信じられないでしょうけど、急用なんです!
「うっす、マスター」
「おいネロ! 客だ!」
「俺を見た瞬間速攻ネロの方に流すのやめてくれません!」
「…………はぁ」
「露骨な溜息やめろや! どんだけ俺のこと嫌いなんだよ! もういいよさっさとネロ出してどっかで仕事しろやクソ店主!」
ぱっかーん! 飛んで来たグラスが俺の顔面に直撃した。
割れるどころか傷一つつかず、地面をごろりと転がり照明の光をぎらりと反射させている。
んまぁ、ピッカピカだこと。
「フッ」
「ふん!」
テーブルの上に置かれた空いたグラスを持って投げつけ、今度はマスターの顔面にグラスショットがクリーンヒットする。
さすが毎日飽きもせず磨いてるだけあんなぁマスター!
あんたの顔面をぶち抜こうがピッカピカだぜ!
「げふ!」
にやっ。
「「ふ、ふっふっふっふっふっ」」
「二人とも……呼んでおいて、置いてきぼりは酷いですよ……」
あ、ネロちゃん。
ごめんねゲブゥ!
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「大人気ないにもほどがあるぞあのおっさん!」
「すみませんね。うちの父上は、認めた人相手だと楽しい人になる傾向がありまして」
「楽しい人というには、だいぶ乱暴になったな。俺客なのに」
「愛情表現ですよ」
好きだったら殴るのか。
そんなこと、某ファミレスで働いてる男性恐怖症の女の子すらやらんぞ。
「で、こんな時間にどうかしたんですか?」
「この国のゴロツキどもを全員叩き潰した」
「冗談ですよね……」
フリードみたいな返しはやめろ。
「ガチだよ。ゴールドが必要でな」
「巻き上げたと?」
「言い方悪いな……別にゴールドを必要以上に吐き出させたわけじゃない。…………ちょっと強引な方法で、自分の所持金を増やしただけだ」
目をそらす。
「強引な方法って、なんです?」
おってくるネロ。
「さぁな」
「私、気になります!」
「こらこらこら!」
ふぅ…………
「噂で聞いてるだろ? 宿の半壊」
「えぇ」
「半分は俺のせい」
「えぇ!」
話を逸らそう。
「いや、まぁ悪気があったわけじゃないんだけど。かと言って、原因の一部である以上、俺が何もしないわけにもいかないからな」
悪気があろうがなかろうが、自分がやったことには責任を持とうよというやつだ。
まだガキだろうがなんだろうが、通すべき筋ってもんがある。
ゴールドは大事だが、落とし前だって大事だ。
「だからその弁償として、大量のゴールドが必要だったっつーわけだ」
「成る程……ではその自白をわざわざ私にした理由は?」
さっきから、疑問系ばっかだなこいつ。
聞きたがり、知りたがりの性格…………というより、俺が話をところどころ伏せてるから、それを探ろうとしているんだろう。
「ちょっとした理由があって、すぐにこの国を出ようと思ってな。あんたに一度挨拶してからと」
「理由って?」
「わかってんだろうが。あえて隠してるんだ。詮索すんな」
「えぇわかってますよ。あえて、聞いてるんです」
はぁ……
「諦めない?」
「少なくとも、理由を聞かない限り納得はしませんね」
「…………王都のやつらが来たんだよ」
ふむ……こいつに話しておくのもアリだろう。
なんだかんだで、アリスの知り合いなのだというし。
なにより、この話を聞いて人はどんな反応をするのか、知っておきたいしな。
わけわからんという反応もありそうだが。
絶対に誰にも言うなよと釘を刺してから、話し始める。
全部ゲロっちまうか。
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ハッ、ハッ、ハッ
バタン!
「ネロさん!」
「来たんですか……?」
「来たよ! なんで!」
ユベル君と会えるかもと思って、最近避けていたここに急いで来たのに、そこにユベル君の姿は見当たらなかった。
「いえ……ただ、少し意外で。貴方が来るとは夢にも思っていませんでしたから。ユベル君もそう言ってましたし……」
ゆ、ユベル君が言ってたからって、何よぉ。
「ユ、ユベル君は?」
「ユベル君なら、もう国を出てますよ。今から一時間ぐらい前ですかね。僕と話をしてから、すぐに旅立ったようです」
そ、そんなぁ〜…………
肩ががっくりと落ちる。
でもまだ手段は残ってる!
「ネロさん! 魔道具! 使わせて!」
「いいですけど、絶対くだらないことに使いますよね」
「くだらなくなんかない!」
はぁ……と嫌味ったらしく溜息を吐かれたので、グッと拳を作る。
「わかりました! わかりましたよ! どうして僕には接客の時みたいな態度じゃなくて、そう攻撃的なんですか!」
「誤解を生むからやめてよ。接客の時の方が私の素だって知ってるでしょ? ネロさんだけじゃなくて、あとクロック君と、ナスハ君と、タカラちゃん相手の時はこんなだよ? 皆んな悪さばっかするんだから」
「酷い……」
あなた達と関わってたからこんな性格が生まれちゃったんだよぉ。
「それより、初めてですよねぇ。同い年の男の子に守ってもらえて、どうでした?」
「ふぇあ!」
「ユベル君。かっこよかったですよね? ね?」
この人の、こうゆう性格が、嫌いだ!
「いいーじゃないですか。ユベル君だいぶ大人っぽい感じでしたしね。頑張ってください」
「貴方に応援されると、背筋が冷たくなるので結構です」
「あ、でも否定はしないんですね」
「や! べ、別に好きなんかじゃ!」
「好きだなんて僕一言も言ってませんよ? ただ適当に、否定しないだと言ってみただけです」
にっこり。
「いいから早く使わせてください」
「……近頃の子供は怖いなぁ……」
「ネロ君も、カミアさんとはどうなんですか」
「うぐぅ……あんまり進んでないんですよね」
にやにや。
「いいでしょう。戦争ですね? 戦争がお望みなんですね? ならば全力を出しましょう」
「どうもすみませんでした」
やだなぁネロさんったら。
冗談に決まってるじゃないですかジョーダン。
「どうぞ。あ、わかってると思いますが、一応、これ一度使うと使えなくなりますからね。くだらないことには使わないことをお勧めしますが」
「わかってます。使わせてください」
「……時間は三十分といったところですかね。それ以上は魔道具が持たないと思ってください」
裏でカチャカチャと魔道具の設定を終えたネロさんが、カウンターの上にどかっと魔道具を置く。
「スイッチを入れます。いいですね?」
「ゴク……」
コクリ。
「では」
カチャリ……赤色のボタンが押され、その上のランプが緑色に点滅した。
これで、ユベル君とお話しできるのかな……
「あ、あの、もしもし。聞こえてる? ユベル君」
『どぉっ!』
どぉ?
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さて、逃げるようにしてエンジン飛び出して来ちゃったけど。
悪いがこれは、俺にとって、最重要事項と言ってもいい。
アオにも話とかないとな。
それにしても……ふむ。あの情報は、確かなんだろうか。
「アオ。ちょっと待って。ベヒモス倒した経験値でまたレベルが上がってたから、上昇値振り分けたいんだけ」
《あ、あの、もしもし。聞こえる? ユベル君》
「どぉっ!」
アオ? いや、声が全くアオのそれと違うし、アオも首(の部分?)を傾げてる。
と、いうことは
「さっそくか……通信は……魔道具発動時に強制発動してるな。あー、アリス? 俺です。ユベルです。なんか問題発生? もしかして……ゴールド、足りなかった?」
別にそんなことをする必要はないが、ついなんとなくで片耳に手をやって、斜めの空を見上げるような仕草をして返事をする。
《ち、違、そういうんじゃないんの。ただ、ユベル君が……いきなりいなくなっちゃったから……その、話がしたくて》
はぁ? 嘘だろ?
俺と離れて、寂しがってる?
声の感じから、そんな雰囲気がひしひしと伝わってくるのだが。
そんなことがあるのだろうか。
だって自分の立場で考えてみよう。
いつも通りに過ごしていたら、俺みたいな厄介なことばかり持ち込むクソガキが現れた…………
迷いなく外に叩き出して、厄介払いできたわーいって喜ぶ姿しか想像できない。
「そ、そっか。ははっ。ごめんな。ちょっと色々あってさ」
《あぁ、うん。それはわかってるの。理由もなしにどっかに行くような人だとは思ってないし。ただ、これだけはあなたの口から直接聞いておきたくて》
「なに?」
《私のこと、好き?》
「はい?」
今、この子なんつった?
念話の後ろから、明るい大爆笑が聞こえて来た。
あ、笑ってんのネロだな。
と思ってたら、ボクッと鈍い音。
ネロの大爆笑は止まった。
おぉ。ただ攻撃したくらいでは、おそらくヤツは止まらない。
沈めたのだろう。しかも、音から察するに、一撃で。お見事。
《ちゃ、ちゃが、ちゃがうの! そうじゃなくてぇぇ! えっと、えと、そうじゃないの! 私が好きかっていうか、私たちが好きかって聞いたというか。その、だって急にいなくなっちゃうから、理由を考えた時に、私たちが何かユベル君にしちゃって、その、ユベル君に嫌われちゃったんじゃないかって。だから、それで……》
あぁ、そういうことね。
そっち。そっちね。はいはいはいはい。
あービックリした。
「別に。手紙で書いた通り、急用ができちゃっただけだよ。アリス達を嫌いになるなんてあるわけないし、むしろ大好きだとも」
《だ…………》
全くもって心外である。
あんなに優しく接してくれた人を、嫌いに?
そんなことあろうはずがない。
俺はそんなに人間の理から外れた化け物に見えるかね。
俺にだって人の心ぐらいあるのだ。
傷つくぞこのやろう。
《こほん。きゅ、急用っていうのは、どんなの?》
「えっと…………女の子と遊びに」
《今どこにいるの?》
「ちょっと! 声が怖いよ! 場所教えたらどうする気!」
《もちろん連れ戻して、私の家に住ませて、一緒に働いてもらって……》
「永久タダ働きの刑ですか! ごめんなさい勘弁してください! 本当のこと話すから!」
い、いやいやいやいやまてまてまてまて!
流石にどう説明すればいいのかわからん!
ネロ相手の時には、伏せながらも結構時間をかけて説明したけど。
「ま。またいつかエンジンにも行くから、その時話すよ」
《ちょっ! はぐらかさないでちゃんと話してよ!》
「話せないことなんだよ。それに、もう時間もないし」
《時間? まだたっぷりと……って、あれ? あれれ? おかしいな、もしもーし。あ、待って待って!》
「それじゃな。楽しかったよ……おいおい、あんま叩くと……」
ブチリ
「あらら。切れちった」
《ますたー。誰と話してたの?》
「アリス」
《……ぶー》
「な、なんだよ」
《なーんでも》
ぷいとそっぽを向かれてしまう。
やれやれ、通信機爆発したなありゃ。
ネロのやつ、ちゃんと時間は十分だって伝えなかったんかね。
はぁ……貸し一ってことですか?
本当、いい性格してるよ。
アオをなだめながら、空を見上げそんなことを考える。
今日も晴れ渡る快晴。いい一日になりそうである。
--- おまけ ---
ぷすぷす。
殴ったら爆発するなんて聞いてないですよ、ユベル君。
「ね、ね、ね」
「どうしました?」
「ネロさん!」
「はい」
ぐぇ! く、首! 首しまってる! しまってますから!
「三十分も時間なかったじゃないですか!」
「す、すみませ……私の、き、聞き間違いで、げほっ!」
「あ、ごめんなさい」
「げほっ! ゲホッゴホッ! はぁ……十分だと言ったのを、三十分と勘違いしてしまったようです」
一つ、貸しですよユベル君。
彼女、本当に周りが見えなくなる時がありますから。
知られたくないことなのでしょう?
「もう会えないわけじゃないんですし。またユベル君がこの国に来た時には、成長した姿を見せてあげましょう。その時まで、気を抜かずに自分を磨くんですね」
「うぅぅ……ネロさんに言われなくたってそうするもん!」
走ってバガンと扉を開けて走り去ってしまう。
あぁ、扉の立て付けが……
ふぅ……ユベル君。
また来るという約束、ちゃんと守ってくださいね。




