06 再出発
翌日、祖母と一緒に薬草を干した。
その時、いつも薬草を買いに来る商店の人が、門の前で立ち止まった。
「……噂を聞いた」
「違うんです」と言いかけたけれど、言葉が届く前に首を振られた。
「泥棒がいる家とは取引できない」
そう言って、帰っていった。
その日の午後、家の前でひそひそを話す人がいた。
「やっぱりね」
「免許も取り消しだって」
道ですれ違っても、目をそらされる。
口惜しくて破かれた免許証を額にいれて壁にかけた。
無念さを絶対に忘れないためだ。
ろくに取り調べもせずに一方的に話が進められて、薬師への道を閉ざされた。
でも、紙切れがなくなっただけだ。口惜しいけどあそこでわたしの技術は向上した。
わたしは祖母を見る。その手を見る。産み出す手だ。
そのとき、ふと思いついた。
そうだ。薬じゃなければいい。
薬は売ってはいけない、免許がいる。
でも、薬草茶は?
お菓子は?
作るのも売るのも自由だ。そうだ。そうなんだ。
「おばあちゃん」
「なんだい」
「看板、出していい?」
翌朝、木の板で作った看板を出した。
【疲れてませんか? 薬草茶あります。
お腹すいてませんか? お菓子あります。】
門の前に立てかける。客はいないけど、お湯を沸かしてお菓子を準備した。
四日目の午後。庭に人が入って来た。
革の鎧に、剣。埃っぽいけど、誠実そうな若い男が顔をのぞかせた。
この村に拠点がある冒険者だ。
「……あの」
声が少し遠慮がちだ。
「いらっしゃいませ」とわたしは言う。
「高い?」
「え?」
「俺たち、あまりお金なくて」
正直でほっとする。
わたしは値段を伝える。王都の屋台の値段だ。
男はほっとした顔をする。
「よかった」
後ろから、仲間らしい三人も入ってくる。
「大丈夫だった?」
「お菓子と薬草茶。えっと、薬草茶ってどんなのが?」
「疲れを取るものは、すぐ出せます」
わたしは棚に目をやる。
「少し待っていただければ、傷を早く治すものも出しますよ」
わたしは自分の頬を指さしながら言った、
一人の頬に乾いた血が残っていたから。
「薬じゃないのですぐには治りませんが、体が治ろうとする力を助けます」
少し黙ってから、男が言う。
「じゃあ待つので、傷を早く治すものを一杯。待ってる間に全員に疲れをとるお茶とお菓子」
胸の奥が、あたたかくなる。
「はい」
お茶を準備する前に、小さな器に水をいれて、「きれいになれ」とつぶやいた。
それを傷のある男に渡して、傷を軽く洗うようすすめた。
わたしは急須に湯を注ぐ。
疲労回復のお茶はすぐに出せる。
湯気が立ちのぼる。
「いい匂いだな」と一人が言う。
お菓子を皿にのせた、祖母直伝の、蜂蜜と木の実の焼き菓子。
「うまっ」と別の男が笑う。
祖母もにこにこしている。
わたしは奥で、傷を早く治す茶を配合する。正確な配合ではなく、一つを少し多めにした。
なぜなら、刃物の傷じゃないようだから、多分木の枝とかそんな傷みたいだから。
急須にいれて、お湯を注ぐ。
きれいになれ。
傷の人には大きなカップに並々と。
他の人には普通のカップに半分ずつ。
「お待たせしました」
「多めに作ったので他の方は味見して下さい」
「ありがとうございます。俺たち今日、ちょっと稼いだんで、気になっていたここに来たんですよ」
「まぁありがとうございます」
「なあ、ここ当たりだな」
別の男が言う。
「また来てもいいか?」
胸が、どくんと鳴る。
「はい」
祖母がうなずく。
「いつでもおいで」
四人は笑いながら帰っていった。
戸を閉めたあと、わたしは息を吐く。
薬師じゃないけど、お茶は出せる。
お菓子も焼ける。
そして、誰かがほっとする時間を作れる。
「はじまりだね」と祖母が言う。
わたしはうなずく。
破られた紙切れなんて、どうでもいい。
ここから、わたしの店を始める。
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