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信じられないでしょうけど、これは努力の賜物です!


「あれか…………」

《ついたの?》

「あぁ。まだ遠目だから何とも言えないが。多分あれかなって」


崖のようになっている地形から、遠目で小さく見えるキラキラとした光。

時間的にも位置的にも、あそこがデキウスで間違いないだろう。


フードを外しぱらりと背中にかけると、パーカーの中で俺の手に巻き付いていたアオがにゅるにゅると張ってフードにすっぽりとはまる。


最近このワンパターンばっかだ。


肩に乗るのと、パーカーの中で俺の体に巻きつくのと、フードの中に収まるを繰り返している。


《あれ? マスター、行かないの?》

「うん。あの国に入る前に、やっておくこと(・・・・・・・)があるからね」

《わー……悪そうな顔》


どっかりと座りその場を陣取ると。

実に悪そうな表情でニヤリと口角を上げクックックと笑う。

やれやれ、アオにも指摘されてしまった。


「ま、今後とも必要なことだからさ」


フィルターアビリティ。もしくは無効系アビリティでのステータスの隠匿。


「検索アビリティを取得してる奴がこの世界でどれだけいるか知らないが、意図的にステータスにフィルターをかけているような奴を信用するわけにはいかない」


これは常識だ。

ステータスの隠匿。EGOでは、それはとあるプレイヤー集団のよくやる手口だった。

まさか全員が全員そうだとは思いたくないが、そうでなくとも、なんらかの理由があることは確かだろう。

少なからず過去の嫌な思い出が頭の中を巡る。


アオには、できるだけそんな汚さは見て欲しくないもんだ。


とは言え、俺もこの世界じゃそれをしておかないといけない。

俺も、訳ありの人間であることは確かなのだから。


「これをやるのも久しぶりだな……」


スッと掌を地面に向け、手を差し出し。


「交換。発動」


アビリティを行使する。


柔らかな衝撃の風がまき上り、髪が押し上げられる。


水のような球体が出現し、俺の掌で弾けた。


--- --- --- ---


「そこで止まれ」

「っと」


国門の前まで行くと、受付のような小さな小屋にいるおじさんから声がかけられる。


「入国か?」

「そうだ」

「身分を証明するものは」

「ないな」

「ふむ…………まだ子供のようだが、……まぁいいだろう。ならば入国料五万ゴールドだ」


さすがにここまででかい国だと、こうゆうのがあるんだよね。

エンジンだと、おいでませって感じだったが。


遊戯の国ってことだから、それなりにかかるのかもしれない。


「あいよ。割と安いな」


プレイヤーバンクを神盤にセットし、憲兵さんが取り出したプレイヤーバンクへ指定量流し込む。


「ようこそ。遊戯の国デキウスへ。ゆっくりしていけ。入っていいぞ。だが、カジノに行くのはまだ早いがな」

「そう言うなよおっさん。それが目的じゃないとはいえ、楽しみにはしてたんだからさ」

「ガキが……裏を知るにはまだ早えぞ?」

「それを決めるのはあんたじゃない。……俺の器だ」


少しうつむき影をさしながら、薄い笑みを貼り付けた顔で睨みつける。

国に入る前にかぶり直したフードの、イラストである青白の目が何を語るでもなく相手を威圧する。


「ふぅ……とんでもねぇガキだ。身分証はテイマーギルドに行けば発行してくれる。検索アビリティが付与された魔導具はあそこしか取り扱ってないからな」

「どーも」


苦笑いしながらタバコを加え椅子の背もたれに身を投げたおっさんに、適当に返事を返して扉が開くのを待つ。


やっぱりというか、こっちでは検索アビリティはだいぶレアなんだな。

固有(ユニーク)ですらないアビリティだから、割とみんな持ってたけど。


ま、獲得方法が曖昧なアビリティではあったけどな。


ドロップアイテムとか、アイテム収集とかでどれがどんなものか数十種類把握できたら獲得できるとか。

そんなことしなくても気がついたら獲得してたとか。

チャットの使用量が関係してるとか。


色々な噂が後をたたないという、何とも不思議なアビリティだ。


因みに俺は、超頑張ってドロップアイテムとかを選別して、レベルアップボーナスの獲得欄に名前を連ねさせた。

EGO内用語『根性勢』である。


《ますたーならいつでも検索できるのにね〜》

「まぁな」

《えへへ〜。やっぱり私のますたーは凄いなぁ〜》

「ありがと」


肩に乗っているアオを撫でると、甘えるように首に体を擦り付けてくる。


がごんっとハマる音が聞こえたので、国の中へと足を踏み入れた。


「さて……オークション会場はどこだったけねっと……」


目的を忘れてはいけない。

アイテム《Immortal ruin Dragon》が。

俺のテイムエネミーであったあいつなのか。

そして、なぜシステムでのみ行える仕様で、アイテム化してしまったのか。


「調べなきゃな」

《わっはぁ〜! ますたー! 見て見て〜! すっごくキレ〜!》

「ん? ははっ。確かに」


ぴょこんっ! と可愛らしく肩から飛び降りたアオがぴょんぴょん飛び跳ねて俺を呼ぶ。


その姿を見て、不覚ながら吹き出してしまった。


《何で笑うの!》

「いや、ははっ。悪い悪い」


そろそろ日が落ち始め暗くなりだしている中、ランランと煌びやかに色とりどりな光を発する国。

確かに綺麗だ。煌びやかだとも。


その光をバックに、キラキラと輝いて見えるお前の方が数万倍綺麗だよ。


そう本音を言ったら、アオはどんな反応をするだろうか。

それを想像すると、つい笑いが漏れてしまう。


《むぅ〜〜! なんで〜〜!》

「ないしょ」

《え〜! なぁんでぇ〜〜!》

「ないしょはないしょ」


なんでなんで〜とぐずるアオを宥めながら足を進める。

カジノへの道には実は近道があるのだが、それを知っておきながらあえて大通りを歩いた。


--- --- --- ---


「ほぇー、変わらんねぇ、この景色」


そしてインパクト変わりすぎ。

これがリアルの凄まじさというかなんというか。やべえわ。この迫力。


常にフラッシュを焚いているかのような光量。

耳の機能がまるっきり潰されるほど、常に上がり続ける(しあわせ)の音。


「ここが世界一の遊戯国名物。カジノ街道」


中央に絨毯のようにひかれた一本の大通り。

その両側面には、もはや『壁』のようにぎっちりと敷き詰められた『ゲーム』の店。


一つ一つの店が、それぞれ一つのゲーム専門店。


言うなれば、この通り一体全てが、巨大なカジノ会場。


「ふんふふ〜ん。ドレスコードとかどうしっかなー。このパーカーなら大丈夫かー」

《ますたー……オークションはいいの?》


うきうきでスキップを始める俺をどこか責めるような雰囲気のアオ。


「別に忘れちゃいないさ。逆に、そのためのカジノだから」

《?》

「規模の広〜〜〜〜いオークション会場で必要なものってなんだと思う?」

《…………根性》

「ぶはっ!」


ぽかぽかぽかぽかぽかぽか。


「殴るな殴るな。笑って悪かったよ。まぁその考えは嫌いじゃないよ? 思考も少しずつ俺に似てきたんじゃないか?」

《え? そ、そう?》

「正解はお金。大量のゴールドでした」


今の俺の所持ゴールドは600億ちょい。

宿の修理代にだいぶ置いていったとはいえ、まだまだある方だ。


だがこれでアイテムがせり落とせるかどうかと言われると、よくわからないと言ったところ。


こっちでのオークションがどんなものか俺は知らないからな。

ゲーム時代の常識に当てはめて考えていたら、足元をすくわれかねない。


常に最悪の状況を脳の片隅に置いた上で、慎重な行動が重要なんだ。


「そのためにも、きっちり稼いどかないと、ね」


アオを肩に乗っけて、目を瞑りなんのゲーム専門店かわからないまま適当にドアを開けて入店する。


「いらっしゃいませお客さ……ま……。申し訳ありません。このお店では所持ゴールドの最低金額が決められておりまして……」

「最低金額? 少なくともそれ以上は持っとかないといけないってやつか? いくら?」

「100万ゴールドでございます」


持ってねぇだろさっさと帰れや!

態度でありありと伝わって来る。

丁寧にお断りされると、つい意地悪がしたくなる人間は、きっと俺だけじゃないはず。


「なーんだ。その程度か。びっくりした。なに? その金額あんたに支払えばいいわけ?」

「あ、いえ、ゲームをするにあたって、賭け金が最低それだけはないといけないというだけで。……持ってるんですか?」

「勿論」


疑わしげにこちらを見て来る店員さんに、年齢相応のにこやかな笑顔で返事を返す。


「では証拠を……」

「これでいい?」


言葉を遮って店員さんの目の前にプレイヤーバンクを、もっといえばプレイヤーバンクに表示されている数値を叩きつける。


「……? ………………へ? ……………………は? …………いやいや、え?」

「いいよな?」

「……あの、冗談ですよね?」

「なにが?」

「は! いえ、も、申し訳ございませんでした! どうぞ中へ」


店員さんの案内を受け廊下のようなところをしばし歩く。

ゲームの時に最低金額なんてあったっけ? 記憶にないなあ。


いや、いやいや? あった? お? 思い出してきたぞ、えーっと、確かそんな風なのが決められてて、それ以上の所持金がないと入店ができないんだったっけ?


そんなこと気にしないで店に入ってたけど……全データでの俺の所持金随分だったし。

忘れてても仕方があるまい。


「こちらです」

「うい」


さて、どんなゲームかな。

開けられた扉をくぐる。


「ほぉ…………」


なんともゴールド持ってそうなおじさんおばさん達が笑いあっている。


ディーラーがテーブルについている四人にカードを配り、四人がそれぞれ順番にカードを捨ててカードをそのぶん配られる。

賭け金のやり取り。そしてカードをオープン。その役の強さで、勝敗が決まる。


『ポーカー』


「……いいねぇ……やって見ますか」


ぼそりと呟いて、パーカーのポケットに手を突っ込んだまま猫背になりスタスタと奥へ行く。


大体のテーブルが埋まっている。

さて、どうしたもんか。


「ねぇ。ねぇたら」

「……」

「そうあなたよ坊や。今一人立っちゃって、一人分枠が空いてるのよ。よかったらやらな〜い?」


真っ赤でギラギラなドレスに身を包んだ40代くらいのおばさまに声をかけられる。

よかったら、やらない、ですかっと……。


「えぇ……俺でよければ……」


俯いたまま答えて、すぐに席に着く。


「ではチップとして、ゴールドを振り込みください」


ディーラーの言葉に従い、デーブルの真ん中に設置されている専用バンクへと100万ゴールドを振り込む。


「レイズの際は、お手数ですが、振り込みをよろしくお願いいたします」


ルールは知っていますか? と言われたので、無言で手を振り「知っている」と答えた。


「ではカードの分配を」


シャッ……シャッ……


配られて行く手札を眺めながら、ざっとテーブルに座っている全員を確認する。

皆、俺を見ていた。

さながら、獲物を狙う獣。「カモが来やがった」と言ったところだろう。


ここにいるのだし、それなりにゴールドを持っていることは判明している。

大方、貴族の子供やらなんやらで、小遣いもそれなりに持ってるだろうなどと考えているのだろう。


態度も雰囲気もあからさますぎる。

子供だから舐めてるのもあるのだろうが、そもそも子供を食い物にしようとしている時点で、こいつらの実力の底も知れるというもの。


「坊や。こんなとこまで来て。お父様と?」

「いや、俺一人だな」

「あら。自信ありげね。私も気合入れなきゃ」

「お手柔らかに……」


手札オープン。

…………………びみょー……


「ボキからなんだな。三枚なんだな」


ぶくぶくと太った20代くらいの男性がぽいっとカードを捨て、素早く帰って来たカードを手に取る。


その後もみなさん、特に悩むこともなく、さっさっとカード交換を終えて。

四番目。いよいよ俺の番である。


記念すべき、最初の一手。



「ノーチェンジ」



きっぱりと自信満々に言い切った俺の周りで動揺が広がる。


「あ、あらあら。すごくいい手のようね。怖いわぁ」

「それほどでも」

「では、賭け金のターンへ移行します」

「手始めに、1万ゴールド追加なんだな」


若干上ずった声でレイズしてくる男性。

つーか1万かよ。あんまり手札振るわないのか?


「では私は、100万ゴールド追加ですね」


ホイホイ。50代くらいの髭おじさんは100万ゴールドね。


「私は勝負かしら」


あんれま。もう終わりかい?

たった100万ぽっちでか。まぁ始まったばかりだしね。


そんなこんなで俺の番か。



「賭け金レイズ。1億ゴールド」



もはや言葉もないのか、しーん。

さぁこいやぁ! カモーン!


「だ、ダメだ……降りたんだな」

「くっ……今は少年に勝ちを譲りましょう」

「私も降りね」


来ないとは思ってたけど、悩むそぶりもなく捨てるとは、だいぶ降りに慣れてんな。


「ほい手札オープンね」


ぱらっとカードを公開。

スペードのエース・ハートの4・ダイヤの2・スペードのジャック・ハートのキング。

そのカードが示す役の名は。


「ブ・タ」

「「「「なっ!?」」」」


扱いやすいなぁ。

手札ノーチェンジで、賭け金をそれなりに釣り上げるだけでこんなに簡単に勝ちがもぎ取れる。

こんな手札で。


てか、色々と顔に出過ぎだよあんたら。ポーカー向いてないとは言わないけどさ。

もう少し練習したほうがいいよ? ポーカーフェイス。


「…………………………さて、舐めプはそろそろやめにしないか? ガチでこいや」


三人から初めて、殺気のようなものが当てられる。怒り心頭だな。

どうだ? ん? カモだと思っていた小僧にいいようにしてやられてアホさらけ出した気分はどうだよ? え?

ねぇ今どんな気持ち! ねぇ今どんな気持ち! プッギャー!


《ますたー……》


不安そうなアオの声が念話で届けられる。

ここでアオを出すとまた一悶着ありそうなので、通信を起動してこちらも言葉を送る。


(心配すんなアオ。ますたーは無敵だぜ?)

《でも》

「この世界は金が全てだ。強者が金を持つんじゃない。金を持つ者が強者。金を持つ故に強者なんだ。そして、力ある者に金は集まる」


ここはあえて声に出した。

意味が理解できない人たちにも、なんとなーく雰囲気で察してくれそうな言葉で。


アオはおそらく、初めての『力』で対処できない状況に不安を持っているのだろう。

だが、心配はいらない。


(教えてやるよアオ。『力』ってさ。別にステータス数値だけに限った話じゃないんだわ)


練習して。ただ考えて、慣れて。ひたすらの反復練習は、なによりも固い力を生む。

それは筋トレに限った話か? そんなわけはない。

俺だって頑張ったさ。何度この国に来て、NPC相手に練習しまくったと思う。

俺は必死だった。尋常じゃないレベルで。


「お見せしよう。キチガイとルビを振るに相応しいソロプレイヤー達に、そりゃあもう悪質に、悪辣外道を極めし方法の数々で巻き上げられまくった男の実力を、いや」


一度言葉を切って、屈託無い笑みを浮かべて続ける。


「お見せしよう。随分といやらしい奴の多いEGOプレイヤーの中でも特に突出した、裏を突き通し続けることに全てを費やすBAN様(ガチキチ)プレイヤーと、最後まで戦いぬいてきたプレイヤー。【 最弱な最強たち(スライマー) 】の実力を。とくとご覧あれ」


--- --- --- ---


6巡目


「しょ、勝負なんだな!」

「フラッシュ」

「ぎょぴー!」


15巡目


「ほっほっほっ。まだまだ若いものには負けませぬぞ」

「ストレートフラッシュ」

「ぶげらっ!」


23巡目


「来た! 来たわ! ふふふっ……覚悟なさい坊や。全賭け! オールインよ!」

「ファイブカード」

「あんぎゃぁぁ!」



数時間に及ぶ激戦(笑)

三人からありったけ巻き上げて、三人は口から魂を吐きながら生ける屍と化しテーブルに突っ伏していた。


「お疲れ様」


席を立ちマナーである言葉を投げかけ、ばっと身を翻しテーブルから背を向ける。


悪いね。最初の一手から、俺がこの台の主導権を握らせてもらったよ。


こちらを見ながら顎がカクーンしてる人たちに一通り視線を送る。

全員から目をそらされた。


ま、ずっとポーカーするのもあれだしな。

散々巻き上げてちょっと重さが増したように感じるプレイヤーバンクを手で玩びながら。


鼻歌交じりに出口へと歩を進める。


「次、行くぜアオ。この調子で、じゃんじゃん勝つ!」


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