02 基本は大事。掃除は大事
夜明け前、わたしは井戸に向かう。
桶を下ろし、澄んだ水を汲み上げる。祖母を真似をして、桶に手を置いて『きれいになれ』と思う。
薬草も大事だが、水も同じくらい大事だ。
ポイード薬局の水は昔から薬向きだと言われていると教えて貰った。
硬すぎず、それでいてしっかりしていて、薬草の力を素直に引き出すらしい。
こんな水で調薬出来るのは本当に感謝だ。
最近は特に、出来上がりがよくなっていると、店主のポイードさんが言っているそうだ。
二階の見習い部屋に戻ると、まだマリアは、まだ布団の中だ。
「マリア、朝だよ」
「ううん……あと少し」
わたしは笑って、マリアを起こす。
「起きて、起きてよ」
「ウーーん」
「今日も三十本ずつよ、起きて」
「わかってるわよ」
見習いのわたしたちは、毎日同じ薬を三十本作る。三十本の品質を揃えるのはむずかしい。基礎を固めるのに必要らしい。昨日は熱さましだった。今日はなんだろう。
「応用は土台があってこそだ。だから同じものを作れ」
そう言われている。
今日は咳止めだ。
咳止めの基礎処方。分量は麦一粒の重さも狂わせない。
わたしは黙って秤に向かう。粉を量り、すり鉢で混ぜ、鍋で成分を煮出す。瓶に詰める。呼吸まで一定にする。
隣ではマリアが明るい声を出す。
「今日もがんばりましょうね、ダイアナ」
「うん」
最初のころは、二人で確認し合っていた。
「目盛り合ってるよね」
「大丈夫。わたしのは?」
「合ってる」
「ありがとう」
協力し合っていたが、ある日
「仲がいいのはけっこうだが、そろそろ一人で全部やったほうがいいね」
それで、隣同士で使っていた作業台を背中合わせで使うようになった。
昔はここが作業場だったそうだが、店が大きくなって作業場を新しくしたそうだ。
それで最初の作業場を見習い専用にしたとか、二人で使うにはもったいない作業場だ。
ほんとうにありがたい。
薬を箱に詰めるといつものようにマリアが、先輩に見せに持っていってくれる。
箱にいれた薬はちょっと重い。だけどマリアが
「わたし、力があるから一緒に持って行ってあげる」
と言ってくれた。だから
「助かる、掃除してるね」
掃除も薬師の大切な作業だ。それは祖母もそう言っている。
作業の最初と最後に場を浄める。
実はわたしには、掃除は得意だし、少しこだわりがある。
だから、ひとりで掃除するほうが都合がいい。
掃除が終わると、日誌をつける。これも祖母がやっているのを真似している。
天気、温度。混ぜた回数と速度。薬草の状態。
日誌をつけ終わった頃、マリアが戻って来て、仕事が終わる。
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