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1. 敵性認定

魔導帝国アストリア中枢

白曜宮・謁見の間


天井は高く、音が死ぬ。


玉座に座す皇帝は、まだ若かった。

だがその瞳には、長命種特有の時間への退屈が宿っている。


「――報告を」


声は低く、感情を含まない。


宰相メルギウスが一歩前に出た。


「泥街区域にて、住民蜂起。

帝国治安部隊の一部が後退しました」


皇帝の眉が、わずかに動く。


「蜂起?」


「はい。

指導者不明。

しかし統率は異常に高い」


宰相は一枚の書状を差し出した。


「彼らは自らを――

維新団と名乗っています」


皇帝の沈黙


数秒。


謁見の間にいる全員が、息を止める。


皇帝は書状を見ていない。

宰相の顔を見ていた。


「……名を持ったか」


それは、興味だった。


「ただの反乱ではないな」


「はい。

名を名乗る者は、必ず思想を持ちます」


皇帝は、顎に指を当てた。


「思想は――

伝播する」


異邦の記録


宰相は、別の資料を開く。


「さらに問題があります」


映し出されたのは、粗い魔導映像。


雷が走る。

石畳が溶ける。

剣が弾かれる。


「この力……

既存の魔導体系に該当しません」


皇帝が、初めて画面を見る。


「魔法ではないな」


「はい。

概念操作に近い」


宰相は、慎重に言葉を選ぶ。


「彼らは――

異世界由来の存在である可能性が高い」


一瞬、空気が凍る。


皇帝の決断


「面白い」


皇帝は、笑った。


それは、危険な笑みだった。


「世界の外から来た革命か」


彼は、ゆっくりと立ち上がる。


「では、正式に――

敵として扱え」


宰相が頷く。


「懸賞金を?」


「最高額だ」


皇帝は即答した。


「だが、公示は別枠で構わん」


「欲に敏い層だけが、

先に噛みつけばいい」


「生死不問。捕縛優先。だが、、、」


一拍。


「殺しても構わん」


その瞬間、魔導通信が一斉に起動する。


帝国全土・通達


【緊急布告】


異邦反乱組織

維新団


帝国秩序破壊の重罪につき

全構成員を

最重要賞金首に指定する


捕縛または討伐に

参加せよ


金額欄は、異常だった。


通常の十倍。

国家英雄級。


誰が見ても、こう思う。


――狩れ。


監察官ヴァルター


通信を受け取ったヴァルターは、静かに目を閉じた。


「……正式指定か」


副官が問う。


「出ますか?」


ヴァルターは、剣を手に取る。


「当然だ」


彼の声は、冷たい。


「名を持った反乱は、

必ず血を見る」


そして、小さく笑った。


「雷の革命者……」


彼は、初めて愉快そうだった。


「狩り甲斐がある」


皇帝、最後の一言


白曜宮。


皇帝は、窓から帝都を見下ろしていた。


「革命ごっこは嫌いじゃない」


ぽつりと呟く。


「だが――

この世界で革命を起こす資格があるのは、

勝者だけだ」


彼は背を向ける。


「潰せ」

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