信じられないでしょうけど、なかなか鬼です!
オールイン。
その言葉は、EGOではよく使われるように思われがちだが、実はあまり使う者はいない。
いや、そう言っては語弊があるだろう。
使うものはごく限られている。というとこだ。
なにせ賭けた分だけ取り分は増えるし、しかもその分だけエネミーは強くなってくれる。
勝ちやすくなる上にゴールドは増し増し。
だからこそオールインとは、都合のいい魔法の言葉のように初心者プレイヤー達に広まっている。
だがエネミー・ゴールド・オンライン。
その大元の考え方を一度思い出して欲しい。
『金の駆け引きが全て――――』と
駆け引きもクソもない力任せのゴリ押し。
相手の行動を観察するでも、様子見するでも、調べるでも、作戦を何重にねるわけでもなく。
何も考えずに力任せに戦ってそれでいけるとでも思っているのなら、余りにバカにしすぎだ。
そんなもので戦いたいのなら、今すぐEGOのデータを消してその空いたメモリーに別のゲームを入れろと言いたい。
俺たちEGOプレイヤー。そんなヌルゲーをプレイしている覚えはない。
アビリティなどの例外を省けば(もちろんこれもマスターの指示が必要だが)、原則、エネミーの攻撃時には金を賭けなければならない。
だが、賭けるゴールドがなかったら?
持っていたゴールド全てを賭け皿に乗せてしまったとしたら?
そういうわけだ。
攻撃が成り立たない。
それイコール、勝負の敗北決定に等しい。
プレイヤーが相手エネミーを倒せるような圧倒的力の差があるのなら話は別だが。
そしてそして、全てのゴールドをベットした攻撃も『1回』きりだ。
指示にあったその攻撃を一度いなす『だけ』で勝負は簡単につく。
攻撃が当たる前に何か身代わりなどのアイテムを使うもよし。
指示通りに動こうとしたエネミーを眠らせるなどの状態異常で、攻撃自体をキャンセルするもよし。
一回こっきりの攻撃なんて、当たることの方が珍しい。
そして敗北した後には、無謀にも賭け皿に乗せた自分の全財産が相手の手に。
バカなのだろうか?
言ってしまえば、ハイリスクローリターンの諸刃の剣なのだ。
だからこそ
「オールイン」
さも当然のように、にっこり笑ってそう宣言する俺は、バカなのだろう。
いや。
この店で2回目。
もう今日で10回ぐらいのオールイン。
正真正銘のバカである。
とは言っても、夜のエンジン国で何十回もやった時に比べれば遥かにマシと言えるんじゃないかと。
あの時は急だったし、さっき話した『圧倒的力の差』があったしね。
それに、ことゲームにおいては。逆という考え方もある。
否が応でも考えなくてはならないからこそ、オールインは決してただの力任せのゴリ押しにはならない。
罠、揺さぶり、駆け引きと、それぞれ立てた作戦を最大限サポートする手段の一つともなりうるからだ。
話を戻そう。
ぶっちゃけ、オールインなんて言う奴はただのカモ。
いいように巻き上げられておしまい。
そう、そのはずなのだ。普通なら。
「お、…………オールイン……ですね。か、……かしこまりました」
でも現在この卓は、俺の独壇場。
俺はニヤニヤとした暗い笑み、運営側は真っ青だ。
食われるはずの者が、食う者を逆に追い詰めている。
--- --- --- ---
《ブラックジャック》
簡単に説明すると、自分の手札の合計をできるだけ『21』に近づけて、それの差を相手と競うゲームだ。
21なら最強。負けることはない。
それにディーラー側は必ず合計が17以上になるまで引かなくてはならないから、プレイヤー有利のゲームとも考えられるだろう。
「ヒット」
シャッ
「ヒット」
シャッ
「スタンド」
流れて来るカードを手札に加えてピタリ止める。
チラリ……自分の手札から視線を外すと、ディーラーがダラダラと汗を流し始めていた。
なんとこの卓、俺のディーラーの一対一になっていたりする。
みんなこの卓から去ってしまった。
いやぁ、店側の人は優しいねぇ。
俺がぼっちにならないように、ずっと相手をしてくれる。
今すぐこの卓を離れたいとか、帰ってくれとか、微塵も思ってないに違いない。
ニコニコと笑いを振りまき、ディーラーが自分の手札を開く。
「あらら」
ディーラーの顔が絶望に歪む。
なんとも数字は16。
最初は自慢するってくらいいにカードテクニックを披露してくれたのに、今じゃその面影もねえな。
「で、どうなんだ? 結果は?」
「ぶ……ぶら……ブラック……」
ペラッ……
「バスト」
残念。22だ。惜しかったねー。
「ほい」
手札を公開して。
「21」
そう言った。
--- --- --- ---
《ま、ますたー……しゅごい……》
(むごいの間違いじゃない?)
流石に自分にドン引きだわ。
調子乗りすぎだろ。ここまで堂々とイカサマする奴バカじゃないの?
まぁ俺だけど。
「ん? あっれ〜、おっかしいな〜。ナチュラルじゃないからベットは二倍ですよね? 全然足りませんけど?」
「そ、それは……先ほどお客様が勝利した際に発生した金額のお支払いに、店の殆どのゴールドを使用してしまい…………そのぉ……」
「あぁ。めんどくさい話はいいんで、ゴールド払ってもらえます?」
鬼か!
ノッリノリだな俺!
でも敢えて言わせてもらうなら、キチガイソロプレイヤーたちはこんなレベルじゃなかった。
「……くっ……畏まりました、こちらへどうぞ」
ディーラーさんに促されるまま、関係者用口に案内される。
この先に金庫でもあるのだろうか?
いやありませんね。この先には行き止まりの部屋があって、そこにボディガードみたいな人たちが待機している。
おいおいマジか…………
裏が……裏が……
(アオ)
《なぁに?》
(今からアオにゴールド注ぐから、この先にいる怖〜いおじさんたちをぶっ飛ばしてきてくれる? 殺さないようにね。あ、でも危なくなったらすぐに逃げろよ? 念話送ること。すぐ向かうから)
《うん!》
(いい返事だ。頼むぞ。賭け金レイズ、ベット3万ゴールド)
バキュウンッと小さく音がして、パーカーの中から青色の線を残し飛んでいくアオ。
《役にたつからね! ますたー!》
(ははっ。ありがと。愛してるぞ)
《ふぇあ!》
「うん? 今何か向こうで動いたような?」
ふはははっ。相変わらず不意打ちに弱いなアオは。
こうやってからかうのは楽しいんだよなぁ。
時々素でこうゆうこと言うけど。
ちなみにアオは、叫びながらカクーンと上に軌道修正し、天井に激突してぽよんぽよんと飛び跳ねていた。
《ま〜す〜た〜!》
(はははっ。ごめんごめん。大丈夫? 痛かったらちょっと戻ってきな。今回復薬合成したから)
《うむゅー》
あれ? まさか戻ってくるとは思わなかった。
しゅぱーと隅を滑るように移動しパーカーの中に滑り込んでくるアオ。
この間、約二秒。
ディーラーさんにも気づかれていない。
(そんなに痛かったか?)
《心が痛かった》
(座布団一枚)
《カブ!》
「んぎゃあ!」
「ど、どうかいたしましたかお客様」
「な、なんでもない……」
噛まれた腹を抑えようとして、もちろん噛んでいるアオの上に手がいくわけで。
ぽんぽんとアオの背中を叩きながら、ひらひらと手を振り震えながらなんとかそれだけ絞り出す。
(痛い痛い! 最近暴力が増えてきてない? お父さんそんな子に育てた覚えはありませんよ?)
《愛情表現》
(なんてうますぎる言い訳を! そんなこと言われたら怒れないじゃないか! 恐ろしい子! でも、愛情表現というには少々激しいと言うか……愛が重いというか……)
《ますたーは、アオの愛情表現が激しいと、いや?》
悪魔かよ!
この子スライムから小悪魔にジョブチェンジしてるよ!
嫌じゃねぇよむしろ全然どんとこいだよこんちくしょう!
可愛いなぁもう!
(で? 傷心のアオに俺は何をすればいいのかな?)
《慰めて〜》
(おーよしよし。ん? これってあれか? この前の鬼ごっこの時に賭けてた『なんでも言うこと聞く権』使ったやつ?)
《ち、違、違うもん! アレは、アレは大事に取っとくの!》
マジか。そこまで計画的にご利用されると、どんな要求が来るのかあとあと怖いな……
(あ、あんま無茶なのはなしな)
《う…………》
アオさんや。なにかね今の「う」は。
え? なに? まじ? 無茶なの要求されるの?
なんかちょっと要求されたくなってきたかも。
(ま、そんな権利なくてもアオのお願い事なら聞いてやるぞ? 俺にできる範囲なら)
《そ、それじゃなんか、その、あれっていうか、なんていうか》
(はいはい。痛い心は治りました?)
《ま、まだ!》
まだかぁ〜。
ずっと撫でてたのにそれじゃ満足しないと?
《その、えっと、服越しだし、その、あんまり伝わらないっていうか》
なにが?
伝わるってなに? 体温?
生でしろと。
お、なんか今の俺のセリフエロいな。
なんてゲスいセリフは置いといて、流石にパーカーの中にて突っ込むのは不審なのでやめておく。
(で、物理的な痛みはどうだ?)
《そんなに痛くない》
(まぁだろうな。なら撫でる必要な……)
《すっごく痛いの!》
しょうがないなー全く。
そろそろついちゃうからできたらそろそろ向かって欲しい所なんだが、アオがまだっていうんじゃしょうがないな。
うん。しょうがないのだ。
け、決して、俺がずっと撫でていたいってわけじゃないよ?
ほんとだよ?




