表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

幕間 聖王国リュミエル

聖王国リュミエル、中央行政区。


白銀の尖塔が天へと伸びる聖都の中心。

聖務枢機院・最深部に設けられた円形の会議室には、

祈りの声すら存在しなかった。


そこは、本来ならば賛歌と祝福に満ちるべき場所だ。

だが今夜に限って、

神の名は一度も呼ばれていない。


中央に浮かぶ巨大な聖晶水晶。

その表面に映し出されているのは、ただ一つの光景。


――粉砕された星窓の書庫。

――砕け散った防護聖紋。

――瓦礫の中に立ち尽くす兵たち。


神の秩序が、

「破られた」という事実そのもの。


その映像を見下ろすのは、

玉座に座す聖王――

レグナス・リュミエル=アウレリウス。


黄金の仮面に覆われたその顔を、

誰一人として見たことはない。

聖王の瞳の色は、

神に最も近い者にのみ許された秘匿だった。


沈黙を破ったのは、

枢機院筆頭・大枢機卿だった。


「……確認されました」


声は低く、抑制されている。

だが、そこに迷いはない。


「星窓の書庫、完全侵入。

聖律理論、神代魔導、禁忌黙示録――

すべて、奪取されたと判断されます」


それは、報告ではなく宣告だった。


星窓の書庫は、

破られぬことそのものが、

神の正しさの証明だった。


破られた瞬間、

それは奇跡ではなく、

冒涜へと変わる。


「侵入者は?」


聖王の声は、静かだった。

怒りも、驚愕も含まれていない。


「四名」


大枢機卿は即答する。


「雷を纏う異界の剣士。

万理を解す知の異端者。

影に潜む処刑者。

絶対防御を担う守護者」


「すべて、異界より来た者と推定されます」


会議室に、

わずかなざわめきが走る。


「……異界」


枢機の一人が、

無意識に胸元の聖印を握った。


「古聖典に記される存在です」


大枢機卿は続ける。


「異邦の脅威エキゾチック・ペリル


「神の秩序を理解せず、

それでもなお、破壊できてしまう存在」


聖王は、わずかに顎を引いた。


「――なるほど」


その一言で、

場の空気が凍りつく。


「神敵、という理解でよいか」


「……はい」


大枢機卿は否定しなかった。


「彼らは意図せずとも、

神の秩序を否定する“現象”です」


沈黙。


やがて、聖王が口を開いた。


「帝国は、彼らをどう扱っている」


「……観測し、分類し、

理解しようとしているようです」


その言葉に、

聖王は初めて、わずかに笑った。


嘲りでも、怒りでもない。


憐れみだった。


「理解、か」


「神話を理解しようとする者は、

必ず神話に呑まれる」


聖王は、玉座の肘掛けに指を置く。


「我らは、違う」


「彼らを理解するな。

赦すな。

交渉するな」


静かに、だが断固として告げる。


「裁け」


「信仰を揺らす存在は、

存在してはならない」


「民に疑問を与える前に、

神の正しさを示せ」


枢機たちが、一斉に跪く。


「御意」


こうして。


聖王国リュミエルは、

剣を抜かなかった。


代わりに、

信仰そのものを研ぎ始めた。


帝国が

「理解しようとした存在」を、


聖王国は

「赦されぬ神敵」と定めた。


だが、彼らはまだ知らない。


この世界で、

最も脆いものが、

神の秩序そのものであることを。


そして――


それを壊す者たちは、

すでに、

雷と共に歩き始めているということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ