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信じられないでしょうけど、さよならです!


「やっ。どうも、おじさん達」


今、深夜2時くらい、か……

0時になれば動き出すと思ったけど、案外慎重なやつらだな。

この時間の外は、犯罪者プレイヤーのナワバリだ。


こっちにPKなんて言葉ないし、そんな存在がいるわけもない。


だが、この暗がりの、ルール無用な世界で。

裏で戦う者達にとって、ここまで都合のいいものはない。


闇討ち・暗殺・強姦。犯罪が起きなければ逆におかしい。


もちろんこの国も例外じゃない。


「やるぞアオ」

《うん!》


ワラワラとガラの悪そうで幸薄そうな顔のやつらが何人も湧いてくる。

前後左右、狭い路地裏が人で埋まっちまった。


「よく気づいたが、もう遅い」

「坊主。死にたくなかったら、有り金全部置いてきな」

「そうすれば殺さねぇで、奴隷にして売りさばいてヤンよ」


この時間に、この人数で、迷い込んだ人間を囲み、しかも、気づかれないように。

手馴れていると認定。よってこいつらは、犯罪者。


別に犯罪者を裁くなんていう偽善者になるつもりはない。


こいつらがただ、こちらを殺しにかかってくれるから、やりやすいだけだ。


相手がこちらを殺しに来てるんだ、当然、殺される覚悟もできてるんだろう?


「全員まとめてかかってこい。俺は一人一人相手してやる。俺のエネミーバトルが終了するまで寝かせねぇぞ! スタート! battle the エネミー! 賭け金レイズ! ベット!」


俺から言うまでもなく相手方はそのつもりであろう。

全員でかかって来た。


スライムだからって、子供だからってなめない態度は立派だけど。



まだ足りない。



数人は待機していた方が、奇襲など、確実性はより高くなる。

それぐらいわかっているだろう。なのに、それをしない。


お前らは、俺がガキだからとなめてかかった。

子供だが油断するなと言っていたな?

だが、そう簡単に経験と精神は言うことを聞くようにできてない。


これなら大丈夫。絶対に。


絶対などないくせに、心の中で決めつけてしまう。

大丈夫だった経験があるから。


せいぜい後悔し、よく勉強するんだな

こと命をかけた争いにおいて見た目で判断(それ)は、絶対に行ってはいけない悪手であり、自殺行為に他ならないと。


とは言え、圧倒的に力の差がありすぎると、そんなことをしても意味がないがな。


「オールイン!」


全員が戦闘体制に入った瞬間を見計らい、ベットの状態で止めておいた賭け金を賭け皿に乗せる

オールイン。俺の所持金の全て。アオの背中に、溢れ出したゴールドが余さず流れ込み。


その額が十倍となって、アオの力となる。


「たかだか数百なんて数で、何秒もつかな?」


--- --- --- ---


「ふぅ、やり過ぎたかね?」


パーカーを持ち上げ、前髪を書き上げるように汗を拭く。


《いっぱい貯まったね〜》

「所持金オールインし続けて、倍倍にして増やしたからな。これで足りればいいんだけど……」


神盤から外したプレイヤーバンクを振って、じゃらじゃらと音を聞く。

今貯まっている額は、プレイヤーバンクに付いているカウンターに堂々と記載されているため、確認がしやすい。


現在、深夜3時ごろ。

戦闘が終わったら、次から次へと場所を移動し。

この国のあらゆる場所に存在する『夜に張り切って活動する働き者のお兄さん達』は、ほとんど俺の相手になってくれた。


あえて何をしたからは伏せるが、暫くの間は動けないだろう。

そして、体が回復したとしても、もう同じ仕事はやっていけないと思う。

刻み込んだからな。体ではなく、心に。


「……アオが」


もう少しバトルしたかったが、もう相手もいないし、今回はストレス解消がメインじゃないから(誤解してほしくないが。今までこんなことをしたことはなく、紛れもなくこれが初めてである。マジで。ストレス解消代わりにPK集団を潰して回ってたとかじゃないから! 勘違いしないでよねっ!)


「んじゃ、最後に酒場行って、ネロに挨拶してきますかねぇ」


アオは引っ付いてるので落ちる心配はなく、俺は遠慮なく手を動かし頭をかく。


驚くことに、こっちの酒場、なんと二十四時間年中無休営業。


働き者だね。


働けとか言ってごめんよマスター。


--- --- --- ---


「はぁ……」


今日は憂鬱な一日になりそうだ。

まず朝思うことがそれな時点で、憂鬱である。


昨日、僕が昔からずっと一緒に頑張り生きて来た『虎の子休憩所(相棒)』が、半分潰れてしまった。


あまり、眠れなかった。

だが、落ち込んではいられない。

奇跡的に死人やけが人はゼロ。

愛する妻と娘も傷一つなく無事。


店ならば、直せば良いのだ。


忙しくなる。

僕がしっかりしなければ。


「おはよ〜お父さん」

「おはようアリス。さっそくで悪いんだけど、身支度が終わったら、お前の王子様に朝だと伝えて来てくれないかい」

「は〜い」


あれれ。

愛する娘をからかうつもりで王子様という言葉を使ったのに、さっぱりいつも通りの態度で返されてしまった。

うむむ。つまらないな。


ユベル君はもう起きているだろうか。

夜中に一度廊下の音が聞こえた気がしたから、何度か起きていたのかもしれない。

そう考えると、まだ寝ていそうだな。


「お父さん! 王子様ってなに! へ、変なこと言わないで!」


うわぁ! 時間差で来るのか!

ドタタタと廊下を走って消えてしまう娘を呆然と眺める。

顔を真っ赤にしちゃって、我が娘もそんな歳か。少し寂しいな。


あの時。

暴力と理不尽で有名なゼフォンス様が、娘に怒鳴りだした時は目の前が真っ暗になった。

こんな小さな宿の食堂にいたことがまず驚きだが、それ以前に。

ゼフォンス様は、気に入った女なら誰であろうと、決まった手を使って自分のものにしようとする。

その決まった手というのが、難癖をつけることから始まるのだ。


まさか我が娘がその対象になるとは思いもしなかった。今年で六歳になったばかりの少女なのだから。


どうすればよいのか、ぐちゃぐちゃと頭の中であらゆるものが巡り、すぐに足を踏み出せなかった。


そんな僕に変わり、娘を守ってくれたのが彼、王子様こと、ユベル君だ。


まだアリスと変わらないくらいの年頃なのに、大人顔負けの堂々とした態度。

巨大で恐ろしいエネミーの攻撃から身を呈してアリスを守り、その上で、その相手を弾き飛ばすほどの強大な力。

助けたにもかかわらず、恩を着せるどころか、礼すら要求しない遠慮がちの穏やかな性格。

我が娘ながら、素晴らしい男性に惚れたものだ。


「自分のせいで店が壊れたと最後まで言っていたが、そんなことはない。君が止めてくれなければ、娘がどうなっていたことか。君には感謝しかないんだよ」


その感謝のせめてものお返しとして、壊れてしまったためお客様には全員別のところに行ってもらいながらも、彼だけは、我々の住居スペースの一部屋に泊まってもらったのだ。


アリスは、髪の色は薄い茶色でパッとしないし、あまり可愛らしいフリルとかは付いていない店の服を着てもらっているから、おしゃれとかはできていないが。

それでも、我が妻に似て、美少女であることは保障できる。


娘の初めての恋。お父さん応援するよ。


朝食の準備を終え、背伸びをしていると。

またまたドタドタと廊下を走ると音が聞こえてきて、それはどんどんこちらに近づいて来る。


バン!


「お父さん!」

「ど、どうしたんだい?」


次に発せられた娘の言葉は、まったく想定外なものだった。


「ユベル君がいないの!」

「いない?」


そんなバカな。

ユベル君に泊まってもらった部屋に行くと、まるで誰も使っていなかったかのように整理整頓された部屋があるだけで、そこにユベル君の姿はなかった。

その部屋の綺麗さに、一瞬ここが自分の住居スペースであることを忘れた。


特にベットメイクが素晴らしい。このシワひとつない、ふんわりと、さらっと、起きたばかりだというのに、このベットで寝たくなってしまう……


「どこ行っちゃったんだろう…………」

「そ、そうだね」


いかんいかん。

いくら寝不足だからって、そんなことより、もっと考えるべきことがあるだろう。


少なくとも僕が起きた5時ぐらいから、ここを出たような雰囲気はなかった。

つまり、出て行ったのなら、夜中に行ってしまったということになる。

夜中に足音がしたのは、そういうことだったのか。


「まだ、どこかに行ってるだけかも! 探して来る!」

「あ! ちょ! 待ちなさ……僕も行くから!」


幸い、エリカさんはまだグッスリの時間だ。


朝食が冷めてしまうかもしれないが、温め直せばいいだけのこと。

彼とは、話をもっとしてみたい。

たわいないことでもいい。一緒に朝食をとりながら、笑って話がしてみたい。

彼がいると、笑いが絶えないような、そんなイメージしか浮かばないんだ。


ガチャリと扉を開けた娘の後を追い、急に娘が立ち止まったので、つんのめるようにして僕も止まる。


「あ、危ないじゃないか。何かあったのかい」

「…………コレ」

「コレって」


何故これなのか。遺跡まんじゅうの箱が山のように積み重なり、うちの前に鎮座していた。


しかし娘が指差していたのはそれではなく。

遺跡まんじゅうの山の隣にちょこんと置かれてる、簡易バンクと呼ばれるアイテムだ。


安い代わりに、一回使用すると使えなくなるプレイヤーバンクのことである。

キーワードが設定できて、そのキーワードを入力しない限り中のゴールドは手に入らないというアイテム。


娘が簡易バンクを拾うと、ぱらりと封筒のようなものが落ちる。

封筒の中には、一通の手紙が入っていた。




拝啓、アリス様のお父様。


名前を伺ってすらいないため、このような書き始めになってしまい申し訳御座いません。

何も言わずに立ち去るわけにも行きませんので、この手紙を書きました。


今回の件。ゼフォンスという男を挑発し、このような事態を引き起こし。全ては俺の責任です。


俺の不用意な行いで、大切な娘さんも危険な目に合わせてしまいました。


いくら謝罪しても足りませんが。すみませんでした。


それでも、俺は悪くないと言ってくださり、一晩泊めていただいて、とても嬉しかったです。


このゴールドは気持ちです。


宿を新調したり、作り直すなどの資金にしてください。


キーワードですが。ダイヤルの数字の左端を4にして、手をパンパンと叩き、次にその隣を6にして、パンパン叩き、その次を4にして、パンパン叩き、その次を9にして、もう一度パンパンと手を叩いてください。

バンクがぶっ壊れます。


取り敢えず注意ですが、プレイヤーバンクを持っといてください。

ゴールドが溢れますので。



拝啓、アリス様。


まず最初に、怖い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。

そして、俺に対して好意的に接してくれて、ありがとうございました。


ベヒモスを殴り飛ばすような子供、怖いですよね。


それでもそんな感情を出すことなく、接してくれることに、涙が出そうになりました。

将来、接客のプロになれますよ。


急遽俺はこの国を出なくてはならなくなりましたが、別に会話ができないほど今すぐにというわけでもありません。

手紙だと、言葉遣いが丁寧になるという、そんな理由です。


遺跡まんじゅう大量に追いておきます。

飽きた味とか言わないでください。俺これすごく好きなんです!


ごほん。


酒場のネロとはお知り合いなんですよね。

国を出る際に、ネロに回数制限一回きりの通信魔道具を渡しておきます。


何か不備、または文句などが御座いましたら、遠慮なくどうぞ。


それでは。


お元気で。


ユベルより




「最後まで君は…………勘違いをしたまま行ってしまったのだね」


一緒に朝食が食べたかったよ。

まったく、違うと言っているのに。

人の言うことを聞かないところは、年相応だね。


「おや? アリス? アリス〜?」


アリスがいない…………


酒場、か。もう慣れてるし、ネロ君のところならば大丈夫だろう。


やれやれ。


「う、うぅーん。僕はエリカさんを起こしに行きますか」


僕たちにもこんな時期があったなぁ。


アリス……ファイトッ!



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