信じられないでしょうけど、俺のボケとアオのツッコミです!
「えーっと……なにがなんだかで、どうすりゃいいもんかね」
《さ、さぁ?》
向こうも向こうで、あれだけ騒ぎまくってたのに、ちょっと時間を置いたら黙りこくっちゃって。
じーっとこちらを伺っている。
テイム風にいうと、仲間になりたそうな目でこちらを見ている。というやつなのだが、まぁ違うだろう。
声をかけていいのかわからない、という感じだ。
わからんでもない。
俺のアオの鬼ごっこ観てて楽しかったかもしれなかったが、それをしていた者が悪意ある者だつたら?
迂闊に近づけまい。
「あー! 皆さーん! よくわからんが、この辺りに集落でもあるんですかねー! そうだったら、集落の近くで暴れてしまって申し訳なーい! 危害を加えるつもりはないし、すぐにここを立ち去るつもりだから!」
「だー! ちょっと待ってほしいだよー!」
うえっ!
えっと……方言か?
《待ってほしいって》
「そりゃわかるけどさ。アオの『言語理解』アビリティ、意外と便利かもな」
《意外とじゃないもん! ますたーとお話できるアビリティなんだもん!》
「あぁ悪かった! 悪かったって!」
アオのポムポム攻撃。
俺の疲れが吹き飛んだ。スーパーハイテンション。
荒ぶる俺のテンションは凍てつく波動でも消せないぜ。
「お、オラ達は! この近くの集落で生活してる、魔族なんだべ! 勝手に見てたことを怒ってんなら謝る! だから、少しでいいから話がしたいべよー!」
「なにを話したいか知らんが! 今は出来るだけ無駄な時間は省きたいんだ!」
「で、でも遊んでたべ!」
「アオにとっても、俺にとっても必要なことだからだよー! それとこの距離での会話そろそろやめなーい! 喉がいたーい!」
なにが嬉しくてこんな大声トークしなきゃならんのだ。
近寄って来る気ないならもう行くぞ、俺たち。
俺まだ動けないけど。
「わかったべ!」
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近くでこー見ると、やっぱ壮観だな。
こちらを歩み寄り、ザッと横一列に並んだ魔族の皆様と、俺は座ったまま会話をする。
魔族。
それはEGOでも『プレイヤー』が選択するレア種族の一つだ。
俺はノーマルプレイ、つまり人族を選択していたが。
他にも森人族や獣人族など、プレイするアバター選択には様々なレパートリーがある。
魔族は、身体能力が森人族以上獣人族以下。アビリティ適性が獣人族以上森人族以下って感じの、完全バランスタイプ。
エネミーとは違う、れっきとした人間だ。
因みに人族は、身体能力で全ての種族から劣る代わりに、アビリティ適性が無茶苦茶高い。
「へー。ここで暮らしてるのか」
「んだ。ユベル達はどうしてここに?」
「旅をしてる途中でな。今は目的地が決まってて。行きたい国があるんだ。行って、確かめたいことがある……」
「訳ありだべか……若ぇのに大変だなぁ」
「まぁな」
この辺りのマップは全て把握しているが、魔族の集落があるなんて見たことも聞いたこともない。
ゲームシステムがないこの世界ならではの部分といったところか。
「長旅疲れたろう。どうだ? オラ達の集落にこないべか? なにもないところだが、客人を泊めるくらいのもてなしはできる」
「いや……いいよ。結構はやく次の目的地に着きたいし、俺は別に客人なんて」
「まだ若ぇのに、遠慮なんてするもんじゃねえべさ! なぁみんな!」
「んだんだ!」「泊まってけよ!」「もっと話がしたいべ!」
おいおい、見た目に反して、凄く元気で明るい奴らじゃないか。
それでいいのか魔族。
少なくとも魔族プレイしていたEGOプレイヤー達は、でかいランク高めのダンジョンのラスボスを引き継いで、『魔王プレイ』とかしてたぞ?
魔王になると面白い特典が付くし、攻略に来たパーティーまるまる全滅させるぐらいのラスボス級ステータスが手に入る。
俺も一度戦ったことがあるが、『魔王化』と『ダンジョンパワー』、『傀儡エネミー』というアビリティが厄介だった覚えがある。
「うぅん」
「よし! 決まりだべ!」
おい! まだ行くとは言ってないぞ!
まるでもう集落に行くことが決定したかのような物言い。
魔族達が揃って声を上げる。
「久しぶりの客だべえ!」
「歓迎すんべ!」
「イムシ団子丸めてあるべのぉ」
「スライムちゃん抱っこさせて〜」
「さっきのは痺れただぁ〜! お前何歳だ?」
やれやれ……
《ますたー……》
「あぁ、折角だし。お呼ばれしていきますか?」
マップ未確認の新フィールド。
確認しないわけにもいかないしな。
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「紹介するべ。ここがオラ達の集落!」
「おぉぉ、こりゃ立派なもんだな」
別に家が特別な技術で作られてるとか、道が日本みたいに整備されているとか、人が多く賑わっているとか、そんなんじゃない。
なにが立派かって、田んぼが素晴らしい!
見渡す限りの田んぼ!
緑でキレーに縁取られて、あらゆるところでファッサファサ。
今が収穫時なのだろうか。豊作である。
「すっ……げぇ〜……」
「田んぼに興味あるだか? やっぱ変な奴だべ」
「ほっとけ。それよりなにつくってんだ! ここ田んぼなんだよな! もちろん食えるもんだよな! 米だよなぁ!!」
「よ、よく知ってるだな。うんだ。米だべ」
ガッ! (手を取る音)
「俺なんでも協力する! 食わせてくれ!」
必死になって懇願する。
日本にいるときは、毎朝白米であった。
別に、これと言って好きであったわけでもなく、逆に飽き飽きしていた面もあったくらいだ。
だが毎日食べていた。
今なら、今だからわかる。
この理由が、この世界に来てから、米という存在が全く認知されておらず、まさかこの世界には存在すらしていないのかと思い、初めて知ったのだ。
俺は米が大好きだったということを!
アイラブジャパーン! アイラブ白米ー!
俺は心で泣いた。今更気がついても遅い。もう、米はないんだ……と。
だが、目の前に。
希望が俺の目の前で輝いている。
これを逃していいのだろうかいやよくないいいはずがない!
「な、なんでそんなに必死なんだべ……頼まれなくても、欲しけりゃいくらでもやるだよ」
………………
シャアァァァァァーーーーーーー!!!!!
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「それにしてもあれは凄かったべ。ユベル、今何歳なんだぁ?」
「今年で六歳なり! と、何度言えばわかるのかね。オツムがちと弱いんじゃねぇの?」
「で、本当は何歳なんだぁ?」
「詐称してねぇから! 決めつけんじゃねぇ!」
確かに精神は結構歳いってるけども。
この肉体は紛れもなく六歳だよ。
ん? それって子供か……?
…………体は子供、心は大人。その名は、テイム・マスター ユベル!
「んだらば、なんでそんなに強いんだべか?」
「その強さの秘訣が知りてぇー!」
「お兄ちゃんすっげーべぇー!」
大人・子供に大人気だなおい。
アオはアオで
「きゃー! なにこの子可愛いー!」
「プルプルー」
「よしよーし。あ、逃げないで!」
《ま、ますたー》
女の子達に大人気だし。
突っ込んで来たアオをパフッと胸キャッチ。
俺の胸に飛び込んでおいで。
「どうした?」
《こわい!》
「知らない人とうまくコミュニケーションを取るのは、大人としての義務だぞ?」
《相手がこっちを大人として扱ってくれない! マスコット扱いだもん! もうやだ!》
「おーよしよし」
最近、どこを撫でればアオが気持ちいいのかわかって来た気がする。
ふっ……俺も日々成長していくものだぜ……
「あーん。逃げられちゃった」
「やっぱりますたーさんがいいのね」
寂しそうに、羨ましそうな目でこちらを見てくる女性陣。
アオが縋るように俺にひっつく。
その愛らしい姿に、ついつい俺のいたずら心が火を灯す。
こー、なんなんだろうな。いじりたくなるこの気持ち。男の本能なのだろうか。
「アオ。抱っこします?」
「「「いいんですか!」」」
「えぇ勿論。アオにも人に慣れて欲しいですからね」
口調を丁寧に、にこやかに笑顔を作る。
見る人によって見え方が変わるブラックスマイルというやつだ。
ちらりとアオに視線を送ると、アオは俺の胸の中で真っ白になり、カッチーンと固まっていた。
「ん。どうぞ」
「わーい」
少女にアオを渡す。
なんか、思いの外あっけなくぺりっと取れたな。
そ、そんなにショックでかかったか? ちょっと、やりすぎたかも……
「ん?」
少女は喜んでみんなの所に走って行き……
むにょぉ〜〜〜〜〜〜ん
なんだろう。この変な音。
何故だか、物凄く嫌な予感が……
何気なく、ゆっくりと俺の胸に視線を落とすと、青色の、まるでスライムのようなものが線みたいに伸びて……
バッ!
顔を青くさせながら急いで上に上げると、少女に掲げられるようにもたれているアオに、バッチリとつながっているではないか。
だらだらと冷や汗が滝のように流れ出す。
それを見た男性諸君は、何も言わずにそっと、俺の周りから姿を消した。
おい!
「あ、ちょ、ま」
今までなんの抵抗も見せず伸び続けていたアオの体が、俺と目があったからだろうか、明らかに目でわかるくらいにきゅっと固められた。
「あ、あ、あれ?」
ゴムのように伸びきった法則の力を、非力な少女の力で支えろというのが無理な話。
「や、やめ」
「ご、ごめんなさい!」
ついに耐えきれなくなった少女がパッと手を離し
シュッ………………ドボォ!
「カハッ!」
乾いた悲鳴が喉の奥で鳴る。
なってはいけない音が聞こえた気がするんですけど、気のせいですかね……
腹を抱えてうずくまる。
……知らなかった……マジで痛い時って、転がる余裕もないんだな……
「あぁぁー、みーぞーおーちー……」
《アオを見捨てるますたーに、お返し!》
「あのなぁ……」
《絶対にお前を離さないって、約束、してくれたのに……》
「あのなぁ! 何コレ! 何この空気! 俺不倫したの?」
いててて……アオめ、容赦なくSTR全開で突っ込んで来たな……
《ふーんだ》
くっ……自業自得と……いうやつか……
がくっ……




