妖精の物語
この物語は、とってもとっても昔のお話。人間が火という手段を使い慣れた頃の物語です。
地球を果てしなく西の方角に進んだところに、みずみずしい葉に覆われた木々の森が存在しました。
この森の奥深く、泉があり、小鳥がさえずるところには、遙か昔からの言い伝えで、妖精が住んでいるというのでした。
事実、確かに妖精はそこに存在していました。とてもか弱く儚い妖精たちが楽しく暮らしていたのです。
ですが、ある日を境にして、この世界で最後の妖精たちは存在しなくなりました。つまり、妖精たちは地球上から姿を消したということです。
それは、遠くの国から移住してきた者たちによって、森が焼き払われてしまったからでした。
儚い妖精たちは、あっという間に自然の一部として、森に還っていきました。
妖精たちを哀れんだ天上の神様は、天上じゅうの天使たちにこう言いました。
「森の一部となった妖精たちの魂を、優しく、私の元までもってきなさい」
天使たちは人間の世界に降りると、すぐさま森に行き、妖精たちの魂をそおっと神様の元へ持ち帰りました。
神様は、妖精たちの魂に向かってゆっくりと語り始めました。
「おまえたちは心優しい妖精だ。こうして命亡きものになってしまっては、私の心が痛んでしかたがない。もしおまえたちが望むのであれば、人間に生まれ変わらしてやろう。」
しかし、妖精たちは皆、首を横に振りました。
「いいえ、私たちはそのようなことを望んではいません。少しの間だったとしても、妖精であることの時間を楽しく過ごさせて頂きました。神様が悲しがることなど、一つもないではありませんか。」
それを聞いた神様は、とても困った様子でした。
「だがしかし、私としては、おまえたちに何かしてやりたいのだが。おまえたちが心から望む願いは、何かあるかね?」
妖精たちは目を閉じてゆっくりと考えました。そして一つの妖精の魂が、神様のまえに進み出て、祈るようにして言いました。
「私たちは風になりたいのです。人間の世界を吹き渡る優しい風に。子供達の頬をそっと撫でてあげられるような、気持ちの良い風になって、人間たちを見守ってあげたいのです。」
神様は、人間によって命を失った妖精たちがこのようなことをお願いするなんて、思ってもいませんでした。
ですが神様は、心優しい妖精たちの願いを笑顔になって受け入れ、妖精たちの魂にむかって手をかざしました。
すると、妖精の魂は宝石のようなキラキラ光る優しい風になったのです。
そして、優しい風となった妖精たちに、神様はこう言いました。
「おまえたちを人間の世界に還そう。おまえたちが変じた風は、人々の背中を後押しし、勇気づける優しい風になるだろう。やがて、おまえたちの住んでいた森までもが、元気に生まれ変わるであろう。」
神様は、風になった妖精たちを、天使たちに命じて、人間の世界に還しました。
このお話はとってもとっても昔の物語。こうして、心優しい妖精たちは風になりました。
あなたの背中を時々後押ししてくれる風は、妖精たちの仕業かもしれません。