《春の縁側と文言文》
その瞬間、
ぼくの文言文の苦悩は
ほんの少しだけ軽くなった。
## **《春の縁側と文言文》**
京都の春は、花粉と桜と、そしてぼくのため息で満ちていた。
縁側に座り、分厚い文言文の参考書を開く。
「子曰く… いや、なんで“曰”ってこんなに読みにくいの…」
ページをめくるたびに、
春風がひらりと紙をめくり返す。
まるで「まだ分かってないでしょ」とからかってくるみたいだった。
「夫れ、学ぶとは…」
声に出して読んでみるけど、
意味が霧みたいにぼやけていく。
そのとき、湯のみの中の水面がふるりと揺れた。
「そんなに眉間にシワ寄せなくてもいいのに。」
透明な小さな水の精霊が、
湯のみのふちにちょこんと座っていた。
「文言文ってね、
“読む”んじゃなくて、
“感じる”ものなんだよ。」
精霊は指先で空気をすっとなぞった。
その軌跡が、春の風みたいに軽かった。
「例えば『春眠不覚暁』。
意味を追うより、
春の朝の空気を思い出す方が早いよ。」
ぼくは目を閉じた。
柔らかい光、遠くの鳥の声、
布団のぬくもり。
「あ…なんか分かる気がする。」
精霊は満足そうに笑った。
「ね、水みたいに流れに乗ればいいんだよ。」
桜の花びらが一枚、
縁側に落ちた。
その瞬間、
ぼくの文言文の苦悩は
ほんの少しだけ軽くなった。
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「あ…なんか分かる気がする。」
精霊は満足そうに笑った。
「ね、水みたいに流れに乗ればいいんだよ。」
桜の花びらが一枚、
縁側に落ちた。




