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信じられないでしょうけど、勝利は勝利です!

「三億」


短く宣言。

ぶっ潰すと行った手前アレだが。

いつまで続くかわからないこの戦い。

慎重に行くべきだろう。

絶対に負けるわけにはいかないのだから。


「四億だそう!」


そら来た。

今四億の言葉をあげたのは、貴族ではない。

いや、正確には貴族なのだが、俺に敵対心を抱いているあの貴族ではない。


おそらく、どこか別の国の人達だろう。


何も敵はあの貴族だけではない。

この会場にいるやつら全てが敵なのだ。


「四億五千!」

「五億」

「五億六千」


他の奴らも次々と声を上げ始めた。


だがそんなことは関係ない。


完膚なきまでに叩き潰すのは、俺の敵だ。

そして俺の敵とは、俺と戦うことを選んだ者達。

俺は向かって来る奴に情けをかけるほど優しい人間じゃない。


こいつらがどこまでこのアイテムを欲しているかは知らないが。


俺以上に執着する人間はここにはいない。

そう言い切れる。どうしても、こいつが欲しい。


俺以上にそう思えない奴らなんかに、こいつを渡してなるものか。


「十億」


俺の発言に、辺りが一気にざわつきだした。


これで手をあげる奴らは一気に減ることだろう。


《十億が入りましたぁ! これ以上を提示する方、いらっしゃいますか? ……いらっしゃらないでしたら》

「じゅ、十二億ゴールドだ!」


いいぞ。お前らは来ると思っていた。


今声をあげたのは、皆さんご存知俺と宿でもめたあの貴族たちだ。

いい目をしている。その睨みよう。よっぽど俺のことが嫌いらしい。


ねばれねばれ。潰れてくれるなよ。

簡単に終わったんじゃつまらない。もっと、もっと来い。

完膚なきまでには、まだまだ遠いぞ?

こいつらの執着は《Immortal ruin Dragon》にではなく俺に向いている。


好都合だ。

逃げられたんじゃたまったものじゃない。


最後の最後まで全力で立ち向かい、そして相手はそれをなんでもないかのように凌駕するところを目の前で見せつけられる。


この絶望は、全力なら全力だったぶんだけより大きなものとなり、心の奥深くに叩き込まれるものだ。


《十二億ゴールド! 十二億が入りました! それ以上の方いらっしゃいますか?》


勿の論だとも。


「二十億」

「「「「「なっ!」」」」」

《す、素晴らしいー! 二十億です! なんと二十億! とんでもない黒字に私今、頭が計算式で埋め尽くされておりますおほほ。おっと申し訳ございません! どなたかいらっしゃいますか! いないのでしたらこれで》

「まて。いいだろう。パパに頼んでお小遣いをもらってやったからな!」


お。終わりかと思ったよ。よかったよかった。

どれだけの量お小遣いをもらったのか知らないが、でもぉ、お高いんでしょお?


さぁ! かかって来い!

負けの決まった地獄の下まで! さぁ!


「三十億ゴールドだぁ!」

「四十億」

「嘘だ!」


ん? まさか、三十億が限界とか、そんな虚しいこと言いませんよねぇ。ん?

お? どうしたどうした? た・か・が・平民の指定する四十億ぽっちですよ?

まだまだ勝負は始まったばっかでしょうに、どうしてしまったんです?


先ほどまでの勝ち誇った顔が、実に愉快な表情に作り変えられて行く。


ねぇ今どんな気持ち? 散々好き放題やられて、親に泣きついてまで頑張った財力まで圧倒されてもはやどうすることもできなくて地面を眺めることしかできない気持ちってどんなですか?

私、気になります! ぜひ教えて欲しいものですね!

もう一回聞くよ? ねぇ今、どんな気持ち!?


「ご、ご、ごじゅ……」

「六十億」


もはや満身創痍。だからなんだ。

あえて畳み掛ける。追い討ちラッシュ。コンボを途切れさせない。


たかが六十億ぐらい。高いどころか、全然、安すぎるくらいだ。


だが貴族たちにとってはそうではなかったらしい。

皆、そう、俺を睨んできていた失礼な貴族たちも含め、皆が静かに沈黙した。


負けを認めたということである。


《六十億です! これは素晴らしい! この白熱がオークションの醍醐味とも言えるでしょう! さぁ、六十億ですよぉ! それ以上、いますか〜。どうですか〜》


無言の肯定。うっし、百億以内で収めたぞ。

結果としては上々だろう。もう少しやり返したい気もするが、まあ十分だろう。


いくらアオをバカにして、俺の邪魔をしたとはいえ、曲がりなりにも宿でそのお返しはしたわけだし。

これくらいで勘弁してやるか。


「百億ゴールド」


はぁ?


収まりかけていたイラだちが再発し、声がした方向へ目を向ける。

今入場したばかりなのか。入り口に近いテーブルに腰掛けプレートを掲げ、そう叫んでいた。


声は高い感じから言って、十中八九女だろう。


何故だろうなどと曖昧なのかというと、その者は顔に作り物の箱のようなものをすっぽりかぶっていたからだった。

付いているのは、外を確認するための目の穴と、逆三角形に切り取られた口。


絵面からも色からも、ぶっちゃけダン○ーである。


なんだこいつ。


《百億! 百億です! さあさあ皆様どうですかぁ! これ以上の方いらっしゃいますかぁ?》


おっと危ない。

外見を気にしすぎてしばしぼーっとしてしまった。

勿論いるとも。


「百二十億」

「百三十億」


この野郎。被せて来やがって。


ん? よく見ると、どっかで見たような気が……


いや、見たこともあった事もない筈、なんだが……なんだろう、誰かに似てるのか?


「百四十億」


検索。


「百五十億」


何故か謎の覆面女と一対一で競り合いをしている中。

俺は息を飲んでいた。


検索結果が、白いモヤのようなもので隠されていたからだ。


お前もか! つうかさっきの奴もお前なの?

『マーキング』あるいは『追跡』アビリティ持ってたらなぁ。


ええい! もう楽しむ気も失せた! さっさと終わらせるぞ。


「五百億」

「六百億」


まだくるのぉ!


「七百億」


釣り上げたはいいものの、まだまだ全然付いて来そうだ。

なんなんだよ俺のこと好きなのかよ!


そう思った瞬間、覆面女はグリンと首を動かし、俺と目を合わせる。

感情のない黒く丸い目が、迫力があるぶんだけシュールに見える。


攻撃が来るのか? もし来るんだったら、俺のDEFと限界破壊で防いだ後、さっきのぶんも含め反射してやる。


「―――――マジ――――――じゃあ……」


攻撃どころか、彼女がとったのは全くの予想外。

覆面女は何かをつぶやいたかと思えば、即座にその身を翻し会場から出て行った。


「負けたから逃亡か」

「まぁよくある話じゃな」

「なんだったんだ一体」

「すげえ勝負だったな」

「顔も見せぬとは情けない」


ヒソヒソと辺りから声が上がるが、本当にそうなのだろうか。

逃げたというより、もういる意味がなくなったような、目的を成し遂げたかのような印象を感じたんだが。


(アオ。聞こえたか?)

《ごめんなさい。わかんなかった》

(そっか。ならしょうがない。謝る必要もないよ)


ちゃんと《Immortal ruin Dragon》は回収できたわけだし。

暗くなる必要はない。


《他に、他にいませんね! では、七百億ゴールドの56番さん! おめでとうございます!》


昨日と同様、競り落とした商品はオークションが終わった後に別館でゴールドと交換する。

一度下がっていく《Immortal ruin Dragon》を眺め、一足早く別館に行っておこうと腰を持ち上げる。

これで、ここにいる目的は無くなったからな。


にしても、あの覆面女はなんだったんだろうか。

あの雰囲気、どことなくバカみたいなあの感じ、どっかで……

うーん。

取り敢えず、外に出てから考えるか。


そう思って退出しようとした俺に、司会メットから待ったがかかった。


《これから皆様に見ていただきますは、テイム済みのエネミーでございます》


へぇ、こっちでもそうゆうことはあるんだな。

エネミー交換というプレイヤー同士がお互いのエネミーを交換するシステムがあり、オークションではその派生として、ゴールドで交換できるのだ。


ゲーム時代では、極々稀にしか出品されないオークションでのみ獲得可能なレアエネミーとかが人気だった。


《では手始めに、100ゴールドの商品から。まずは、こちらです》


司会が合図を送ると舞台に穴が空き、先ほどのように商品を乗せた台が上がってくる音がする。


「さて、どんなエネミーなんかね」


帰る足を引き返し、席に座り直して頬杖をつく。

なんか見ちゃうんだよね。こうゆうの。


まぁ買うつもりはないんだが


《ユニーク個体の、《Common Slime》でござ――》

「一兆ゴールド」


足りないかぁ! もっと出すぞゴラァ!


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