07 わたしの店
四人組は、翌日も店に来た。
「いらっしゃいませ」
祖母が奥でくすりと笑う。
「また来てくれたのかい」
「もちろん。約束しただろ」
彼らは昨日のように椅子に座った。
ここは、トチュウ村、王都とダンジョンの途中にある。
王都からの馬車はダンジョンへ直行する。トチュウ村に用のある人は、頼んで降ろして貰う。
そんな村だ。
ダンジョンからここまで、歩いて三十分かかる。
だから、この村を拠点にしている冒険者は初心者だ。
彼らはあまり、お金に余裕がない。お金に余裕が出来るとダンジョンの町に引っ越す。
あちらの町は、食べ物屋も遊ぶところも、揃っている。
祖母が薬屋をやっていた時、怪我をした冒険者がよくやって来ていた。
初心者が買い求める怪我の薬は、値段を安くしていた。
わたしが子供の頃の話だ。
「看板が気になっていたんだ」
リーダーらしき、男性が笑う。
「だから昨日は思い切ってきたんだ。来て正解だったよ」
胸が、ふわりと浮く。
「ありがとうございます」
そういえば、と彼が頬を人差し指でぽんぽんとする。
昨日の傷。
赤く腫れていた切り傷が、薄くなっている。
「あ」
わたしは声をのみこむ。
「ほら、目立たなくなってるだろ」と彼が笑う。
仲間の一人が肩を叩く。
「朝、起きた時に体がいつもより、軽かったんだ」
わたしは湯をわかしながら答える。
「すぐに治るものではありませんけれど、体の回復を助けます」
祖母が静かにうなずく。
「体が治ろうとする力を、そっと後押しするだけさ」
「それで十分だよ」と赤毛の男性が言う。
湯気が立ちのぼる。きれいになれ。
水に触れたとき、いつものように心でつぶやく。
彼らの前にカップを並べる。
一人がにやりと笑った。
「なあ、足が速くなるとか、力が強くなるお茶はない?」
一瞬きょとんとする。
「都合がいいか」と全員が笑った。
わたしも笑う。
「それは、さすがに」
祖母が言う。
「そんなものがあったら王都に店を出してるよ」
また笑い声。
けれど、わたしは少し考える。
「でも、持久力を助ける配合ならあります」
「ほんとに?」
「はい。根を少し増やして、血の巡りを良くします」
「それで十分だ」
彼が言う。
「これからはここに寄って帰ることにしたんだ。しっかり休んで体を回復させるのは大事だから」
その言葉が、胸の奥に落ちる。
途中の村の小さな店に、冒険者が集まるようになった。
その日も、彼らはいつものお茶とお菓子を頼み、傷の手当て代わりのお茶も飲んで行った。
別の二人組が戸を開ける。
噂は、早いようだ。
「話を聞いたんだ。菓子もうまいって」
「傷にいいって」
わたしは頭を下げる。
「いらっしゃいませ」
器に水を入れて傷を洗う様に言った。
菓子を皿にのせる。
お茶を入れる。
数日後。
この村に住んでいない冒険者がやって来た。
あの初心者たちよりも貫禄がある。見るからに強そうだ。
「ここが例の店か」
「最近、伸びて来たやつらが話していたんだ」
賑やかになった。
祖母は目を細める。
「ダイアナの読みが当たったね」と小声で言う。
わたしはカップを並べながら思う。
免許を破られ。泥棒と呼ばれた。
けれど。
ここに座って、ほっと息をつく人がいる。
笑い声が響く。
途中の村に人が集まり始めた。
わたしは、自分が出来ることを誠実にやるだけだ。
夕暮れ、店の戸を閉めるついでに井戸を覗く。
水が微笑んでいるように感じた。
「よろしくね、きれいになれ」
夕食を食べながら、祖母が言った。
「今日は忙しかったね」
「うん」
トチュウ村の小さな店に、灯りがともる。
そこは、わたしの店だ。
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