信じられないでしょうけど、想定外です!
「予定通りなら、今日だな……」
《そうだね〜。ますたー》
その言葉、今朝からずっとだよ〜?
もう六回目。
ますたーは顎に手を当てブツブツ言いながら、部屋の同じところをぐるぐる回っていた。
「情報屋に確かめた方がいいかな? なぁ?」
《さっき確かめたじゃん》
それも六回目……二回目当たりで一度確かめに行ったのだった。
ますたーって時々こうゆう時があるよね。
普段は大人っぽいのに、時々、本当に時々だけど、狼狽えたり子供っぽくなったり。
「いや、念には念を入れて……もう一回聞いとくべきでは、もしかしたら、出品されないかも!あぁどうしよう! なぁアオ、俺どうしたらいい?」
《とりあえず、落ち着けばいいと思うよ?》
目の前でおろおろおろおろ。
色々と混乱しているますたーを見るのが楽しくて。
ちょっと可愛くて、つい頰が緩んでしまう。
《ますたーちょっと落ち着いて》
「う、うん。そうだよな。わ、わかった」
あ、少しいつも通りに戻っちゃった。
面白かったのに……残念。
そう思ってたら、いきなりますたーに抱え上げられて、抱きしめられる。
《にゃ、にゃわわわわ》
「はぁ〜……この弾力、落ち着くわぁ〜」
《び、びっくりしたぁ》
「あぁごめんごめん。この前アオを抱き枕にして寝たら安眠できてさ〜。落ち着けって言われたら真っ先に頭にこれが浮かんで」
この前? 安眠? 抱き枕! 何それ知らない! 私寝てたの! なんで寝てたの私〜。
なんてもったいないことを! この優しいぬくもりとほのかに感じるますたーの匂い。
全てを堪能しないなんて、なんてばち当たりな。
はわぁ〜、ますたーに包まれてる〜、幸せだよぉ〜。
「ふぅ。落ち着いた落ち着いた。ありがとアオ……アオさん? え? あれ? ちょ、どしたの? あれ、取れ、取れな、え! ホントにどうしたの!」
しばらくの間は離しませんよ〜ますたー。
ふっふっふぅ。迂闊でしたね。
《私が寝てる間に抱きついたりした罰だよ〜》
「ごめんなさい! いや、俺も寝ぼけていたといいますか……え? 嫌だった?」
な〜んてね。
《別に、嫌なんかじゃないよ〜》
「そ、そっか。よかった。ってあれ? ならなんで罰?」
《教えなーい》
私が寝ているときにしたことだよ〜。
は〜……落ち着くぅ……
--- --- --- ---
宿でしばらくアオと戯れた後、再びオークション会場に訪れた。
「今度は早く来すぎたかな?」
外で待機しているのはまだ入ろうとしない人たちだろうし、結構人もいるからこれで入場者は全員だろう。
昨日よりも明らかに人が多いな。
なんのアイテムが狙いなのか、わかってしまうことが嫌だな。
負けるつもりはないが。
まぁ早く来すぎるのは別に悪いことじゃない。
遅れるよりはマシだしな。
まだ司会がいないので、がやがやとそこかしこで話し合いが行われていた。
「……うわぁ、結構ヤバいやつらもいるなぁ……あいつとか特に……って、ん? あれ、なんだ。検索結果が、ぼやけて……? あれは、誰……」
誰がどんな人間なのか知るのなら、検索さんが大活躍だ。
色々な人を検索していると、ある人物で視線が止まる。
検索結果がもやもやとした白い霧のようなものに阻まれ、見えづらくなっているのだ。
より深く検索しようとして……
『警告:マスターの検索に対象の過剰防衛反応が発動しました。マスターの生命的危機により私『限界破壊』は自動発動を行い、マスターの脳に対するダメージを最小限に抑えます。痛みに備えてください』
は?
バギィィィィィン!
脳に突如響いた声に反応することができず、直後に響く音を聞いてから意味を理解する。
「うわっ……痛っ!」
限界破壊が発動し、俺のステータスが底上げされたのだろう。
敵のアビリティ効果が限界破壊とぶつかり合う音が脳内で駆け巡り、次に走った痛みに目を瞑り頭を抑える。
「ステータス・オープン……」
即座に自分のステータスをチェック。
状態異常はなし。
ステータスの記述に変化なし。
HPが500ほど減少していたくらいだろう。
限界破壊の効果を発動し、最小限に抑えてこれだ。限界破壊が言うには、命の危険。それをうなづける。
あのままなんの対策もしなかったら、どうなっていたかなど自明の理だ。
俺のDEFを抜くか又は無視することの出来るアビリティ。
強い、特別持ちか!
「探知!」
手乗りサイズに縮小されたレーダーを作り出し相手を探すが。
先ほど検索結果がぼかされていた奴がいた場所には、誰も立ってはいなかった。
「……つ……限界破壊ちゃん。ありがとう。超大好き。マジ愛してる……」
『…………スリープモードに移ります』
いいんかい!
言い方変えたけど、ルンルン気分な雰囲気を残してスリープモードに入りやがったぞこいつ。
まぁ助かったからいいけどさ。
くっそ。逃した。
なんだったんだ一体。一発ぐらいは仕返しがしたかったものだ。
危うく死ぬところだったぞ。
『限界破壊』のオート・スタートを設定しておいて本当によかった。
最初はあったけど、今じゃレベルが上がったおかげで代償もない。
ゲーム時代でも便利だったが、こっちだとそれ以上だな。
《むぅ。アビリティに負けた》
「はっは。何を言っているのやら。もちろんアオのことも大好きだぞ。それこそ、限界破壊以上に……」
『今何かおっしゃいましたかマスター』
「いえ、なんでもありません。お勤めご苦労様です。お疲れ様でした。もう帰っていいですよ」
『…………解除申請を受け取りました。コードを読み取り次第、スリープモードに移行します。解除コードをどうぞ』
Oh……NO……
おーまいがー。
「ゲンカイハカイチャン、スキスキー」
『よく聞こえませんでした。コードの認証に失敗。解除コードをどうぞ』
棒読みでは、許されない、だとぉ!
「はぁ……わかったよ。今回は命を助けられたわけだし、その礼としても、しっかりしとかないと男がすたるってもん―――」
《ますたー……》
「限界破壊。いや、限界破壊さん。今回だけ、今回だけでいい。見逃してくれないか。アオが、悲しそうな目で俺を見つめてくるんだ。心が抉れそ――――」
『解除コードをどうぞ』
…………
『解除コードをどうぞ』
「お前に慈悲はないのかよっ!」
若干責めるように問いただしてくる限界破壊。
そしてじとぉ……と超至近距離で見つめてくるアオ。
どうしろと。
よし、逃げよう。
いやいやいやいやいや待て待て待て待て待て!
思考がスムーズすぎるだろうちょっと待て!
確かに逃げるのは大得意だ。『逃亡』や『超逃亡』を獲得してることがそれを裏付けている。
だが、この絶対の捕食者と、俺の体と同化してる限界破壊からどうやって逃げるというのだ。
ちゃんと考えろ! 思考の逃げ足も早すぎるぞ!
《レディーース、アーンド、ジェントルメーーン! ようこそおいでくださいました。本日も私、メットが司会を務めさせていただきます。皆様、心ゆくまでオークションをお楽しみくださいませ》
「お、始まったみたいだぞ。集中しないと。あ、悪い。話後でいい?」
《ま〜す〜た〜?》
別に、あやふやにしようとか考えてないよ?
嫌だなぁもう。
『解除コードをどうぞ』
うっさい! もうガン無視ししてやる! 勝手に言ってろ。
俺は怒った。絶対に、返事してやるもんか!
絶対にだ!
『一定時間が経過しました。ランダムで選定……アビ』
「はいはいはい! 限界破壊ちゃん大好き大好き! 超愛してるよ!」
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《お次はこちら、回復の魔法薬《Silver cat of lifeblood》。瓶一杯でどんな病もたちまち回復させると言われるアイテムでございます! 最低金額1万ゴールドから!》
「一万五千!」
「二万!」
「三万五千!」
「三万八千!」
「四万!」
白熱してんなぁ〜。《Silver cat of lifeblood》。
《Darkness Silver cat》のレアドロップだっけか。
こりゃまた珍しいのを出してきたもんだ。
「六万」
《六万! 他にいませんかあ! 六万ですよ! 〜〜〜っでは、56番さん! おめでとうございます!》
あ、競り落としちゃった。
参加したかっただけというのもあるが、いざという時のため純粋に欲しかったので割と嬉しい。
因みに56番というのは、俺が座っている席のこと。そこに置かれている56の札を上げて金を吊り上げる形だ。
まぁこれから《Immortal ruin Dragon》も残っているわけだし自重しよう。
無駄遣いはダメだね。
贅沢は敵だ。
そしてそれは、遂に来た。
《ではでは、次は本日の目玉賞品! ご紹介いたしましょう、こちらです!》
地面からずり上がってきた台座。
その上に被されていた布が司会の手により剥がされ、会場から「おぉぉ……」と声が上がった。
そして、俺も。それから目が離せなくなる。
地龍の鱗のような荒々しい装飾が施された茶色に輝く腕輪。
その姿が、俺に向かってフルルと甘えるように鳴いていたあいつの影が、重なって見えたから。
お前なのか? 本当に……お前が、最後の忠誠を?
なんで俺なんかに、そこまで。
それを知るためにも、絶対にお前を取り返してやるからな。ちょっと待ってろ。
《先日持ち込まれました、アイテムネーム《Immortal ruin Dragon》! なんとエネミーの名前そのままの謎に包まれたアイテム! 全世界のオークションを巡っても、このアイテムが出ることはないでしょうと胸を張って宣言できます! それほどの激レアアイテムです!1千万ゴールドから!》
「一億ゴールド」
食い込むようにして金を吊り上げる。
《い、いきなり一億が入りました! 56番さん! さぁさぁいますかぁ! 一億! 一億ですよぉ!》
「二億ゴールド」
な! 来るやつはいるとは思っていたが、いきなり倍にまで上げてくるとは思わなかった。
いや、これを求めて来たのなら逆に当然なのか。
ゲーム時代とオークションの感じが同じだから油断していた。
やはり一筋縄ではいかないというわけか。一体誰だ?
声のした方向へと視線を向けて、声の主と目があった。
声の主もまた、俺のことを見ていたのだ。
「……ふぅーん」
そいつは俺の知っているやつだった。
宿でアオのことをバカにして返り討ちにしてやった、あの貴族ども。
俺と視線があった途端、気色悪い笑みを向けて来やがった。
「ほぉ。ほほほぉぅ……どこまでも俺の邪魔をするわけだ。……全面戦争がお望みか? 受けてやるぞコラ」
小声で、ほぼ無意識に呟いていた。
いいだろう。金を持っているものが偉い。金を持っているものが強い。
誰でもない、俺が言った言葉だ。
この国の貴族が出品したと言われているアイテムを、この国の貴族が買おうとしていることが疑問だが。
今はそんなことはどうでもいい。
俺に対する報復かなにかだろう。
「俺の今日のために必死こいて集めた金で完膚なきまでにぶっ潰してやんよ。覚悟しろ」




