信じられないでしょうけど、アオがなにやら反抗期? です!
「ふぅ……よし。これでようやく一段落……」
『一定時間が経過しました。ランダムで選定……アビリティ『目測』のレベルを強制的に1頂戴いたします。『目測』のレベルが0に達したため、アビリティが消滅します。報告、【優先】に指定されているアビリティが消滅しました。アビリティの消滅が確認されましたので、セーフティが解除され、所持アビリティ全てがランダム対象となります』
「うおっと。……『限界破壊』解除」
『解除申請を受け取りました。コードを読み取り次第、スリープモードに移行します。解除コードをどうぞ』
「………………」
顔が反射的に歪む。
『解除コードをどうぞ』
これをやっている間にも、刻一刻と時間は進んでいる。
他のアビリティのレベルが減少するのは流石に痛い……
仕方がないので……嫌がる自分を必死で抑え、声を震わせながらボソボソと呟く。
『よく聞こえませんでした。コードの認証に失敗。解除コードをどうぞ』
お前は鬼か!
あぁもういいよわかったよ言うよ言いますよコンチクショー!
「限界破壊ちゃん、大好き大好き愛してるぅ」
『スリープモードに入ります』
なんなんだよこのコード! 俺設定してないぞ!
一番最初に、『限界破壊』の効果を使用した時に
『スリープモードに移行する際の解除コードは…………「限界破壊ちゃん、大好き大好き愛してる」です』
って説明されてからずっとこれなんだよ!
最初聞いた時は耳を疑ったわ!
だから使いたくないんだよなぁこいつ。
「はぁ……終わった終わった」
くるりとアオの方を振り向く。
俺の癒しは、アオだけだよ。
アオは何故かむくれていた。
--- --- --- ---
「ど、どうしたんだよぉアオ。なんで怒ってるの?」
《知らない!》
いくら聞いても、アオはつーんと突っぱねて教えてくれない。
しょうがないので、そろそろ諦めることにしよう。
しつこいのはあんまり好きじゃないからな。
ものすごく聞きたいけど、我慢しよう。うん。
「わかった。アオが言いたくないなら、無理には聞かないよ」
俺、大人。
《ますたーのばか!》
「なんでぇ!」
また怒られた。
どうしよう。わけわからん。
しばらくの間オロオロしていると、アオが急に俺の肩に乗ってきて、目元のあたりでグリグリと動き始める。
《マスター……目ぇ赤いね》
「言うな。あと、くすぐったい」
《でも腫れて……》
「やめろ。こんな情けない俺を見ないでくれ」
《見ないでくれと言われても、場所からいって物理的に見えなくされたと言うか、なんというか……》
体は正直だからな。
目元を覆いながら顔をそらし、アオを腹のなかに埋める形で抱きしめる。
《でもそっか。ますたーは、アオがいなくても大丈夫だったんだね……》
「なわけない!」
アオを全力で引き剥がし俺の目の前にちょこんと置く。
俺は必死で訴える。
「んなわけねぇ! アオがいなくて心配で心配で心配で心配で心配で、動きすぎた心臓何回か止まるかと思って、心配しすぎて危うく心肺停止するとこだったし! (錯乱し、少々ウィットが効いております)焦って焦って、困りに困って冷静な考えできなくて。しまいにゃ空腹とかいう無様すぎる理由でぶっ倒れてすぐにアオを助けに行けなくて。あぁお前のせいじゃねぇよ俺のせいだよすいませんでした! だぁぁ何言ってんだ違うわ! つまり俺一人じゃ全然ダメで!でも、だから、えっと、お前がいなきゃダメなんだ! お前にいて欲しいんだよ! だから、お前がいなくても大丈夫なんて悲しいこと言うな! 頼むから、言わないでくれ!」
《えっと、その》
「言うな!」
《あ、いや。私が言ったのは、ますたーは私が助けなくてもちゃんと元気だったんだなって。その、体調的な問題……?》
…………
《ますたー》
「見ないで! こんな俺を見ないで!」
《ねぇーえー。ますたーってばー》
両手で顔を覆い地面を転げ回る。
そんな俺に容赦なく追随をかましてくるスタイルのアオ。
実にイキイキとしている。きらきらと星すら幻視できるレベルだ。
「やめてぇ! 見ないでぇ!」
《ますたー。そんなに私がいなくて寂しかったんだ〜。ふ〜ん》
「言うなぁ! そうだよ寂しかったよ! ついでに怖かったし苦しかったし悲しかったしすげぇ辛かったよ! お前がいなくて俺はダメでした!」
《ふぇえ! あ、えっと、その……そうなんだ》
あぁぁぁぁぁぁ!!!
もう自分でも何言ってんのかわっかんねぇ!
でも主人として保つべき面目を粉々に打ち砕く一撃をかましたことだけはわかる! ものすごくわかる!
もう、なんだか、泣けてきた。
情けなくて……
《ま、ますたー!》
「おう! どした?」
急に脳内に大音量送るのやめないか?
毎度毎度驚くんだよ。
《アビリティとアオ! どっちが好き!》
「どっちと言われても……」
何が聞きたいのかよくわからんが、アビリティとアオを比べることがそもそも間違いだろう。
《うぅっ……ま、まさか……》
「勿論アオの方が好きに決まってるだろ?」
《ふぇ……ほ、ほんとう?》
「あぁ。当たり前じゃんか。なんでそんなこと聞くんだ?」
決まり切ったことを。なぜわざわざ聞こうとするのだろうか?
《な、なんでもない!》
「…………難しい年頃かい? 時が経つのは早いねぇ」
あまりの難題に。
俺は考えるのをやめた。
--- --- --- ---
ルートがよくわからなかったので、崩れている床を逆戻りしながら、さっきの部屋に戻る。
「約束した通りに来たぞ」
《待ってましたよ〜。お茶数十杯はお代わりしましたからね〜》
「……お前、飲み物とか摂取する必要あるの?」
《ないですね。でも食べると気分がいいので食べます》
まず触れるんだ……
《おや。今回は小さなお嬢さんもご一緒だ。その子がさっき言ってた探してた子ですか?》
《ますたー。この白いのなに?》
「同時に喋るな。頭の中で混ざる。この白いのは生ける屍だよ」
《なんで僕の質問には答えてくれないんですか! てゆうか生ける屍って! なんですかそれ!》
涙を浮かべながらズイッと近づいてくるので、そのぶん後ろに仰け反り片手で押し返す。
「うるさいなぁ。少し黙れ」
《酷すぎるこの扱い! 僕のどこがうるさいっていうんですか!》
「アオの念話がお前の念話と混ざって聞きづらいんだよ。俺はアオの声だけを聞いていたいんだ。邪魔にならないように喋れ。ジャミングすんな騒音機」
《もはや生物としても扱ってくれないッ! 僕助けてあげましたよね!》
「そうだな、感謝してる。んでアオ……」
《感謝もしてないしお呼びでもないって態度で言いたいんですよねそうなんですよね!》
おぉ……今まで基本弄られ系で生きてきた俺が…………初めて、他人弄ることに成功している。
《ますたー》
「な、なにかなぁアオちゃん。なんか言葉に棘があるよ?」
とげとげしい言葉が念話を送られ、青に視線を向けると。
黒いオーラがモヤモヤ立ち上り、つり上がった目で睨んでいる、ように見える。
「睨むなよ!」
俺が何したっていうんだ!
《……むむぅ…………はぁ。初めまして、アオって言います》
《アオさんね。初めまして。なんか、ちょっと怖いんだけど……僕なにかした?》
《…………ますたーはアオのですから》
《う、うん》
「おーい。俺も入れてくれ〜」
念話をこっちにも並列して送ってくれないと。
俺が会話に参加できないじゃないか。
「ま。まずは自己紹介からだな。俺の名前はユベル。んで、こっちがスライムのアオ。この世界をゆっくり旅してる。ここじゃ、とてものんびりなんて言ってられなかったけどな」
《驚くくらい強いですよね。今何レベルですか?》
「いきなりシークレットクラスの質問してくんなぁ。悪いんだけど、教えられない」
《そ、そうですよね》
「いやいや。別に教えたくないわけじゃないんだ。厳密に言うと、俺も知らないから」
文字化けする前なら教えてやってもいいけどね。
《知らない……? あぁ、まだステータス確認済んでないんですね》
「いや、そうゆうわけでも……」
そうか。『検索』持ってないとステータス分配するにも一苦労だからな。
そうゆう時には『プレート』っていう補助魔道具を使うんだけど。
使いづらいし、何より高いしな。
俺は検索を獲得して、コツコツとそのレベルを上げている。
《あぁ。これは失礼。僕の自己紹介が先ですよね。あ、その前にお茶をだしますね》
「おかまいなく」
《どうぞ。粗茶ですが》
「いただきます」
《むむう! やっぱり仲良し》
「アオも飲め。結構渋くて美味いぞ」
ここのダンジョンでお茶っ葉ドロップするエネミーいたっけ?
《僕はドラゴンです。名前は、思い出せません。僕はある人にテイムされていたエネミーなのですが、少し記憶を失っていて、ここに入ってからの記憶と、自分に関することを忘れてしまいまして。最愛のマスターのことは、かろうじて覚えているのですが》
「ドラゴンです、ねぇ」
《僕を小さい頃から可愛がってくれていたマスターです。きっと、僕をここに置いていったのも何か理由があるんだと思います。そんなこんなでここに住み着いて、16年になります》
マスターをずっと待って、ここにいるわけだ。
「移動とかはできるのか? ここ以外で」
《ここを出たことはありませんが、ダンジョン内なら基本どこでも行けますよ》
「便利だな」
《そのダンジョンは崩壊寸前ですけどね》
「済まん」
《僕に謝らないでください》
いや、とりあえずお前の住処だろうが。
《ここまでダンジョンが破壊されたのは初めてですが、小さなくぼみとかはすぐに直せるくらい修復能力がありますから。時間をかければ直ると思いますよ》
「そうか。…………早くマスターが来るといいな」
《はい》
《おかわり》
アオが差し出した茶飲みをドラゴンが受け取り、お茶を注いでまた渡す。
「あ。忘れてた。ちょっと最下層まで行って来るわ。ダンジョンボス倒したから、クリアボーナスがドロップしてるはず」
これぐらいはいただいていかないと。
ろくに宝箱回収できなかったからな。
《行ってらっしゃい》
「ああ。アオ、行くぞ」
《はふぅ〜。はーい》
--- --- --- ---
ダンジョンは下の方にも被害が及んでいた。
あれから一時間ほどかけて、今現在最下層の100階にいるのだが。
頻繁にグラグラと揺れては、ぱらぱらと天井から砂が降って来る始末。
これじゃラスボスがわざわざ自ら出てきてもおかしくないわ。
《ますたー……》
「お前の言いたいことはわかる。でも多分無理だ」
《ますたーでも無理なの?》
「あぁ。もうあいつは死んでるからな」
《えぇ!》
あいつを検索してみて、こんな結果が出た。
種族名:《Dragon Zombie》
個体名:無し
性別:---
年齢:---
LV:689
職業:無職
称号:無し
所持金額:0ゴールド
HP:---/---
ATK:1
DEF:---
AGI:---
INT:9000
アビリティ
『透過』
固有アビリティ
『対陽耐性皆無』
金アビリティ
6万ゴールド【 ゾンビ・ファング 】
9万6000ゴールド【 ゾンビ・ブレス 】
このゲームに、蘇りはない。
まぁ近いものとして、『エネミー接合』と言うアビリティを持っていた奴が作った『キメラ』と、今回の、アンデット系のエネミーとして黄泉返ることだが。
「違うんだよ。蘇りじゃなくて、黄泉返りは、別物なんだ。あいつはINTが高いからゾンビ化はしていないみたいだけど。マスターから貰った名前も、マスターとのテイムエネミーとしての絆も、あいつは失っている。記憶だって、もうほとんど残ってないはずで、残っている記憶がどこまで正しいものか……」
黄泉返りは、記憶を持っているだけの、全くの別人なんだ。
要するに『俺』も。だから、転生者なんだろうな。
《どうにかしてあげたい……》
「……」
そうだな。
マスターに会いたい一心でアンデット化してまで黄泉返って来るくらいだ。
本気で、自分のマスターに会いたいのだろう。
「……そうだな」
なんとかしてやりたい。なんとかできるのなら。
でもあいつは……
《ますたー。アレじゃない?》
「あぁ。そうそう、アレアレ。ところで、アオ?」
《なぁに?》
「すげえ助かったんだけど、いつ覚えたの、ソレ」
喋りながらでも、俺たちはずっと歩き続けていたのだが、クリア部屋が見えてきたところで、そろそろ……限界……
立ち止まり、こめかみを抑えながら震える声で問う。
ヒクヒクと頰がひきつる。
俺の視線の先には、ダンジョンの地面をばくばく食ってるアオがいた。




