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第2話:光の天才、影の契約者

朝の鐘が三度鳴り、学園の中庭に生徒たちのざわめきが満ちた。

昨日の“逆転劇”は、すでに校舎の隅々まで届いているらしい。


「影精霊の契約者だって」「いや、偶然でしょ」「上位班に勝ったって本当?」

差し向けられる視線は、好奇と疑念と、わずかな嫉妬を混ぜ合わせた色をしている。


ライゼは無言で掲示板を確認し、ノートを閉じる。

――騒ぐ暇があるなら、やるべきことをやるだけだ。


足元の影がふっと揺れ、声が立ち上がった。

《騒がしい人間どもだ。誇るにはまだ早いぞ、契約者。》

「誇るつもりはないよ。……むしろ怖い。再現しないと意味がない。」


《ならば、確かめればいい。影は試されるほど強靭になる。》


陽光の道に、ひとりの少女が立つ。


「――ライゼ・クロード。」


銀に近い淡金のロングが光をほどいて揺れ、青い瞳の奥に薄い光輪がともる。立ち姿は凛として、制服の襟元には小さな光晶の留め具。

エルフィナ=リュミエール。昨日の“天才”は、勝者の顔ではなかった。


「あなたの“影”の魔法。あれは偶然ではないわ。――試してみたいの。私の光と、あなたの影で、どこまで行けるか。」


「……いい。俺も知りたい。光と影が混ざったとき、何が生まれるのか。」


* * *


午後の魔法練習場。石壁に射す陽が、床の魔法陣に細い明暗の縞をつくる。

ライゼは影を薄く広げ、エルフィナは胸の前で手を組む。


「まずは弱い出力で。」

「了解。ノクト、リンクを開く。」


《応。――シャドウリンク、展開。》


影がするりと延び、二人の足元を一本の線で結ぶ。

冷たい感覚が踝を撫で、“もう一つの視点”が重なる。エルフィナの魔力循環――光が呼吸のように満ち引きするのが伝わってきた。


エルフィナの指先から細い光弾。

ライゼは壁際の黒を導線にして少し傾ける。


光は影に触れ、ふいに屈折した。硬い直線は花弁のように分かれ、石壁の紋へ吸い寄せられる。


「……反射じゃない。影が“路”になってる。」

進路誘導ガイドが効いた。出力を三割上げて。」


二度、三度――

反射した光が彼女の睫毛に白金の縁を描き、ライゼの灰瞳にも薄い光路が映った。

ノクトが小さく息を漏らす。

《面白い。光は影を拒まぬ。隣り合うほど、よく曲がる。》


練習場の中央に、黒と白の境界に浮かぶ眩い輪。

「名付けるなら……《ルミナ・リンク》。光路誘導だ。」


床石が低く唸り、影がきしむ。

《……この魔力、外から。森の方角だ。嫌な気配が近づく。》


同時に、鐘塔が緊急召集を告げた。


* * *


作戦室。地図上の硝子石が、森の方向で赤く脈動している。

教官イレーネは険しい顔で言った。


「近郊の《ルーミスの森》で魔力異常を検知。先行した上級班との通信が途絶えた。偵察と救援の小隊を編成する。」


ライゼが一歩前へ。

「分析役として、同行を志願します。」

エルフィナも続く。

「私も行きます。……あの森で、何かが起きている。」


イレーネは頷いた。

「よし。防御と機動の生徒を加え、四名小隊で行け。交戦は避け、状況確認と救援を最優先だ。」


扉の外、空は白さを失い始めていた。

森への道のりを歩むほど霧は濃く、風は冷たくなる。足元の苔が小さな灯のように道を縁取った。


《ここは……懐かしい匂いがする。封印の痕跡が残っている。》

「この森で、私は光精霊と契約した。……でも、今は静かすぎる。」


影は張られ、光は備えられた。

彼らは、まだ“戦い”を知らない顔で、森の奥へ踏み入った。

読んでくださってありがとうございます!

ライゼとエルフィナ、そしてノクトの関係が少しずつ深まり、

「光と影の共鳴」が生まれた章でした。


次回は――

第3話:闇の侵食と、最初の遠征

ルーミスの森の“中心”へ、彼らは一歩踏み込むことになります。


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