信じられないでしょうけど、これが俺の決断です!
散々試した結果発表。
もう戻れないんじゃないでしょうかと結論が出た。
夢かと思ったけどそんな感じじゃないし。一向にシステムからメッセージやらのコンタクトはない。
……で、だから?
「ラッキー……」
現実に戻ったところで、一体何が俺に待っているのか。
お答えしよう。待っているのは『何もない現実』だ。
異世界放浪系の主人公は、故郷になにか大切なものがある、あるいは故郷でなにか成し遂げたいことなどがあるから、日本に戻ろうと努力するのだ。
このゲーム。EGOこそが俺にとって唯一にして無二の世界。
ここから脱出できない? 大いに結構。てか、脱出する気もございませんし、戻る気もさらさらございません。
「この世界で好きなことだけして生きていけるなら、なんだって構わない」
この世界のことなら大概好きだから。全然オッケー。
俺はその原因にありがとうと、感謝の言葉を述べるだけだ。
もしコレは本当に夢の中で、本体は未だ眠っているとかいう状況だったとしても、悲しいけど、それはそれで仕方がない。
そんなことを考えたところで、答えが手に入るわけじゃないんだから。
なら、考えても無駄だ。
「まずは何より、エネミーをテイムすることから始めねば」
システムメニューの『飼育部屋』に全員入れていたからな。システムがまるっきり消えた以上、前のデータの俺のエネミー達はもう戻っては来ないと考えるのが妥当だろう。
そしてここが、異世界とかは置いといて、よくわからない世界になってしまっているのだから。
危険を回避するためにも、エネミーを所持しておくことが必要不可欠だ。
「それにしてもデータ飛んじまったなぁ。垢BANされるとこんな気持ちになんのかねぇ」
ソロ仲間の《Uramin》通称BAN様は言ってたっけ。人生を楽しむコツは、どれだけシステムの裏をかけるかなんだ。と。
俺自身のステータスが変化していなかったからまだマシだけど。
やっぱり今まで俺が手に入れてきたアイテム、何より頑張って育ててきたエネミー達が消えてしまった悲しみは凄まじい。
「探知。発動」
探知アビリティのレベルはまだ3までしかあがってない。
範囲が非常に狭いが、この森全体くらいならなんとか納め切れるだろう。
レベルが上がるとマップの道や木とかのオブジェクトなども詳しく知ることができるらしい。
「すぅー……ふぅー……」
一度眼を閉じて深呼吸。俺の頭の中に一定範囲の情報が流れ込んでくる。
俺を中心に大量の縦線と横線が引かれ、所々でピコンピコンと点が出現し始めた。
エネミーの色は赤、プレイヤーの点は青色で、そのレベルやステータスによって大きさが変化する。
「さて、一番小さいのは…………こっちか」
小声でつぶやき、隠密を発動させて、この中で一番力の『弱い』存在の元へと足を進めた。
--- --- --- ---
「いるな……ビンゴ」
草むらに背を向けるような形で隠れながら、目的のそれを視界の中に入れる。
動いているのか動いていないのか判断しづらい、見た目水風船にしか見えない小さなエネミー。
《Common Slime》コモヌ・スライム。
RPGでお馴染みの定番雑魚キャラクター。
初期から出てきて初心者が戦う弱いエネミーだ
「成長幅は短いしステータスはろくに上がらないしおまけにアビリティも取りづらいときた」
このエネミーをテイムするような奴は、愛玩目的の非戦闘系プレイヤーか物好きくらいである。
それほどまでに人気がないエネミーなのだ。
「俺の『メインエネミー』だけどね!」
俺は他のプレイヤーから【 物好き 】だの【 変態 】だの【 バカ 】だの【 ドM 】だのとそりゃあもうボロクソに言われてきたもんだ。
酷い風評被害だとは思わないか?
スライムをメインエネミーにして育ててただけなんだぜ?
しょうがないじゃん。弱くたっていいじゃない、だって好きなんだもの!
そう。激レアモンスターすら差し置いて俺のメインエネミーに設定されていた5体のエネミー。
その全てがスライムだったのだ。
そしてついた称号が 【 最弱な最強達 】
多分、【 ??? 】の所にこの称号が戻ってくるんじゃないかと俺は考えている。
「全く。EGOプレイヤーは頭が硬いやつばっかだよ。自由がこのゲームの醍醐味だろうに」
『あいつはスライムをやたらとテイムして他のエネミーに殺させるシーンを見るのが好き』と噂された時は流石にブチ切れた。
とある理由でダークサイドに堕ちていた時期だったから、まず街で呟いたそいつらを問答無用でエネミーバトルに引きずり込んでキルし、蘇生させたら一人を残してもう一回全員キルして、残した一人からその噂を誰から聞いたのか聞き出してからキルして……
おっとと。俺の黒歴史を思い出してしまったよ。まぁ思い出して良い物と言えば、その時ギルドに乗り込もうとした俺をソロ仲間達がみんなで俺を止めてくれたってことぐらいか。
「あの人達。俺をキルしないで鎮静させようとしてくれたんだよなぁ。なんだかんだでいい人達だった。性格歪んでたけど。また会えるかな」
俺は本気でいって数人キルしちゃったんだったな。
そのあとタワーの広場に呼び出してその人達のカーソルが浮かんだ瞬間、既にタワーの天辺で待機していた俺が空から降ってくるというジャンピング土下座を決めて謝った。
「なんだっけか。確か『お前の気持ちもわかるから』って肩を叩いて起き上がらせてくれて」
『んじゃ、無くなった金は貸しな。安心しろ、利子は一五で良いよ』。
あ、思い出したくないのまで思い出しちゃった。
目を閉じると、瞼の奥にいい笑顔で歯をキラリーンさせている男の顔が……
………………良いやつだったのだ……うん。
…………―――――――ガサッ
「なんだ? アレは……ゴブリン!!」
俺がテイムしようと影からこっそり近づいていたスライムの目の前に、ゴブリンが二匹ポップしたのだ。
「チッ。間が悪い。検索」
種族名:《Lesser Goblin》
個体名:名無し
性別:♂
年齢:36
LV:18
職業:無職
称号:無し
所持金額:3000ゴールド
HP:105/105
ATK:30
DEF:19
AGI:5
INT:2
アビリティ
『威嚇』『繁殖』
金アビリティ
1000ゴールド【 グラグラ 】
種族名:《Lesser Goblin》
個体名:名無し
性別:♂
年齢:22
LV:10
職業:無職
称号:無し
所持金額:2500ゴールド
HP:106/106
ATK:30
DEF:12
AGI:6
INT:2
アビリティ
『威嚇』『繁殖』
金アビリティ
1000ゴールド【 ドッカン 】
「……さて、めんどくさいことになってきたぞ〜」
どうすっかねぇ。
いや、ちょっと待てよ。
ぽくぽくぽくぽくぽくぽく……ちーんっ。
…………思いついちまったよ、うわ最悪。
「でも、なかなか好都合っぽいんだよなぁ」
今あそこのスライムは死を感じているだろう。
可哀想だが、それが今のこの世界では必要なことなのかもしれない。
ゲームシステムがなくなったのだとしたら、エネミーにも生物としての本能というものが生まれていておかしくない。
だからこそ、自分の置かれた状況を、自分という存在を、何よりも明確に知るためには、このような死の危険というものにぶつかるのが一番効果的だ。
「問題は、いつ助けに行くかなんだけど……」
何発か攻撃を食らってからだと、手遅れになる可能性がある。それほどまでにスライムは脆いのだ。
あのスライムのレベルは1。下手すれば一発でも致命傷になる。
「くっそ。誰でもいい……今すぐ俺を、ぶん殴ってくれ!!」
スライム愛好家に取ってこれはキッツーーー!!
Mじゃないが是非思いっきりやってほしい。
でないと自分で自分を殴る変態になってしまう。
血涙血涙。
俺の弱っちい理性で荒れ狂う本能を制しなければならない。
死にそーーー! 助ける前に理性が死ぬぅぅぅ!!!
「もう…………限界だッ!!」
音もなく突っ込んでゴブリンAの頭を掴み急ブレーキ。
それだけでゴブリンの首が滑るように取れた。
――――――ブッ……シャァァァァ
「…………ギギャァァァァ!!!」
遅れてゴブリンAの体から血が噴き出すのと、ゴブリンBが『威嚇』の叫びを上げるのはほぼ同時だった。
「……シッ」
棍棒を振り上げた瞬間を狙い、短いモーションでAの首をBの顔面へと投擲。
もろにくらったBが目を瞑り怯んだ所でもう一回首をもぎ取った。
「はい終了」
ゴブリン掃除が終わったら、次にやることは一つ。
俺の後ろでぷるぷる震えているスライムのテイムだ。
(か、かわええ……)
まさしく、あの噂に名高い『ぷるぷる、ぼくわるいスライムじゃないよ』という奴だろう。
ニヤけそうになる頰を張りたい気持ちにかられながらなんとか真面目くさった顔をする。
片膝をついてスライムを真剣に見つめ、テイムを開始した。
《なぁ、スライムよ。お前、強くなりたくないか?》
テイムといっても、ただアビリティを発動するだけではない。
強制的にいうことをきかせるテイムならそれでもすむが、あんまり好きではない。レベルにモノを言わせ、服従させるというのは。
俺が今からやるのは初歩的なテイム。《コール・テイム》だ。
《お前はいつまでもそうやって狩られる側か? 違うって? でもそうなんだよ》
最初はただ怯えるだけだったのに、次第に他の感情も観れるようなってきて、こいつは確かに生きているのだと実感させられた。
《ははっ、そう絶望したような顔をするな。喜べ。俺がいる》
大きく両手を広げて大げさにアピールする。
《俺はほら。ただの人間の子供だぜ? それが武器なしでゴブリン二匹を赤子の手をひねるみたいに殺しちまった》
貧弱な人間がだぜ? と続けて一度目を閉じ。スライムの前にそっと手を差し伸べる。
静かに、ゆっくりとささやくように
《俺について来い。お前を絶対に離さない。お前を、強くしてやる》
そう言って、笑った。
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「んじゃ手始めに、あそこにいるゴブリン全部狩っちゃおうか」
茂みの奥にあるゴブリンの巣を指差してそう提案する。
何故だか騙されたっ!! みたいな雰囲気で激しく体を左右に振っていた。
心なしか汗ぐっしょりに見える。
おかしいな。笑顔が足りなかったか? 笑顔が多ければそのぶん余裕が伝わるだろう。うん。
「大丈夫大丈夫。俺が行くとお前の経験値半分取っちゃうから行けないけど。安全だから」
終いにゃ泣かれてしまった。難しいな。
自分なりに満面の100%笑顔だったと思うんだけど。ううむ。
泣きながら必死に俺にすがりついてきて何かを訴えてきている。
あーかわいい。
「よしよし。あ、そういや武器がまだだったよな。そうだそうだ。えーと……ちょっと待ってねぇ……あ、あったあった『クルーシ草』ゲット。あとは、コレとコレとコレで、合成っと」
合成アビリティを発動。
『ミラミラ草』『カッチン草』『カミキリ草』そんで今入手した毒草『クルーシ草』を合成して一本の毒ナイフを生成する。
「ほい完成。いってらっしゃいっ」
グーサインを出す俺にブルンブルン体を振って泣くスライムちゃん。
やれやれ、そんなに俺と離れるのが嫌か? 全く可愛いやつよ。
スラちゃんは遂に意を決したのか、真っ白になりながらフラフラと巣に歩いていった。
「ふむ。常に辺りを警戒しながら慎重に近づくとは、うんうん。結構結構。んじゃそろそろ……スタート、battle the エネミー。賭け金レイズ、ベット、1000ゴールド」
システムと一緒に消されなかった俺自慢の神盤からゴールドが注がれる。
どこか哀愁漂う背中を眺めながら、俺は
「早く名前で呼びてーなー。どんな名前にしよーかなー」
名前を考えていた。
そして数時間後
スラちゃん(仮)が無傷で全てのゴブリンを毒殺し、経験値とレベルアップの嵐に目を回しながら巣から出てきたのだった。