信じられないでしょうけど、お早いお戻りです!
「頼む」
「スミマセンが、お断りさせていただきます」
俺は下から威圧的に、ウィーアードはニッコリと。
バチバチ火花を散らしていた。
「俺を攻撃すればいいだけなんだ。それが俺のためになる。教育者なんだろう?」
「私がアビリティでユーを攻撃する意味がわかりませんし、したいとも思いません。そもそも理由が意味不明デスね」
「さっきから何度も言っているだろう」
「それが意味不明だと言っているんですが? そんなことも理解できないのですか?」
あわあわと取り乱すテイムエネミーのみんな。
ごめんな。このおっさんが聞き分けなくて。
「俺が『火』を覚えるためには、それが必要なんだ」
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軽くいい話で終わったかのような後。
ふと、ウィーアードのステータスを思い出し
なにか見逃してはならない何かがあったのではないかと
そして見つけたのが『火』アビリティだ。
俺は『見た』アビリティを交換品に変えることができるアビリティ、『アビリティセンス』を発動し、『火』アビリティを『自分に向かって使え』と頼んでいた。
『見た』などと表現をしているが、正確には『自分に対して使用されたアビリティがどのようなアビリティなのか判別し、判別に成功したアビリティを交換に送ることができる』という効果であり、判別するには見ていなければいけないという意味だ。
「お前は持ってるからわからないかもしれないがな、持たざる者の苦しみを……」
「そう言われましてもね〜」
「…………わかった。いくらだ」
「えぇ? ヤダナァー、そんなつもりじゃなかったのになー、うぅーん、そうですねー、よし、では3まあいたたたたた。キャンディーちゃーん」
満更でもなさそうに額を請求、しようとしたところでウィーアードはキャンディーちゃんに耳を引っ張られて止められていた。
止めなければそのまま攻撃してくれそうだったの、惜しい。
「そもそも、なんで『火』アビリティなんか? 攻撃用としてはほぼ使えないですし、日常的に使うならユーの魔道具で十分でしょう」
「お風呂に入りたいんだよ」
「へ?」
「お前だって思う時があるだろう? こう旅をしている時に、風呂に入ってゆっくりしたいなぁ……とか、思ったりするだろ?」
ぶっちゃけ俺は毎日思っているよ?
シャンプーやボディーソープ(それらしき液体)なんかは《熊除け蜂蜜亭》で回収済みだし。
後はお湯張りの魔道具だけなのだ。
「まぁ、思ったりはしますがね。あれはいいものですし〜」
「そのためだ! 頼む!」
「私も一回ぐらいはいいかぬぅわ〜とは思うんですが、キャンディーちゃんがダメと……」
「そんな! キャンディーちゃん! 俺のお風呂街道に立ちふさがるというのか!」
キャンディーちゃんは訴えるようにぶんぶんと顔を振る。
「どうしてダメなんだ? そういえばあんたは強いはずなのに、エネミーに追われて逃げまくってたよな。あの程度なら対処はできただろうに。何故」
「それはデスね〜」
妙にバツが悪そうな顔をするもんだ。
そこまで決定的なもんなのか?
俺の使命を邪魔するだけの理由なんだろうな。
もしくだらん理由とかだったら
「私は相手を攻撃できないんですよ。攻撃するとその分だけ、寿命が減るんです」
マジかよ……
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《ますたー。元気出して》
《ため息つくと、幸せが逃げるよ?》
「はははっ。ありがとう二人共。俺は元気ですよ。こんなに上手く物事が運ぶなんて思っちゃいませんでしたよえぇ。わかってたことですからね。あぁ、それとミドリ。それ都市伝説だぞ。ため息をつくのは深呼吸と似てるから、心が落ち着くし。落ち込んだ気持ちを割と簡単に外に放出できるからな。溜め込まないで外に出せるっていうのは大事だぞ? 二人もそうしろよ〜」
《《まずたった今落ち込んでるますたーがそうしてよ!》》
確かにその通りだな。
「ま、王都にはお風呂もあるからダイジョーブ! 我が学校もありますしね」
「行かないって何度も言ってるだろ」
「ここまで来といてまだ言いますか!」
「言うに決まってんだろうが!」
王都まで案内させたのも、王都を観光したかっただけだから。
「学園生活も、のんびり旅の一環としては悪くないけど。レベルがあってねぇって」
それに、つい先日思いついたことだが、多分俺『ゼウス』に入国できないぞ?
身分証明書とか最後まで作るの忘れてたし、王都の警備は厳重だからな。
俺みたいな身分が明かせない奴は門前払い確定だ。
入ろうとすればやりようはいくらでもあるけど、そんなくだらんことで犯罪者にはなりたくない。
「もう見えて来ましたよ〜。ホラホラホラホラー」
「わかってるよ」
俺たちが見つめるのは、天高くそびえ立つ一本の塔。
その塔はどこまでも伸びて行き、空の天辺を貫き、雲に覆われ限界が見えない。
「まさか、こんなに早く戻ってくることになるとは思わなかったよ……」
ゲーム時代でも42階層までしか進まなかった、誰も頂きを知らない塔の迷宮。
それ王都の真ん中に位置し、名を『アンノーン』。
不明という意味の、名前を持たないエクストラダンジョン。
基本名前を持たないそのダンジョンにおいて、ただ一つ。
開拓されたばかり、あるいは未開拓の地を走るプレイヤーたちは、その場所のみ敬称として迷宮をこう呼ぶ。
『最前線』と。
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俺が毎回ソロで潜ってた場所だな。
そして、死神と会った場所でもある。
「今、何階まで解放されてる?」
「21階までデスね」
やる気あんのか異世界……
「ま。まだ前線に参加するつもりはないよ。ミドリのレベリングをしないといけないからな。とてもじゃないが最前線に潜ってやって行く余裕はない」
「……そもそもその歳で前線に潜ろうとする人すらいませんがね……」
「あんたは王都出身だろ?」
「そーデスねー」
「あんたのステータスの秘密がわかった気がするよ」
レベリング方法は俺と似たようなもんか。
だが、死んでもよかった俺と比べたら、比較にならないほどのストレスだっただろう。
壊れなかったのが不思議なくらいだ。それともすでに壊れているのか。
状態異常には出ていなかったから、大丈夫だとは思うけど。
「私は、ユーの強さの秘密は未だアンダスタンできませんがね」
「そんな簡単にアンダスタられてたまるか」
《門が見えてきたよますたー》
「だな。王都にはなんかうまいもんあるかな。楽しみだなぁ」
アオを抱っこして撫でていると、ミドリが脇から膝の中に落ちてきた。
「ミドリはでかい国とかは今回が初めてか。楽しみか?」
《うん…………》
「緊張してますな。平気平気。なんかあっても、絶対俺が守るからさ」
俺の体の硬さを信じなさい。
ミドリを害そうとするものがあったら、責任を持って潰させていただきますとも。
「よしよし」
《ふにゅう〜》
《へにゃあ〜》
なんか最近、四六時中飴の棒を咥えてるなミドリのやつ。
そんなに気に入ったかね。
嬉しいっちゃあ嬉しいんだけど。
なんか飴中毒とかになってないか?
ただでさえ黄緑色であまり健康的に見えない色なのに、見た目以上に健康に良くない気がする。
そういえば、野菜が少ないな。
野菜がないと、ビタミンとか摂取できない。
それはいかん!
王都に着いたら野菜を仕入れなければ!
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「並んでるな」
「そりゃそーですよ。王都ですもん」
そんなもんか。
門の前にはズラーッと列ができていた。
まぁ、世界の中心だ。観光客や、商業でくる人や、色々いるだろうからな。
「その分警備は厳しいと思うんだけど。どうする気だよおっさん」
「私に全て任せて起きなさい。泥舟に乗ったつもりでね!」
「泥舟か。んじゃすぐに沈むな。どっかに乗り換えないと」
「冗談ですよ〜。冗談〜」
待ってる間何もしないというのもアレなので、『偽装』アビリティを発動させて自分のステータスを弄る。
俺のだけではなく、アオのステータスも弄っておいた。
『妨害』と交換したのでレベルはそれなりに高い。
かなりの看破使いでない限り見破られることはないだろう。
表面上では、俺のステータスはこう見えるはずだ
名:ユベル
性別:男
年齢:6
LV:10
職業:テイマー
称号:なし
所持金額:1000ゴールド
HP:500/500
ATK:300
DEF:400
AGI:500
INT:800
アビリティ
『テイム』『検索』『合成』『逃亡』『鑑定』『水』
固有アビリティ
『飴職人』
平均がどんなもんかわからないからこんなステータスになってしまった。
色々とおかしいかもしれない。レベル10の人族って、3桁行くか行かないかって感じだったと記憶してるんだが。
高すぎるかな?
なんにせよ。これで『検索』が付与された魔道具を出されても大丈夫だな。
「次の方どうぞ。お待たせいたしました。おぉ、これはウィーアードさん。今お戻りですか?」
「えぇ」
「して、そちらの子が、今回の?」
「必ず特待生になれる逸材ですよ。身分証はもってないようなのですが」
「そ、それは困りましたね」
話によれば、やはり身分を明かす物がない者を国の中に入れてはいけないらしいしい。
ウィーアードはわかっているとばかりのうんうんと首を振って、そっと受付さんに耳打ちをした。
「実は、この子は私の甥なのです」
「甥! まさか、ウィーアードさんの?」
はぁ?
「昔の私に似て、ずっと遠くの地で修行をしていたというのです。身分証を持っていないのもそのためで、王都でも色々とありそうなのでまだ作っていないのですよ。ほら、私の甥となると、またお偉いさんたちが……」
「成る程……取り立てては他の生徒と比べて、大変なことに……」
おい。俺がいつお前の甥になったんだ。
超不本意なんですけど。
「あの……すごく睨んでいますけど……」
「難しい年頃でしてね。昔、聞き分けがないときに、ちょっと私がした仕置きがまだ記憶に残ってるらしくて」
「それはそれは。辛かっただろう」
いい大人だけど。
あんまり子供扱いされると色々と罪悪感とかがやばいな。
騙しているつもりはないんだけど、俺はもう大人です。
それと、覚えとけウィーアード。
背中に殺気をもろに当ててやる。
チッ……平気そうな顔しやがって。
アビリティ補助がないとはいえ、アオに教えてもらった一級品の殺気だぞ?
慣れっこですかそうですかそうですか。
「では、ここで簡易の身分証を作ってしまいましょうか。ここで作ってしまえば、ウィーアードさんの甥という身分はよっぽどのことがない限り露見しませんし」
「え! あー、いや〜、それは〜、ちょっとぉ」
情けない目で俺を見てくるウィーアード。
うん。言いたいことはわかる。
心の声を翻訳すると。
『ごめんなさい! 身分証作んなきゃいけなくなりました! いやー、私に任せたのが運の尽き、残念!』
というやつだな。
俺が今でも身分証作ってないのには理由があると認識していそうだしな。
ヤベェ超イラつく。
でもまぁいいだろう。偽装もしたし。
身分証が今後必要になるかもしれないし。
特に問題なくしてくれるなら、結果オーライだ。
「別にいいよ」
小声で伝えておく。
睨むのはやめないがな。
「おぉ! これが世に言うツンデ」
「あ?」
「ソーリー……滑るソーリー」
二重の意味で、滑ったな。
お前のギャグほんと笑えねぇわ。ソリじゃなくて滑ってんのお前のギャグだよ。
それと、二番煎じの上に古い。
「この書類に幾つか記入していただければ、身分証をお作りいたしますので」
「…………どーも」
子供っぽさを出すべきだろうか?
いや、いつも通りの方がいいな。
「後ろの人が待ってますけど、俺達がここでノロノロしてていいんですか?」
「えぇ。並んでいるのなら待つのは当然であり。文句を言われる筋合いはありません。それが嫌なら君達より早く並べばよかっただけの話なのですから」
気さくなお兄さんだな。
納得してしまった。
現代日本じゃ通じない理屈な気もするが。
気にしないでおこう。
さて、前から考えておいた設定フル活用で
適当に詐称するとしますか。




