信じられないでしょうけど、小悪魔? です!
《ますたー》
「ん? 疲れたか? なら、もう少し行った先に廃墟化してる遺跡があるから。そこで休憩しよう」
《ううん。疲れたんじゃなくて。とゆうか、ずっとますたーのうえに乗ってるのに、疲れるも何もないと思う》
「あ、そっか。いやぁ、旅の醍醐味というかなんと言うか、こうゆう会話が定番だろ?」
聞き慣れたアオの声と、もう一つ。
《ボク重くないかな。ますたー》
「あぁ、特に問題ないぞ」
まだ聞き慣れない、アオよりワンオクターブ下がったよく通る女の子の声。
ミドリの声が脳内に流れるので返事をする。
どうでもいいが移動の際、ミドリは俺の頭の上に乗っかっている。
そこで休憩時間も移動中も、暇を見つけてはこまめに本を読んでいるのだ。
デキウスを出発してから、はやいことで一週間。
それなりに体を行使しているつもりだが、眠い以外の異常は今の所見受けられない。
健康そのものだ。
もともと移動系アビリティは持ってないから歩くのは慣れてたし、この体になってから余計疲れづらくなっている気がする。
「楽しい時は経つのが早いというが、本当にそうだな」
歩いて、それっぽい場所を見つけるたびに休憩して、その度に大きいものから小さいものまで、必ず何かしらイベントがあるから一秒一秒が楽しい。
特に大きなイベントはやはり、ミドリが喋るようになった時のことだろう。
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「うおおおおおおおおおおおお!」
擦るべし擦るべし擦るべし擦るべし擦るべし
《ま、ますたー? なにしてるの?》
「超原始的な方法だけど、火を、起こして、る! うおおおお!」
昔教科書で読んだ、木の板を足で固定して、木の棒を両手で回し摩擦熱で火を起こすということをしていた。
体験した時に習ったどおり、火がつきやすい様に、擦る一点の隣に燃えやすいものを置いてある。
《火ならますたーの合成したアイテムでどうとでもなるんじゃ》
「アビリティ獲得はたゆまぬ努力と根性の先にある。俺の自論だ」
そう、こんな無駄なことをしている理由はただ一つ。
デキウスを出てから三日。俺には早く風呂を再現しなければならないという使命があるからだ。
《ますたーも本を読んだだけでアビリティ覚えられたらいいのにね》
「まったくなぁ。人間ってアビリティ適性高いはずなんだけどなぁ……」
本を読んでもアビリティ獲得も、レベルアップボーナスに追加もされていなかった。
なんか条件でもあんのか? おぉ! ついた! ついたぁ! やったぁ!
ヒュゥゥゥゥゥゥ……
シュ……ホワ……
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!」
消えたぁ! そんなバカなぁ!
ガッツポーズを決めた隙に吹いた風により、せっかく芽吹いた火の種は虚しく消滅する。
膝から崩れ落ちた。
ふふふふふふふ。わかってたさ。そんなすぐ上手くいかないってことくらいさ。
筋力値ゴミですよええはい…… 所詮は硬いだけの肉塊
一発こっきりのでかい攻撃方法しか持ってない雑魚ですともええ……うふふふふふふふふふふ
ちょいちょい
「うん?」
両手両膝をつき地面を眺めながら笑い出す俺の背中をつついたのは。
アオではなく、ミドリだった。
「おう。どしたミドリ。お腹空いたか?」
《……や、やっほ〜…………ますたー、大丈夫?》
「バルス! ←(バルス語・翻訳、なんてこったい)」
両目を抑えて転がる。
「喋ったぁぁぁぁぁ!」
ぴょーん。
「今日は赤飯だぁ!」
《あはは。なにそれ》
昨日エネミーと初めてエンカウントして、『雑魚ノ反逆者』と『限界破壊者』を獲得したからな。
『雑魚ノ反逆』効果対象になったことと、ずっと本を読んでたからアビリティを獲得できたのだろう。
うーん。それにしても赤飯の作り方知らないな。
小豆を茹でるんだっけ?
やってみるか
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やってみたけど、小豆美味しくなかったなぁ。
アオとミドリは普通に食ってたけど。
なんにしても慣れというものは素晴らしく、最初はあまり上手くいかなかったことが少しずつできるようになってきている。
最近になってようやく『警戒しながら睡眠をとる』ができるようになったり、日本での曖昧な知識と中学時代の林間学校の記憶を振り絞り、『米を炊くこと』に成功していたり。
改めて思ったけど、火傷しない体ってすごいな。
その代わりその度に感覚が鈍くなってるんじゃないかと不安になるが。
《みどりちゃんはどんなアビリティを覚えたの?》
《ますたー。ボクのステータス見せて〜》
「はいよ。今んとこアビリティが二つ、固有が五つだ。まだエネミーほとんど倒してないからな」
ミドリの性格は意外というかなんというか、だいぶ理知的な感じだ。
ユニーク個体で生まれ持ち『万能薬』を持っているからなのかわからないのだが、どうしてもイメージが理科とか科学的な女の子となる。
それでいて、年相応なイタズラっけもある。
好き嫌いが分かれるタイプだな。
俺はこうゆう子には好感を抱く。
《ますたー。ボクあまり、その、戦うとかは……》
「わかってる」
《そ、そっか…………》
言いづらそうに切り出したミドリにそう言ったら、いきなりミドリが泣き始めた。
ぽろぽろと、次々と黄緑色の体を透明な水が線を作る。
え!?
「ま、待って! なんで! あ、あれ! なんで泣くの! ごめん! 取り敢えず、ごめん! そんな、泣かせるつもりじゃなかったんだ! ただ、戦いたくないなら無理に戦わなくてもいいから、安全マージンが引けるまでのレベリングを少しずつしていけばいいよって、そう言いたかったんだけど! あぁ。ごめん。泣かないで」
《ご、ごめん、ますたー……》
《みどりちゃん大丈夫? ますたー酷いことしないよ?》
おろおろおろおろ取り乱してしまう。
アオが入ってきてくれて正直めちゃくちゃ助かった。
おかげで少し冷静になれた。
なんでいきなり泣き始めたんだろう。
《酷いこと、しない…………かなぁ?》
「こらこらこらこらこら」
擁護してたんじゃないのかよ。
多分ゴブリンの巣の時の話をしてるんだろうけど、あの時は悪かったよ反省してるって。
あの時の俺は色々とまだ若かったんだよぉ〜。価値基準がいまいち向こうと区別が付いてなくて、あの程度なら全然大丈夫って思ったんだよ〜。ごめんって〜。
《くす……》
「《ん?》」
話を取り持てる最大の能力を持つアオがじっとりとした目で見てくるので、必死こいて弁明していたら。
ミドリがぽろぽろ涙を流しながら笑い声を漏らしたので、アオと俺が同時に首を動かす。
《あ、あはは。ご、ごめんね。ちょっと、勘違いしちゃって、泣けてきちゃって……もうボク、いらないのかなって》
声は鼻声だったが、いつものミドリの明るい声になっているのでホッと一息つく。
でも、『いらないのかなって』の所で全身に冷たい血が流れた。
どうゆうことだ? 俺が、俺の不注意で、ミドリにそんな誤解を?
そして、ミドリを泣かせた? マジで心当たりがない。
内容次第では、自分で自分が許せなくなるかもしれない。
《その、ボク的には『戦うとかは難しそうで、役立たずになるかも……』って感じに言おうと思ってて。その、そしたらますたーがわかってるって言ったから、もしかしたら、役に立たないことはもうわかったからって意味で、暫くしたら捨てられるんじゃないかって思って、それで》
話しながら想像してしまったのか、またじわっと涙を浮かべるミドリを静かに抱きしめる。
《え、えぇぇ!》
「大丈夫。心配なんかするだけ無駄だ。こっこそごめんな。ミドリの意図組んでやれなくて、嫌な思いさせちまって。ごめん。捨てるなんてありえない。数秒後に世界が滅ぶって言われた方のがよっぽど確信がもてるくらいだ。捨てるどころか離すつもりはないし。むしろ絶対に逃さないから」
だから大丈夫と。
ぎゅーっとミドリを抱きしめ耳元で囁く。
頼れる親も、知り合いも、誰もいなくて。
たった一人でわからない言語が飛び交う世界に放り込まれ、誰が何をするのかすらわからず、誰にも頼れず。
ミドリにとって、そんな中で手に入れた初めての居場所だ。
出来るならば、最高の幸せを掴んで欲しい。
アオとも仲良くしているし、俺も、うぬぼれでなければそれなりに仲良くなれているはずだ。
そんな中で捨てるとかそんなことになれば、誰だって悲しくなるだろう。
「ごめんな。不安にさせちまって。もうなにも心配しなくていい。なにも不安にならなくていい。ミドリが居たいと思うなら、それだけで居ていい理由になるんだ。俺がミドリの、居場所になるから」
今の俺にできる最大限の言葉。
「俺がお前に、幸せをあげる」
ただのうぬぼれと笑わば笑え。
今作った、新しい目標だ。
そのまま、ミドリを抱きしめ優しくを心がけて撫で続ける。
ミドリはしばらくして泣き止んだが、控えめに体を押し付け『離れたくない』アピールを可愛らしくしてくるのでそのまま抱きしめていたら
肩から突き刺すように向けられるアオの視線にびくっとなる。
《ますたー》
「お、おう。そ、その目で見るのはやめて」
《ドヤァ》
ミドリも勝ち誇ったような満足オーラを出すんじゃない!
あぁほら! アオさんの視線がより冷たいものに!
《私にはそんなこと、言ってくれなかったのに……》
「いやそりゃ、その、言う機会がなかっただけで。そうだな。ちゃんと言っとくか。勿論アオにも――――」
《えぇ〜、ボクだけを見てよぅ〜》
「え! あ、えっと、そ、それはできない、というか、ほら、平等主義者だから」
《……幸せをくれるって、言ったくせに……》
うぐぅ!
なんで! なんでそれにつながるの?
そして俺はなぜ良心がこんなに痛いの!
どうしよう、わけわからん!
《《ますたー!》》
「待て待て待て待て待て! てゆうかミドリ! お前絶対面白がってるだろ!」
《えっへへ。バレた?》
馴染んできた様で何よりだよ!
だけど俺をいじろうとするのはやめて!
ほら! アオも怖いから! あー、ちょっと待て、待とう待とう、その大きく開けた口をどうするのかな? かな?
あー! タンマタンマ!
「落ち着いて落ち着いて、な? な?」
アオが飛びついてくる前に間合いを詰め、よしよし攻撃で宥めに入る。
《わーい、ボクもー》
そこにミドリが乱入。
《ちょ、ちょっとみどりちゃん! 今は私の番だよ!》
《アオちゃんは硬いなぁ〜。ボクも混ぜてよ〜》
やれやれ。
「まぁまぁ。二人とも落ち着けって」
楽しいとは、無理して作れるものじゃないし、作るものでもない。
そう、例えば
今の、俺たちの世界は。
楽しいに包まれている。




