信じられないでしょうけど、攻略してきたんです!
ダンジョン一回層。
そこの道の先に、安置がある。(ダンジョン内入口に設置されているプレイヤーの溜まり場。ここも円形の形をしていて、それなりの広さがあり、エネミーがポップしない場所)
安置では、装備を整えたり、他の人たちと情報交換に励んだり、そんなことをする人たちが多い。
最前線だと、10階層ごとに安置があるけど、ここみたいなノーマルダンジョンには、基本入り口の前一つしかないのだ。
「俺がここを通ると、他のプレイヤーは勝手に退いて影でこそこそ言い始めるんだよなぁ。嫌だったなぁ。それを見たソロ仲間たちはげらげら笑ってるし……」
そう思うと、ここは実に気分がいい。
中から出てきた俺を見る目は、みんなを平等に見る目だ。
中には、気さくに話しかけてきてくれる人たちもいる。
「おーう坊主! 酒場でのバトル見たぜー! お疲れー!」
いい笑顔でガハハハと笑う数人のおっさん達。
にこやかに手を振る。
「どうも、こんにちわ」
「ん? あぁ、こんちわ」
いきなり挨拶されたのでビックリした。
俺に挨拶したのは短髪の赤髪で、優男というイメージを受ける青年だった。
その後ろから二人、一人は俺より少し身長が大きいかという、まだ少年と言える茶色の髪の子と。
もう一人は目が細く、落ち着いた感じの青髪の青年だ。
「君。ユベル君、だったよね。酒場で見てたんだ。まだ若いのにすごく強いんだね。僕の名前はフリード。あ、こっちにいる無愛想ででかい方がヨハン。小さい彼はノーベルだ」
「よろしく」
「よろしくお願いします、ユベルさん。……小さい方といったフリード、絶殺(ボソ」
「よ、よろしく……」
おいおいフリードさん?
ノーベルさんマジギレてますが? 茶色い髪が逆立ってるんですけど。
にっこりと挨拶された後だったからか、余計に怖い。
「ダンジョンに潜ってたんでしょう? 今帰り」
「あ、あぁ」
「すみません、急に話しかけてしまって。驚かせちゃったかな?」
すまん、動揺してるのはそこじゃないんだ。
確かにそこも驚いたけど。
後ろ後ろ。殺意に気づかないのか? それとも気づかないふりをしているのか?
どちらにせよ凄いな……
「疲れてるいるところ悪いんだけど。もしよかったら、ダンジョンの情報をくれないか?」
「あぁ成る程。全然オーケー。別に疲れてないし。どこが聞きたいの?」
「ごめん助かるよ。えー……っと……立ち話もなんだし、あそこの席空いてるから、そこでいいかな?」
「りょーかい」
促され、石造りの椅子に円形のテーブルを挟み四人、向き合うように座る。
「ぐるぅ……」
《ひゃ! な、ななに?》
「どうした?」
「あははっ。こいつは僕のエネミー。名前はラスター」
検索すると《Blast Cheetah》という名が浮かび上がる。
ブラスト・チーター。見た目からしてチーターだな。少し毛が赤っぽいけど。
ラスターはぐるぐると俺の周りを周回し、意を決したようにぱくりとアオを咥える。
「な!」
「ちょ、ちょっと待って! これはラスターの愛情表現なんだ。許してやってくれ」
「なんだ、そうか」
アオを咥えたまま、二体のエネミーがいる場所に歩いていってしまう。
《うわわわわわわ! ますたー! ますたー!》
「アオ〜。大丈夫だ。そいつらはテイムされてるエネミーだ。何もされない、多分。ちょっと遊んでな」
《多分て! 多分って言ったぁ!》
「大丈夫だって。何かされそうになったらその前に俺がなんとかするから」
最初はジタバタしていたアオだったが、打ち解けたのか、次第に四体のエネミーで遊び始めた。
「やれやれ」
「ははは。可愛いエネミーだね」
「そりゃどーも。で? どこの階層のどの情報が欲しい? あと、いくら出せる?」
「それは情報によって、それぞれってことで、いいかな」
「いいだろう」
ふっふっふっ。お主も悪よのぉ……
そんな雰囲気を出しながら暗く笑う俺とフリード。
「まず、ユベル君はどの階層まで行ってきたのかな」
「最下層だ。攻略してきた」
え?
何この間。
「あの、えーとね、何階層?」
「最下層」
「…………えぇぇ……ユベル君、最下層って……」
「ランクはそんなでもないダンジョンだけど、やっぱり違うもんだな(ゲームとは)。リアルな問題って言うか、不測の事態満載でさ。結構大変だったよ」
後頭部をぽりぽり掻いてたははと笑う。
お恥ずかしい……、ゲーム時代だったらリセットとか死に戻りとか、いろいろ方法はあっただろうけど。
こっちじゃ出来ないからな。死んだら戻って来られるか、めっちゃビミョいし。
戻って来られなかったことを考えると、とても試すことなど出来ない。
「いやいや、冗談だよね……?」
「冗談なもんか。あれだけ苦労したんだ。クリアぐらいさせろ」
絶句する三人。
そんなに驚くことかね…………あ、忘れてたけど、そういや俺まだ六歳なんだ。
ゲーム時代、プレイヤーたちは「スライマーだから」と、最前線でもないノーマルダンジョン、ソロクリアしたくらいじゃ動じなかったから。
すっかりマヒしてたよ。
「じゃ、じゃあ、証拠みせて〜……なんて」
「ほい。コレでいい?」
「これってぇ! えぇぇ! 『引き継ぎ玉』ぁ!」
「うわぁぁあ! 恐ぇよ! 急に叫ぶな!」
なんなんだよ……
いきなり目を充血させて寄ってくるからつい殴っちゃったじゃないか。
ノーベルは、いい気味だと呟きニヤリと表情を歪ませ、いい顔で俺に強くグットサインを贈り。
ヨハンは目元を覆いやれやれと頭を振っていた。
「ご、ごめんユベル君……つい」
「いや、こっちこそごめん。平気か?」
「あんまり……君テイマーだよね……どうしてそんなに力強いの?」
「はい? 逆に聞くけど、なんでレベリングしないの?」
「「「へ?」」」
いやいや、こいつらマジか。
「お前ら……」
ゴゴゴン……俺の中で、スイッチが切り替わる音がした。
「強いテイマーが、ただ強いエネミーをテイムしているだけだとでも、本気で思っているのか?」
「あ、あの、ユベル君……どうし」
「そんなわけないだろ。強いエネミーをテイムするにも、テイムしたエネミーを強くするにも、まず自分自身が強くならなきゃ無理に決まっている。戦うのはエネミーだから、自分は鍛えなくていい? バカなのか? そんな浮ついた気持ちで、頑張ってマスターのために尽くそうとしている自分のエネミーに悪いとは思わないのか? そんなんじゃ、いずれエネミーの信頼すら失って、大切なものが全て自分の手からすり抜けるぞ? 鍛えてないやわっちい細い手じゃ、掴めるものも掴めない」
いざそうなった時、お前らはどうするんだ?
後悔するのか? その時後悔したって、遅すぎるんだぞ?
今は、今しかないんだ。なら今できることを探して、全力で取り組めよ。
「まずは何より自分だろ。エネミーはなんだ? お前らの道具か? 違う! お前らの思い通りに動く奴隷か? 断じて違う! エネミーはテイマーにとっての存在意義だ! 仲間だ! テイマーにとって何よりも大切なパートナーだ! ダメージを受けて傷つく姿を見て、お前らは何も思わないのか? それは当然なことなのか? 寝転がって傍観者気取りで指示だけ飛ばして、恥ずかしいとは思わないのか! エネミーを傷つけるくらいなら自分が傷つくくらいの気合を持て! 自分がエネミーをかばい、助けるんだくらいの根性を見せろ! それが出来てようやく、テイマーの道に足を踏み出せるんだ! ふざけんな!!」
…………はぁ…………はぁ…………
…………………………ふぅ…………
やってしまったぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜……
冷静になり心の中の俺が頭を抱え膝から崩れ落ちる。
うわぁぁぁぁ! つい素人プレイヤーを捕まえて熱い演説をしてしまったぁ……
別に間違ったことを言ったつもりはないし、俺はこの考えに誇りを持ってはいるが
だがやはり恥ずかしい! 痛いという前の世界の感覚が消え去らない!
俺のハートをぶち殺す静けさが場を支配する。
どうやら俺の絶叫にも似た熱い演説は、安置にいる全員の耳に入ったらしい。
全員の視線がこちらに注がれている。
俺は死にたくなった。
「す……」
「「「すみませんでした!!」」」
沈黙の混沌を壊し、何故か三人が叫び頭を下げた。
「……俺は……俺は、甘かった」
「一体僕たちは、何を、何をしていたのでしょう…-」
「ユベル君……いえ、ユベルさんに言われて、初めて気づきました……ラスターに、顔向けできません」
「俺は、俺たちは、なんてことを……」
あ、なんか結構響いたっぽい。
なんか嬉しいなぁ。向こうじゃ言えず、密かに憧れていた臭いセリフが使用可能とは。
「大丈夫、気づけたんだ。なら、変われる」
調子に乗って、三人の目を見ながら肩に手を置き、うんうんとうなづく。
「ユベルさん! 僕、僕、変わりますから! 次はきっと、ユベルさんに殴られても平気なくらいに強くなります! 絶対に! ラスターのために!」
い、意外と低い目標だな……
俺のSTR300だからすぐに越せるぞ?
「ありがとう……あり、ありがとうございます、ユベルさん……いや、違う、こんな呼び方じゃない、そう、もっと…………」
「そうだ!」
「「「先生と呼ばせてください!」」」
「断る」
先生って、なんじゃそりゃ。
「なんでですか!」
「先生って呼ばれるのに違和感しか感じなくて気持ち悪い。つうか俺まだ六歳だぞ? プライドとかないのか?」
「年齢なんてくだらないもので尊敬すべき人を尊敬できないような間違いきったプライドなんてクソ食らえです!」
「クソォかっこいいなぁ! 俺もそう思うよコンチクショオ!」
だからって先生はなかろう。
俺がいつお前らに教えを説いたよ。
今だよ! たった今だよバカ野郎!
「だが断る」
「断られても先生と呼びます」
「新手のいじめだろ! 人が嫌がることはやめようぜ」
「「「お願いします!」」」
ま、迷いなく…………土下座……だとぉ…………
ごくっ…………こいつ、できる……
「だが断る」
「「「先生!」」」
「呼ぶなよ! 断ったよな今!」
ダメだこいつら……人の話聞かねぇー。
俺に三人の生徒ができた瞬間だった。
「先生。どうぞよろしくお願い致します」
「挨拶がなってない。破門だ」
「早いですって! して先生、僕たちは何をすればよろしいのでしょうか。どうか、ご教授ください」
知るか! 自分で考えろ!
話が通じないことに半べそをかきながらアオを呼び寄せ、帰り支度に入る。
もちろん返事はしない。
「あ、先生。エンジン国名物、『遺跡まんじゅう』です。こんなものしかありませんが、お納めください」
「取り敢えず毎日筋トレしろ。経験値ってのはエネミーを倒す以外にも獲得する方法はいくつもある。あくまで『経験を積む』ことをすればなんであれ、経験値は貰えるから。毎日筋トレすることで自分が今どのくらい動けるのかを常に実感し、経験値を獲得しレベルを上げ、ステータスを上昇させろ」
「「「はい! 先生!」」」
「うむ。しっかり励めよ。もぐもぐ」
あ、美味え。
それを言い残してアオに肩に乗るよう促し、立ち上がる。
「「「ありがとうございました! また、どこかで!」」」
三人の規則正しいお辞儀を背に、俺はダンジョンを脱出した。
「うぅーん。はぁ。太陽の光だぁ。気分がいいねぇ。ほい。アオも食べな。美味いぞ」
あんこの甘さが絶妙だ。
このゲーム。味覚エンジンも半端じゃなく発達してて、このまんじゅうはゲーム時代から好きだったけど、やっぱりリアルで食ったほうがより美味しい。
《あーんして》
「はいよ。あむ。あーん」
《あーん。あむ。うぅーん》
一個口に挟みながら、アオの口にもまんじゅうを持っていく。
「もぐもぐ……美味いだろ?」
《うん!》
アオの声を聞いていると、自然に笑顔が出てくる。
心なしか、まんじゅうもより美味しくなった気さえするのだ。
きっと、アオと一緒に食べているからなのだろう。
一緒にご飯を食べる。
そんな何気ないことを、ずっと大切にしていきたい。




