表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

10. 奇兵隊、最初の試練

スラムの路地は、夜の底に沈みながら、ところどころで先刻の騒ぎの名残のように火の名残を揺らしていた。

昼と夜の境が曖昧なこの街では、闇は常に続いている。


その闇の中で、十数人の影が集まっていた。


奇兵隊。

――維新団と、スラムの“どうしようもない連中”たち。


誰もが武装しているわけではない。

剣も、銃も、覚悟も、揃っていない。


だが、今夜だけは――逃げない。


晋作は刀を肩に担ぎ、低く笑った。


「よし。今日が初陣だ」


誰かが、息を呑む音。


「帝国に一発、かますぞ」


軽口のようでいて、その声に迷いはなかった。


入江が一歩前に出る。


「警戒を怠るな。奇襲される可能性は高い」

「だが、俺たちは引かない。俺が前に立つ」


稔麿はすでに闇に溶け、姿が見えない。

だが、視線だけが、仲間たちの位置をなぞっていく。


「……動くぞ」


久坂は地図を開き、最短距離を指で示す。


「帝国の巡回は固定されています。無駄な交戦は避ける」

「目的は――奪うこと。壊すことじゃない」


アルテは小さく息を吸った。


「……本当に、彼らと一緒に戦えるの?」


晋作は振り返らない。


「戦える」


即答だった。


「スラムのしぶとさと、俺たちの狂気を合わせりゃ十分だ」


不安は消えない。

だが、目を逸らす者もいない。


「……やってやろうぜ」


誰かの呟きが、路地に落ちた。


その一言が、合図だった。



奇兵隊は、迷路のような通路を抜け、帝国の監視網の外縁ににじり寄る。


巡回中の兵士たちは、気づいていない。

この街の闇が、今夜だけは牙を持っていることを。


晋作が刀を握り直す。


「行くぞ」

「最初の一撃で、“奇兵隊”を刻み込む」


入江が手を上げる。


「全員、ついてこい。恐れるな」


稔麿の影が、静かに伸びた。


足元。

視界の外。

音のない場所。


二人の兵士の動きが、唐突に止まる。


鎖でも、魔法でもない。

ただの影が、関節と神経を正確に奪った。


振り返った瞬間には、すでに遅い。


倒れる音すら、闇に吸われる。


晋作の掌に、青白い雷光が灯る。


「……いいね」


一瞬だけ、笑った。


久坂の声が、短く届く。


「このまま押します。物資確保後、即撤退を」


「了解」


アルテは、気づけば前に出ていた。


「……やれる」


声が、震えていない。


入江が、仲間たちを一瞥する。


「奇兵隊――進め」


スラムの悪党たちは、初めて“秩序ある戦闘”を経験していた。

怒鳴らない。

暴れない。

逃げない。


ただ、役割を果たす。


それは奇妙で、だが確かな融合だった。


夜空の奥で、雷鳴が低く鳴った。


この夜、

維新団と奇兵隊は――


「偶然の集まり」ではなくなった。


狂乱は、まだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ