信じられないでしょうけど、特別同士の戦いです!
「ごめんなミドリ。あいつがキャンディーちゃんしかテイムしてないから、一体制にしちゃって」
《ううん。ボクはいいよ。まだ全然戦えないからさ》
「ほんとにごめんな〜」
《わかったから下ろして! くすぐったいから!》
なんだ。スライムもくすぐったいって思うんだな。
新発見だ。
《でもさぁ。ボクが止めたとはいえ、戦うだなんてちょっと過激過ぎない?》
ミドリを抱きしめて頬ずりしていると、ミドリからそんな声が送られた。
「そうかな。この世界じゃ普通のことなんだが」
揉めた時はPVP。金を持っている者が正しいのだ。
圧倒的に金を持っている者が勝つのは当然だからな。
それで決まらないのは、両者の実力が均衡していた時だが。
ウィーアードとキャンディーちゃんのステータスを見る限り、俺の防御は抜けないだろう。
アオの火力に耐えきるだけの防御力をキャンディーちゃんは持ってないし。
勝算はあるさ。
《危険なことだけはやめてね? もしものことがあったら、ボク、嫌だからね》
「善処するよ。大丈夫。絶対勝つし、もしものことなんてどっちにも起こさせない」
だが、余裕というわけではない。
ウィーアードのアビリティがよくわかってないからな。
下手に検索して、隠蔽されたおかしな情報だったら目も当てられない。
「集中したいから。ギャラリーは無しにして欲しいんだけどな」
真っ白な広い立法系のキューブ状の場所で、ウィーアードと向き合う。
「ここは特訓練場という場所で、私しか開けることのできないプライスですからね〜。ギャラリーなんて来ませんとも」
「あっそ。やれ、ブルーベイビーズ」
ヒュパッと暗殺が付与された動きで小さな青い線が飛び交い。
俺の手元にガチャガチャと動く機械の塊が置かれていた。
「ナイスアオ。で? こりゃなんだ?」
心の中で戻れと念じ、ウィーアードにその機械を見せつける。
飛び回ってたし、明らかに監視カメラだが? そこんとこどうよ?
「あ〜、いや〜……監視がないとこの部屋使わせないと言われまして、キーも没収されまして。私が戦うと時々自分でも制御できなくなるので、止める役は必要だと」
「ふーん。えいや」
きゅ! めきょ!
ぱらぱら……
「あ」
「これでよし。んなこと知ったことか。受けたのはお前だ自分のけつぐらい自分でふけ。嫌なら自分で暴走しないように制御しろ。他人に任せてんじゃねぇそれでも男かお前?」
飛び回る監視機械を粉にして、探知を再び発動し他の機体が『この部屋にいないこと』あるいは『ウィーアードが保持していないこと』を確認する。
「勝負の判定は、どうする?」
「どうするとは?」
「普通で言うと、どっちかのエネミーが倒されたら負けなんだけど、倒されるの規定はどうするかって言う意味だ」
何と言ってもシステムがないからな。『初撃戦』『中減戦』『持久戦』『サドンデスモード』全部使えない。
システムないからって死ぬまでとかいう思考放棄は嫌よ?
「そうデスね〜。では幾つかルール補足を。まず、時間は無制限。どちらかが明らかに戦闘不能、あるいは『まいった』と宣言した時点で勝負は終了。ゴールドが尽きたら、アビリティの有無関係なく敗北。それでどうですか?」
「オーケー。それでいい」
万が一アオが危なくなったら、まいったと宣言すればいい。
暴走だかなんだかわからんが、その間ぐらいは死ぬ気で死守してやる。
「んじゃ、久々に宣言、行ってみますか」
「私は本当に、何年ブリですかね〜」
ウィーアードはお菓子でコーティングされた神盤を取り出し。
俺はアオの胃袋から神盤を出してもらい、空中に浮かばせる。
「うわお。前にも見ましたが、空に浮かすって、また凄いことを……」
「くだらん事はいい。さっさと始めるぞ」
すぅ……と息を吸って、意識を切り替える。
全神経を研ぎ澄ます!
「「スタート! battle tha エネミー!!」」
ボッ!
大口を開けたアオと俺は未だ動かないキャンディーちゃんの目の前に肉薄していた。
宣言をした瞬間に『逃亡』を発動し、アオを回収しキャンディーちゃんの目の前まで全力疾走したのだ。
ニヤリと口角を歪め、早口でまくしたてる。
「賭け金レイズ、ベット1000ゴールド。喰え……アオ」
バツンッ!
立方体の地面ごと抉るように咀嚼した。
したの、だが。
《ますたー》
「チッ……今のを避けんのかよ」
アオの口にしまうギリギリのところで、キャンディーちゃんが後ろにブレるようにして消えたのだ。
「それがお前の特別か、ウィーアード」
「残念ですが、もうユー達は私達を捉えられない」
「やってみろ……」
いつの間にかウィーアードの隣でフワフワと浮いているキャンディーちゃんを確認し、改めてさっきの攻撃が不発であったことを痛感させられる。
自信あったんだが。まぁいい。
本当に捉えられないか、勝負だ。
後ろに飛んで一度距離を取り、通信を使いアオに指示を出す。
(アオ。『スライムボディ』発動。一旦ステータスが下がるからな、俺のパーカーの中に入ってろ。分体数は5体!)
《らじゃー》
(行け! ブルーベイビーズ!)
アオが俺の中に入ってから、文体を飛ばす。
ウィーアード達からは、俺が何かをしたという事はわかっても、何をしたかはわからないだろう。
暗殺アビリティのみ、全ての分体に付与できるのだから不思議なものだ。
元々持っているアビリティではないし、やはり適性とかがあるのだろう。
『影』から襲い来る規則性のない複数の青い線。
避けれるもんなら、避けてみろ。
「……来てますね? 数は、5体? 眷属かなにかでしょうか?」
はあ? マジかよ!
隠蔽されていたが、『察知』の効果か? レベルを思っていた以上にあげているのか。
そこまで思考が渡った瞬間、ゾワッと背筋に寒気が走る。
(待て! 戻ってこいブルーベイビーズ!)
『戻れ』と念じた事でブルーベイビーズがその場で消えた。
アオのアビリティが戻って来たところで俺はその場から離れようとウィーアードの方へと全力疾走する。
なんだったんだ今の嫌な予感は。
やってはいけないと直感どころか全身が叫んでいた。
「『食事戦闘』発動! 賭け金レイズ、ベット100万ゴールド! この辺り一気に喰え! アオ!」
バツン……ホゴォ!
レイズした額の実に十倍の威力の捕食が行われる。
千切るような音がなり、一瞬で抉り取られた壁。
壁に追い詰められていたウィーアードが逃げられる筈がないのだ。
逃げ場がない、その筈なのに。
「言いましたよね。私は捉えられないと」
声がした後ろを振り返ると、背中の後ろで手を組みニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべるウィーアードがいた。
「そんなに、特別を使い続けて、代償が怖いなおい……」
「代償は今、『ユー達』が払ってくれてますからね」
「な!」
まさか、『責任転嫁』アビリティを持ってるのか?
いや、あれはあくまで固有アビリティ。特別の代償を相手に押し付けるほどの能力はない筈だ。
それこそ、いくらレベルを上げても。
持っていると仮定して。
わざわざ隠しているのもわかるが、あんな理不尽極まりないレアアビリティを持ってるとかバカなんじゃないのか。
「来ないんですか? それとも、もう諦めましたか?」
「冗談。挑発がやっすいなぁええ? ウィーアードさんよ」
「来ないのでしたら、私から行かせてもらいましょう」
来るのか? 本当に?
どんな攻撃でも、隠匿系に特化したプレイヤーじゃ俺には攻撃は通らないが。
いや、でも待て、隠匿系に特化しておきながら、どうして攻撃を避けるような能力が?
くっそ、わからなくなって来た。
まさかあいつの特別アビリティの種類って……
まぁなんにせよ。
「させると思うか?」
「デスヨネー」
攻撃なんてさせないに限る。
金を振り込もうとしたウィーアードに突っ込む。
どっかに避けられる。
また突っ込む。避けられる。
突っ込む。避けられる。
突っ込む。避けられる。
突っ込む。避けられる。
突っ込む。避けられる。
突っ込む。避けられる。
一体どれだけそのやりとりを交わしただろうか。
息を切らしながらようやく動きを止めた俺に習うように、ウィーアードも動きを止めた。
「無駄、デスよ」
俺の心を折るかのように、嘲笑を交えてそんなことをのたまうウィーアードを、今度は俺が鼻で笑ってやった。
「残念無念。今回ばっかりは、バカなのは、『お前の方』だぞウィーアード」
「はい?」
まさか俺が、本気で何も考えずお前に突っ込んでいたとでも思っているのか?
自分に過信しないのは、俺の特技の一つだ。
絶対に勝てる、と思っている勝負ですら、あれやこれや準備を整え、冷静に物事を判断できる。
そんな俺が
「ずーっと、なにも考えずに動いていると。まぁ今まで戦った相手がそうだったというのなら、そう思ってしまうのも仕方がないかもしれない。だが、お前こそなにも考えずに避け続けていただろう。お前が動くたび、俺は常にお前を見続けた」
見て、見て、見て、見て、見て、見て、見て、そして、見通した。
「いいように動かされるのはここまでだ。お前は今までやる側で、やられたことはあるか?」
俺の目に『アビリティセンス』の輝きが灯る。
「お前に見せてやるよ、俺の特別の本領を」
ありとあらゆる能力を判別し、識別し、我が力と変える。
お前の特別は見せてもらった。
正直、どうやって攻略すればいいのか今になっても思いつかん。
やっぱりチートってすげーな。
だけど、それは俺も同じだ。
逆に、お前は俺を倒せない。
さて、どうやってあいつに『まいった』を言わせるかなんだよなぁ……
気を引き締めていこうか。
勝負はまだまだ始まったばかり。
本当の戦いは、ここからだ。




