表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりません。やれませんのよ。  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

13 王都の流行

王都では奇妙な症状に悩む人が出てきた。


昼間はそれほどでもない。だが夜になると、急に咳がひどくなる。


寝台に入る。体を横にする。


すると喉が焼けるようになり、咳が止まらない。


眠れない。


起き上がる。水を飲む。しばらくすると落ち着く。


だが、また横になると咳が出る。


そんな症状だった。


そのため王都の薬屋には、連日客が押し寄せていた。


ポイード薬局でも咳止めを大量に作っていたが、どうにも評判がよくない。効く者もいるが、効かない者も多い。


店内には薬を求める客が並んでいた。


その中の一人の男が瓶を持ち上げて言った。


「前に買った咳止めは飲んで一週間ほど楽だったんだが、この間買ったのは一晩しか効かなかった。薬が悪くなったんじゃないのか?」


その言葉に、周囲の客が一斉にこちらを見る。


咳の薬を買いに来ている者ばかりだ。


みんな同じことを思っているのだろう。


カウンターの向こうに立つアーチーが静かに答える。


「薬は同じ処方です。効き目が弱くなったと感じるなら、症状が進んだのかもしれません。お医者様には診てもらいましたか?」


男は肩をすくめた。


「医者もわからんみたいだ。とにかく咳止めを飲めとさ」


そう言った途端、男は激しく咳き込んだ。


「ごほっ……ごほっ……!」


体を折り曲げるようにして咳をする。


近くの客が少し離れる。


咳は長く続いた。


やっと息を整えた男が、涙を拭きながら言う。


「夜がきついんだ。横になると止まらん」


アーチーは黙って薬瓶を差し出した。


「まずはこれを。水は多めに飲んでください」


男が瓶を受け取る。


その時、アーチーも小さく咳をした。


「こほっ」


本人も一瞬だけ眉をひそめた。


店の空気が、少しだけ重くなる。


並んでいる客の一人が小声で言った。


「これ……この店の薬の効き目が落ちてるんじゃないよね」


誰も答えなかった。


◇◆◇◆◇


トチュウ村。


わたしの店の扉が、ぎい、と開いた。


普段着に剣を差した男が顔を出す。いつも来てくれる冒険者だ。


「やあ、ダイアナ」


「いらっしゃいませ」


わたしは、お菓子を切っていた手を止めて挨拶した。


「おや、元気そうだね」


祖母も挨拶した。


「今日は休みなんだ。王都の噂話でも」



その言葉に、わたしは少し手を止める。


「王都の話?」


男は頷いた。


「なんでも、すごい咳が流行ってるんだってさ」


「咳?」


思わず聞き返した。


「それは辛いわね」


祖母がゆっくり椅子に座る。


その顔は、少し遠くを見るようだった。


「咳かい? もう三十年になるかね。そんなことがあったよ」


「そんなことがあったの?」


祖母はうなずいた。


「あの時はひどかった。夜になると皆眠れなくてね」


冒険者が身を乗り出す。


「同じだ。横になると咳が止まらないって」


祖母はゆっくり続けた。


「その時は、この店で薬を作って王都に送ったよ。わたしの祖母の薬だよ」


「おばあちゃんの、おばあちゃん?」


祖母はくすりと笑う。


「そうさ。昔からこの家は薬屋だったからね」


冒険者が腕を組む。


「今は咳をしすぎて、喉から血が出る人もいるって聞いたぞ」


祖母の顔が少しだけ真剣になる。


「似ているね」


やかんの湯気がゆっくり立ち上っている。


祖母はそれを見ながら言った。


「鍋とかやかんで湯気を立てると喉が楽になるんだ。昔はみんなやっていた」


「でも今は誰も知らないの?」


祖母は肩をすくめた。


「年寄の知恵は馬鹿にされるからね」


冒険者は真面目な顔で聞いている。



「咳を楽にするお茶の準備をしておくかね」


わたしはうなずいた。


「うん。多めに作っておこう」


やかんの湯気が静かに立ちのぼる。



王都で広がる咳。


そういうのは、流行り始めたら早いと講習会で習った。


だから、準備しておこう。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ