信じられないでしょうけど、転生したんです!
さざーー……ざざざーー……
見渡す限りの草原に風が吹き、あたり一面に爽やかな音が流れていた。
「うぅーむ……『ガバッ!』皆さんおはよう朝もしっかり食べて一日三食元気に行こー……『パタン』…………ぐー………………――――はっ! 朝かっ! あの骸骨畜生。わけわかんねーアビリティ使いやがって!」
静かな空間に騒々しさが追加された。
ゲーム内で寝落ちしたのはいつぶりだろうか。あーよく寝た。
「それにしても、プレイヤーに直接干渉? 催眠術の類かな……そんな技術が……こりゃゲーム業界が荒れるぞ」
クックックと変な声を上げてにやにやしながら興奮していると、ふと自分が枕にしていたものに目がいく。
それは、所々でかっこいい青色の模様が描かれた黒いパーカーだった。
フードには人魂のような化け物の目がデザインされている。
「…………?」
無言で鑑定アビリティを行使。これはもはや癖である。
《Reincarnation to Grim hoodie》
予想通り。浮き上がってきた名前を見て、《Reincarnation to Grim reaper》のドロップアイテムで有ることがわかった。このサイズだとエネミー用装備ではなく、プレイヤー用だろう。
「お、お、おぉ……。最後の【マグラティカ・アースブレイク】当たり判定出てたのか。ははっ、相打ちだ! ざまあみろ!!」
テイムはできなかったが、まさしくこのパーカーは俺の勝利の勲章。
素晴らしいッ! 広げ掲げてより深く鑑定する。
《Reincarnation to Grim hoodie》
《Reincarnation to Grim reaper》のマントを加工して作られたパーカー。
固有アビリティ
『サイズ自動調整』『自動洗浄』『自動修復』『闇系列完全耐性』
特別アビリティ
『消費金額1/10』
「………………………………………………お、……おぉっ?」
ピシャァァアアン!!
脳天に雷が落ちた。
手が震える。
目が泳ぐ。
ろれつが絡まる。
汗がだらだらと流れ出す。
「あ……へ? お、………おぉ……へぁ?」
しょ、しょしょ消費金額、じゅ、じゅじゅじゅ十分の一ぃぃいいっ!
ふぅ。ご理解いただけるだろうか。どれだけこのアイテムがぶっ壊れ性能なのか。金が全てのこのゲームにおいて、消費金額低下系のアビリティがどれだけ欲されているのか。
運営が気まぐれでショップに出した超超超激レアアイテム《Legend Angel of plumage》の持つアビリティ。《消費金額半額》のアビリティがEGOの世界を揺るがせて久しい。
オークション最低金額は1,000,000,000,000ゴールド。ワンバトルで数千万のゴールドが動くこのゲームで、一兆というのはそんなに難しい話じゃない。
「なんて、この前《Mirukuru》さんに言ったら半殺しにされたっけ。《Orikousann》さんに言ったらキルされてたよ良かったねって言われたな」
まぁそれはおいといて、半額アビリティでそれである。俺も当時は欲しくて欲しくて金を必死で稼いだもんだ。
最終的には、ギルドランキング上位陣がメンバーフル指導で獲得に動いたので、俺たちソロはお呼びではなかったのだが……
それ以上のアビリティを持つアイテムが俺の目の前にッ!! 夢オチか! 夢オチなのか!! 実はまだアビリティ効果で眠ってますよ的なアレは流石に無しだよな!! やめてよねっ!!
そして驚くべきことはそれだけじゃない。このパーカーに付与されている特別アビリティということは、アイツのマントにもこのアビリティが付いていたと考えられる。
だとしたらあのアビリティは、死神が使ったアビリティは一億なんてもんじゃなく、10億アビリティッ!! 8千万とかちゃちな話じゃねぇ! そんなに凄いアビリティだったのかぁ……ゴクリンコ……
「こんな素晴らしいアイテムを装備できる日が来るとは……いざ尋常にごめん!?」
装・着! あー、もう俺これ絶対離さない。って、あれ? 俺の装備初期化してないか? ウッソ! デスペナで装備奪われちゃったッ? うへぇ……
ダメージ超軽減と砦アビリティがぁぁぁ…………
そういやこのパーカー、何で外にむき出しで? ドロップアイテムなら俺のアイテムボックスの中に……
「コール。アイテムボックス、オープン」
……ん?
「アイテムボックスッ! オープンッ!!」
本来なら表示されるはずのシステムメニューが出てこない。システムコールしても反応が返ってこないのだ。
「なんだよバグか? オーケー上等。問い合わせて運営半泣きにしてやんよ。システムコール、ログアウト」
そしてあいも変わらず出てこないシステムメニュー
「あ、そうか。ログアウトにもシステムメニューを経由するから……」
なんか恥ずかしい…………こんなバグってあるか? 明らかにおかしいだろ。
早く復旧して欲しいもんだが……
「しかもココ、チュートリアルの街ケーメルンと情報町ロキキを繋ぐノーマルフィールドじゃないか」
この気持ちいいくらいの草原の海はなかなかの絶景で、小さく遠くに見える街の姿がそれを肯定していた。
何故、俺はこんなところで寝ていたのだろう。
死んでいないのならあのままダンジョンの中で目覚めるはずだし、死んだんだとしたら俺の拠点に飛ぶはずだ。
何でこんなところに飛んでるんだ? 俺のアイテムもエネミーも、所持してたもん全部使えねぇし…………
唯一問題なく使えてるのは、アビリティくらいか。
「ステータス、オープン」
検索アビリティを使用し、自分のステータススクロールを出現させ目を疑う。
「……なんだ……これ」
そこにはこう記されていた。
名:ユベル
性別:男
年齢:6
LV:???
職業:テイム・マスター
称号:【 黄泉返りし転生者 】
【 ??? 】
所持金額:1000ゴールド
HP:890530/890530
ATK:300
DEF:936500
AGI:3580
INT:10096
アビリティ
『テイム』『隠蔽』『検索』『看破』『探知』『防御』『反射』『合成』『逃亡』『ジャンプ』『超逃亡』『通信』『交換』『守銭奴』『熱通具合』『鑑定』『強化』『弱化』『目測』『ロックオン』『隠密』『体力超増強』
固有アビリティ
『強化成功率上昇』『毒無効』『防御力還元』『睡眠無効』『麻痺無効』『ゴールド増加確率上昇』『○属性耐性』『対象認識阻害』『回復』
特別アビリティ
『雑魚ノ反逆』『限界破壊』『アビリティセンス』
INT数値たっか! こんな上げてないぞ俺。
基本体力と防御力に上昇値ガン振りだし。
職業、アビリティはそのままっと。
だが、レベルが文字化けし、所持金額が初期設定の千ゴールドになり、何十個もあった称号がたったの二つになっている。しかも一つ文字化けてるし。
あと極め付けが、年齢という見たことのないステータス表示。
「ってか……6歳って」
この何とも言えない動きづらさの正体はまさかそのせいか? 縮んでるのか? どこぞの高校生探偵みたいに?
いや、正確には縮んでいるというより、若返っているのだろう。高校生探偵みたいに。
プレイヤー設定を弄った覚えはないし、そもそもアバターの体型は最初に設定した一定値で固定されている。
システムコール拒否。アイテムボックス使用不可。ログアウト方法不明。
不可解なフィールド転移。初期設定に戻った装備と所持金額。テイムしたエネミーの消失。
謎の【 黄泉がえりし転生者 】という、見たことのない称号。所々変化したステータス。
そして、アバター本体の変化。
「…………一体……、何がどうなってるんだ……ココは」
空を仰ぎ見てかすれた声で呟く。
いっそ憎たらしいまでに、空は青く澄み渡っていた。
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「ふむ。聞き込みはこの程度が限界、か……」
そして冒頭に戻ってくる。
アレからより詳しく情報を集めた。
この辺りでポップするエネミーやそのレベルアベレージ。どれも俺の知っている情報と合致している。
だが全てではない。俺の知らないところの情報もあれば、少し改変されているところもある。
「まぁ、その程度は許容範囲内なんだが」
わからないのは、NPCとのシステムエンジン以外の会話が成立するということ。
NPCとは思えない動き、話し方。イベントフラグを立てる会話をしてもログが出ない。
「わざと疑問府のつかないセリフを使っても、ちゃんと意味を理解したうえで答えてくれている」
NPCがシステム以外の動きをするって?
バカな。生きているわけじゃあるまいし。
いや、それ以前に。電脳世界がここまでリアルになってることがそもそもおかしい。
バーチャルリアリティといえど、明らかに現実とは違う、ゲームらしい違和感は必ず残るに決まっている。それは勿論『EGO』だって例外じゃない。
「覚えているキャラもいたけど、明らかにクオリティが上がってる。もう完全に本物の人にしか見えないぞ……」
だがこれはなんだ。
人が通るときに感じる風、ものを触った時の重量感、温度。NPCの笑顔。NPCの、感情。
まるで自分の本当の体のようになんの違和感も感じず、自由自在に動かせるこのアバター。
そして、【 黄泉がえりし転生者 】という、新たに獲得したであろう称号。
「はははっ…………ラノベかよ……」
まさかとは思うがこの世界。
「おいおい……冗談じゃないぞ」
『ゲームシステム』のみが余さず全て破棄されたEGOの中……
異世界だって……? ありえない………………
ステータスは適当です。変更になるかもしれませんのでご了承を。
どうも二話まで読んでいただきありがとうございます、終匠 竜です。
一日一話投稿暫く続きますので、どうぞお付き合い下さい。
感想とかゲーム知識とかいただけると嬉しいです。