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1.石畳の下の世界

石畳は、冷たく、硬かった。


高杉晋作たち四人が叩き出されたのは、魔導帝国アストリアの巨大都市、その裏側――

石造りの建物に挟まれた、陰鬱な裏路地だった。


頭上を魔導船が唸りを上げて通過する。

重低音が街路を震わせ、この場所が決して安全ではないことを嫌というほど告げていた。


晋作は、即座に刀の鯉口を切る。


「――玄瑞。状況把握だ。言葉、文字、仕組み。全部」


「了解」


久坂玄瑞の瞳が、僅かに光を帯びた。

【万理の解読者】が起動する。


壁に刻まれたルーン文字。

通りから聞こえる異世界語。

遠方を飛ぶ魔導船の、規則的な駆動音。


それらは久坂の脳内で、数式と理論へと瞬時に再構築されていった。


やがて彼は、短く息を吐く。


「……分かりました。ここは異世界バルカ。支配者は魔導帝国アストリア。

魔法と技術を融合した《魔導工学》を独占し、人民を徹底的に管理する国家です」


晋作は、口角を吊り上げた。


「なるほどな。黒船が空を飛び、魔法まで使うってわけか」


一拍。


「――面倒だが、嫌いじゃねえ」


四人は、自然と身を低くし、市街へと足を踏み入れた。


大通りの影。

光の届かぬ場所で、人々は静かに列を作っている。


貧民たちだ。

安価な食事を求め、無言で順番を待っている。


配られていたのは、円形の薄い生地に具材を載せた食べ物だった。


「ピザです」


久坂が即座に答える。


「この世界で最も一般的な食事。階層を問わず普及しています。

材料は単純で、具材によって価値が変わる」


晋作は受け取ると、少しだけ眺めた。


焼き色。

切り分けやすさ。

手渡しの速さ。


一口かじり、静かに噛む。


「……悪くねえな」


それだけだ。


だが、次に出た言葉は、どこか噛み合っていなかった。


「腹に溜まる。数も出せる」

「毎日食うもんとしては、上等だ」


久坂が、一瞬だけ晋作を見る。


「商いの視点ですか」


「さあな」


晋作は肩をすくめ、残りを平らげた。


「ただ――こういうもんは」

「上の連中の都合だけで値が決まると、すぐ歪む」


視線の先では、貧民たちが同じ形のピザを受け取り、同じように頷き、同じように去っていく。


「下が腹を満たせるうちは、街は持つ」

「だが、それを削り始めたら……」


言葉は、そこで切れた。


誰も続きを問わなかった。


この世界にも、

踏み固められ、

石畳の下に押し込められた者たちがいる。


――壊すべき秩序は、すでに、この足元にあった。

2025.12.14内容修正しました。

2025.12.16内容修正しました。

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