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信じられないでしょうけど、お風呂です!

「―――――っはあ〜〜。疲れたぁ」


貴族を追っ払ってから約一時間。

ようやく部屋に戻って一息つけたよ。


その場にいたお客の対応、壊した机の弁償や騒がしてしまったことの謝罪などなど。


はっちゃけたぶんだけ、後始末は大変である。


ベットに体を放り投げ、寝転がりながら首だけを動かし窓の外を見る。

木の枝だろうか。もう暗いからよく見えないが、窓の外に一本の線のようなものが映り。

その線の上で、一匹のフクロウが爛々と輝く目でこちらを見つめていた。

首の曲がり方が凄いから、恐らくフクロウなんじゃないかと……


あ、首が一回転した。


「…………」


気にしたら負けだ。

一度ベットから立ち窓に近づき、ガン見してくるフクロウから視線を逸らし容赦無くシャッとカーテンを閉めた。


「ふぁぁぁ……腹も膨れたことだし、寝るか」


ぼふん。ぎし。おやすみー。

ペチペチペチペチペチペチ。


今こそまどろみの中へ!

意気込んだ俺をペチペチと可愛らしい音が現実に引き戻す。


「うぅ〜ん。……なんだぁ〜アオ〜」

《まだ寝ちゃダメますたー。楽しみって言ってたでしょ》

「楽しみぃ? ……なにそれ」

《お風呂!》

「風呂か! そうだった! はいろう!」


眠気が吹き飛んで体が強制的に跳ね上がる。


「おっと」


その勢いでベットから落ちかけたアオをしっかり保護。

いやぁ。しっかり者のテイムエネミーでますたーも鼻が高いよ。


そう。なんとこの宿。つうかこの部屋。風呂が完備されていたりする。


ファンタジー要素は少し薄い、ちょっと洋風な浴槽などのバスルーム。


流石はちょっと現代知識の混ざった、EGOプレイヤー曰く『気がつけば自分の金が浮気している国』。

進化・発展のレベルも、ずば抜けて秀でている。


「実はこのバスルーム。前EGO時代にはなかった」


部屋の形に妙な違和感を感じ、アオのアビリティを確認して反省した後、適当に探ってみたのだ。

そして見つけたのが、この風呂。


テーブルの上に置かれているはずのフリーシステムという、メニューを確認できる固定アイテムも設置されてなかったし。

力強く叩くと一枚くるりと回転する仕掛けの床板があり、その中にはアイテムが隠されていたりしたのだが。もちろんそんなこともなかった。

間違いなくツボを撃ち抜いたのだが、撃ち抜かれたのは床板であり、結果的に言えば床に穴を開けただけである。

中になにもないどころか、中と呼ばれるスペースすらなかった(ちゃんとこの分も弁償してあります)りしたのだが、やはり一番インパクトが強かったのはお風呂だった。


いや〜、すっかり忘れてたよ。危ない危ない。


--- --- --- ---


「風呂を利用したいんですが、どうすりゃいいのかわからなくて……」


そしてやってまいりましたカウンター。

カリナさんにご相談。

読めない文字や取説どころか、蛇口すらありません!

どうしろと!


「お風呂は有料ですが、よろしいですか?」

「え!? そうなの!?」

「はい。私たちに申していただければ、30000ゴールドでお風呂をご利用できますよ」


有料と聞いたときは驚いたが、30000ゴールドか……安いもんだ。


「でもどうやって風呂を沸かすんです?」

「魔道具を使うんです」


そう言ってカリナさんが見せてくれたのは、頭に丸いボンベみたいなものをのっけた変な形の蛇口だった。


「この魔道具には火アビリティと水アビリティが付与されており、起動すると調節された動きで循環を始め、温かいお湯を出してくれるんです。そうしたら今度はこれ。ハムル草と呼ばれる薬草を混ぜた丸薬で、これをお風呂の中に入れるとリラックス効果が生まれる上、温度が低下するのを防いでくれるんです」

「考えられてるんですね。この丸薬を入れておくと温度が低下しづらくなるのは何故ですか?」

「これはお湯の中に入れると少しずつ溶け始め、溶けるたびに少しずつ少しずつ、微量の熱を放出するんです。そのため湯の中に入れておくと、長い間温かいままなんです。そして、人の肌が触れないようにセットする場所が作られておりますし、もともと一度に放出される熱量は微々たるものなので、火傷などの心配もありません」


成る程…………本当に考えられてんな……


火アビリティに、水アビリティ、ね。

それの循環っと。成る程成る程。


「ちょっと、その魔道具よく見せてもらえますか?」

「えぇ。かまいませんよ」


ふむ。中々にしっかりとした重さだな。

そこまでの大きさじゃないが、中にぎっしりと詰まっている証拠か。


「…………鑑定」


ぶっちゃけ構造なんかに興味はない。

これを『合成』するのに必要な『素材』が知りたいだけだ。


ふむふむ。……完璧。


これでいつでもこれが作れる……とはいえ、火アビリティと水アビリティは自力で覚えて付与しないといけないけどな。


「ありがとうございました。では30000ゴールドお支払い致します。早速よろしくお願いしますね」

「はい。直ぐにお湯を張りますので、少々お待ちください」


この世界に来てから行水しかしてなかったからなぁ。

いくら体が丈夫だからといって、心は現代日本人。いい加減限界だった。

俺の日本人のDNAが風呂を求めている。


寒く冷え切った心をいざ、温めてやろうじゃないか。


--- --- --- ---


「というわけでお湯張り完了! よし、行くぞ! ほれ、アオも」

《は、はい!》


返ってきたアオの返事は思いのほか堅かった。

緊張しているのだろうか。

そういえば、子供って風呂嫌いな子が多いよな。

なんでだろ。別に怖くないのに。

因みに、俺は子供の頃から長風呂が好きだった。


「俺はここで服脱いでから行くから。アオ先に入っててくれ」

《う、うん》


早く風呂に入りたいため焦り、必然的に所々でつっかえる。

それでも、破らないように気をつけながら力任せに服を脱ぎ去り風呂へと突撃。


フワリと、熱気のこもった懐かしの匂いがする。


用意されている椅子に腰掛け、洗面器でお湯をすくい上げる。


「ほれ。アオもそんなとこで固まってないでおいで。必要あるかどうかはわからんが。洗ってやるからさ〜」

《う、うん!》


じりじりと、少しずつ近づいてくるので。手が届くあたりまできたところで、ヒョイっと持ち上げ膝の上に乗せる。


ボディソープらしき液体を手につけ、よく泡立たせてからアオをこすり始めた。


《ひゃわわ!》

「あぁ、ごめん。くすぐったかったか?」

《う、うぅん。大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから……続けて》

「あいよ。なんかあったらちゃんと言えよ」


気持ちが悪かったりしたらやめた方がいいに決まってるしな。


そんな考えは杞憂だったか、アオは無言で、時々《にゃわ〜〜》とか《ふ、ふにゅ〜〜》とか声が漏れていた。

うむうむ。気に入ってくれたようで何よりだ。

撫でるとはまた少し違うからな。


「よっし。流すぞー。大丈夫かー」

《だ、大丈夫だよぉ〜》


いきなりではなくちゃんと断りを入れる。

しっかりと学び今後に活かす。俺の好きな言葉だ。


ざっぱーーーん。ぶるぶるぶるぶる!

キラーーーーン!


「おぉ。心なしか、少し光って見える」


テカーーン!


《ほんとう?》

「いやマジで」


キラキラしているというか、ツヤツヤしているというか

なんというか、どことなくスッキリしたように見えるのは、俺の気のせいだろうか?


「んじゃ、俺もちゃっちゃと体洗っちまうか」

《ア、アオが! お背中お流しす……します! ますたー!》

「ん? おぉ、よろしく」


ボディソープでしっかりと泡立てられた布で背中をゴシゴシとこすってもらう。

しっかりと力を加えられている面に反し、それでいて痛みは感じない。絶妙な力加減だ。

むしろ、気持ちがいい。


「上手いな。どこで覚えたんだ?」

《ますたーに買ってもらった本に書いてあった》

「あぁ……アオにせがまれた『従者の心得100選』ってやつな。背中の流し方なんて載ってるのか。凄いな」


そしてぱっぱと頭も洗って、いざ、湯船へ!


《ぶくぶくぶくぶくぶく》

「…………」


アオちゃーーーーーーーん!

沈んでぶくぶく言い始めたアオを急いで救出。


湯船に入った瞬間、勢いよくアオは底へと沈んでいった。

てっきりぷかぷか浮かぶもんだと思っていた俺は、そりゃあもうめっちゃ焦った。


《けほっ、けほっ。ぺっ、ぺっ、うぅ……》

「すまん。沈むとは思わなくて……んじゃ、これなんてどうだろう」


パッと目に入った水面機で思いついた。

洗面器の中をお湯でいっぱいに満たし、アオをその中へぽちゃりと入れる。

量は調節してあるので、アオの体半分くらいので収まっているが……


《…………》

「…………」


ごくっ……


《パァァァア!》

「よっしゃキタァ!」


俺の大好きなお風呂。

こんなくだらんことで嫌いになってもらってはさすがに立ち直れない。

アオにも好きになってほしいのだ。


嬉しそうに輝きだしたアオを見て、両腕でガッツポーズをとり吠える。


「さて。俺も湯船に浸かりますかね」


ふぅぅぅ〜〜〜〜〜〜…………あぁぁ〜〜……

じんわり、じわじわ。あったまるわぁ……


いい湯だね〜。ババンっババンっバンっバン!


「どう? どんな感じだアオ」

《気持ちぃねぇ〜〜》

「だろう?」


アオはすっかり慣れたのか

体の一部を変質させ洗面器の後ろにプロペラのようなものを作り、ぱらぱらと回転させ自由に動きまくっている。


そこまで広い浴槽でもないので、直ぐに俺の体にぶつかる。


「ははっ」


さっきまできゃっきゃっ楽しそうだったのに、急に静かになったので覗いてみると。


湯船にぷかぷか浮かぶ洗面器の中で溶けているアオ。

やれやれ、リラックスしちゃってまぁ。


その後もたわいない話をしながら二人。


片や久しぶり、片や初めての風呂を、気がすむまでじっくりと堪能するのだった。


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