この学校を卒業してからだと思うけど。
王都にあるのだし、彼だったら来てくれるかもしれない。
そうしたら、会えるかも。
うふふ……楽しみだなぁ〜。
それにしてもあの騒がしさは一体なんなんでしょうか?
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「はぁ! はぁ! くっそ!」
お菓子のメルヘンワールドと化した訓練場は、もはや魔王の独壇場であった。
魔王と化したキャンディーちゃんを検索すると、種族名が《Sweets the devil Fairy》となっていた。
スイーツ・ザ・デビルフェアリー。
完全に魔王の名である。
「相変わらず、最悪のアビリティだよ!」
魔王が使う中でも、俺が最も嫌いなアビリティの名は『ダンジョンパワー』。
魔王の称号を得し者に与えられるエクストラアビリティ。
そのダンジョンそれぞれの特徴により能力は変わるが。
今回のダンジョンでは、ここにあるお菓子全てが敵である最悪の能力となっている。
無限に湧き出るお菓子の兵隊。状態異常を引き起こすお菓子の数々。攻撃の当たらない特別アビリティ。
「アオ。大丈夫か!」
《うへへ……ダメだよますたー……もう食べられないよ〜、へ〜? じゃあもう一つだけ〜……》
「ダメだ……」
腹の中に抱えているアオは、寝ているのにまだ食おうとしている。
これがここのお菓子の一番の『最悪』。
『中毒性』だ。
アオの捕食者とはなかなかに相性がいいため、最初にアオに食わせてしまったのが運の尽き。
それを食った瞬間、目の色が変わり他のことなんか無視して一心不乱にお菓子を食い始めたのだ。
流石に危なかったので全力で眠らせて、戦いながら少しずつ少しずつ毒素を吸い取り、俺の中に収めていく。
「キャー! 人前で何度も何度もキスだなんてー! 見せつけますね〜。ユベルちゃんたらダーイーターンー」
「殺す。絶対に殺す」
早くアオも獲得してくんないかなぁ!
「とゆうか、なんで兵隊達をそんな簡単に? レベル四桁行ってのもいますよ?」
「いつから俺の特別が一つだと錯覚していた!」
『緊急指定発動。マスターの命により、効果を弱める代わりに、限界までレベルを下げる時間を引き延ばします』
限界破壊の効果を弱めても、大概オーバーキルだ。
反射も混じらせて、なんどか発動と停止を繰り返せばアビリティのレベルを下げるのも少しは止められる。
「流石は魔王だ。つうか! めっちゃ美人だなおい!」
俺の本音の褒め言葉に、照れっと顔を赤くしながらそっぽを向く妖精の羽を生やした少女。
そう、10歳くらいの体つきの女の子。それが今のキャンディーちゃんの姿だったりする。
「ひらひらとした、なんの汚れもない純白のワンピース。透き通るような肌。健康的で扇情的な体つき。ゆったりとした目がまた色気を増している。年相応なのか、ところどころ慎ましやかではあるが、それもまた一つの魅力であり、だが、それがいい!」
「キャー! ちょっと奥さん聞きました〜。彼、人のエネミーまで口説いてますよ〜。そうなんですよ奥さん。それに見て、腕の中では女の子が寝てるのよ! きゃー! けだものー!」
茶番はやめろ茶番は!
キャンディーちゃんはというと、真っ赤になりながら頰を隠したり、ワンピースの裾を伸ばしたりして、涙目でじと……とこちらを睨んでくる。
ふむ……。可愛いな。
本音なんだけど……
げっ! また変な癖が。
《ますた〜》
「お! やっと『毒無効』を獲得……って、なんか怒ってる?」
《邪魔な私を寝かせて、そして、キャンディーちゃんを口説いて、ねぇ》
「落ち着け! それは誤解だ!」
ミドリ! 君は真実を知ってるよな! ヘルプミー!
《うーん、口説いているというか……あれは、なんというか……セクハラ?》
ちょい!
《ふぅ〜ん》
「待って! 今は流石にダメだって!緊急事態! 緊急事態だから!」
《後でちゃんと話は聞くからね……》
「わかってるって」
待たせたな。
アオが毒を喰らえば、『毒無効』を獲得できるだろうことはわかっていた。
これで、猛毒なんか無視できる。
「反撃開始だ! アオ!」
《うん!》
逃亡の特別を魔王の支配ごと撃ち落とす。




