信じられないでしょうけど、酒場での問題行動です!
《マスター。この道角を右》
《曲がったら左側に並んでる中の三番目のお店の中》
(了解)
俺が走り去った影響で起こる風にまくられるスカートに目をやる度に目潰しとボディーブローをくらう中、俺は精一杯走って指定された店の前まで走り抜けブレーキを踏んだ。
「ミルクルさん! 大丈夫か!」
ブレーキによる摩擦で舞い上がった砂埃のせいで店先の商品が汚れたと怒られて少し時間を取られたが、気にしない方向で目的地である酒場へと突入した。
その場での戦闘もありうるためアビリティで準備はしてある。
そして店内は、なんか異様な空気が漂っていた。
まずお客全員が立ち上がってる。
店内がなんか変に荒れている。
全員が入り口に立つ俺を凝視している。
見た目何かあったようには見えないミルクルさんが微妙な視線を俺に向ける。
「えっと、お邪魔しました?」
取り敢えず後頭部を書きながら回れ右をした。
ミルクルさんに襟元を掴まれた。
ふむ。さてミルクルさん。なにがあった?
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「嬢ちゃん。一杯追加だ」
「あ、あ、あの。ガンさん……もうそろそろやめておかないと……」
あぁ? 誰が忠告を注文した? 俺が注文したのは酒だ。
「酒を持ってこいと、俺は言ったぞ?」
「ひっ……も、もう朝ですし、昨日の夜から飲み明かされているではありませんか。これ以上はお体に触ります」
うるさい。そんなのは俺の自由だろうが。
なにをしても上手くいかない。悪い方向にしか行かない。誰も信用できない。
愛する妻や娘を見るたびにあの覆面のガキが脳裏を横切るんだ。
今にも気が狂いそうで、飲まなきゃやってらんねぇんだよ!
黙って次を持ってくりゃいいんだ!
「うるせぇ!」
「キャア!」
グラスを机に叩きつけ、その衝撃で割れてしまった。
チッ、まぁいい。めんどくせぇが酒代に色をつけりゃあ問題ない。
「で、ですが……」
「まだゴタゴタ抜かすか小娘」
俺など放っておけば良いものを。
ただでさえ俺はイラついているのだ。
これ以上ピーチクパーチク喚けば女だからと容赦は
「きっと奥さんと娘さんも心配していらっしゃいますよ?」
その言葉に、堪忍袋の尾が切れ、俺は拳を握り振り上げた。
「お前に俺の何がわかる!」
「知るかそんなこと」
その言葉が真下から聞こえた瞬間、振り下ろした拳が空振り、何かに掴まれた。
視界が回転したかと思うと、馬鹿でかい音が耳元でなり気がつけば俺は地面に倒され。
胸倉を掴まれなぜかピクリとも動けない中、口の悪い女に睨まれボロボロになった剣を喉元に突きつけられていた。
「いい加減にしろよ耄碌ジジイ。その首斬りとばすぞ」
にこりと笑い発せられた言葉に、背筋がゾクッと凍った。
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「お前に俺の何がわかる!」
「知るかそんなこと」
取り敢えず女の子を端に突き飛ばしてからおじさんの振り下ろした腕を掴み一本背負い。
腕を引かずに衝撃を全部叩きつけてから、関節技をかけて馬乗りになり喉元に剣を突きつけた。
「いい加減にしろよ耄碌ジジイ。その首斬りとばすぞ」
おっと。ジジイっていうほど年取ってないか。ヒゲモジャすぎてよくわからんけども。
武器都市ガイアには武具や以外にも、酒場がいくつも存在する。
その理由は、プレイヤー以外のここに住んでいるNPCは、殆どがドワーフだから。
NPCのドワーフはみんなお酒好きって言うファンタジー定番の設定がある(プレイヤーのアバター選択にもドワーフはあるけどお酒好きになるとかは勿論ない)。
ユベルちゃんは小屋に戻ったらしいけど、わざわざまた山を登るのも馬鹿らしいし。
転生者について情報を集めるついでに、一日ここに泊まったのだけど。
なにかしら、この状況。
昨日は良さげな情報が手に入らなかったから、ユベルちゃんと合流してまた別のところで情報収集して行こうと思いながら階段を降りてたら、なんか大声で怒鳴り声が聞こえて。
それを見るとあろうことか大柄なおじさんが女の子を殴ろうとしていた。
気がつけば飛び出しておじさんを地面に叩きつけ、店内で剣を抜いた上にそれを突きつけて勢いで斬るとまで言っちゃった。
この場合脅しとして取ってくれるだろうけど、場合によっては憲兵を呼ばれても文句を言えないかもしれない。
(はぁ、またユベルちゃんに面倒ごとを巻き起こすトラブルメイカーとか言われちゃう)
でも仕方ないじゃない。
流石に目に余ったのよ。
怒鳴るだけならまだしも、女の子が暴力にさらされるところを黙って見ていることなんてできない。
ただ情報を集めるだけでこんな注目を集めるつもりはなかったのだけど。
おじさんを押し倒す趣味はないんだけどなぁ。
「黙って聞いてれば、ゴタゴタの抜かしてるのはどっち? これだから酔っ払いは。自分を心配してくれた女性に怒鳴り散らして、あまつさえ手をあげるなんて。最低の男ね」
これがあの『ガンテツイベント』の魔剣打ちだなんて信じられない。
憧れがガラガラと崩れ落ちた。
こんな飲んだくれの最低ジジイとは思わなかったわ。
ちゃんとこの世界にも実在したことを知れたことは良かったけれど、もうこの人に剣を打って欲しいとは思えないわね。
「……は、離せ! 離せえ!」
「おっと!」
関節を決めてるのにこれだけ暴れられるとか凄いわね。
わざわざこんな遅い拳にあたってあげるのも馬鹿らしいし、仕方がないから関節技を解いて大きく伸びのいた。
ガシャン!
「わわわっ! ごめんなさい!」
背中が机に激突しそこに置いてあったグラスやら瓶やらが倒れるだの地面に落ちるだの、中身が溢れたりグラスが割れたりもう滅茶苦茶になった。
あぁもう! 店内じゃやりづらいわね!
何故か店内でどっと拍手が巻き起こった。
「え?」
「はっはー! いいぞ嬢ちゃん!」
「やっちまえー!」
「アンタがやらなきゃ俺がやってたぜ!」
「お前の出る前に店主が黙っちゃねえーっつーの!」
「やれやれー! そのまま馬鹿野郎をぶちのめせ!」
な、なんとも陽気な人たちだね。
驚いたのが、私に自分のお酒をひっくり返しされた人すら積極的に手を叩いていること。
怒られなかったのは良かったけど、なるほど全員酔っ払いか。
あとで弁償するとして、あー、お金がもったいないってユベルちゃんに怒られる。
「……やってられるか!」
「あ! こら逃げるな!」
おじさんは不利を悟ったかお金の入った袋を放り投げて扉に向かって逃走を始めた。
ぶちのめされろとは言わんけど、せめて土下座してから帰れ。
しかし扉の前に立ちそれを塞ぐ三人の男性。
いいぞ! そのまま抑え
「邪魔だ!」
おい!
三人とも吹っ飛ばされたんだけども!
さっきまでのあのドヤ顔はどうした!
逆光を背中に浴びたあのキメ顔が辿った末路を考えると笑いを通り越して可哀想になってきた。
「頼りにならないなぁ!」
追いかける?
そこまでする必要性も感じられないけど、今追いかければなんとか追いつけるところではある。
そしてやるかやらないかで悩み気の緩んだ一瞬をつかれた。
酒場特有の上下が空いている扉から、一本のナイフが私に向かって飛んで来たのだ。
(ヤバッ)
死角だったせいで反応が遅れ避けられそうもない。
まぁ、当たりどころさえ調整すればいいかと思ったら、アオちゃんのベイビーが飛び出してナイフを受けた。
するとアオちゃんの体がサーッと砂のようになり、ナイフも同様に風化した。
(今のって、魔剣? しかも強力な使い捨てタイプ。一撃必殺なんていうレベル。アレは明らかに他の剣とは一線を画す業物)
面白そうに笑っていた方々の中にも気づいた人はいるらしく、真剣な顔になっている。
その人達の空気が伝染し、シーンと先ほどまで楽しかった空気が変貌してしまった。
「あーっと」
どうしたもんかと少しの間店内を直したり話を聞いたりを行い。
「ミルクルさん! 大丈夫か!」
そこにエアブレイカーが舞い降りた。
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「って感じなんだけど」
「成る程な」
うっ……やっぱりアオちゃんのベイビーを守れなかったこと怒ってるのかな?
自分の油断が原因だから文句が言いづらい。
「ミルクルさんが無事で良かった。アオのお手柄だ! 偉い!」
《えへへ〜。でしょ〜》
《ミルクちゃんは本当に怪我ない? 回復薬なら作るけど?》
「え? あ、いや、大丈夫、だけど」
私のキョトンとした返しにユベルちゃんが変な顔をした。
「ん? どしたミルクルさん。変な顔して」
「元々変な顔してる人に言われたくない。その、怒ってないのかなって?」
意外と覚悟を持って言ったのだけど。
ユベルちゃんは自分の頬を持って「え? 俺変な顔してる?」とか聞いて来た。
素直に殴りたい。
「ミルクルさんは良いことをした。その過程で生まれた事だし。アオの分体はこういう時のためにつけてるんだから、怒るわけないだろ? 確かにレベル30減少は痛いけど、もうレベルがあげられないわけじゃないし、ミルクルさんの命を守ったのだから文句はないさ。な、アオ」
《ミルクちゃんが無事で良かったよぉ〜》
「だってさ」
ユベルちゃんに撫でられてふにゃふにゃになっているアオちゃんがそんなことを言うものだから、ユベルちゃんから奪い取ってつい抱きしめてしまった。
《むきゅ。ミルクちゃん?》
「えっと……ありがと」
《にへへへ〜。どういたしまして》
なんだかんだあったけど、なんか幸せな気分だ。
ユベルちゃんも、心配してくれたみたいだし。
普段はあんなだけど、ちょっとは見直してあげようかな。
「じゃあユベルちゃ」
「怪我はなかったかいお嬢さん。怖かっただろう? もう大丈夫。この俺がきたからには、もう君に指一本触れさせはしないさ」
「あの」
「ナンパすんなッ!」
「危ねぇ!」
ユベルちゃんが給紙の女の子の手を取ってナンパしていたのでぶっ飛ばそうとした。
剣を紙一重で避けられた。
見直すのは少し見送ることにしよう。
ユベルちゃんが手を振りながら私から距離を取る。
「冗談だって」
「冗談として受け取らなかったらそれは冗談じゃないのだけど、そこらへんどう?」
「目がマジだな……だけどミルクルさん、俺相手ならまだしも、初対面の相手に剣はいかんだろ」
「あ、やっぱり?」
それは自覚してたんだけどね。
というか、話逸らしてない?
「たく。まずはこの状況の整理から始めようか」
「あの……」
「ん? なんですお嬢さん」
気づけば給紙の女の子は胸の前で両手を握りながらユベルちゃんに話しかけていた。
ビンタ? ビンタかしら? 思いっきりやっちゃって良いわよ。
「お兄さん、あの、さっきなんと呼ばれておりましたでしょうか」
「呼ばれてた? えっと、『ユベル』だけど」
ユベルちゃんが自己紹介をした瞬間ざわりと辺りがざわついた。
話についていけない。
すくなくとも、初めて聞いた名前に向けるざわつきではない。
(ユベルちゃん。この国に来たことあるの?)
(いや、こっちじゃ初のはずなんだが……え? 俺ってそんな有名人?)
知らないわよそんなの。
でもユベルちゃん本当に身に覚えなさそうね。
どういうことかしら。




