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信じられないでしょうけど、こいつは酔っ払いの捕食者です!


「ユベル殿、アオ殿よ。改めて、ワシらの集落へようこそ。上等なものとは口が裂けても言えませぬが、ワシらにできる精一杯のもてなしをさせていただこうと思う。あー! 皆、盃は持ったかのー!」


盃というか、俺含めガキどもはブドウや果実から絞ったジュースだが。


「では。宴始まりの宣言をここに! せーっの!」


元気な、じいさん。


「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」


と、元気な奴らだな。


「かんぱい」


俺のジュース入りグラスを、高く掲げられた木製のグラスやらおちょこやらに、ガコンッと叩きつけ、中身が少し溢れた。


「良い盛り上がりじゃ。ユベル殿、アオ殿。是非、楽しんでいってほしい」

「えぇ。ありがとうございます」


宴の始まりである。


--- --- --- ---


「よっ、ほっ、っと、失礼〜。…………ふぅ……」


人垣をかき分けて、人の集まっているところから離れた、少し暗いに座り、一息つく。


「主役が、こんなところで何やってんだべ。乾杯したなら、盛り上がるべよ」

「あぁ。あんまこんな機会なかったからな。ちょいと混ざりづらくて……ここはいつもこうなのか?」


中央の巨大なキャンプファイヤー。

それを中心に円を作って踊ったりしている人たちがいる。


電灯はおろか、提灯すらないこの集落。


もう7時を超えているであろう暗さだが、炎の明かりは闇を吹き飛ばし明かりを届けている。


「なんとゆうか……ありがとうな。こんな歓迎してくれて」

「礼なんてよすだよ。オラ達がしたくてしてることだべ」

「アオも喜んでる。な」

《楽しいね〜》

「ははっ。そだな」


ソロプレイヤーだったから、特大イベントクリアのギルドパーティーとか、経験したことないからよくわからないけど。


俺は基本、楽しめる奴だ。


「で。俺のフードの中にぴったりフィットして動こうとしないアオちゃんは、一体何を飲んでるのかな?」

《え〜。ただの甘〜いジュースだよ〜》

「こぼれてるこぼれてる」


へにゃりとだれているアオは、傾いたグラスを胃にも介せずダラダラと中身をぶちまける。

えへっ、えへへへっ。とほんのり赤くなり笑いながら。

あーあー。

俺のお気に入りフードがべちゃべちゃだぁ。


お、と思った意外と汚れてない? ていうか全く汚れてないぞ?


あ、そっか。思い出した。『自動洗浄』アビリティ持ちだったなこのパーカー。


「はぁ……こんなアルコール臭いジュースがあってたまるか。いいか、アオ。確かにこっちに飲酒の法律はないかもしれん。だがな、よく考えてみろ。なぜ、未成年は飲酒してはいけないと思う。 子供だから嫌がらせがしたかったのか? 大人と子供の違いをはっきりとわからせるためか。いいやそんなのではない。子供の体が酒、ひいてはアルコールを分解できるように発達しきっていないからだ。心身ともに成長しきったと考えられる入口が、年齢的に、二十歳。なにより早めの飲酒は体に良く無いし、気分が良くなってもそれは一時的であって、それが抜けたら今度は気持ち悪さしか残らないんだぞ? だからこそ、スライムだから体の構造は少なからず人間の子供とは違うとは言え、まだ一歳なんだから、飲酒は控えるよう……」

《えへへ〜美味しいな〜……てあれ、無い……ますたー……おかーりぃ〜……》

「おい泣くぞ! 控えるようにぃ! てか飲むな! おかわりじゃねぇ! 話を聞こう! なぁ! 頼むから!」


痛む頭を抑えながら、必死に説得しようとしてるのに……こいつはぁ……

これだから酔っ払いは嫌なんだ……


《ますた〜……おかわり〜》

「いけません。それ以上駄々こねるようなら、また気絶させるぞ」

《あそ〜だぁ〜。ねぇますた〜、今度はお口でしよぉ〜よぉ〜》

「ごめんなさい! 俺が悪かったです! 勘弁してください!」


うわぁーん。何なんだよぉ〜、もう嫌だ!


あ、コラ! てめぇ、なに逃げようとしてんだ!

さっき主役なんだからと俺を輪の中に叩き込もうとしてただろうが!

さっきの威勢はどうした? お? 逃げてんじゃねぇよ。

顔を青ざめさせても許さん! なんだその愛想笑いは! 同情してるのか!


同情なんざなんの気休めにもならんわ! 同情するなら助けて、それが無理でも助けを呼んできてくれ! つうか呼んでこい!


《ますたー……ますたーは、アオのこと好き〜?》

「あーはいはい。大好きですよぉ〜」

《えへへ。アオもだよ〜》


うっ……

やばい、ちょっとどきっとしてしまった。


「そ、そうかい……」


飛び跳ねそうなほど嬉しい! が、それを表に出さぬよう平然を装う。

これが素面でアオが言ってくれたセリフなら、飛び跳ねて、全力でジャンプして、大気圏を超えたあたりで全力ガッツポーズして、振り上げた拳が惑星に突き刺さるぐらいのことがあってもいいが。


勘違いするな。アオは酔ってるんだ。

酔って、正常な判断ができなくなっているだけなんだ。


だから、夢を見るな! 俺!

意思を強く持て! 何者も侵入を許さない、『人間要塞』の底力を見せてやるんだ!


《ますたー、いい匂い〜》

「きゃー! この変態!」


生娘のような叫び声をあげる俺。


《すんすん……するり……》

「こらこらこらこらこら! さりげなく服の中に入ろうとするんじゃない! 毎度毎度心臓止まりそうになるからやめなさい!」

《ほわぁ〜、匂いに包まれてる〜、はー、しゃあわせ〜〜。ぺろぺろ》

「うわわわわぁ! やめ、やめろって! 俺は食いもんじゃねぇから! 美味しくないから!」

《へ? 美味しい、よ?》

「マジかありがとう! ってそうじゃねえよばっきゃろー!」


もうこうなったら俺も酔ってやろうか。

あぁ……いやでも……ほら、俺はまだ六歳だし……べ、別にチキンじゃねぇし。


「ユベルさ〜ん。そんなところに一人でいないで〜」

「私たちと〜」

「楽しく飲んで、お喋りしようよ〜」

「ええ。喜んで。ははっ。アオ。痛い痛い。噛まないで噛まないで」

「えぇ〜、アオちゃ〜ん? どこぉ?」


この人達も酔ってんのかよ……

酒弱いなら飲むなよな全く。


いや〜、酔って着崩している女性複数に一緒に飲もうと誘われて、ほんの少ーし我を忘れたが。

腹に走った鋭い痛みで否応なしに現実へ引きずり戻された。


でも、色ぽいなぁ……

もっと飲ませたら、どうなるんだ


「痛い痛い痛い痛い痛い! 腹がネジ切れるぅ! いくらDEFが高くても、高威力な攻撃が持続的に続けられればその痛みは少しずつ貫通してくんの!」


アオのやつ、酔っ払ってリミッター効かせてねぇな。


「わかった! わかったよ! 噛むのやめなさいってば!」


はぁ……しゃあねぇ。今回は酔っ払ったアオの相手に努めるか。


「ほれ。これはジュース。飲みな」

《あーん》

「はいよ。あーん」

《んっく。んっく》


飲むものにあーんなんてあるのだろうか。

ビミョーなラインだな。


「皆さんも、あんまり飲み過ぎは良くないですよ」

「大丈夫よぉ〜、わらしよっれらいも〜ん」

「ろれつが回らない口で何言ってんすか。大体ですね、強くないならいくら好きでも量を……」

「キャァァァァァァ!」


どこからだ!


叫び声が上がったのは、キャンプファイヤーの辺りである。


人たちが走り回り、その場がパニックに陥っていることが一目でわかる。


「すみません。皆さんは安全なところへ。俺は行ってきます」

「ちょ、ユベル君も……ってきゃあ!」


『ジャンプ』発動!


バボンッ! ヒュゥゥゥゥウ……


軽く真上にジャンプしただけで、キャンプファイヤーの位置から遠のきそうになった。

まだまだ練習が足りねぇなこのアビリティ。


やっぱ。なんかいるな。なんだ? あのでかい影。


…………ザン!


「ゆ、ユベルだべか!」

「なにがあった!」

「森のエネミーだべ。こんなに早く起きてくるとは思わなかったんだべ!」

「なにが!」

「食災だべ!」


食災?

おっさん達が指差す方向に目を向け、検索を行使し気づく。


「成る程ね。《Eater Bear》。イベントぶりだな。歩く食災」


見上げるほどの巨体熊。ベヒモスの三分の一といったところか。


レベルは982。

ま、それなりに強敵ってところだろう。普通の人から見れば。


「皆んな! ぶ、武器を持つべ!」

「馬鹿野郎! 不測な事態に備えて、あれほど飲むなと!」

「う、うるさいべ! この辺のエネミーなら大人しいし。食災だってまだまだ起きるのは先だと思ってたんだべよ!」


ま、皆さんレベル100越えがあんまいないですもんね。

1000近い相手と戦うのはキツかろう。


《わぁ〜。おっきなくまさんだ〜》

「食災。ソロで攻略したっけ。報酬もあんまり振るわなかったんだよなぁ。なぁアオ」

《なに〜》

「あれ、食べちゃってもいいよ?」

《いってきま〜す》


ぴょこんぴょこん、ぽて!

ぴょこんぴょこん、ぽて!

ずりずり。


「あーもー、可愛いなぁ! そーれ行ってこぉーい!」


少し動くたびに転んでは起き上がるアオを見ていると動画が撮りたくなってくるが。

今はそんなこと言ってる場合ではないので、アオをがっしり掴んで放り投げる。


「ゆ、ユベル! なんとことをするんだべ!」

「食災。どうせ、この集落の米を荒らすから、そう言われてるんだろうが、言葉負けもいいとこだ。ま、前EGO時代では、単なる設定だったのかもしれないけど」


あんぐりと口を開けた熊の口は、アオぐらい余裕ですっぽり入るサイズだ。

対してアオの口は、小さな石一つ入るかどうか怪しい小さなものだ。


「ユベル!」

「うるさいなぁ。本当の食災(・・・・・)ってもんを見せてやるよ」


ニチ……ニチニチ……がぱぁぁぁあ!


「「「「「「な!」」」」」

「喰え。アオ」


バツン!


一瞬ぶれた熊の姿は、何か千切れる音とともに跡形もなく消滅した。


「言葉だけの食災が、真の捕食者に勝てるわけがないだろう」


静寂が支配する世界で、俺の言葉が嫌に鮮明に響いた。


そして次に湧き上がる、拍手喝采の音。


「スゲェェェェェエ! アオちゃん、スゲェェェェェエ!」

「真の捕食者だべ!」

「ユベル達、常識はずれすぎるべよ……」


はいはい。ありがとありがとう。


「お疲れ。アオ」

《ますたー、はいこれ〜》

「こ、これは……」


アオが差し出したのは、熊の生首……。


ドスンと出されたそれに、頰がピクつく。


そこには、獲物を狩ったことをご主人様に褒めて欲しいとする中堅の姿が。


くぉぉお……純粋な日本人にこれはきっつー!

ゲームシステムがない今、ポリゴン状に爆散するなんてことはない。

ちゃんと肉が残るのだ……

それはわかってるんだけど……


《う》

「う?」

《うへへぇぇぇん! えぇぇぇん! ますたー褒めてくれないよぉ〜。えぇえーーーん!》

「な、泣くなよ。え、う、どうしろって……あぁもう! これでいいのか!」


ガシッと掴んで胸の中に押し付ける。

ちょっといつもより強く、ガシガシと撫でて、落ち着かせてから、少しずつ力を弱めていく


《嬉しい! ますたー》

「お前……本当に酔ってんだろうなぁ……」

《すぅ……すぅ……》

「……寝てます、か。たぁっく」


お疲れさん。

酔っ払いはゆっくり寝なさい。

捕食者様。


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