最終確認
オレはバイクが好きで私生活の移動は常にバイクだけど、もうバイクには乗らない。
いや、乗れない。
高校の時からバイクに乗っていて、バイク好きならアルアルだけど、良くメンテナンスなんかは自分でイジってた。
パンク修理剤とかも買ってたんだけど、その頃は一度もパンクなんてしたこと無くて、道具箱の肥やしになっていた。
この地域に引っ越してきて、もう2年が経とうとしている。
ただ、地元に居たくないという理由で、住み込みの職に応募し、今の葬儀屋という職業に就いた。
仕切りや段取りは得意な方だったので、直ぐに仕事を覚えて半年くらいしたら、その地域のサブマネージャーみたいになった。
すると、こういった業界アルアルなのか、お坊さん・住職ではなく、霊的なモノに対応してくれる人とも仕事上で知り合いになった。
そのオバさんは、普段「占いの館」という所で運勢を占ったりしているが、ウチの葬儀屋で人じゃない困った事があれば、もちろん有料だけど対応してくれていた。
【この地域の外れにある過疎集落の斎場で変な事が起こった】っていう、業界110番を受けて現場に行ったら、もうそのオバさんのやけに目立つ赤色の軽が来ていて、オバさんはソコに出た憑き物みたいなのを鎮めていた。
なんか「ヤー!」とか「悪霊退散!」とかじゃなくて、オバさんは真剣に手を合わせてずっと祈るだけ。
それでも、汗をかいて15分くらいしたら『もう大丈夫です』って、言ってそれで終わり。
オレは「お疲れ様でした!」って言って、何やかやの世間話をして、封筒を渡して終わり。
封筒はぜんぜん分厚くない。
どーしても中身が見たくて、いっぺんライトに透かしてみたら、何かの粉?が入ってた。
札束よりヤバそうなんで、それ以来ゼッタイ見ようとは思わなくなった。
その斎場の時はオバさんがまだ元気だし、話も盛り上がって、気になっていた事を聞いたんだ
「祓えるんなら、逆も出来るんすか?」
『出来ますよ』
即答だった。
急に黒目が小さくなって怖かったよ。けど、(怖がってる?)そんな雰囲気だして黙ると、あの顔で叫ばれそうな気がして怖かったし
「今みたいに念じるんですか?」
『いえ。地獄の形相で睨み付けますww』
その人、ゼッタイにそんな顔しないだろ?ってくらい点と線だけで描けそうな、幸薄い優しい顔なんだ。
想像も出来ないから、
「へ、へえー。色々あるんすねえww」
ってテキトーな事を言って、会話をきり上げた。
オレはさ、高校から大学に行って就職して何年かしても、一度もパンクなんてしたことが無かったんだ。
それなのに、この地域に来て2年くらいで6回パンクしてる。
毎回、ネジか釘が「どーやって踏んだの?」ってほどガッツリ刺さってる。
それで、この前、朝の通勤ラッシュ時にいつも通り、車の横をすり抜けて会社に急いでいると、お祓いのオバさんの赤い軽を見かけた。
そういえば、極たまに朝から占いの館に行くって行ってたなあ・・・いや、そういえば、この時間に何回か見かけたな、この車・・、この変な電波マークの赤色。
運転が下手なんだよなぁww
オバさんは運転が下手なんだろう、道路の左の白線から左タイヤが出てるから、少しゆっくり抜くんだけど、今回はちょっと狭くなっている所だったから、一旦止まって車に当たらないようにスリ抜けようとした。
まあ、いつも会う時と服も違ってバイクだし、フルフェイスだからオレに気が付かないだろうけど、狭くてちょっと腹が立ったからオバさんの方を見たんだ。
・・・地獄の形相だった。
顔が怒りで梅干しみたいにシワが寄ってて、目をひん剥いて口も食いしばって、地獄の形相でバイクとオレを睨みつけていた。
もの凄く怖かったから、いつもより飛ばして会社に就いて、あのオバさんの事を忘れるように仕事に打ち込んだ。
葬儀屋だから色んな怖い事もあるし、生きている人同士の揉め事もあるけど、あんな顔は見たことがない。
いつだったか、葬式の片隅で、ずっと遺影を睨んでいる女性がいたことがあった。
あのオバさんも遺影を睨んでいる女性も、念?みたいなのを飛ばしていた気がする。
生きてる奴の念?みたいなのは、なんだろう、こう太くてキレがある気がする。
死んでる奴のがワインみたいにジワジワなら、生きてる奴のはビールかな?こうガツーン!と来る。
なんて、バカバカしい事を考えて、明日の準備も終わって帰ろうか、としてバイクにまたがったらイヤな感じがする。
恐る恐る、タイヤを見た。
あぁ、まただよ・・またパンクしてる・・
いったい何の原因があって、こんなに毎回毎回パンクするんだよ!誰か刺してんじゃねえの!
フザケんな!フザケんな!フザケんな!
・・・ぁ!・・・あ?!・・・ああ!!
そ、そうだ。
【祓えるんなら、逆も出来る】んだ。
地獄の形相で・・・
イヤイヤイヤイヤ!そんな、イヤイヤイヤ!
出来ないよ、そんなの!
念じたからパンクした?
バカバカしい・・・でも、あのオバさんが毎回どうにも出来ない変な事を解決しているんだろ?ホントに出来ないか・・・?
・・アイツなんだ・・アイツがパンクさせてるんだ・・・
何だよ!別にいいだろ!横から抜くくらい!何の迷惑が掛かるんだよ!
んん゛〜!!・・・クッソぉ、見てろよぉ・・
どうにも落とし所の無い気持ちは、やり場なんて無かったから、その日はタクシーを呼んで1人で飲みに行き、家に帰るとそのまま眠った。
それで、その1ヶ月後くらいにまた朝の通勤で赤い軽を見かけた。(ヨシ!ヤッてやるからな!)と気合を入れ、抜き去るときにいったん停まってオバさんの顔を見ながら、自主練した【地獄の形相】で睨み返した。
まあ、フルフェイスだからオバさんからは見えないだろうけど、やり返してやった。
あのオバさんと話した時に
「祓う逆をやった時って、必ず効くんですか?」
『相手に返されたら、倍返しですww』
って、聞いてたから、おんなじ顔で返してやった。
それで、見事に?オレのバイクはパンクしなかった!ザッマァww
(オバさんは車がパンクして、怒ってんだろうなぁ)、(でも、元はオマエが悪いんだからなww)
って、オレは1人で考えてスカッとしてた。
その1週間後に、【なんでも屋】のオジサンが亡くなった葬儀で、どうにも変な事が起きるからって、またオバさんが呼ばれてオレも現場に行った。
(あれ?赤い軽のタイヤ修理してないじゃん?)
(やっぱり、呪いとか無いんだなww)
オレの倍返しは不発に終わったが、変にホッとして斎場に入ると、手にギプスをしたオバさんがいた。
いつものように鎮めてもらって封筒を渡し、ケガの訳を聞くと1週間前に車から降りる時、転んで手をついたら折れたそうだ。
「えぇー!災難でしたね」
みたいな事を言ったら、
「アナタ、バイクに乗っているお知り合いはいない?珍しい青い色のバイクなんだけど?」
(・・・あ。倍返しは本人にいくんだ・・)
(でも、ヤバい・・コイツ探してる・・・)
努めて普通の顔で
「いやぁー、居ないっすねえ。そのバイクがどうかしたんですか?」
『いえ、知り合いが探していて。知らなかったら忘れてください』
「あれ?サブマネもバイク乗ってませんでしたっけ?」
同僚がオレの人生イチ余計な事を言う。オバさんの顔は地獄よりは現世寄りだけど、さっきよりは、この世のモノじゃない。厳しい。
「イヤイヤ!オレのはありふれた土みたいな黒色だから!ぜんっぜん!青なんか乗らないよ!」
「最近なんて、た、たまにしか乗らないし!バ、バ、バイク!」
オマエは顔がMODなのか?と思うほど、オバさんはさっきの顔から一瞬で通常モードに戻った。
(MODだけにモッドタww ってアホか!)
(オレは今、大ピンチだぞ!?)
頭の中が混乱をドラム式洗濯機に入れた如く、混乱&混乱、そして乾いた混乱が回り続ける。
何とかオバさんとの綱渡りな会話も終わり、氏にそうになりながらも切り抜けられた。
・・・オレさあ、あの時に聞いたのよ、
「倍返しをまた返したら、どうなるんですか?」
『相手はシぬでしょうねww』
いや、アイツ、冗談めいて言ってたけど、全部マジじゃん!
え?!そんな簡単に人をコロすの?!
オカシイだろ?横をすり抜けたくらいでさ?
こんなお祓いみたいな事をしてるなら、命とか生きるって大切に捉えないの?
いや・・こんな変な事が出来て、こんな変な世界と普通の世界を生き来して、命とか生きるとか、どーでも良い些細な事になってるんだ。
自分が良ければいいんだ、アイツ。
それからも、仕事上での付き合いはあるから、極力ちゃんと距離を保って、ほどほどにオバさんのお相手をしてた。
バイクはもう滅多に乗らなくなり、アパートのバイク置き場にシートを掛けて置いた。
もちろん、色んな意味でシートを掛けてる。
それで、最近イイ感じになったフレンドリーな女の子が
『ぜひ、ウチに来てママとも話して!』
って言うから、何度かお邪魔してお喋りしてたのよ。
オレも葬儀屋で培った話術?があるから、お母さんと彼女を盛り上げて、一緒に楽しくお喋りしてた。
何度目かのご訪問で、お母さんが
『今日は友達も来てるのよ!』
って、見たら
(うわぁ・・オバさんじゃん・・)
と心で思ったけど、【ゼッタイに感情を顔にダサないウチの葬儀屋ルール】をココで発動させて、嬉しそうな顔をしてご挨拶した。
『えー!そうなのー!知り合いなのー!』
みたいな会話も織り交ぜて、普通に喋っていたら、何の経緯か覚えてないけど、オバさんがバイクの話を始めた。
『あのバイク、最近見かけないのよねー』
「え?どんなバイク?探してるの?」
(ヤメろ、広げるな!オマエの彼氏シぬぞ?!)
彼女にそう思ったが、ヤツは事の経緯なんて知らないから、しょうがない。
もう見守るしかない。
『イヤイヤ。どーでもいいのよ、もう』
(そうだ。もうお互いが傷ついて終わったんだ)
(イイぞ!オバさん!その調子だ!)
「あれ?そういえば、アナタもバイク乗るよね?」
(うおい!バカ、ヤメろ!)と、思った瞬間、彼女の顔に視線を移しながらもオバさんに目が行く。
オバさんの顔はどんどん地獄に堕ちていき、今までの会話のトーンからも一気に声色が急降下して、今度は地獄からオレに直接聞いた。
『それで、何色なんだ?』




