信じられないでしょうけど、成長と出会いっぽいです!
《……ま、ますたー?》
ど、どうし、よう。
ますたーが、ますたーが、消えちゃった!
《ふぇぇ》
嫌だよぅ……一人は、一人じゃやだよう……
ますたーと一緒がいいよう……
《ますたー……ますたー? ……ますたーってばぁ!》
うそ……念話が、届いてない?
このままアオ、ずっと一人ぼっち。
この、動けない道の中で。
アオ。捨てられ―――――
《っ!》
ゾッ! 身体中に気持ちの悪い寒気が走り、ぶるぶると震え、どうしようもない不安に支配されてしまう。
《そ、そん、な》
ズリ……カチ
ズバァァァアン!
《ヒッ!》
ちょっと体を動かしただけで、アオの目の前に鉄球が三つ通り抜け、向かいの壁にめり込んだ。
《動けないよぉ……怖い……怖いよぉ…………ますたー。ますたー……助けて》
体の震えが、止まらない。
頑張って頑張って縮んでも、いくら丸まっても、震えが止まってくれない。
『…………………………アオ…………』
《ますたー!》
ふとますたーの声が聞こえてガバリと起き上がり周りを見ても、そこにますたーの姿はない。
《ますたー! ますたー!》
『…………アオ………………見つ…………どこだ……』
《アオ! アオはここだよ! ますたー!》
断片的に、本当に微かに、ますたーの声が確かに聞こえてきた。
でも、こっちの声を聞く余裕はないっぽい。
言葉にならない。ますたーのなにか物凄く悲しい感情が、流れ込んできたから。
《ま、ますたー》
それからはぱったりと。
いくら待っても声が聞こえてくることはなかった。
どうしよう。このままだとますたーが、ますたーが、死んじゃう。
ほぼ直感的にそう感じた。
《だ、だめ!》
知らずのうちに叫んでいた。
ますたーは死んじゃだめ! 死んじゃヤダ!
死なないでますたー!
アオが……アオが……なんとかするから。
アオがますたーを助けにいくから!
怖いけど、怖くて、仕方がないけど。
でも! マスターが死んじゃうことの方が、そんなのより、全然怖いんだから!
アオは…………私は、ますたーのエネミーだから!
ますたーに助けてもらうんじゃなくて、ますたーを助けるの!
《私、頑張る。頑張るもん!》
こんな道。ますたーのためなら、怖くないもん!
うぅぅ…………えぇぇぇぇーーい!
--- --- --- ---
「はぁ! はぁ!」
…………ここは、どこだ。
クリアして、ルートに落ちて、罠にかかり、別ルートに飛ばされ、上の階に飛ばされ。
上に行き続ければ最終的に外に出られるんじゃないかと
そして一度リセットすれば、すぐに探しに行けるんじゃないかと罠にはまり続けても、時折発動する転移に弾き飛ばされまたわからない場所に戻る。
上に行き続ければ、少しづつでも先に進んでしまい、最後には『イベント部屋』に到着してしまう。
そこには、『エネミーとのバトル』・『何もなし』・『宝箱』などのイベントしかなく罠はない。 その先には下に続く大量の穴。
これ、詰んでないか?
「…………げほっ……」
これは……なんでだろう。
いくらダメージを負っても、そんなにダメージは喰らわないはずだし、すぐに回復されるはずなんだ。
なのに、歩くのが、辛い。頭がガンガンして止まらない。気持ちが悪い。
はやく、アオに、会いたいのに……視界が……
ピタ……カッ!
「ヤバッ……」
壁に手をつき、罠が発動し訳のわからない方向に吹き飛ばされ、天井やら壁やりに激突し地面に落ちる。
「カハッ! うっ……ゲホッ! ゴホッゴホッ!」
アオ…………
震える足をぶん殴り、膝に手を置いて立ち上がる。
「…………アオ……」
ぐらりと、一歩進んでから体から力が抜けて、そのまま地面に舞い戻る。
ドサ……
カッ!
ズトォオン!
「………………ッ〜〜〜! ぐぇ!」
助かった……意識を失ってた。
これで何度目だ? もう、意識を保ってるのが辛い。
このダンジョンなら、ぶっ倒れても、問答無用で叩き起こしてくるからありがたい。
倒れればほぼ確実に罠を踏むからな。
うつぶせに倒れたせいか、アッパーカットを喰らったように上の階に飛ばされ、地面に数度バウンドする。
それにしても、おかしいだろ……
HPは減ってないんだぞ?
怪我どころか、傷ひとつない、ピッカピカだ。
なのに、どうして……体に力が、入らない。
クソ! 立て! 急げ! HPだって減ってねぇだろうが!
俺は動ける! まだ、全然平気なんだよ! なんでだよ!
力を入れた端から力が抜けて、立とうとしてもすぐに地面に背中をつけてしまう。
ぐらぐらと視界が揺れる。瞼が、震えて、もう、落ちてしまう。
ここで寝たら。ここで意識を失ったら、死んでしまう。
俺がいなかったら、誰が、誰が、アオを…………
「……………………アオぉ……」
なんとかうつ伏せになることに成功する。
何処か、何処か罠に吹き飛ばされれば、意識が……
引っ掻くように地面に爪を立て、ずりずりと体を引きずるように前に出す。
だが運がいいのか悪いのか、罠に触れることはなかった。
情けないことに、今にも閉じられそうな目から涙に滲み流れ続け、震えながら伸ばす右手もぼやけて見える。
唯一溢れた言葉も、ひどく濡れて、かすれていた。
アオ。お前を、……だから…………
フッと糸が切れたかのように右手に力が抜けて、ぺちりと弱い音を残して
それ以上音が発生することはなかった。
フュュュユ……
《……あれ?》
ピタ。
《何やってんだろ? この人》
--- --- --- ---
「う……ん。アオ!」
やばい寝てた!
死ななくてよかった。あ、そういやルート上にはエネミーがこないんだっけ。
これだけはこのダンジョンに感謝だな。
ダンジョンで寝落ちってイコール式で死亡っていう常識が頭から抜けない。
「早くいかねぇと」
《あぁダメですよ。まだ寝てないと》
はい?
バッ!
《うぉえ! どうしました? お腹すきました? てゆうかお腹空いてますよね》
ぐきゅるるるるる。
思い出したかのように腹の虫が叫びをあげた。確かに腹が減っている。
どうやら俺の『HPが減ってないのに辛い現象』は、空腹が原因だったらしい。
考えてみれば当然だ。
今朝から何も食べていないし、精神がいくら歳食ってようが、肉体は六歳だ。
眠くもなるし時間が経てば腹も減る。
腹が減りまくってればそりゃあクラクラするだろうし、力も入らなくなるだろうし、気持ちも悪くなるだろう。
いくら回復だって、回復させることができるのは生命力だ。
空腹はどうにもならん。飯とか全部アオに持たせてあるし。こんなことにも気づかんとは……
「いかんな……こんなんじゃ、見つけるどころじゃない」
こんなんじゃ、その前に俺が死んでしまう。
今度こそ、冷静にならねば……全体を見て、状況を把握し、打開策を思案する。
外ばかりも見るな、自分自身も見直せ。
だが今は、残念ながら思うように思考を切り替えることはできなかった。
俺の目の前にある飯――――――
《どうしました?》
――――――をもっているこいつのインパクトが強すぎて、こいつから目が離せない。
全身青白くて、移動するとふゆゆゆと音が聞こえ、頭に天冠をまいた
足のない、ドラゴンみたいな姿をしたやつが、飯を盛った皿を持って、首をかしげた。
「お前、なに?」
《ドラゴンです》
「ドラゴンは自分のことをドラゴンですとは言わねぇ」
確かにドラゴンの姿をしてるけど。
明らかにどっかのゆるいデフォされすぎキャラって感じのドラゴンで、出てくるゲーム間違えてますよとしか言えない。
《ドラゴンですよぉ! 信じてくださいよぉ!》
「そう、なのか。喋れるんだな。えっと、それより……》
《はい?》
喋れるというより、これは念話だな。
念話に慣れすぎてて最初普通に喋ってると勘違いしちまったわ。
こいつがドラゴンかどうかとか、喋るとかは、後で検索するとして。
「ご飯、もらえる?」
《あぁ。どうぞ》




