表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりません。やれませんのよ。  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

05 泥棒疑惑

最近、先輩たちの態度を理不尽だと思う。


「ダイアナ、さぼってばかりはいけないよ」とレオン先輩は言うなりさっさと行ってしまう。


反論する暇がない。


さぼってなんていない。


交代とされている水汲みだって、わたしがひとりでやっている。


でも、それを言う時間はない。わたしは間違ったのだろう。誰もがわたしのように考えるわけではないと、今更、気が付いた。だけど後少しだ。このままでよい。


それから作業場を掃除する。掃除が終わるころマリアがやってくる。


三十本。基礎処方を、分量通りに、呼吸を整えて作る。


終わると、また掃除。秤もすり鉢も磨く。床も拭く。


調薬の腕は上がっていると思うが、


「結局、安定しないままね」とエマ先輩が言った。


安定しない?そんなことはない。だけど、だれも話そうとしてくれない。


一度、自分の物は自分でと二人で提出した。自分の薬を入れた箱を持って行った。


先輩たちは黙って、受け取ってなにも言わなかった。


マリアも下を向いて黙っていた。


わたしがいなければ、楽しく喋るのだろうか? いたたまれない気持ちだった。



居心地悪いながら、後、一週間になった。


一週間、我慢したら、祖母の家に戻って薬師の看板をあげるんだ。その思っていた。


その日までは。




昼下がり、突然声が上がった。


「ないわ!」とマリアが叫んだ。


店がざわつく。


「どうした」とレオン先輩がマリアの肩を抱いた。


「わたしのブローチが……亡くなった祖母の形見なんです」


胸が、ひやりとする。マリアがわたしを見ていたから。


「今朝まではあったのに」


みんなの視線が、ゆっくりとこちらに向く。


「……まさか」と誰かが言った。


わたしは首を振る。


「知らない」


本当に知らない。


「念のため、持ち物を見せろ」とアーチ―先輩が言った。


わたしは鞄を差し出す。


祖母が入れてくれた薬草の袋が一番上にある。


レオン先輩が袋を乱暴につかみだす。


小さな音がした。きらりと光るものが、その手にあった。


「これだわ」とマリアが震える声で言う。


ブローチ。


「違う」とわたしは言う。


「知らない。わたしじゃない」


「鞄から出てきた」とレオン先輩が冷たく言う。


「でも……」


言葉が、喉で止まる。


「泥棒は薬師になれない」とレオン先輩が低く言った。


その通りだ。


薬師は信頼だ。


翌日、役所の人間が来た。


制度は決まっている。


薬師は免許制。見習いも、資格も、記録もすべて管理されている


机の上に、わたしの免許証が置かれる。


半年間の講習と見習いの証。


「規定により、資格を取り消す」


淡々とした声。


「待ってください。ちゃんと調べてください。わたしは盗っていません」


「証拠がある。ちゃんと調べた」


アーチー先輩が言った。


ぱり、と乾いた音がした。


目の前で、紙が裂かれる。


二つに、三つに。


床に落ちた紙片を、わたしは見つめていた。


あの講習会。


井戸の水に触れた朝。


すべてが、音もなく終わった。


「最後の情けだ」


とジェフ様が小さな袋を差し出した。


「最後の給料だ」


情け。いいわ受け取る。わたしは袋を受け取る。


軽い。こんなにも軽いのに、腕が重い。


店を出るとき、マリアが言った。


「残念ね、ダイアナ」


目は、濡れていなかった。


「明日から水汲み、がんばってね」


全員に聞こえる大きさの声で言った。




薬局を出て、馬車乗り場に向かった。



祖母の家へ帰った。六か月前にここを出た時と同じ匂いがしている。


祖母は驚いている。祖母の顔をみると泣けて来た。


免許を取れなかった。店を再開できない。



祖母はなにも言わずに優しく背中をさすってくれた。


やがて、わたしは泣き止んで、祖母にすべてを話した。


「そうかい、いいよ。薬草が待っていたよ」


祖母はそういうとお茶のお代わりを用意してくれた。


「これを飲んでよくお眠り」


ふとみると、干し台の薬草が見えた。



「薬師は紙じゃないよ。手だよ」


やっぱり、祖母は偉大だ。


いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ