信じられないでしょうけど、理想は遠くまだまだ道は続くのです!
「は! ここはどこ!」
「ようおはよう。朝飯終わったし、馬出してくれ」
「そんなバカな! 私のブレックファァァァストォォォオ!」
起きて早々太陽に向かって吠えるな。
ただでさえ暑くなってきたんだから、余計暑苦しくするんじゃない。
「簡易フードなら乗馬中でも食えるだろ。ほれ、乗った乗った」
「ぐぬぬぬ……あれ? ユー、少し痩せた?」
「痩せたというか、少しやつれたかな」
体力がそれなりに回復して、動けるようになったら再びミドリに飴を作ってくれとせがまれた。
だが、取り乱していたというのもあるが、最初のような勢いはなく。
特になにをいうわけでもなく、ちょこっとパーカーの裾を掴み、上目遣いで縋るようにおねだりしてきたのだ。
それに抗える奴は神か仏か何かだろう。
俺にそれができるかと問われれば、何百億回転生しても無理だと答えよう。
「今もほら、一個作ってる間に一個ぶん回復するくらいの飴を半永久的に生産中」
体力は少しづつプラスに向いているのだが、一個作るごとに味とか質とかイメージしなくてはいけなくて回復している気がしない。
ちょっと頰がコケるのは仕方がないのではないかと。
《ご、ごめんねますたー。もう無理しなくていいから!》
「無理なんてしてないとも! 俺がやりたくてやっていることだ! だから頼む! 止めてくれるな! ふおおおおおおお!」
《わあああ! アオちゃんどうしよう! ボクとんでもないことを!》
《はむはむ。おいしーよキャンディーちゃん。もっとちょーだい》
《話を聞いてすらいないというね!》
馬車が走り始めても気にせず、一心不乱に飴を生成し続け。
ミドリの『胃袋』が飴で満杯になることで打ち切りとなった。
「ひゅーっ。ひゅーっ。お、おわったー。ちょっとぉ、ねるー」
カラッカラに干からびたが、俺はやりきったという達成感に胸を膨らみ潤っている。
取り敢えず贅沢なことは言わないから、ささやかな睡眠時間を所望する……
--- --- --- ---
「はぁ……はぁ……はぁ〜」
なんだよあの罠……ほとんど負け確イベントかよ。
あんな低レベルダンジョンで120レベルとかマジでふざけんな!
勝てるわけないだろ!
《Game Over》《You are Dead》というでかでかとした文字は目を閉じても消えず。
転移した安宿のベットの上で目を覆うのをやめ、ベットにあぐらをかきながら座り、システムメニューを出してログを確認する。
「せっせこ貯めたゴールド半分以上と、アイテム・レアアイテムのドロップ。まあ、俺みたいな底辺プレイヤーが持ってるもんなんてたかが知れてるが……あーあーイベントキーアイテムまで、はぁぁ〜…………憂鬱だ」
つらつらと並べられる文字の列をどんどん下にフリックさせ、止まったところでログを消し
体を放り投げでかいため息とともに、自らの無力さと全くの進展のなさを言葉にして吐き出す。
「やっぱり、スライムを強くするなんて無理なんだろうか……」
今更ながらにそんなことも思えてくる。
そりゃそうだ、できるんなら、とっくに誰かがやっていてもおかしくない。
スライムが底辺を地で行っているのは伊達ではない。
まさしく底辺プレイヤーの俺と同じ。相思相愛だな。
「スライム愛好家の皆んな、見ててくれよ。君達の大好きなスライムが、そして無理だと諦めているその存在が、きっと最前線プレイヤーを支えるエネミーになるから……とは言ったものの」
スライムを使って最前線に出るなんて、残念ながらそれを目標にしている俺ですら、そいつはバカなのではという感想しか出てこない。
それがそうではなくなる日ははたして来るのだろうか……
「あ! やばっ、咄嗟のことで思考が飛んでた! 大丈夫かな」
システムの死亡ログに名前がないことにほっと一息。
「っ……あぁー! よかったぁぁぁ! ぎりぎり庇えたらしい、いやぁ、素晴らしい!」
メニューを開いてコマンドを唱える。
「従魔呼び出し。『ゴールド』」
この世界にふさわしい名前というか、なんと言うか。
澄んだ青色の正統派スライムであるゴールド。
名前の所以は、ゴールドが好きだからだったりする。
テイムした時も、俺の事より俺の手に持ってるゴールドの方見てたからね多分。
(ゴールドが出てきたら、しばらく愛でさせてもらうとしよう)
そんなことを思いながらエネミーを呼び出す。
「お、よーしよし。おいで〜……って、ん?」
ゴールドが出現した。
したはしたのだが、なんだがブルブルと震えていてその場から動こうとしない。
いつもなら寄ってきたりするんだが。
なんだ? 怖かったのか? いや、恐怖なんてシステムは……
いや、最近のアプデでそんな状態異常が追加されたぞ!
つい先日必死こいてようやく獲得した『検索』を発動してゴールドのステータスを見る。
特にどこか異常を感じることはなかった。
だが、ゴールドの震えは止まらず、それどころかその速度は次第にまし、体の色がうっすらと赤く変色を始める。
ブルブルと高速で震え、何かが弾けるような音と光エフェクトがその場を支配した。
「な、なんだ……」
その白い光の中で唯一、キラキラと光を反射する
『金色』に輝くゴールドがいて。
「ゴールド、お前……」
そして変化はそれだけではない。
握りっぱなしだった俺のステータススクロールには……――
--- --- --- ---
「……う……ん…………」
《あ、ますたー。おはよう。さっきはごめんね。よく眠れた?》
「あ、あぁ……懐かしい夢を見てた」
本当に懐かしい。
まだ俺が底辺プレイヤーで、ろくに成長しないスライムを必死に強くしようとしていた時期だ。
昔からスライムが好きで、スライム愛好家の同士達にも背を押され、あの手この手と思いつく限りを尽くしていた。
そんなレベル上げの一環として、低レベルのダンジョンに潜った時。
運悪く、(当時の俺から見たら)高レベルのエネミーとエンカウントしてしまい、バトルとなった。
結果はまぁ、言わずもがな。当然ながらあっという間に蹂躙された。
頑張って、色々と手を尽くしては失敗に終わって少なくない数ちょっとアレな気分になったけど、それでもずっと一緒にいて、大好きになっていた自分のスライムが死にかけた時。
反射的に動かした体が間一髪、ゴールドと敵エネミーの攻撃の間に割り込めて、俺のHPゲージはあっけなく吹き飛んだ。
「そしてさっきの夢に戻ってくるわけなんだが、ステータススクロールの表記を見たときは背筋が凍ったね」
なんたってゴールドの残りのHP数値はたったの1だった。
首の皮一枚繋がった、というやつだ。
「ぶっちゃけゴールドが守れたんだから、ゴールドやアイテムの消費なんざどうでもよかった」
でも、ゴールドは違ったらしい。
あー紛らわしい。
システムの説明文で知ったことだが。
ゴールドは怒りに震えていたらしい。マスターを殺してしまったこと。自分が弱かったせいであること。自分が、弱い自分自身が許せないと。
そして願っていたらしい。力が欲しい。何にもまさる、強力な力がほしいのだと。
そしてゴールドはユニーク個体に進化し。
その時同時に生まれたのが、『雑魚ノ反逆』だ。
「この日だな。ランキング三位プレイヤー《Yuberu》が生まれたのは」
ブツブツと思い出にふけっていたら、ミドリが心配そうに俺をのぞいていることに気がついたので撫でて安心させておく。
「よっと」
何故、今この夢を見たのだろう。
『忘れるな』という意思表示か?
だとしたら心配ご無用。忘れたことなんて一秒たりともないとも。
「あれ? アオは?」
《しー。ほら、そこ》
「んあ?」
念話をつなげなければ良いだけなのだから、ミドリまで声を小さくすることはないと思うんだが。
ミドリが体で刺す方向を見ると、パーカーの中ですよすよと寝息を立てるアオの姿が。
(ぷっ……あはははっ)
《ますたーが変なふうに眠るからアオちゃん凄く心配しちゃって、パーカーの中入ったと思ったら、『ますたーの枕になるから! これでますたー安眠できるから! いくらミドリちゃんでも譲らないからね!』って言われて。その勢いに圧倒されている間にアオちゃんもすやすやと》
(詳しい説明ありがとう。ははは)
平然を装おうとしても、つい頰がニヤニヤしてしまう。
可愛いなぁもう!
アオを起こすわけにもいかないので、あまり揺らさないように俺のあげた飴を舐めるミドリを抱き上げ、抱きしめる。
《ど、どしたのますたー?》
(いや、ただ、絶対守るぞーってな)
もうあんなことは繰り返さない。
繰り返して、たまるか。
俺はそれなりに強いつもりだけど最強なんかじゃない。
あらゆるところで穴だらけだし、妙に頭が回るわけでも、戦いの才能があるとかでもない。
負ける時は負けるし、逃げる時は全力で逃げる。
そんな男だ。
でも、戦いで、必ずしも勝たなくてもよいのだ。
負けてもいい。それが負けてもいい勝負なら。負けてはいけない勝負でないのなら。
ただ、守れればいい。
「それでも、守るためには今以上の力が必要だ。俺、今まで以上に頑張るから。今の自分に満足しないで、ずっと、お前達のますたーでいるために」
幸い、俺より全然強い人たちがおり、俺の性格も相まって、傲慢にはなっていない。
怠惰は俺らしいっちゃあ俺らしいけども、ゲーム内じゃ俺は極めて勤勉だ。
傲慢や怠惰は今後の成長を妨げる。
今に満足してしまっているから。
だけど、今の俺じゃ砕けないような壁なんていくらでもあると知っている。
俺なんて、三位だろうがなんだろうが、ただの一人のプレイヤーであることを知っている、
俺は自分が、弱いことを知っている。
だからまだまだ強くなれる。
ならば、きっと今から簡単に俺を追い抜くだろうスライム達を、陰から、時に真正面から支えることができる。
《どんなことになっても、ますたーはボクの、ボク達のますたーだよ》
「ありがとう。俺がいざって時には、助けてくれよな」
《もちろん》
実は、守るというのは勝つという事よりも難しかったりする。
ただ力任せに破壊するなら、ぶっちゃけ誰でも出来てしまうから。
守るっていうのは、ただ命の危機を救う、それだけじゃない。
守りたいなら、本気でそう思うなら、その後が大事なんだ。
「あぁ、起きました? キャンディーちゃんが心配してましたよ〜。あ、勿論私も心配しましたとも、いきなりユーが倒れた時はビックリしすぎて心肺停止の危機に……ぶひょ! ぶひょひょひょひょひょひょ!」
「吹き出すな。せめて最後まで言ってから笑え。それと静かにしろ。アオがおきるだろうが。アオが起きたらお前半殺……」
《うぅーん。あ! ますたー! おはよう! 大丈夫》
「あぁ。おはよう。寝たおかげかすっかり元気だ。ありがとう」
《う、うん。それはよかった、んだけど、なんかますたー、怒ってる?》
「へ、ヘイボーイ。は、半殺、な、なに?」
はっはっはっ。誤解しているぞアオ。
怒ってる? 俺が? そんなバカな。
ちょっとそこにいる汚物を消毒しないとなって思ってるだけさ。
「まって! ウェイト! ストップ! 馬がうごかせなくなりますよ! あぁぁ! 私が死んだらお腹を空かせた四人の双子が、キャンディーちゃんが!」
「安心しろ、キャンディーちゃんは俺が責任を持って保護すると約束しよう」
「現在進行形でキルミーしようとしている人の言葉で安心しろと? 新手の言葉の暴力ですな?」
成る程。それだけ減らず口がほざけるんだ。
まだまだ余裕があるって事だな。
「ふぅ。行ってくる」
《い、行ってらっしゃい》
《や、やり過ぎないようにね》
取り敢えず後ろに回り込んで肩を掴んで後ろに引っ張り、そのまま足を引っ掛け転ぶその衝撃を利用してテコの原理で――
しばらくお待ちください(自己規制)。
「あぁ〜、すっきりしたなり」
《おかえり〜》
《うわっ。えぐ……》
グリグリと肩を回して、ぐーっと背伸びをする。
やりきったぜー。
あ、キャンデーちゃん。
ウィーアードの口にお菓子を詰め込むのはやめたげて。
ぶっ倒れて『お見せできないよ』になっている、ウィーアードの口に、せっせとお菓子を運んでいるキャンディーちゃん。
慰めているつもりかもしれないけど、それトドメになってるから。
息できなくて顔真っ青になってる。窒息しちゃうよ?




