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信じられないでしょうけど、ラスボス戦です!


「悪いな。飯恵んで貰っちゃって」

《いやいや、それはいいんですけどね……》


ガバッと皿を傾けて中身を口に全て叩き込む。

アムッモムッンムッ

ハムスターみたいな顔を晒しながらおちょぼ口で返事を返す。


「なんだ?」

《なんであんなところで倒れてたんですか?》

「……色々あってな……」

《あはは。変なヒトですね》

「お前には言われたくない!」


ゴクッ……


「ゲホッゲホッ! サンキューな。んじゃ」

《……お礼言えるなら、質問に答えるくらいしてくれてもいいんじゃないんですかね……》

「悪いな。時間がないんだ……」


真剣に頭を働かせたせいか、自然と眉間にシワがより、俯き暗くなる。


《あぁ、すみません。色々ありますよねそうですよね。別に詮索するつもりはなくて、ただ、ここに人が来たのは、凄く、久しぶりで……もう少し、お話してたかったものですから……》


ドラゴンがありありとわかるぐらい『私、落ち込んでます!』と態度でアピールしてくるので、つい慰めてやりたくなってくる。


「俺のテイムエネミーを探してるんだ。このダンジョンのどこかで、今も泣いてるかもしれねぇ。すげー可愛いんだぜ? ……そいつと一緒にまた必ずここにくるから、それまで待てるなら待ってろ」


どうやら今俺たちのいるこの場所は、何階かのクリア部屋のようだ。

完全に生活スペース化しているが。

布やらなんやらで隠されている穴がところどころチラリズムしている。


その穴の一つに入り、一度目を閉じて、深く息を吐き深呼吸する。

オーケー……大丈夫だ。頭は冴えてる。


すぅ〜……ふぅ……


アオのためなら、どんな代償だって支払える。


覚悟は、決まった!


ザンッ!


「『限界破壊』発動…………」


--- --- --- ---


バゴォォォン……バゴォォォン……


《大丈夫ですかねぇ〜。大暴れしてますねぇ〜》


()から爆音が小さく聴こえてくる中


《ズズッ……はぁ〜》


茶を啜っていた。

のんびり待っていたのだった。


--- --- --- ---


「いいんだけどさぁ! シリアス崩れるから入ってくんなよマジでさぁ!」


言いながらジャンプして、天井に拳を持っていく。

まるでただでかいだけの豆腐を殴ったかのような感触を残し、天井が崩壊し上の階に飛び乗る。


『一定時間が経過しました。ランダムで選定……アビリティ『熱通具合』のレベルを強制的に1頂戴いたします。『熱通具合』のレベルが0に達したため、アビリティが消滅します』


「うわぁぁ! 俺の唯一の料理系アビリティがぁ!」


ってだからなんだ!

料理系アビリティとアオの救出大事なのはどっちだ!

考える余地すらなくアオだよ! アビリティのレベルぐらいいくらでもくれたらぁ!

溶かしたきゃ好きなだけ溶かせ!


脳内に機械的に流れてくる言葉は無慈悲で

二度と聞きたくないと願っていた声である。


カチリ


「はい、ごめんねぇ!」


地面を陥没させる勢いで罠発動ごと踏み潰す。

特別(スペシャル)アビリティの代償あり能力使ってんだ。これぐらいできなきゃシャレにならん。


「アオ! アオぉ! くっそ! ところどころぶっ壊したけどまだダメか。回線悪すぎるだろ! 通信が繋がらねぇ」


はっ! 通信制限か、あ、でも二月になったばっかだし……って落ち着け!


「こうなったらダンジョン全部ぶっ壊してでもアオを見つけてやるからなぁ! 覚悟しやがれ!」


拳に加わる力はとどまることを知らない。

また崩壊する音がダンジョン中に響き渡り、一つの階層の一つのルートの天井が崩れ落ちた。


--- --- --- ---


《あむ……あむ? なに? この音》


ドカンバタンと音が聞こえてくるたびに地面がぐらぐらと忙しく揺れる。

なんの音だろう?


《ま、なんでもいいや。私には急いでますたーを見つけなくちゃいけないという目的がありますからね》


もぐもぐ……ごっくん。

あむ。もぐもぐ……


ますたー……ご飯、食べてるかな。

お腹が空いて倒れてないかな……アオが全部ご飯持ってっちゃってたから。


《なにも食べてないけど……》


今もお腹の中で全部バッチリ保管してある。


一人で食べるご飯は……物のせいってこともあるけど……やっぱり、美味しくないな……

いくら高いものでも、いくら貴重なものでも、きっと、美味しくない。


ますたーと一緒に食べるご飯だから、美味しいの。

ますたーと一緒なら、なんだって美味しい。なんだって、幸せだから。


《……ぐす……な、泣かないもん! 私は、強くなる、ますたーの、役に立つの……それが、私の見つけた、私のやりたいことだから》


ガリガリガリ……あむあむ。

もぐもぐもぐ……ごっくん。


もぐもぐ……もぐもぐ……


--- --- --- ---


『一定時間が経過しました。ランダムで選定……アビリティ『目測』のレベルを強制的に1頂戴いたします。『目測』のレベルは3です。注意、【優先】に指定されているアビリティが『目測』のみとなりました。このアビリティの消滅が確認され次第、セーフティが解除され、所持アビリティ全てがランダム対象となります。ご了承くださいませ』


「えっと。消えたのが『熱通具合』と『守銭奴』レベル6と、『ロックオン』レベル4か。だいぶ時間がかかってるし、それぐらい持ってかれても当然か……『目測』も、もう10レベル徴収されてる」


これが消えれば、他のアビリティもレベルが減少することになる。

できることなら、そうなる前にアオを見つけたい。

とは言っても『限界破壊』を解除する気はさらさらないけどね。

せめて、このペースが維持できなくなることだけは回避したいが……


「でも、そろそろこのダンジョンも天命を全うする時かもしれない。数えてないけど、かなりバラバラにしたからな。もうこのダンジョン全身ガタガタだろ。そんな気がする」


てかなんでもいいけどこの感触どうにかならんもんかね。

ぐにゃっ……ってして変な感じなんだよなぁ……まるまるそのまんまの意味で豆腐蹴ってる感じ。

こー、ぐにゃって。


ときどき力加減時々間違えて、着地しようとした地面を踏み抜いて下の階層に戻っちゃったりする。非常にめんどくさい。


「テンポ崩れるかもと思って使わなかったが、ちょっとテンポアップも悪くないだろ……『逃亡』発動!」


『限界破壊』でドーピングされているAGIにさらなる負担が……

俺の足も同時にご臨終するかもしれん……


「うらぁぁあ!」


ボゴォォオオン!


--- --- --- ---


ボゴォォォ……


《揺れるなぁ……ちょっと怖い……》


いやいやいや! 怖くなんかない怖くなんかない!

うん! 大丈夫!


ちょっと揺れてるだけだよ。ダンジョンなら、当たり前だよね。

ますたーが好きなものなんだもん。そんなものだよねダンジョンって。


《……うぅ……ん……ちょっと、流石に気持ち悪くなってきたかも……》


ガリガリして進みながら、疲れたら的エネミーの出ない道の中で少し寝て、また動いて。

しっかりと休みは取ってるけど、それでも疲れは確かに蓄積されている。


《はへ…………みゅ?》


すっと、何気なく違和感がある気がして上を見上げて。


《………………ッッ!!》


身体中に寒気が走った。

『暗殺』は今も発動中だし、効果も緩めてはいない。


それでも、道の向こうでこちらに『殺意』をむき出しにしながら威嚇してくる相手は、確かにこちらを認識していた。


こ、この人……このエネミー、強い……


両手がだらんと力なく垂れ下がり、猫背で気持ち悪い笑みを浮かべ、少し間の抜けたような鼻の下を伸ばした顔。


(ど、どうしよう。ますたーは、ここのエネミーは弱いって言ってたのに……)


実際、何個か前の部屋にいたエネミーは私に気づかなかった。

そしてふと、ますたーの言葉が頭の中で思い返される。


『金稼ぎってことで、遺跡の国『エンジン』にしようかなって。そこのダンジョンなら出てくるエネミーも強くないし、遺跡だからなのか出土品、お宝が普通のダンジョンの数倍はあるんだよ。でもそこには猿鬼って言う守り神がいて。またそいつが強いのなんので』


間違いない……今私の目の前にいるのが、きっとそれだ……

どうしよう、ますたーがいないと、私は戦えないのに!


それだけはどうしようもないことなのだ。


相手はのんびりゆっくり、のっそのっそと近づいてくる。


《どうしよう! どうしよう! ぼ、『防御』発動! こ、『硬質化』発動!》


アビリティをいくら発動しても、とても力の差が縮まるとは思えない。


ダメ! 諦めないで!

アオは、ますたーを助けに行かなくちゃいけないの!


もう一度、ますたーに会いたいの!


「キキャーーア!」


叫び声のような甲高い鳴き声をあげて、爪を立てた相手が飛び込んでくる。

どうしようどうしよう! 何か、何か手は……


もうすぐそこにまで相手の手は迫っていた。


あ、ダメだ。

私が今からいくら上手く動いても、多分きっと間に合わない。


スザァーー……と記憶の波が、走馬灯になって流れ始める。


ますたーの、ことばっかり……


スローモーションに見えるけど、現実はそんなことはなくて、ちゃんと動いていて。

だから、私は……


ぐすっ……うっ……ますたー……


我慢していた感情が、漏れ始める。


ますたー……ますたー……!


大好きな人の名前を何度も呼んだ。

望みを言葉にして、吐き出した。



もう一度だけ……せめて、もう一度だけでいいから……


もう一度だけ……ますたーと、会わせて……よぉ……


「もう一度だけなんて、言うなよ」


瞬間、体がふわりと浮いたような感覚に襲われる。

音が、ない世界で。

私の周りには、岩や石や、そんなものがいっぱいあって。

でも、そんなものに目をやることはできなかった。


何か、優しくて、とても安心する匂いに抱きかかえられるように、体が包まれたから。


そして上から降ってきたのは、願いに願った、焦がれに焦がれた人の言葉で。

どうか幻聴でありませんようにと祈りながら顔を上げて。


そこには、会いたいと願い続けた人が、確かにいた。


《ま、ます、たー?》

「……ごめん。遅くなった」


それでも信じられずに名前をつぶやいてしまう。

それに、ますたーの、ちゃんとした返事が返ってきたことに胸の中がいっぱいになった。

嬉しい、嬉しい嬉しい嬉しい。

会えた、ますたーが助けに来てくれた。

嬉しい。嬉しい。

ただただ浮かれてしまって、ほぼ本能的にますたーの胸に飛びつく。


《ふぇぇぇええん! ふっ、うぇぇぇぇぇん》

「無事で良かった……」

《ますたーーー! ますたぁぁ〜! こわ、怖かったよぉ〜、あ、あ、会いたかったよぉ〜……》

「俺も、会いたかった……」


ますたーの声は掠れてて

ぎゅっと、固くて、いつもよりずっと強く、なのに心地いい。

ますたーの暖かさが、身体中に染み渡って……明るくて、気持ちがいい…………


--- --- --- ---


アオに、アオに、会えた。

ぎりぎりで、守ってやれた。


背中を攻撃された痛みなんて感じない。


腕の中にいる、この小さな、でも逞しくて愛らしい、この存在を感じてられれば、それでいいから。


「アオ……もうお前を離したくない。でも、俺はダメダメ野郎だから、離したくなくても、離しちゃうかもしれない。だから、お前が絶対に俺を離さないでくれ……。ずっと、捕まっててくれ。カッコつけきれない主人でごめん……」

《ますたーは、……ますたーはぁ! カッコ悪くなんかないもんっ! カッコいいもん! ぐすっ、すっごく! すーっごく! カッコいいんだからぁ! うわぁぁぁぁぁあん!》


アオが何やら嬉しいことを言い切ってくれたと思ったら、すぐに泣き出してしまった。

背中をゆっくりと撫でる。


「ありがとうなぁ。よしよ〜し。いい子いい子」

《アオ! アオ頑張ったんだからぁ! マスターのために、ここまで、頑張って来たんだからぁ!》

「うん……わかってる。てゆうか素直に驚きだわ。どうやってここまで来たの?」

《それは……ってますたー!? 後ろ後ろ!》

「あぁうん。しつこく殴り続けて来てるよね」


猿がウゼェ。

今もなお、ウッキッキウッキッキ言いながら背中を攻撃し続けてくる。


《ますたー! 大丈夫?》

「当たり前だろ? こいつに構う時間があったらアオに使うっつの。時間は有効活用しないとね」

《嬉しいけど! 取り敢えず後でたくさんお話ししよう! 今は敵を倒して!》

「えぇ〜」

《ますたーが傷つくのはイヤなの!》


うぐ、そう言われると。


アオを肩に乗っけて猿を睨む。


忘れちゃいねぇ。

さっきの攻撃、ぎりぎりアオとの間に挟まれたから、俺が殴られて済んだけど

もし俺が間に合わなかったら、アオが大怪我を負っていたわけで。


許せねぇ。


「……てめぇ……『猿鬼』」

「キキッ」


検索。



種族名:《Ogre Monkey》

個体名:猿鬼

性別:♂

年齢:1822

LV:3998

職業:守り神

称号:【 鬼へと至りし者 】

【 ダンジョンを支配する者 】

【 ラストボス 】

殺し屋(スレイヤー)

【 守護精霊 】

所持金額:60万ゴールド


HP:69300/69300

ATK:20355

DEF:7522

AGI:10854

INT:1000


アビリティ

『妨害』『窃盗』『木術』『爪強化』『牙強化』『転倒防止』『恐怖耐性』『トラウマ』『鬼界』

固有(ユニーク)アビリティ

『猿技』『永猿』『火猿』『見猿』『聞猿』『言猿』『猿真似』


(ゴールド)アビリティ

1500ゴールド【 ガリガリ 】

2000ゴールド【 ガリクソン 】

3100ゴールド【 ガブリン 】

6000ゴールド【 モンキー・ダンス 】

8500ゴールド【 オーガ・フェイス 】

1万ゴールド【 モンキー・ラッシュ 】

2万5000ゴールド【 ツリー・クライミング 】

6万ゴールド【 モンキー・イミテーション 】

30万ゴールド【 スリー・ワイズ・モンキーズ 】





レベル、3998、ねぇ。


『検索』アビリティの限界も破壊されてるから、ちゃんと見えたけど。

一体何レベルまで見えるようになったんだか。


「……『妨害』…………そうか、道理でおかしいと思ったよ。ダンジョン内でだって、普通通信は使えるもんだからな。てめえが、邪魔してたわけだ……」

「キキキキキッ!」

「完璧に、俺の敵認定で、いいんだな……?」


猿は楽しそうに鳴き声をあげ、壁を蹴ったり一度バックしたり、独特な動きでこちらにジワジワ近づいてくる。


「ウキキッ!」

「…………」


爪を立てて、飛び回る猿鬼をまるで位に返さないように、俯いたまま動かない俺。


「キキッ! …………キャ?」


それは一瞬だった。

ついに、猿鬼が飛び込んできた瞬間、無理やりに体を起動させ、猿鬼の顔面に全速力で拳を持っていく。


「…………反射」


すぱぁん。


無音が広がり、右拳は右手ごと後ろに弾かれ、その勢いで体制ものけぞるようになってしまう。

音のない、たった一瞬の白の世界。


それを破ったのは。

後に続いたありえない轟音と、猿鬼の断末魔の叫びだった。


ボガァァァアアアアン!


まさしく、大砲を放ったような音で、猿鬼はさながら大砲の弾のようにぐるんぐるん回って吹っ飛んでいき、すぐに見えなくなった。


「限界破壊プラス、俺がこのダンジョンでもらった全衝撃のお礼だ。のしつけてお返ししてやる」


てかなんで100階のイベント部屋にいるはずのこいつが、こんなところにいたんだ?


あ、片っ端からダンジョン破壊しまくったせいか?

こいつ取り敢えず守り神だったよな。神ってより、精霊って設定だけど。


ま、いっか。

アオに会えた。今はそれだけで十分だ。



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[一言] なんか、もう、激甘なカップルにしか見えない
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