信じられないでしょうけど、交渉に波乱は付き物です!
《わはぁ……》
《星すごーい。ますたーますたー! ねぇねぇすごいよ!》
食べ物?の上に乗るのもどうかと思ったので、一部商品を退けて空間を作りそこに腰掛けての移動となった。
と言っても、もう夜になりキラキラと輝く星が出て、子供がはしゃがないわけもなく。
子供の二人は積み荷の上に乗っかって空を眺め、ぴょんぴょん飛び跳ねて感想を連ねていた。
「あんまりはしゃいで落ちるなよ〜」
注意はするものの、確かに絶景だ。これならはしゃぐ気持ちもわかる。
話には聞いたことがあるが、遮るものがないとここまで綺麗とは。
星の運河とは言ったものだと思う。
「砂漠の夜は神秘的。どっかで聞いたことがあったが、まさかこれほどとは。オーロラとか見れるのだろうか」
夜のこの景色。ここに夜までいたことがないからわからないが、ゲーム時代ではここまで綺麗じゃなかったのではないだろうか。
流石にこの大自然の絶景を表すなんて、とてもじゃないが難しいなんてレベルじゃないだろうし。
ゲーム時代に騒がれた記憶もないからな。
「……? なんだ? チラチラとこっちを見たりして」
「イヤー、その、なんでも?」
「なんだそのなんでもって。なんでもないから見てたんだろうが。なんだよ言えよ」
馬に跨り馬車を動かしているウィーアードが、時々チラチラとこちらを伺ってくるのだ。
最初は無視していたのだが、ここまで繰り返されるとイライラもする。
「ユーはスライムちゃん達の声を妄想しちゃったりする痛い子かなー、と」
「よし。今から説明してやるから、取り敢えず顔面差し出せ。今ここに。俺の目の前に。十秒以内な。それをすぎた瞬間アオに首ごと引っこ抜いてでも、もってきてもらうが?」
馬を急停止させ怒涛の勢いで顔面スライディングしてきたので流れよく後頭部に拳を振り下ろす。
バガァン! と木の板が破損する音がなり、
シュゥゥ……。煙を上げながら首から上が木の下に隠れ体がくの字に曲がり、腕が力なく木の板を打った。
誰がそうなったかは、言わなくてもわかるだろう。
「誰が痛い子だ誰が。アオ……は、他の人と喋るのが嫌なんだっけ。ミドリ。ご挨拶」
《うん。こんにちわ、初めまして、ボクはミドリです! ウィーアードさん、よろしくね》
うん。爽やかでちょっとボーイッシュな声で、元気があって実によろしい。
ミドリの声に少々笑いが含まれている気もするが、おそらく気のせいだろう。
棒でつついて、動かない、ただの屍のようだ。をやろうとしたのだが。
ビクンッ! と腕が動いたかと思ったらずぼっと首を引き抜いた。
あ、案外平気そうだ。
さっきのビクンがめっちゃキモくて驚いたけど。
「ワォ……スライムが本当に喋るとは……拳の威力といい、規格外ですねユー……ここまで将来が楽しみな逸材だったとは。企画が意外と円滑に進むかもしれませんね……規格外だけにぃ! うひょひょひょひょひょひょひょ!」
「よっし! もう一発行っとこうか」
ポキポキと指を鳴らす。
いやー、全く懲りてねえなこの男。
人のこと小馬鹿にすんのもいい加減にしろよ?
準備を終えてさてもう一発行ってみようか、となったところではたと気付く。
(やべぇ! つい、いざという時のためにとっておいた『衝撃』を『反射』しちまった!)
くっそ、せっかくの『要塞砲』を。
これでもう俺のSTRは300。
年相応以下の筋力しか持たないただの硬いだけの子供になってしまったわけだ。
まさかとは思うが、ここまで計算尽くじゃないだろうな……多分違うだろ
「改めまして〜、ウィーアードでーす。アルバイトやってます。ミドリさん、でしたっけ? よろし――――」
反射的に『逃亡』を発動し、前走力でミドリを確保してウィーアードの伸ばした手から遠ざける。
この間、約一秒。
警戒はしながら、元から俺が座っていた場所へと着地し、腰を下ろす。
「……ハァ……ハァ」
《えぇ! あれ? あれ? ますたー? あれ?》
「どーしましたユー? あ、もしかして、嫉妬、ですか?」
「変態に触れさせたくなかっただけだ。うちの子に一定以上近寄るな変態。ミドリ、変態に何もされてないか? 大丈夫か?」
「変態変態言わないでくださいよ酷いな〜」
そう言いつつ満面の笑みなのは何故かな?
(ミドリ。ウィーアードにつなげた通信を切れ。アオも、俺の声が聞こえていたら返事を頼む)
《了解。切ったよ》
《聞こえてるよますたー》
通信を通じて声を出さずに伝えるべきことを伝えておく。
ただ、ウィーアードの言葉に黙ったままになるのは不自然なので、適切な対応も取る。
「酷くなんかないわ。本当のことだろうが。つうか早く馬進めてくれよ」
(アオ。ミドリ。俺が今から脳内に直接流す言葉だけを聞いとけ。まず第一に、この男には近づくな)
並行して喋るということはできないので、一度言葉を発してから、二人に脳内で通信を送る。
《どうして?》
(得体が知れないからだ。この男、なんらかのアビリティ効果で『検索を妨害』してる。俺が検索をかけた時に結果が見れなかった。こっちの世界で検索持ちが何人いるか知らないが、わざわざ覗かれないようにフィルターをかけているんだ。アオには前言ったかも知れないけど、そうゆう奴は何か訳ありである可能性が高い。どんなアビリティ持っているかもわからないからな、まだ毒とかに耐性がない二人には近づいて欲しくない)
でもそろそろ何かしら動きがあってもおかしくはない。
あの襲われようからそこまでの手練れだとは思えないが、不意打ち専門、あるいは対人に特化した人間である可能性もあるからな。
安心して眠るために、ちょいと検索の限界を破壊するとするか。
猿鬼の時でさえ、目の前まで迫れば検索できたからな。
と言っても、限界を破壊しても念話が届かなかったわけだが。
『妨害』レベルはそこまで高くなかったはずだが、あれはおそらくダンジョン自体の距離と、猿鬼の固有アビリティ『見猿』『聞猿』『言猿』が影響していたのだろう。
確か、三つ同時に発動することで一定時間あらゆるアビリティ効果を無視できるという効果だったはず。
とんでもないチートと言えるが、特別まで至っていないのはデメリットが大きいかららしい。
(もしかしたらシェルターを抜けたことがバレるかも知れない。万が一に備えておいてくれ)
ウィーアードが馬に乗って再び馬車を走らせ始めたので。
その後ろ姿から俺に対する意識が完全に消えた瞬間を見計らい、小声で『限界破壊』を発動させる。
さて、ステータスを見させてもらおうか。
「……検索」
金属と金属が激しく衝突したかのような鋭い音が脳内で響いたが、すぐに収まり検索結果がではじめた。
どうやら特別アビリティの勝利らしい。
(ステータス覗き見完了。………………どれどれ)
名:ピスケル・ウィーアード
性別:男
年齢:32
LV:78
職業:テイマー
学生スカウトアルバイト
称号:【 嫌われ者 】
【 道化 】
【 楽観主義者 】
所持金額:30万ゴールド
テイムエネミー数:一体
HP:3200/3200
ATK:1427
DEF:2544
AGI:6599
INT:1005
アビリティ
『テイム』『話術』『気配遮断』『交渉』『楽観転換』
固有アビリティ
『感情動揺』『傷』
固有アビリティがいまいちよくわからないが。
他はこれといって危険なとこはない。
検索を妨害していたのは『傷』アビリティ効果だろう。
称号にも【 嫌われ者 】というものもあるし、犯罪者ではなくワケありの人か。
でも、【 楽観主義者 】ねえ。
称号を見ると同時にその人の人柄ってものが見えるというが、本当にそうだな。
ちょっと悪いことしたかもしれん。今更罪悪感がチクチクと。
変に性格が歪んでるせいで随分疑心暗鬼になっていたみたいだ。
性格の方も、昔何かあったのかもな。
「アオ。ミドリ。今日はもう寝ていいよ。もう少ししたら俺も寝るから」
言外に『大丈夫だ』と含ませたのだが、通じたのだろうか。
もともと限界だったのかフラフラと近寄ってきて力尽きたアオをフードにおさめ、まだ元気に俺の膝の上で俺を見上げていたミドリも、撫でてやっているといつの間にか寝ていた。
「それじゃ私もそろそろ」
「もう少しいけるだろう? 少し聞きたいことがあるんだ。ちょっと付き合え」
睡眠は取らないと明日がキツイんだけど。
ちゃんと聞いておかなければならないことがいくつかある。
とりあえず聴いてやるだけで、行くつもりはないんだけどね。
俺は旅がしたいわけだし。
「俺たちの強さはお前に見せた通りな訳なんだが、小学校に通うレベルか?」
「初等部どころか、中等部の子供達ですら敵わないデショー。高等部の子供達が束になって、なんとか?」
はい。手加減してその評価じゃダメだ。
ちょっと遊んで見たら大怪我させたなんて、シャレならん。
「話にならんな。学校の話は無しという方向で」
「そこをなんとか〜! 飛び級で高等部に入るシステムもありますし、そのシステムも試験は筆記じゃありませんし! あの力なら多分大丈夫ですってバー!」
「おいコラ。筆記じゃないからってなんだ。世間知らずではあるけど、エネミーの種類とかせって、いや整体とかには人一倍詳しい自信があるぞ?」
どれだけこのゲームをやり込んだと思ってやがる。
ガチ勢をなめるなよ?
「そもそもそこに入るメリットがない」
入ってなにかメリットがあるわけでもないのに、なんで俺がそんな無駄なことをしなきゃならんのだ。
確かに学生時代に戻ってもう一度、というのも惹かれるが。
「ここ! 案内のここ見て!」
「なになに『必見! 今年もやってまいりました入学金・授業料・食費・学校滞在費・寮費全て免除の特別推薦枠登場! 金がなくてもダイジョーブ!来たれ! 未来のテイム・マスター』……ねぇ」
残念。現在進行形で俺テイム・マスターです。
全データで俺がどんだけエネミーをテイムしたと思ってんだ?
全て免除とはまた太っ腹なことだが、今の所一つの国に止まるつもりはないし、今んところ金には困ってないからな。
「だからなんだ?」
「チョォーイ! すごい待遇でしょ! ヤバイっしょ!」
「触るな」
もういいや。はっきりと言ってしまおう。
「行く気は無い! 今の会話で確定。行く気は消え失せた。以上だ。王都に付いたらおさらばだ」
「そ、そんな」
ここまで言っておけばいいだろう。
意味のないことに貴重な睡眠時間を費やしてしまった……不毛だ……
「校長に怒られちゃうー!」
「そんなん知らん。怒られれば?」
さーて、寝よ寝よ。
「王都の学校には、選りすぐりの美女・美少女達が……」
「オーケーマイフレンド。君が怒られるとあっちゃあ僕も黙ってはいられないね。僕がなんの力になれるかわからないけど、取り敢えず相談に乗るともうん。話せば楽になることってあるからさ。だから今の話もっと詳し……」
ガシッとウィーアードの手を握って肩を組み
《……アオちゃん。ますたーから邪な考えが》
《うん。こうゆう時のますたーに容赦手加減はだめ》
ピシリと硬直する。
「ふっふっふっ。我が覇道の前に立ちふさがるというのかね」
《覇道っていうか、ただのハーレム願望道だよね》
《略してハ道》
座布団一枚。
誰が上手いこと言えと、はっはっはっ。
《ますたーは、ほんと、もうね》
「ちょちょちょ、アオちゃん、ちょ、いやんいやん」
笑顔が固まったままダラダラダラダラと汗がとめどなく流れだす。
「み、ミドリ〜」
《やっちゃえアオちゃん!》
「ミドリさん!?」
まさかのシュプレヒコール。
そして訪れる審判の時。
とんでもない迫力と圧迫感。
ぐ、ぐおおお、れ、令○をもって命ずる、静まれ、バーサ○カー。
か、重ねて○呪をもって命ずる、静まれ! バ○サーカー!
だが俺の手にマスター権限である赤い刻印はない。
あまりの恐怖にネタに走って現実逃避したが、やっぱり現実は甘くなかった。
《はむぅ!》
痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…………ぇぇ……ぇぇぇぃ……――――
ステータスは適当です。
今後変更になる可能性があるのでご了承を。




