信じられないでしょうけど、これは遊びなんです!
「ふあぁ……むにゃ。あのさアオ」
《なぁにますたー》
「ずっとステータスとか、国の話とか。俺の説明聞いてて楽しい?」
《ええっとぉ……》
「素直に答えていいぞ。俺もそれを望んでるんで」
《必要なことだから知ろうと思うし、楽しいとも思うけど、ずっとだとちょっと》
だよなぁ。
俺も頭使いすぎて疲れたよ。
脳みそが脳内を整理しようとして眠くなってくる。
「そういうことでどうだ? 飯とか以外ぶっ続けで移動だったし。ここいらでちょいと遊んでいくというのは」
《遊ぶ!》
「はは。よしよし。何するか」
エンジンを出発してから、早二週間。
目的地まではもう少しかかると思われる広い草原を歩いていた。
方面は変わるが、ここからだいぶ離れた距離まで草原は続いてて、ずぅーと行くと最初俺が目覚めたノーマルフィールドに繋がっている。
アオはもうすっかり俺より強くなっちゃったけど、まだまだ子供だ。
俺と一緒にいるせいで損なわれている面もあるが、子供は遊ぶのも仕事である。
どんな遊びがいいだろうか?
将棋? リバーシ? 物がないな。作ろうと思えば作れないこともないけど、今はそんなことに時間食うぐらいなら遊びたいし。
クイズ。は問題がろくにないからすぐに終わっちまう。
「ゲームでもするか」
《ゲーム?》
「そうだな。鬼ごっこなんてどうだ?」
《鬼ごっこ?》
あぁ、そっか。
「簡単に言えば追いかけっこだな。一人は鬼役、もう一人は逃げ役の1on1。鬼役は、逃げる人を時間制限以内に、一度でもタッチして捕まえることができれば勝ち。逆に、逃げ役は時間制限以内に最後まで捕まらず逃げ切れたら勝ちだ。勿論なんでもあり。アビリティ使ってもいいし。だまし討ちもありだ」
《逃げて、追いかけるの? 鬼?》
「わかりづらいか。んじゃ今日は俺が逃げ、アオが鬼役としよう。アオは時間内に逃げる俺を追いかけて捕まえればいい」
と言ったはいいものの。
AGIは圧倒的にアオの方が高い。
非常に不利というわけか。普通に逃げたんじゃ捕まっちまうな。
さて、どうしたもんか。
「あ、言い忘れてた。どうせゲームするんだ。EGOルールに則ってここは一つ、賭けをしよう」
《え? でも、アオ、ゴールド持ってない……》
「別にゴールドじゃなくたっていいさ。うーむ。勝った人は負けた人に、一つなんでもいうことを聞いてもらえるってのでどうだ?」
《なんでも?》
「おう。なんでもいいぞ」
《やろー》
お、やる気満々だな。
遊びって、基本無条件に楽しいもんだよな。
少なくとも俺はそうだった。
サッカーとか虫取りとかに心血を注いだもんだ。
《……手加減してね? ますたー》
可愛らしく、甘えるように言うアオ。
うん。
それは俺が言いたい。
--- --- --- ---
ガリガリガリガリガリガリ、ザーッ!
「ふぅ。これでよし」
適当に辺りをでかく枠で囲う。
「この枠の中から出たら反則な」
むやみに走り回ると、どこまでも行っちゃいそうだからな。
範囲を決めるとしよう。ヤバイな。自分ではでかく削ったつもりだったが、少し狭いかもしれん……
《はーい》
「んで、枠の外にタイムウォッチを置いて。三十秒後に開始の合図がなるようにセットっと」
《ますたーって時々見たことないアイテム使うよね》
「合っ成ナウ」
素材さえあればアイテム生産できますからね〜。
因みに、通信機を作ったのもこのアビリティ。
レベル上げてるから、だいぶ便利なアビリティなのだ。
「それじゃ、始めようか……」
枠の中央付近で、一定の距離を保ちアオと向き合い。
ザリッ……ジャッ……小さな音のみが届く静寂の中
タイムウォッチの開始のベルが、駆け巡る。
「《スタート!》」
--- --- --- ---
「あん? おい。なんか騒がしくねべか?」
「んだな。オラもそう思ってたところだべ」
「この辺りだとろくにエネミーも暴れねしなぁ。どうしたんだべか」
「見に行くべ」
「行くべ行くべ」と続け歩き出す。
近くの森で魚や、狩ってきた獲物、木の実など。
背中に背負ったカゴの中いっぱいに食料をつめた男三人組が、そんな話をしていた。
この草原から少し行けば、自分たちの集落がある。戻るところだったが、なにやら気になることがあった様子。
それに対して行動に移す。
何か問題があったのなら、すぐに対処法を考え、集落の被害を最小限に抑えなければならないからだ。
そして、集落の問題と、もう一つ。
誰か困っている人がいるのなら、助けて上げたいと言う思いがあるからだった。
少し普通の外見とは違う彼らは、持ち前の五感の強さを活かし、すぐに音の発信源を見つけた。
男たちは、揃って声を失う。
「な……なんだべ。ありゃあ」
「お、お、オラに聞かれたって困るだよ。……オラだって驚いてるべな……」
「オラ達揃って、狐に化かされてると違うべか?」
目の前で繰り広げられるそれは、とても信じられる光景ではなかった。
小さな人族の子供と、こちらもまた、小さな子供のスライムが。
目で追うことができないとんでもない速度で攻防を繰り広げていたからだ。
それがなんなのかわかるのは。
あまりの速さに残像が見えるからだ。
ほぼ力任せに強引かつ理不尽な速度で少年を追うスライム。
速度ならばスライムに及ばないながらも、先読みや体の軸の動かし方など、多彩な方法でそれを避け、距離を取るを繰り返す少年。
その場面に、三人は目を向き、同時に感動を覚えた。
「み、みんなを連れてくるべ!」
「急ぐべ急ぐべ!」
「幸い、集落はすぐそこだべ」
これを、まだ狩りもできない子供達に、戦いを知らない女達に、狩から引退した皆んなに
何故だか見せてやらないといけないように感じた。
続きをずっと見ていたい思いを振り切り、男達は走った。
--- --- --- ---
「おぉぉ……」
その感嘆の声を漏らしたのは。果たして誰だっただろうか。
おそらく、集落から連れてきたほぼ全員が、同じ気持ちだろう。
「いやはや……なんとも……」
「素晴らしいの一言に尽きるべなぁ……まさか、この歳になってこのような物を観れるとは」
「ふわぁ〜……すっごぉ〜い……」
青色の線のように、カカカカッと屈折するように曲がり相手を追尾し続けるスライムと。
それを、どれも紙一重で、されど全てを避け続ける少年。
「た、助けなくてええのか!?」
「バッカやろう! アレをよく観るべ。枠があってその中から出ないように動いてるべ。ありゃあ殺し合いじゃない。ルールのある戦い。ズバリ、特訓だべ」
「いや、よく観ろと言ったお主こそよく観てみい。あの楽しそうな笑顔を」
皆が、彼らの表情に視線を送る。
少年はこれ以上ないくらいの喜びを叩きつけるような、弾けるような満面の笑顔を浮かべていた。
「あれは特訓ではない。楽しみ。じゃれあい。あれは彼らにとって、おそらく、遊びじゃ」
「あのレベルで遊び!?」
信じられない……。
そう思いながら、張り詰めしんとした空気の中、遠くで楽しそうに追いかけ逃げる二人を眺め続け。
一体、どれだけその静寂が続いただろう。
「……あ、……危な……」
一人のつぶやきをきっかけに、セキをきったように叫び始めた。
「やれーー! 頑張れ小僧ー!」
「頑張ってーー! スライムちゃん行っけーー!」
「いいぞ! そのまま逃げ切れー!」
「そうだ! あ、危! 右右! あぁじゃなかった左、じゃない上、下、え? だぁー!」
「どっちもいいぞー! もっとやれー!」
「一度止まってズラされてんぞー! 一泊置けって! オイ!」
ぎゃー、ぎゃー!
声援が次から次へと飛び出しては、ユベル達に届けられる。
当のユベル達は、結構遠くということと、その場の相手に集中しすぎてて聞こえてないが。
何十分も休憩なしで動き続けている二人。
制限時間は、あと、数分。
そこで、戦況は一気に動く。
--- --- --- ---
「……フッ! ……ハッ、よっ! ……っと、ふっ! はぁ!」
くっそ!
あと何分だ。
タイムウォッチを見ようものならその隙を狙われてジ・エンド。
計算に思考能力を割いたらジ・エンド。
結論。
あと何分かかるかわからないという精神的プレッシャーをかかえて、逃げ続けなければならない。
「〜〜! ッ〜〜〜! いいねぇ!」
楽しい!
これだよ! ギリッギリの戦い。
これに勝つから、嬉しいんだ。
これができることが、楽しいんだ!
(……どっかに安置があればいいんだが。この限られた空間内じゃ、全部アオの射程内。さて、どうすればもっと……)
《あー! ずるーい! ますたー枠でてるー!》
「なっ!」
マジかよ!
確かに今、一瞬だけそのことが頭から抜けた。
やばい。出てるなら、俺の反則負け……
バッと足元を見て
「…………あれ?」
ギリギリで、ちゃんと枠内に収まっている。
つまり、枠からは出ていないというわけで。
別に反則負けでは
《タ〜ッチィ。ますたーつっかま〜えた〜》
思考が追いついた時には、もう時すでに遅し。
ぽむんと俺の頭のアオが上に乗り、そう言った。
「゛あ!」
………………や………………やられた!
完璧にはめられた。うわー、マジかー……
あそこあの瞬間あの場面で、あの機転。
いやー……まいった。天晴れ。お見事。
「……う……わ〜〜ぁぁ〜〜。ちっくしょーーー」
ぽいっと芝生のような草原に体を放り投げ、頭の上から飛び跳ねたアオが寝転がった俺の腹の上に乗っかる。
まさしく、勝者と敗者の姿。
「いや〜、はぁ、はぁ。ふぅ〜……楽しかったぁ……」
《すっごくね! すっごく楽しかったよ!》
「ははっ。そうかい。ぜは、そりゃ、よかった」
あぁ、息が切れる。もうヘトヘトだ。
ここまで本気で誰かと競い合ったのは久しぶりかもしれない。
アオをヒョイっと、掲げるように持ち上げる。
「負けたよ……パネェな。超かっこよかったぞ」
俺の、完全敗北である。
ニカっと笑って、アオにそう伝えた。
――――――遠くでワッと歓声が上がった。
「《はい?》」
反射的にアオのハモリ声が聞こえる方に視線を向けると、多くの人たちが拍手をしたり手を振ったりして、皆実にいい笑顔で俺たちの健闘を讃えてくれていた。
俺はそのことより、その人達の外見に驚いた。
普通の人たちである。各々、形がそれぞれのツノが生えていなければ。
「……こんなところに、魔族の集落なんてあったっけ?」
なにやら、イベントの予感である。




