信じられないでしょうけど、システムの存在です!
アオに大体のことは話した。
よくわからなかったり、混乱することもあったが、どうやら理解できた様子だ。
「さて。今回のことに全く無関係ってわけじゃないから、目的地についての話もしたいんだけど……取り敢えず今はやめとこう」
後で歩きながら話せばいいさ。
急に大量の情報を与えても、脳の整理が追いつかない限り意味はない。
ほとんどがアオの胃袋の中に収まっているので、簡単に身支度を済ませられた。
「一日だけだったが……ありがとうございました」
扉を開けてから、一度振り返り家の中に一礼する。
それを見ていたアオも俺にならい、ぺこりと体を動かした。
「行こうか」
ガラガラと扉を閉める。
集落から旅立つ時だ。
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「それじゃ、お世話になりました」
集落の入り口に足を運ぶと、すでに皆さんが集まっていた。
本当に短い時間だったからしっかりと把握できてはいないが、集落にいる人全員が集まってきてくれているらしい。
そのことに嬉しさを感じ、笑顔でお辞儀をする。
「もう、行ってしまうのかのぉ」
「はい。あんまり長居して、迷惑をかけるわけにもいきませんので」
「んだべその喋り方。気持ち悪いべ」
「お前とは話してないぞ?」
にっこり。
「ひ、酷えべぇ!」
「これガウィン! もう少しいてくれても良いのじゃが……。食災のお礼も」
「お礼なら、昨日の夜の宴で十分ですよ。とても、ええ、とても楽しかったですから。大丈夫。また会えます。米が足りなくなったら、また来ますよ」
「いつでもきてくれたまえ。歓迎するからの」
米も大量にもらっちゃったし。
皆んなが次々とお土産にってくれたけど、こんなに貰って大丈夫なんかね。
今はアオの胃袋の中にしまってあるが。
「えぇ。それじゃ。またいつか」
手を上げてくるりとその身を翻し、集落の入り口を出る。
後ろからは、未だ見送りの声がこだましていた。
「また会うときを楽しみにしてるべよ〜」
「悪い大人に騙されるでねーぞー!」
「元気でなー!」
「あの家ー! お前にやるだぁー! だからちゃんと来るべよ〜」
「ユベルくーん! だーい好きー!」
なぁにぃ!
今聞き捨てならん声を聞いたぞ!
ばっと後ろを振り返ろうとして、肩に乗っているアオに阻まれる。
「アオ……わかってくれ。男には、行かねばならない時があるんだ」
《だ〜め》
「くっ、止めるな。俺は、あれを言ったのが誰か、把握しなければならない義務というものがあるんだ。どうして求めるというのなら、力づくであっふん!」
今、なにが起こった……
なにも、わからなかった。
わかったことといえば、今俺の目の前の景色が真っ青な晴れやかな空であることから、俺はぶっ倒れたということくらいか。
「いててて…………あれ、起き上がれないぞ? …………あれ? ……ちょ、嘘でしょ? あれ? おーい! アオさーん? 怖い! え! なんなのこれ! まじ動けない! ちょっとぉ! この俺を縛ってるもんなに! おーい!」
アオにずりずり引きずられながら、集落を後にするのだった。
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「ふいぃ……やっと解放された……で、アオ。昨日の話、どれぐらいまで理解できた?」
《ぜはっ…………げほっ……はぁはぁはぁはぁ……》
「疲れるなら何故する……ほら、水。水分補給はこまめにな。ほれ、こっちこっち」
ぽんぽんと腹を叩いてからすっと両手を前に出す。
そこに飛び乗ってきたアオをがっしりキャッチ。
したかと思ったらニュルリと逃げられ、すっぽりとフードに収まった……
がーーーーん!
「な、なんで、フードに?」
お、俺の抱っこに飽きたの?
フードに乗り換えたの! そんな! 信じてたのに!
「ご、ごほん……落ちつけぇ俺。で、もう一度聞くけど、どこまで理解した?」
《ますたーは昔、アオとは違う女の子を、複数、それもいっぱい、侍らせて。その中の一人に、とても特別な感情を抱いていたと。そこまで》
「あれぇ。気のせいかな、言葉に悪意を感じるよ? なんでそんなに強調するところが危ないの? 誤解生みそうだよ?」
《え? 完璧に理解してるでしょ?》
「言い方! 言い方を考えてくれ! てゆうか、言い方考えただろ! 考えてわざとそうゆう言い方にしただろ! 特別な感情って、ゴールドは、一番最初にテイムしたエネミーで、一番一緒にいる期間が長かったから、愛着がより強かったってだけだから! 誤解を生むような言い方にするのはやめて!」
くっそー。
フードに向かって声を荒げると、首痛えーー!
《その子はさぞかし可愛かったんでしょうね》
「だからなんでそういう……まぁ、可愛かったけど……」
《…………どーせ、綺麗な人だったんでしょ》
「綺麗? うーん……あぁ、確かに(あの金色は)綺麗だったな」
ポンと腕を叩いて正直に言う。
首が曲げられなくて、アオを伺うことができないのがすごく辛い。
《………………うぅ……わ、私より、強かったり》
「そりゃあなぁ。レベルもアオの数倍あったし。雑魚ノ反逆の先駆者だから」
《…………………………ふぇぇ…………ま、ますたーは、その人のこと、す、すすす、す、好き、だったの?》
「勿論」
《うわぁーーん! 知らないもん! ますたーのばかぁ! あほぉ! 浮気者ぉ!》
げしげしげしげしげし!
「いていていていていていていていていて!」
あああああああああああ!
アオさーん、フードから後頭部を連打し続けるのはやめてくださささささぁーい!
頭がガクガク揺れて気持ちわり〜!
「や、ややややめめめめてぇぇぇぇぇぇ」
《ますたーのえっち! へんたい! 見境なしぃ!》
な、し、失礼な!
「見境なしなんかじゃない!」
《…………ぐすんっ……じゃあなんなの?》
「俺はスライムがみんな好きなんだ。平等主義者だ」
《それを見境なしっていうのぉ! てゆうかさっきより酷くなってるぅ!》
そして再開する後頭部げしげし攻撃。
何故だ! 解せぬ!
揺れる脳みそ。
やべぇぇぇえ! 脳みそがシェイクされる〜、記憶が飛びそー!
《どーせ! どーせぇ! アオなんか! アオなんか! ゴールドさんの足元にも及ばないお子様ですよーだ! 背伸びしたお子ちゃまが魅力的な大人の女性に勝てることなんてできないんだよぉ〜! このままアオはずっと二番! ゴールドさんに勝つどころか、その二番すら怪しい状況…………うぇぇぇ〜〜ん》
「待て待て落ち着け! もともとゴールドは喋れなかったし。俺の指示に従って、あとは俺の後ろをついてくるだけで、ろくにコミュニケーション取れなかったし。そりゃ特訓してた期間が期間だから、アオより強いし、アオより優れている点だって多いかもしれないけど! それでも、アオがゴールドに劣ってるだなんて思ってない! あるよ! アオがゴールドに勝ってるところ!」
げしげしが止まったかと思ったら、今度は泣きが入り出したアオを必死でなだめる。
《……ぐすん……ほんとぉ……》
「まじまじ! だから泣きやめ、な?」
《たとえばぁ……?》
「例えばか。そうだな……まず、知性がちゃんとあるところだろ? これのおかげで俺たちはこんなふうに会話ができて、コミュニケーションが取れているわけだ。あと、喜んだりしてくれることかな。俺が何か良かれと思ってしたことに、アオが本当に嬉しそうにしてくれる時、俺すげー幸せでさ。やってよかったって思えるんだ。あと、アオがちゃんと自分ってものを持ってくれているとこだ。機械的に、『次はどう致しましょう、マスター』とか、感情のこもらない声で言われたら、今の俺のアオに対する感情はなかったと思う」
まだまだあるとも。
舌がいい感じにあったまってきたところで全てを語ろうとしたが、ぼてっとアオがフードから落下したせいでキャンセルされる。
「お、おいおいアオ。大丈夫か?」
こんな高さで落下したところで、傷一つどころか、HP1削ることもできないだろうが。
心配は心配だ。
この何気無い地面のほんの数メートルの範囲だけ、落下したら即死という特殊能力が付加されているという偶然も、無きにしも非ずだからな。0.001%ぐらい。
《ふ、ふみゅう……は! ま、ますたー! えと、その、み、見ないで!》
「はぁ?」
《だから見ないで!》
そっぽを向いて地面にグリグリと体を押し付けるアオ。
見ないでと言われても……
「なんだ……? え? まさか、照れてんのか?」
《て、照れてないもん! 赤くなんかなってないもん!》
「いや、赤くなってることは背中を見るだけでわかるけども……」
《〜〜〜〜〜〜ッ!! うぅ〜〜ますたーのえっちぃ! へんたい!》
褒めても変態扱いですか!
「どうしろっつうんですかね……」
《取り敢えず見ないで!》
「なんか釈然としないので断る」
《あっさり断られた!》
コントかよ……
なんか俺、アオが恥ずかしがるようなこと言ったかね
はぁ……最近慣れてきたかと思ったら……やっぱ女の子の考えることはよくわかんねえや。
「そうだ。目的地なんだけどな」
《……でも、うん、今はそのゴールドさんもいないわけで、つまり、アオしかいないわけで、だから、アオ一番。うん。アオ、大勝利。うん》
「話聞いてる? 次の目的地、遊戯の国『デキウス』でなんだが……」
《デキ、ウス?》
「あぁ。RPGでお馴染みの、いわば、カジノの国だ。金が面でも裏でもバカみたいに回ってる。少しリスクの高い稼ぎ方や、VRでカジノが楽しみたいプレイヤー達に人気だった」
かくいう俺も週一くらいのペースで遊びに行ってたんだが。
「その国のオークション会場に、なにやら変なアイテムが近々出品されるらしい」
《そのアイテムが、今回の目的?》
「そういうことになるな。で、変なのはそのアイテムネームなんだが」
《アイテムネーム?》
エンジンで、ベヒモスを倒した俺に会いにきた王都の奴らがくれた情報。
「アイテムネーム《Immortal ruin Dragon》」
その名前を聞いた時、俺はなにを考えることもなく、行かねばならないと決心した。
《イモータル・ルイン・ドラゴン……》
「普通のエネミーのドロップアイテムには、そのアイテムの特徴が名前に現れて、エネミー自身の名前がそのままアイテムネームになることはないんだ。普通はな」
そう。この話にはただ一つ、例外がある。
俺はしたことのない。というか、俺の場合まずやる必要のないことだったのだが。
だが、その例外は、この世界では。
絶対にありえないことだった。なぜなら
「エネミー・システムメニュー。『最後の忠誠』」
自分のテイムされたエネミーを、飼育するシステムメニューにそのようなものがある。
自分の育てたエネミーを、そのエネミーの特徴にあった、その強さと同等レベルのアイテムに変化させるというコマンド。
そう、それは、消えたはずの。
もうこの世界には存在しないはずの、『システム』でのみ行える物だった。




