信じられないでしょうけど、甘くない砂漠と甘い妖精さんです!
夜遅かったため、昨日はそのまま野営ということになった。
見張りはしなくてはならないし、ほとんど寝ずに浅い睡眠だけをとった。
ウィーアードが見張りをしているから寝とけなどとほざいたが、さっき会ったばかりの他人を信用する方がおかしい。
適当にその案を却下して、探知を発動させながら少しだけ目を閉じるようにする。
《うみゅ〜、ますたー?》
「もうちょっとで起きて欲しいけど、寝てたいなら寝てていいぞ?」
うねうねと動き始めてしまったので、膝を上に乗っけて撫でてやる。
俺の上にかぶさっている毛布を一枚取ってかけてやるのも忘れない。
安心したのか、たれん……と力が抜けたアオがスヤスヤと寝息を立て始めた。
起こしてしまうとは……
気配とか逆に出しといた方がアオみたいな敏感な子にはいいのかもしれない。
むやみに消してると警戒しちゃうだろうし、出しておけば本能が俺の存在を確認できるし。
《うぐぐ……日の光が……目が、目がぁ……》
ミドリは色々な意味で俺に似てるな。
ほんわかと暖かい目でミドリを眺め、アオと同じく俺の膝の上に収め撫でる。
くるりと出始めた日から背を向けて、影を作ってやることも忘れない。
「まだ夜中みたいな時刻のはずなんだが……日の出はえぇよ……」
砂漠だからと思って侮ってはいけない。
俺はアオに出してもらった毛布やらドロップアイテムのコートやらを何重にも羽織っている。
四日近く砂漠地帯にいて学んだことがこれだ。
昼間あれほど暑かったというのに、夜中の冷え込みが半端じゃなかった。
最初来た時はびっくりしたね。
あまりの温度差にちょっとした眩暈を覚えた。
それ以降は着ぶくれするほど来たり被せたりして寒さ対策をしている。
「砂漠の夜が寒いって、よくテレビで聞いてたけどな」
まさか本当にそうだとは思わなかったよ。
なんたって砂漠だぞ?
カラッカラに干からびて、サンサンと日の光が降り注ぎ、水が蒸発し地面はひび割れ、崩れた砂が舞い、骨が沈んでるような砂の海だぞ?
イメージどうよ? 暑いだろ? そして暑いといえば夏だ。夏の夜ってどうだ? 確かに夏の朝は冷え込むかもしれないが、それ寒い?
場所によるかもしれんが、少なくとも俺の地域は涼しいくらいだった。夜中なんて暑くて眠れないレベルだぞ?
「まぁ……日が出てくれたし、そろそろ暑くなってくるだろ」
極端すぎんだよ、まったく。
もうちょっとうまくやれよ。俺みたいに極端にしないといけないようなもんじゃないんだからさ。
俺や《Maniko》さんみたいなのは、そうしないと戦えなかっただけだが。
大自然。お前はそうじゃないだろう。
もっとバランスよくさぁ。要領よくやろうよ。
夏は暑すぎるし冬は寒すぎるし! 春や秋は寒いし、花粉はやばいし!
中くらいにしてくれよ! そこそこ暖かくてそこそこ涼しい!
それでいいじゃん!
「夏では冬早く来ないかなぁと思い、冬には夏早く来ないかなぁと思う」
人間って自己中な生き物だねぇ。
夏派? 冬派? って聞かれた時よく答えたっけ。
A,春夏秋冬全てゴミ――――と。
「おっととと! 昔の黒歴史が……」
「黒歴史? 聞きたいですね〜ええとっても」
「今すぐ黙るか強制的に黙らさせられるか選べ。アオとミドリが起きるだろうが」
壁と地面、めり込むならどっちがいい?
「それこそお二方を起こす要因になりますよ。で?」
「あ?」
「どっち が本命なんですか?」
何言ってんだこいつ。
「え? ははは嫌だなぁ。べつに隠さなくてもいーじゃありませか。私だって気づきますよ」
「は? 気づく?」
「またまたぁ。とぼけちゃって。夢のスライムハーレムを作る旅をしているんでしょう? 今はどっちが本命なんです? ねぇ! ねぇ! きゃ!」
気持ちわる。
修学旅行の男子部屋みたいな雰囲気作りよって。
このおっさん頭大丈夫だろうか。
「ボケたかおっさん」
「ボケるにはちょっと早いんじゃ――――」
「いや、確かに元々ボケてるやつにボケたもクソもないな。失礼。済まなかったな、先の言葉は撤回しよう」
「今のユーの言葉の方がよっぽど失礼だって気づいてる?」
俺は事実しか話していないはずだが、はて。
何か気に障っただろうか。うーん。うん。心当たりないから多分この人の勘違いだろ。
「そういえばユーたちは昨日ご飯食べてなかったけどいいのかーい?」
「どうせだったらそれは昨日言っとけよ。まぁ二人とも寝てたけどさ。飯ならあんたと積み荷を助ける前に済ませてたんだよ」
まぁ、こいつが食べていたものと同じものを勧められても、手を出すことはなかっただろう。
「簡易フードはどうしても口に合わなくてな」
「こんな広い砂漠で簡易フード無しは無謀と言えますがねー」
簡易フードとは、簡単にいうと緊急食料みたいなもんだ。
設定だと、一個で多少のカロリーが摂取できて、それなりに腹も膨れるという感じ。
ドラゴン○ールの全快する豆みたいな扱いだった。
こっちでもその設定は有効なのか腹は膨れはするんだけど。
なんとも味がなぁ。
ケーメルンで買ってみたのを試しに食べてみて、もう俺からこれを買うことはないだろうと思わされた。
簡易だからしょうがないのかもしれないけど、本当においしくない。
味が鉄みたいというなんというか、カチャカチャとカシャカシャの食感を足して二で割ったような食感というか。
「うちにはアオがいるからな。アイテムの持ち運びには困らないのさ」
「おぉ! そんな能力もあるとは! 新鮮な食材とかも?」
「だいぶ消費しちまったけど、少しは残ってるぞ」
そういうや否や素早い動きでフォークとナイフを取り出すウィーアード。
ナプキンを首に巻いて、準備完了、というような目でこちらを見てくる。
取り敢えずチョキで潰しておいた。
「ぬおおおおおお! 目が! 目がぁ!」
ウィーアードは両目を抑えのたうち回っている。
最近よく聞くなぁ。
流行ってんのかそのネタ。
《むにゃむにゃ…………うみ……あー、おはよ〜》
目がぁぁぁ!
「うん、おはよう。変な目覚ましだけど気にすんな」
《太陽は敵……むにゃむにゃ》
「お前もそろそろ起きなさい」
ああああああああああ!
《…………うーん、だめぇ、あぁん、ますたー、そんな、そんなしたら、ボク、ボクッ》
「艶かしい声を出すんじゃない。揺するなとはっきり言ったらどうだ? 俺は、ミドリが、起きるまで、揺するのを、やめない!」
目ぇぇえがぁぁぁぁぁああああ!
だああ! うるっさいなぁ! もう!
いい加減にしないと保健所に連れてくぞ!
「今から朝ごはんにするから、取り敢えずアオに水出して貰って顔洗ってきなさい」
《はーい。アオちゃーん。って、そのやり方はちょっと嫌かも……》
《なんで? 早いのに》
《うーん…………なんでも?」
ミドリよ。言い訳が雑過ぎる。
まぁ気持ちはわからんでもないが。
アオが貯めておいた水をだばだばと口から垂れ流している。
その水を直接というのは、慣れてないときついと思う。
「さて、何作ろうかな……あ、なぁウィーアードよ」
「メェェェェエガァァァァア!」
「俺の飯でよければ馳走するから、取り敢えず話を聞け」
「なにかなボーイ」
ほんとに復活しやがった。
『楽観転換』の効果か?
「ケチャップの作り方って知ってる?」
「トマトを加工したソースのことかな? それなら王都に売ってるはず。作り方は知らないかな。これでいいかい?」
「あぁ、十分だ。連続でアオたちには悪いけど、昨日の反省点も踏まえてもう一回チャーハンだな」
昨日のにガーリックを叩き込んだらおいしくなるだろうか。
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今回は妙に濃かったね。
うん。ちゃんと混ぜたつもりだったのに塩が一箇所に固まっちまってた。
「うまくいかねー!」
「そうは言いますが、簡易フードと比べたらすごく美味しかったですよボーイ。美味い料理は上手い調理によって生まれる。美味いだけに! ぐしゅしゅしゅしゅしゅしゅ」
「そりゃどーも。てゆーか。いい加減にしたらどうだ」
「いい加減?」
本気でわからないのか、首を傾げ、一回転にして元の位置に戻したウィーアードが問うてくる。
「アオが興味をもって離れないんだ。この積み荷。そろそろ捕食者が暴れだすかもしれんから、せめて中身だけでも教えてくれよ」
「えぇぇ……別にいいですけど……」
ここまで隠されるとますます気になってくる。
俺たちにはわからないがアオには匂いがプンプンしてくるのか、時々じーっと積み荷を眺めている。
その目がまた、目がないんだけど幻視できる、捕食者の目が。
「事実ユー達に助けられたわけですし、やっぱりそれぐらいは筋ってもんですかねー!」
「そのくだらんポーズはいいから早く見せてくんねぇかな」
んば! んば! 帽子を抑えたり体を曲げたり、足を滑らしたり腰をくねらしたり、忙しいやっちゃな。
「せっかちですねー。積み荷はこれですよ」
小さな袋の紐を解くと、中には剣やらなんやらの道具が入っていた。
「……フェイクだな」
「よくお気づきで。これはあくまで表向き。裏向きは……」
検索様を舐めてはいけない。
だが、この隠蔽方法を暴くことはできなかった。
確かに隠蔽されている気配があるのだが、上からおおいかぶされているような何かのせいで検索が通らな。
『看破』ならいけるだろうか。
国についたら『看破』はできるだけ発動しているようにしようか。
何かのキーワードなのか、コンコンと二回ノックしたりペシペシ殴ったり、所々でフェイクを入れて解除のキーワードを入力している。
他人を信用していないのはこいつも同じか。
まったく、食えないやつだよほんと。
「……その子が、お前のエネミーか?」
隠蔽の解除がなされたのか、突如積み荷を覆っていた袋が消え、扉がついた茶色い立方体のキューブが現れ。
その扉の中から、焦げ茶色のドレスを着て、ドーナツのようにピンク色の髪に色とりどりのチョコがまぶされ、背中には純白の四本の羽がついた、全長15センチくらいの妖精がでてきた。
「えぇ。紹介します。この子が私のエネミー、『キャンディー』ちゃんです」
紹介された妖精がぺこりと行儀よくお辞儀をし、俺の手のところまで飛んできて、俺の手の甲に小さくキスをした。
「えっと? これは挨拶かなにか?」
「さぁ? 私も初めて見ましたがねー」
キャンディーちゃんはどこかやりきったように満足気だ。
えーっと、取り敢えず、検索。
種族名:《Sweets Fairy》
個体名:キャンディー
性別:♀
年齢:16
LV:25
職業:お菓子職人
称号:【 お菓子職人 】
【 甘い妖精さん 】
【 こだわり 】
【 甘いもの好き 】
HP:500/500
ATK:23
DEF:17
AGI:65
INT:300
アビリティ
『隠蔽』『飛行』『偽装』『鍵設定』『パティシエ』
固有アビリティ
『精霊回廊』『霊源可視』『福音』『コーティング』『スイーツ』『精密加工』『手作業』
金アビリティ
1000ゴールド【 スタミナ・アップ 】
2000ゴールド【 スーパー・フライ 】
どうりで美味しそうな匂い、ね。
もしかしてこの荷物全部そうか?
「そうですとも」
「そりゃ凄い。少し、譲ってもらえないか?」
「いいですとも。また作ってもらえばいいんですからね〜。体のサイズ的にちょっとずつしか作れませんが」
最初に拒んだのは積み荷をというより、この子を守ろうとしての行動だったのか。
少しだけ納得できた。
「それにしても、さっきのキスはなんだったんだろうか」
手の甲を眺めていると、いつの間にか無意識で発動させたのか、ステータススクロールが出現した。
それをなんとか受け止めて中身を確認する。
「妖精ノ福音、『飴職人』?」
なんだ?
新しいアビリティが、見たこともない記述とともに記されていた。
ステータスは適当です。
今後変更になる可能性があるのでご了承を。




