信じられないでしょうけど、まだまだ一歳なんです!
「泊まり。食事つき。ざっと一週間泊まるわ。お代は前払いでいいよな。はい一週間ぶん14000ゴールド」
前EGO時代で贔屓にしていた『熊除け蜂蜜亭』の扉を叩き、カウンターの前でちゃっちゃとゴールドを振り込む。
「は、はあ。あのお客様?」
「ん? なにかな」
「手際が良いようですが、この宿に泊まった経験がおありですか?」
「゛え?」
ビタ! 俺の動きが完全に停止し、ぴくっ、ぴくぴくっと頰が痙攣する。
「な、無いかな」
お前の行動がな。
棒読みでさっと目をそらし言う。
不審すぎる。ないわー。マジないかなー。
「そ、そうなんですか。随分とお詳しかったもので。あ、もしかして、わざわざ調べてここに!?」
「あ、うん。まぁ、そんなとこ、かな?」
危ねぇー。
さっさと済ませたくてついいつも通りに。
でも内装も何もかも同じだし、はぁ、慣れないなぁ……
「わぁ〜嬉しい。こちらがお部屋の鍵です。ゆっくりしていってくださいね」
「ご親切にどうも。食事は食堂でとるから」
「畏まりました。時間になりましたらお呼びいたします」
「よろしく。悪いね」
仕事とはいえ、ここまで丁寧に接してもらえると嬉しい。
安い感じに聞こえるが、悪い気はしないなんてレベルじゃなく心があったまるのだ。
人の温もりってのをほとんど忘れかけてるくらいには、与えられた覚えがないからな。
まぁ俺が、他人に与えることをしなかった、そもそもしようとすらしなかったのだから、それも当然ではあるのだが。
《むぅ》
「おっとやけに静かだと思ったら。すごく機嫌悪そうですね。どした〜? 眠い?」
《違う》
「お腹空いたか?」
《違う》
「んんん? 暇なのか? 遊びたかった? あ、わかった。さてはアオ。ゲームがしたかったんだろぉ。ずっと隠れてたもんなぁ。全く素直じゃないんだから。このお茶目さんめ」
《う〜、違うもん!》
あれ?
違うの?
「名推理だと思ったのに」
《……ふざけたんじゃないの?》
「大マジだけど?」
《えぇぇ……》
な、なんだよ。
《ますたー》
「おう」
《1たす1は?》
「俺今バカにされてる? バカにされてるよね? それとその計算式ができたからといってそいつがおかしくない奴とは認定できないぞ? キチガイって面白い生き物だから」
もちろん俺はキチガイじゃないけどね。
知ってる身からすると、ちょっとね。
そんな「こいつ正気か?」みたいな雰囲気ださないで。
わかってるさ。怒ってるんだろう?
だけどなアオ。言葉にしなくちゃわからないってことも、あるんだぜ?
《鈍感》
「いや、察しはいい方だぞ? 仲良しグループとかが近くに来るとさりげなくを装ってそこから離れるし。集まりとかも空気を守るため誘われたら断らずに、邪魔しないように気を配りながら言葉を一言を発さず空気になるし。誰か他人に話しかけられても「あ、こいつ誰かと勘違いしてんな」ってすぐに正解にたどりつくし。それに」
《ごめんますたー! 元気出して! アオはますたーのこと大好きだからね!》
「あぁ、ありがとう。俺も大好きだよ」
ふふふっ。こう聞くと俺って空気読める奴だろ?
どーよこのできる男感。
おっと、何故だろう。
目から汗が止まらないぞ?
《あわわわわ》
「まあ落ち着け」
《ますたーが落ち着いて!》
何を言っているのだねアオちゃん。
俺はおおおおおおお落ち着いてるともももももも。
がた、がたがたがた、がたがたがたがたがたがたがたがた
《ますたー! 部屋! お部屋が揺れてるよぉ〜!》
「はっ! 俺は、一体何を……」
一瞬ダークゾーンに堕ちかけたぜ……
ふぅ……まぁ、俺も若かったってとこだな。
「おっとわすれるところだ忘れるところだった。アオ。こっちゃこいこい」
《?》
ベットに腰掛けてアオを手招きする。
ぽすっと膝の上に乗せて、よしよしと撫でながら検索を行使する。
《ど、どうしたのますたー》
「いや、ちょっと心が痛いので、アオに癒してもらおうと思ってさ。嫌か?」
《い、嫌なんかじゃないよ!》
「そうか。そりゃよかった」
出てきた紙製のステータススクロールをキャッチし、その内容に目を通す。
「検索。ズーム・アビリティ。鑑定発動」
紙の文字が一度全て黒いインクに溶け、アビリティの部分だけが拡大された状態で書き直される。
同時にアビリティ鑑定を行い、その内容をステータススクロールに反映させる。
「うっ」
気持ち悪くなってきた……
アビリティ
『言語理解』:レベル9。レベルに応じて世界に存在する多数の言語を理解し、発生することができる。レベルが上がるにつれ使用できる言語が増える。
『通信』:レベル14。対象単体に脳内を接続させることができる。レベルが上がるにつれ通信の可能な距離が長くなる。
『恐怖耐性』:レベル3。恐怖の状態異常に耐性がつく。レベルが上がるにつれ耐性が強くなる。進化まであとレベル7。
〜以降、気持ち悪くなってきたので特筆すべきもの物のみ。
『念話』:レベル15。設定した対象に念じることで言葉を届ける。レベルが上がるにつれ念話の届く距離が長くなる。
『殺気』:レベル6。一定範囲に自分のレベルに相応する殺気を巡らせる。レベルが上がるにつれ範囲が広くなる。進化まであとレベル4。
『恐怖威圧』:レベル3。アビリティを発動することで対象へ『恐怖』の状態異常を与える。レベルが上がるにつれ恐怖の濃度が強くなり、レジストしづらくなる。
『愛情ステータス強化』:レベル1。主人への愛が直接ステータスに加算される。アビリティ発動後、しばらく主人と目も合わせられなくなるデメリットあり。
固有アビリティ
『超食事』:レベル24。大概なんでも食べられるようになる。レベルが上がるにつれ一度に食べられる量が増える。
『超消化』:レベル24。大概なんでも消化できるようになる。レベルが上がるにつれ消化する時間が短縮される。
『超吸収』:レベル20。食べたものを吸収し経験値とする。食べたものにより獲得する経験値は変わる。レベルが上がるにつれ獲得経験値が上昇する。
『底無大胃袋』:レベル35。命のない無機質を収納できる胃袋。ほぼ底無し。レベルが上がるにつれ収納スペースが増える。
『スライムボディ』:レベル42。スライムの体を○○させる。現在『DEFアップ』『溶解』『凝固』『AGIアップ』『クローン複製』が解放済み。レベルが上がるにつれ○○の中に入る言葉が解放される。
『変身』:レベル1。姿形を自在に変化させる。骨格などが違いすぎるものに変身すると肉体に異常をきたす可能性があるというデメリットあり。
『捕食転換』:レベル1。捕食したものをステータス上昇値に転換させる。転換されるステータス上昇値は食べたものにより変化する。レベルが上がるにつれステータス上昇値は多くなる。
『好食回復』:レベル1。好物を食すことでHPを回復させる。レベルが上がるにつれ回復量が増加する。
『吐瀉物転写』:レベル1。メモリーの中に保存されている今まで食べた生物を別の生物として吐き出す。元の生物の20%のステータスであるというデメリットあり。レベルが上がるにつれ%ゲージが追加される。
『食事戦闘』:レベル1。戦闘中、その相手の一部を喰らうことで相手の力を奪い取る。1つしか奪えないというデメリットあり。レベルが上がるにつれ奪える力が増える。
『食事我慢』:レベル1。断食することによる精神的ストレスを溜め込む。溜め込んだストレスを解放した時一時的にステータスが爆発的に上昇する。解放の際好物を食すことでより効率よくステータスが強化される。
金アビリティは省く。
あれはかなり特殊な方に属するアビリティだからな。
発動や過剰投与による不規則強化とかも、全部ゴールドに依存するからレベルという概念がない。
「…………わお」
《これって凄いの?》
「くっ…………確かにどんなアビリティもレベルをマックスにあげれば尋常じゃない力を発揮するとは言われているが…………相っ変わらずだな…………特別に相当するぞ? これ?」
《え? どうゆうこと?》
目元を覆って厨二ポーズ。
劇画タッチで戦慄の雰囲気を醸し出す。
「超凄いってことだよ! このっこのっこのー!」
《わわわわわ〜》
ぶんぶんぶんぶんぶんぶん、ぐりぐりぐりぐりぐり!
撫でくり撫でくり撫でくり撫でくり。
膝の上に乗っかっている愛くるしい生物を全力で愛でてるナウ。
《えっへへ〜。ますたーに褒められた〜》
「くっそ、可愛いなぁもう! 〜〜〜っ〜〜〜よっしゃ! アオビタンD摂取完了! 元気でたぜオラァ!」
勢いよく立ち上がる。
そして膝の上に乗っかって反応できなかったアオが地面を転がる。
《いたっ、いたっ! 酷いよ〜!》
「あぁぁ。ごめん!」
そしていつまでたっても起き上がってこないアオ。
「んん? どしたん?」
《………………起こして》
「はい?」
《ますたーが抱き起こして!》
「お、おう」
あ、軽い。
それが俺の正直な感想だった。
「………………あ」
そして思い出す。アオがまだ、二歳にも満たない子だということを。
《どうしたの?》
「あ、あぁ。いや、なんでもない」
ぽすん。アオを腕の中に収めてベットに座り直し、思考を巡らせる。
レベルも上がって、ステータスを確認して、アビリティも便利そうな物ばかり。
だからなのだろうか。前提を忘れていた。
強くなった。ステータスは一部抜かれて、ポテンシャルではアオは完全に俺を凌駕するだろう。
別におかしいことはない。それがテイマーとエネミーの基本的原則だ。
だが、アオはまだ1歳だ。
軽い。そう。こんなに軽い体で、頑張って。
それをまるで当たり前のように……
「ほんと救いようがないな……」
どうして忘れてしまうのだろう。
アオが俺を守ろうとしてくれる。俺はそれを喜んで承諾した。
だがそれは、アオが健やかに育つためだからだろう。
嬉しかったからという感情も嘘じゃないが。
それだけではおそらく俺は、もう少し成長してからなと、承諾はしなかったんじゃないかと思う。
目標を手に入れたのなら、それを潰すんじゃなくて、それを目指して頑張ることがアオにとって成長につながるんじゃないかと。
なんのために成長して欲しかった? なんのために強くなって欲しかった?
大前提を忘れるなよ。
アオが命の危険のない、安全な生活を送れるようになるためだろうが。
だってこいつは1歳なんだ。
めっちゃ理知的で、そんな感じさらさらないけど。
それでも、まだまだ子供。色々としてやらなくちゃいけないそんな時期なんだ。
「ダメなマスターでごめんな」
《ま、ますたーはダメなんかじゃないよ! 凄いよ!》
「ありがとう。これからもっと気合い入れて、ずっと凄くいられるように頑張るから」
頑張れ俺!
子育て難しいとかやったことないとか、今はそんなこと無視しろ!
大好きなアオのためだ! だから頑張れ!
アオのアビリティ説明は適当です。
今後変更になる可能性があるのでご了承ください。
大きな変更はおそらくありません。




