08 薬局ジェフ目線
店の奥で、わたしは帳簿を閉じた。今、わたしを悩ませているのは、売上ではない。
最近、薬の質が落ちているのだ。いや——落ちたのではない。
戻った、と言うべきだ。
この数か月間が、異様だったのだ。
薬の質が高くなっていたのだ。全員の腕が一段も二段も上がったのだ。
基礎処方も安定性が上昇した。沈殿がほとんど出ず、保存性も高い。
父は喜んでいた。
「基礎を叩き込んだ成果だ」と。
わたしも、そう思った。
そして、マリアの、明るい声が、それに拍車をかけたような気がする。
わたしは、あの声を聞くと疲れが吹っ飛ぶような気がしていた。
だが、マリアは実家に戻った。
ダイアナがいなくなって、マリアが持って来た薬が酷かったのだ。
「あれはダイアナの作ったものだったのか?」と父が言う。
「あぁ」
わたしは首を振る。
「そうだろうな」
だが、ダイアナはもういない。泥棒だからだ。
鞄からブローチが出てきた。
あれは事実だ。
「泥棒を許すことはできない」とわたしは言った。
薬師は信頼だ。
資格制度もある。免許もある。
それを汚した。
だから排除は正しかった。
わたしは思い出す。
あの最終講習会で見た静かな目の少女。ダイアナ。
下級処方で、あの溶解の速さと保存安定性。
彼女を見習いにしたい薬局が多くてくじ引きになったが、運よくうちでとれた。
それと、もう一つ。
「おやじ」とわたしは言う。
「なんだ」
「井戸の水、変わったか?」
父は眉をひそめる。
「変わらん。昔から同じだ」
「そうだよね」
「水は同じだ」
数か月だけ、突出していた。その間、なにかがあった。
あの素晴らしい薬はダイアナが作っていた。
それに気が付かなかった。我々が間違えた。
マリアが提出していた、ダイアナは、提出の場にいなかった。
マリアに騙されたと言っていいだろう。
雇わずに済んだのは不幸中の幸いだ。
ふと、胸の奥に引っかかる。
誰が水を汲んでいた?
わたしはマリアだと思っていた。
「朝の水汲みは誰がやっている」とエマに聞いたことがある。
「マリアさんです」と答えた。
交代でやると思っていたが、マリアが一人でやっていると聞いた。
だが、あれは本人の言葉か。そこでも騙されたとしたら?
わたしは直接、見たことがあったか?
記憶をたどる。
あの異様な安定は、努力だけで出せるものだったのか。
それとも、なにかを、見落としているのか?
だが、見落としていたとしても、泥棒は許せない。
正しい判断だった。だが、なにかが気になる。
「……おかしい」
父が顔を上げる。
「なにがだ」
「なにかを見落としている」
薬の質は落ちていない。胸をはれる品質を保っている。
本来の水準に、戻ったのだけだ。
わたしは井戸を見る。静かな庭。
いつもと変わらないはずの水。
だが、胸の奥で小さな疑問が、消えない。
いろいろ見落としている。
だが、泥棒は許せない。だからこれで良かったのだ。
今日何度目のため息だろう?
わたしは息を吐いた。
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