表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/198

信じられないでしょうけど、お腹いっぱいです!


バシャ!


「ごぼっ! ぶはぁ! な、なにしやがんだ!」

「お、目覚めただか」


ゲホッ。なんで俺は水攻めにあってるんだ?

俺が何かしたってのかよ。


「もうそろそろ夕方だべ。飯の準備が始まるべな。そろそろ起きとくべよ」

「ん。あ、あぁ。悪い。ありがとう」


部屋を立ち去る魔族の男性にお礼を述べる。


つ、あぁ。頭は冷えた。

あのままずっと気絶してたのか。

起こすにしても、もう少し平和的な起こされ方がよかったもんだ。


例えば、色っぽいおねぇさんが、優しく揺すって起こしてくれるという。


《ますたー。起きて早々、夢の世界がお望み?》

「やぁアオおっはよう! 今日も1日元気にイコー」

《もう1日が終わるよう》

「時が経つのは早いのぅ」

《ごまかした!》


--- --- --- ---


自由に使ってくれて構わないと言われて案内されたという家。

木造で、狭いながらもしっかり噛ませて造られており、頑丈そうであることはわかった。


寝起きで辛い意識を半ば無理やり覚醒させ、外に出て光を浴びたところで、出待ちしていた魔族達に一気に囲まれる。


「起きたべか!」

「すっげー! まだアオのやつユベルさんの腹にくっついてるぜー」

「ひゅーひゅー」


ガキども……


「いやー、観てて楽しかったべ」

「てめーらあっさり俺のこと見限ったよなそうだよなぁ。あの仕打ち俺は忘れねーぞ」

「細かいこと気にすんなべ」

「でかくならんべ」

「はげるべ」

「よーしてめーらそこに一列に並べ。一人一人キン○マ殴り潰してやる」


調子いいことを言って肩を組んでくる男達に、コキコキと指を鳴らし見せつける。


俺のスーパーストライクをお見せする時が来たようだな。

対男専用のこの一撃。


コキコキコキ……


敵は一瞬のうちに、沈む!


ゴキンッ!


「「「「「「逃げろ!」」」」」」

「逃すかぁあ!!」


拳を握る音がやけに響いた。


感心するほどの方向転換の後、蜘蛛の子を散らすように泣き喚きながら走り出す魔族達。

俺がそれを、ただ呆然と眺めていたとでも?


獲物を逃すようでは、一流のハンターではない。


一人残らず、駆逐してやる!


「あらあら。起きたばっかりだっていうのに元気ねぇ」

「子供はそうでなくっちゃ」

「アオちゃんのますたーちやん。普通の子供とはちょっと違うみたいだけれど」


ビタッ!


「いやー、どうも。マドモアゼル」


キラキラキラキラキラーン。

男なんてむさい生き物を追っている暇はたった今なくなった。


流れるような動作で女性たちの前に片膝をつき、バッと片手を差し出す。


「あらあら」

「お上手ね」

「皆さまのような美しい方々に噂をされたとあっちゃぁ、声をかけずにはいられないでしょう。それにしても、これは、花の香り、ですか?」

「あら? わかります? ちょっとおしゃれしてみまして」

「お嬢様のような、おっとりおしとやかな女性にぴったりですね。落ち着くような……つい、あなたを目で追ってしまう…………」


…………はっ!

やばい! また(・・)やってしまった!


我に帰り、くらっと目眩がする。

現実逃避に意識を手放そうとするが、ぐっと我慢。


気を抜いてしまっていた! 副作用がこない! 心臓は平常運転だ!


この俺の()

どうにかなんないのかなぁ!

ナンパにしてもあからさますぎる! 大人の女性を見ると口説き始めるこの口、いますぐ縫い合わせたい。


「キャッ。嬉しい」

「え……」


な、なんだ……この反応……

ま、まさかの、脈、あり?

見た目20歳前後。おっとり清楚な感じで、ちょこんと乗った巻きツノが実に似合っている。


こ、この癖。そういや、こういう時もあったっけ。


でも、あれ……? こんないいことがあるってのに、俺はどうしてこの癖が嫌いなんだっけ。


なにか、なにかぁ……理由が


《ま〜す〜た〜〜。ぬわ〜に〜を〜、し〜て〜る〜の〜か〜な〜?》




よーくわかりました。


これ、トラウマと重なるんだ……


懐かしきは全EGO時代。

まだ新米プレイヤーだった頃の俺が、頭のおかしいキチガイ。

その名《Mirukuru》という女性プレイヤーに、無謀にも今のように声をかけ


女性という存在を一時恐怖の対象でしかみられなくなった経験がある……。


それ以降、喉元過ぎれば暑さどころか恐怖も忘れるのか、すっかり平気になった俺は、ちょうどその時癖が始まって。


気づけば脂汗を流しながら、ガクガクと生まれたての子鹿のようになった俺がいた。


たった今! ちょうど胸の下あたりから感じるアリエナイまでのプレッシャー。


これがあるから! 俺はこの癖が大っ嫌いなんだぁ!


「……誤解です……」

《そんな諦めきった顔をしても、許さないよ?》

「せめて、やる気ではなくても、殺る気はなくしてくれたらなって……」

《その、差し出された腕の行く道によって、話が変わるかも》

「こう?」

《ふぅーん》


なぜ!

手が気に入らないのかと思って、おねえさん達に差し出していた手を引っ込めて、パーカーのポケットに突っ込んだのに。


最近アオ怒りっぽいよ。

声のトーンを落とさないで、可愛い声だから、余計怖い!


女性陣はスススーっとアオとの空気を読んで、その場を離れる。


「なでなで」

《ふにゃ》


パッ


《む》


なでなで


《ふにゃぁ〜》


パッ


《あぅ》


だぁーーーー可愛いなぁコンチクショオ!!!


まだ時間あるし、もう一回家に戻って、アオと遊ぶ時間をとろう。


「なぁアオ」

《なに?》

「ずっと俺にひっついてて、疲れないの?」

《疲れないよ? ますたー寝てたし》

「寝てる間中ずっと腹の上にいたのか……寝返りとか大丈夫だったか?」


まぁアオのスライムボディなら、今の俺の体重くらい余裕で支えるだろうけども。


「はぁ……よっ」


絶対に離れないぞ〜と態度で示すようにピットリ張り付いているアオ。

ポケットにしまったばかりの手を出して、アオの下に手をやり、ぽんぽんと叩く。


《…………や、やっぱり、……ちょっと、疲れたかも》


……ぺりぺり…………すとん。

俺の手の上に落ちてきたので、それをしっかりとホールド。

抱っこの形である。


「さっきはからかっちゃってごめんなぁ」

《わ、わた、私も、その、ぶつかっちゃって、ごめんなさい》

「つい可愛かったもので」

《ま、ます、ますたーは、すぐ、そーやって!》


はははっ。


「はい着きましたよっと。おっちゃんには悪いけど、また呼びにきてもらいますか。おっ邪魔しまーす」


ガラガラ、ピシャッ!


「よっこいしょ……ふぅ……」


どっかり畳の上にあぐらをかいて座る。


《ますたー……》

「ん?」


膝の上に乗っかって、俺の見上げてくるアオ。


《ますたーは、私が……アオが、スライムだから、アオのことを可愛いって思うの? スライムだから、アオのこと……好きなの?》

「違うけど?」


スッと自然に出た回答に、自分自身驚く。

そんなつもりはない。だが、スライム大好きは俺の存在定義みたいなもんで。

ほんの一部にしても、その部分は無きにしも非ずと思っていたところが、小さく心の片隅にあったはずなのだ。


自分自身で驚くほどのことをして、初めて気づく。


ほんのコンマ数秒の空きすらなく、ごく当たり前のように出た答え。


それが、本当の答えなのだと。



「俺がアオのこと大好きなのは。アオがスライムだからじゃない。アオが、アオだからだよ」


当然だ。それ以外になにがある。

確かに俺はスライムが大好きだ。

アオを好きになるきっかけだって、スライムだからだったかもしれない。


でも今、アオのことが好きなのは、アオがスライムだからじゃない。


アオが、俺のことをますたーと呼び、嬉しそうにするアオだから。


俺は大好きなんだ。


「ま、アオのスライム部分だってもちろん好きだよ? この瑞々しくてぷにぷにで、食べちゃいたいくらいだ」

《ふええ!》


アオはしばしコロコロコロコロ転がって。


《よし!》


唐突にムニョムニョと体の一部を変質させ始める。

少し時間が経つと形がだいぶ整ってきて

ぽんっと軽い音がしたと思えば、アオの体に、ピンク色の可愛らしいリボンが出現した。


「うわぉ……」


アオのやつ。こんなこといつの間に。

なんのアビリティ効果だろう。新しいアビリティでも取得したのだろうか。


《じゃ、じゃあ。ますたー。さ、冷めないうちに、ど、どど、どうぞ》


恥ずかしそうにもじもじし、ふしゅ〜と湯気を立ちのぼらせながら。

自分の体にリボンを巻いて、「食べても、いいよ?」と自らを差し出してくるアオに。


リボンが出現したことにすっかり感動し、それらに意識が向いていなかった俺は、必殺必中の一撃になんの受け身も取れずもろに心臓にくらった。


「ん、な、あ、お、おま」

《あ、でも、全部は食べないでね……アオ死んじゃう……ますたーともっと一緒に居たいから》


もはや声にならない叫び声をあげるユベルさんに、容赦なく追撃をかましてくる。

やめてー! いやでもやめて欲しくない!

でも! やめて欲しくないけど! やめてもらわないと俺が死ぬ! 俺こそ死んでしまうよぉ!


胸を握りしめごろごろとのたうちまわる。


「む゛お゛お゛お゛お゛お゛お!」


だめだ……食いたい……

でも食ったら、俺はその瞬間、天命を全うするだろう。


すでに限界を軽く超越しているというのに。

今度こそ萌え死んでしまう。


く、くそ、こういう時こそ、冷静になるんだ、俺!

テイムエネミーにしてやられてばかりでどうする!

マスターとしての、もっと頼れる存在にならなければ!


すぅ……ふぅ……


ふむ。落ち着いてきた……やはり、やられてばかりでは少しアレだな。よし。


据え膳食わぬは男の恥……


ちょっと意味合いが違う気もするが、そんなことはどうでもいい。


えぇい! 死なば諸共!

男ならその場で迷わずドンだ!


スッと、ゆっくりアオに顔を近づける。


《ふ……ふみゅう……》


真っ赤になりながら、ぷるぷる震えるアオに、さらに少しずつ顔を近づけていき。


――――――――――――チュッ。


《ふえ?》


軽く、キスをする。

勿論、ほっぺに


なんかもう、いろんな意味でお腹いっぱいである。


色々と満足した俺は、ぺろっと舌を出して。

未だ放心状態のアオへいたずらげに言った。


「ごちそうさま」

《ふぇぇ…………》


アオは気絶した。


「あ! ちょっと!」


やべえ! カウンターを返すにも全力すぎたか!


「おーい。飯の……って! 今度はアオの番だべか!」


あ! おっちゃん! 水はダメだぞ!

こんな天使みたいな寝顔を、水浸しにするわけにはいかない!


俺はなんだかんだで緩む頰を抑えながら、気絶して寝ているアオを膝に乗せ直し、俺も目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ